上西 清 院長の独自取材記事
緑井メンタルクリニック
(広島市安佐南区/緑井駅)
最終更新日:2025/12/11
緑井駅から徒歩1分、商業施設の集まる駅前エリアの一角にある「緑井メンタルクリニック」。駅やバス停からのアクセスが良く、仕事帰りにも立ち寄りやすい環境だ。2012年に開院した心療内科で、働き盛りの世代から子ども、高齢者まで幅広い患者が訪れる。陽光が差し込む明るい院内は、グリーンを基調にした落ち着いた空間。院長の上西清(かみにし・きよし)先生は、大学時代のボランティアを機に精神科の道へ進み、長年にわたり勤務医として多くの患者と向き合ってきた。精神科が入院中心だった時代から外来中心へと変化する中で、「無理なく通える医療を」という思いを形にしたという同院。じっくりと話を聞く診療スタイルや回復後の社会復帰支援まで見据える姿勢が印象的な上西先生に、これまでの歩みや診療への思いを聞いた。
(取材日2025年11月10日)
「心」の奥深さに惹かれ、通いやすい医院をめざす
医師、そして精神科を志したきっかけをお聞かせください。

もともとは大学の教養課程の頃に、ボランティアとしてカウンセリングの現場に関わっていました。子どもの治療の場に立ち会ったり、少し問題を抱えた児童とその保護者がカウンセラーの先生からカウンセリングを受けている場面を見学したりしていたんです。その中で、人間の「心の世界」というものが本当に奥深いと感じました。そこから次第に、精神科という分野に興味が向いていきました。医師を志したきっかけには、父が開業医だったこともあります。父のことは医師として尊敬していましたが、父の医院は継ぎませんでした。ただ、「これからは人間の精神が大事な時代になる」と話していたのを覚えており、今思えば先見の明があったと思います。
ご経歴と開業までの歩みを教えてください。
これまで勤務してきたのは、すべて精神科の病院です。大学附属病院に始まり、いくつかの病院で長年にわたって臨床に携わってきました。当時はまだ精神科というと「入院して治療する場所」という意識が強く、外来で通うことは一般的ではありませんでしたが、時代が進むにつれて、徐々に「外来で診る精神科」へと変化していったんです。その中で感じていたのは、通院のしづらさでした。郊外にある病院が多く、仕事を持つ人にとって通い続けるのが難しい現実がありました。せっかく治療を始めても通えなくなり、再発してしまう方もいました。そういった経験から、「もっと通いやすい形で診療したい」という思いが強くなり、クリニックという形での開業を考えるようになりました。
この地にクリニックを開いた理由と開院当初の思いを教えてください。

ここは駅からもバス停からも近く、アクセスがとてもいい場所です。以前勤めていた病院が安佐南区にあり、その病院からも比較的近いことから、この場所を選びました。私は広島市南区の出身で、この緑井の土地が地元というわけではありませんが、ベッドタウンとして発展しているこのエリアなら、働く人やファミリー層にも通ってもらいやすいと感じたんです。また、メディカルビル内にあるため駐車場の心配もなく、通院のしやすさという点で理想的でした。開院は2012年5月です。最初はもちろん患者さんも少なかったのですが、徐々にクチコミで広がり、今では多方面から来院してくださるようになりました。アクセスの良さや通いやすさは、精神科においてとても重要で、心の不調があっても無理なく通えることが、治療の継続につながると思っています。
じっくりと話を聞き、回復からその先まで寄り添う
診療で大切にしていることは何ですか?

