久松 憲明 理事長の独自取材記事
平和会クリニック
(鹿児島市/鹿児島中央駅)
最終更新日:2026/02/10
鹿児島中央駅から徒歩約5分、鹿児島甲南スクエアの4階にある「平和会クリニック」。久松憲明(のりあき)理事長はリハビリテーション科の医師として、チームで患者を支える医療に携わってきた。2013年に訪問診療専門のクリニックを開業し、地域の在宅医療を担う。壁や仕切りのない開放的なワンフロアは、職種を超えたコミュニケーションを大切にする理事長の思いの表れだ。「スタッフの幸せが良い医療につながる」と穏やかに語る久松理事長。静かな語り口の奥に、訪問診療への使命感がにじむ。患者本人の意思を尊重する姿勢や、非がん患者への緩和ケアなど、同院の特徴と訪問診療にかける思いを聞いた。
(取材日2026年1月19日)
在宅医療の必要性を実感し、訪問診療の道へ
開業までの経緯をお聞かせください。

開業前、鹿屋市のリハビリテーション専門病院で約10年間、病院長を務めていました。そこでは看護師やリハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど、多職種のメンバーと一緒にチームをまとめ、一つの目標に向かって成果を出していく経験を重ねました。その醍醐味(だいごみ)に強く惹かれていたところ、家族の事情で鹿児島市に戻ることになりまして。ちょうど国も在宅医療を推進し始めた時期で、通院できなくなる患者さんが増えていくというニーズを強く感じていました。そうしたことが重なり、どこかの病院に勤務し続けるよりも自分が理想とする医療の形を追求するためにチャレンジしてみたいと考えるようになり、2013年にクリニックを開業しました。
リハビリテーション科を専門に選ばれた理由を教えてください。
母校の鹿児島大学には当時、リハビリテーション科に早くから取り組まれていた先生方がおられ、高齢化社会の到来を見据えて需要は高まる一方だろうという話を伺っていました。それと同時に、循環器や消化器といった臓器別の科よりも、患者さんを一人の人間としてトータルに診たいという思いがあったのが大きいです。リハビリテーション科は歩く・食べる・話すといった日常生活に関わるさまざまな機能を回復させる分野です。またリハビリテーション科は、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、看護師など多職種と力を合わせて患者さんにアプローチする分野であり、チーム志向がより大切になります。学生時代にラグビーに打ち込んでいたからでもあるのでしょう、医師1人では何もできない、チームで動くことが重要な領域であることにも強いやりがいを感じました。
開業当初から訪問診療に専念されていると伺いました。

はい。開業当初から基本的には外来は設けず、訪問診療と往診だけに専念する形をとりました。というのも、外来や入院の患者さんを抱えながら在宅の患者さんを診るのは、どこかで無理が生じてしまうからです。急に具合が悪くなる方もたくさんいらっしゃいますし、往診に出かけるとクリニックは空になってしまいます。やるならしっかりと訪問に振りきらないと、どちらも中途半端になってしまうだろう、と。それに、通院が難しい患者さんへの支援が十分にできていないというもどかしさは、病院勤務時代からずっと感じていました。繰り返しになりますが、国も在宅医療の必要性を訴えていましたし、ニーズに応えるためには最初から訪問に特化した体制で臨むべきだと判断しました。
本人の意思を大切に、穏やかな日々を支える緩和ケアも
訪問診療ではどのような方を対象に、どんな診療を行っていますか。