初診のときには、できるだけじっくりお話を聞くようにしています。人は一人で生きているわけではなく、職場や家族など、周囲との関係性が心の状態に影響することが多いためです。限られた時間の中ではありますが、少なくとも30分はかけて、その方の症状だけでなく、仕事の状況や家庭のこと、育った環境なども含めて伺います。診療の基本は「傾聴」です。話すことで気持ちが整理され、症状の軽減につながることもあります。身体的な症状を伴っていれば薬物療法を行い、希望があれば漢方も取り入れています。生活リズムや食習慣、運動などを見直すことで改善する場合もあります。話をするだけで、回復につながる一歩を踏み出している方も多いと感じます。
来院される患者さんの層や主な相談内容を教えてください。
患者層は非常に幅広く、年齢や性別、疾患の種類もさまざまです。ここは働く世代が多い地域ということもあり、仕事を持つ方が比較的多い印象です。不安障害や抑うつ、パニック障害などのご相談が中心で、働き盛りの年代に多く見られます。パニック障害の方では、発作的に強い不安が出たり、心臓の動悸やめまいといった身体症状を訴えたりする方もいらっしゃいます。お子さんの患者さんも一定数来院されます。療育センターを卒業された後に紹介で来院されるケースもありますし、「学校に行くのが不安になった」といった相談で来られることもあります。お子さんの場合も、状況を丁寧に伺い、必要に応じて薬物療法も取り入れながら、一人ひとりに合った対応を心がけています。
回復後の支援や社会資源との連携も重視していらっしゃいますね。

症状が落ち着いてきた後も、その方の生活がスムーズに戻るよう支援することを大切にしています。自立支援医療制度などを知らない方も多く、当院のホームページでは、社会保障制度や経済的支援について、広島市での具体的な手続き先まで詳しく紹介しています。また、院内には行政の連絡先がわかるパンフレットや就労支援施設の案内も置いています。就労支援施設に行くことは障害のある方が訓練を受け、規則正しい生活を取り戻すきっかけにもなります。症状が改善して社会復帰に向けて進めそうな方にはそういった施設をご紹介し、必要に応じて連携を取ります。治療が終わってからの支援も、医療の大切な役割だと思っています。
地域に根差し、穏やかに心を支える存在として
クリニックの環境づくりやスタッフの雰囲気について教えてください。

クリニック全体としては、明るい雰囲気を心がけています。もともと日差しがよく入る場所にあるので、冬はとても気持ちがいいですね。夏は光が強すぎることもありますが、ブラインドで光を調整しながら、濃い緑を取り入れて落ち着いた空間にしています。窓からの景色も良く、患者さんにとって居心地のいい環境になっていると思います。スタッフは常勤1人、非常勤3人の体制で、看護師と事務員がそれぞれ在籍しています。開業当初からいるスタッフもいて、皆、明るくて話しやすい雰囲気です。患者さんにとっても、スタッフとの会話が心の支えになることがあると思います。特に細かい指示を出さなくても、それぞれが自分で考えて動いてくれる頼もしい人たちです。
お忙しい毎日だと思いますが、先生の息抜きや趣味は何ですか?
歴史をたどるのが好きで、特に神社の由来や土地の名前の意味を調べることが多いです。信仰というよりは、地域の歴史や言葉の成り立ちへの興味ですね。きっかけになったのは、広島の土砂災害です。被害の大きかった地域に大蛇伝説が残っていて、それを調べていくうちに、土地の歴史と災害の関係が見えてきたんです。そこから熱中して、身近な地域の歴史にも関心を持つようになりました。その土地に残る言い伝えなどを調べながら軽い山歩きをするのが休日の楽しみです。仕事を完全に切り離すわけではありませんが、自分なりにバランスを取りながら過ごしています。
最後に、受診を迷っている方や読者の方へのメッセージをお願いします。

「どうしようかな」と迷われているようでしたら、ぜひ相談に来ていただきたいです。心の不調は特別なことではありませんし、恥ずかしいことでもありません。診察では症状だけを見て終わりではなく、その背景にある要因や人間関係、職場環境なども一緒に考えていきます。必要に応じて社会保障や就労支援などの制度を活用しながら、無理のない形で生活を立て直すお手伝いができればと思っています。心の問題に直面したときこそ、自分を見つめ直す機会にもなります。焦らず、一歩ずつ一緒に進んでいければうれしいです。