対象には、ご自宅はもちろん老人ホームなどの施設にいらっしゃる方も含まれます。ご自宅で療養されていた方が施設に移られた場合も、引き続き訪問して診療を行うケースは少なくありません。疾患としては脳卒中や神経難病、整形外科疾患、認知症など幅広く対応しています。定期的な訪問は月2回が基本ですが、状態が落ち着いている方は月1回に、逆に重度の方や不安定な方は毎週、場合によっては連日伺うこともあります。また、24時間対応の往診体制を整えていますので、急な体調変化にも対応可能です。医療機器もポータブル化が進み、在宅でできる医療の幅はずいぶん広がりました。もちろん病院での検査や入院が必要な場合は、連携先の医療機関への受診を調整いたします。
緩和ケアにも取り組まれていると伺いました。
当院では緩和ケア内科も診療しており、がんの患者さんの緩和ケアを提供しています。加えて、がん以外の疾患を抱える方への緩和ケアも非常に重要視しているところです。病気が進行していくと、痛みだけでなく息苦しさや倦怠感、吐き気など、さまざまな苦痛症状が現れてきます。がんに限らず、どの疾患でも最期の数週間から1ヵ月ほどは何らかの症状が出てくるものです。穏やかに眠ったまま旅立たれる方は実際には少なく、皆さん何かしらの苦しみを抱えています。そうした症状をしっかりとコントロールし、穏やかな状況で最後までご自宅で過ごしていただくことが、私たちのめざすところ。スタッフ全員でこの分野に対応できるよう、ここ数年は特に力を入れて取り組んでいます。
患者さんやご家族と接する際に心がけていることはありますか。

一番大切にしているのは、患者さんご本人がどうありたいか、どこで過ごしたいかという意思を聞くことです。これまでの人生の歩みや経歴も伺いながら、ご家族や周囲の意見ではなく、まずご本人の希望を大事にします。患者さん自身を尊重する医療者のことは、ご家族も信頼してくださるんですね。同時に「家単位で診る」という考え方も持っていて、介護をされているご家族の健康にも気を配るようにしています。訪問診療を通じて感じるのは、患者さんは人生の先輩だということ。病院などの医療施設の場合、診察室ではなかなかざっくばらんに話してくださらない方も多いですが、ご自宅だとリラックスして思い出話をしてくださることが多いのです。患者さんのご自宅に伺ったとき、飾られた写真などがきっかけで会話が広がることもあり、そこから学ぶことは私にとって大きなやりがいになっています。
スタッフも患者も幸福にする在宅医療をめざして
クリニックの理念についてお聞かせいただけますか。

まず働くスタッフの幸せを考えるということです。医療は人が届けるものですから、その人たちが大切にされていなければ、患者さんに良いサービスは提供できないと考えています。患者さん中心というのは当たり前のこと。ですが、それを実現するためには、スタッフが一番大事にされていなければいけないんですね。職場は人生の中で長い時間を過ごす場所ですから、「平和会で働いています」と誇りを持って言えるような組織にしたいと思っています。そこを達成できれば、患者さんたちに良い在宅医療を届けられるはずです。スタッフ一人ひとりが満足感を持って働ける環境をつくること、それが結果として質の高いケアにつながっていく。開業当初からずっと、そう信じて取り組んできました。
スタッフの方々についてお伺いできますか。
現在、常勤医師6人、非常勤医師4人の体制で、クリニック全体では約60人のスタッフが在籍しています。内科系に限らず、外科や救急、緩和医療など、多様なバックグラウンドの医師が集まり、薬剤師や社会福祉士といった専門職もそろっています。昨年移転した現在のクリニックは、ワンフロアに壁や仕切りを設けない設計にしました。医師や看護師が職種ごとに固まっているわけでもなく、全職種が入り交じって座っています。私もスタッフの中にいて、すぐに話ができる環境です。また、2024年にはひさまつクリニックから平和会クリニックへと名称を変更しました。個人に頼らず、みんなで運営していける持続可能な組織をめざしたいという思いが、少しずつ実現できていると感じています。
読者へメッセージをお願いします。

単に訪問診療を行うだけでなく、医師をはじめ多くの専門職がチームとなって、医療面でも日々の生活面でも長くお付き合いしていく体制を整えています。ご自宅で最期まで過ごしたいという方を、しっかり支えていきたいと思っています。最近は、ケアマネジャーさんを通したご相談だけでなく、直接ご連絡くださる方も増えてきました。まずは当院の医療相談員が在宅医療の仕組みや制度、費用について丁寧にご説明いたしますので、納得された上で始めていただけます。ご自宅に伺うというのは、互いにとってハードルが高いことですから、しっかりと準備をしてから診療に入るようにしています。ご家族の通院が難しくなってきたなと感じたら、まずは気軽にご相談ください。一緒に考えながら、その方らしい療養生活を支援してまいります。

