大井 晋介 理事長の独自取材記事
花水木内科
(高崎市/北高崎駅)
最終更新日:2024/10/21

高崎前橋バイパス(国道17号)とハナミズキ通りが交差する並榎町交差点から車で約2分の住宅街にたたずむ「花水木内科」は、内科・糖尿病内科・内分泌内科の診療に対応するクリニックだ。近くには高崎東吾妻線(群馬県道28号)も走り、幹線道路からのアクセスはいいが、大通りからやや奥まった落ち着いた場所だ。高崎出身の大井晋介理事長は、群馬大学医学部附属病院で主に糖尿病の治療に携わった経験を持ち、先進の治療薬やデバイスを積極的に導入するとともに食事の大切さを伝える啓発活動に力を入れる。幼い頃に行った小児科の優しい先生に憧れて医師を志したとあって、患者に親しみを持って接するのがモットーだ。「長く通院が必要で、治療の継続が何より大切なので、僕の顔を見がてら気軽に受診していただけたらいいですね」と、ほほ笑んだ。
(取材日2024年9月10日)
予防医学で地域医療に貢献したい
開業当初の想いをお聞かせください。

もともと高崎の出身です。この地域は、自分の専門分野の糖尿病や内分泌の治療を専門に掲げるクリニックが少ないため、地元で自分の専門性を生かしたいと考え、この地で開業しました。糖尿病にはさまざまな合併症があり、動脈硬化により脳卒中や心疾患を引き起こします。予防医学の観点から生活習慣病を防いだり、早期の段階から適切な治療を行うことで、地域の人に元気でいてほしいと思ったんです。内分泌疾患の治療も含め、地域医療に貢献できたらという想いがありました。
どのような患者さんが多く受診しますか。
開業から10年余り、多くの患者さんが来院されています。風邪など一般の内科の診療も対応しますが、約8割は糖尿病の患者さんで、あとは甲状腺の病気や二次性高血圧を引き起こす副腎系の病気の方など、内分泌系疾患の患者さんです。下は30代から上は90代まで、平均すると60歳くらいでしょうか。糖尿病もある循環器系の疾患の患者さんもおられます。子どもの頃から見知った方など地元の患者さんが多いですが、埼玉から来られる方もいますね。
設備面でのこだわりはありますか。

迅速で高精度な検査を行うために、検査機器にはこだわっています。血糖の検査機器は、過去1~2ヵ月の血糖値の状態を示すHbA1cと血糖値を連動して測定する機器を導入しており、早く検査結果が出るため、患者さんの待ち時間軽減にもなっています。また、合併症を早期発見するために、数々の検査機器を導入しています。例えば、眼底カメラは、網膜の毛細血管が傷つき、悪化すると眼底出血を起こして失明に至る糖尿病網膜症をいち早く見つけるために有用です。ほかにも、高血糖の状態が長く続くことで、神経細胞がダメージを受けて、しびれなどの神経障害が起きたり、腎機能が低下して腎不全に至り、透析が必要になることもあるので、いち早く発見するために、神経障害や腎機能の検査が必要です。検査の結果、糖尿病網膜症なら眼科に紹介するなど、必要な治療を迅速に受けられるよう体制を整えています。
叱らず、焦らず、患者に前向きに治療を継続してもらう
糖尿病を専門に選んだのはなぜですか。

医学の根本にある予防医学を重視することは、将来的に日本の医療に貢献できるのではと考えたときに、糖尿病を専門にしたらどうかと思い至りました。学生時代、糖尿病患者が右肩上がりで増加していて1000万人を越えそうだと話題になっており、病気の発見が遅かったために大事に至った患者さんに実習で携わった経験などから、糖尿病への関心が高まったんです。糖尿病は、深刻な合併症があるばかりか、さまざまな疾患の引き金になるにもかかわらず、自覚症状がないために見過ごされがちです。重篤になる前に発見して治療につなげたいと考えました。
糖尿病の治療で重視している点を教えてください。
患者さんが治療を中断してしまう「定期通院の離脱」を防ぐことです。アジア人はインスリンの分泌が低下することが原因の糖尿病が欧米人より比較的多く、薬や注射の必要がなくなるくらいに回復が見込めたとしても、食事療法や運動療法を継続し、定期的な通院でチェックを続けなければ、ほぼ間違いなく再発する恐れがあります。けれど、よほど重症化しないと自覚症状はなく、日常生活に支障がないせいか、離脱してしまう人が少なくありません。糖尿病患者の離脱率は年に1割といわれます。特に、壮年期の男性が仕事が忙しいなどの理由で離脱することが多く、久しく顔を見せなかった方が、「会社の健診で数値が高かったから」と、悪化してから受診することを繰り返すケースもあります。
離脱率を下げるために、どのような点に配慮していますか。

骨折や腹痛や発熱など、困ったことがあれば病院に行くけれど、糖尿病のように自覚症状がなければ、積極的に受診しようと思いませんよね。ですから、患者さんの治療に対するモチベーションを高めることに心を砕きます。まずは、決して患者さんを叱らず、褒めること。数値や食事内容について叱られたら、受診するのが嫌になってしまいますから、努力されたところを褒めて、注意する場合も、相手が「怒られた」とネガティブに感じないような言い方を心がけます。また、食事内容について改善したい点が複数あっても、管理栄養士と相談して、まずは1点ずつ目標を設定します。そして、次の来院時にクリアできていたら、そのことを褒めて、「今度はこの点に注意しましょう」というように、段階を踏んでアプローチします。前向きに治療に取り組んでいただくことが何より大切なんです。
早期発見・早期治療のために、まずは受診してほしい
長年糖尿病治療に携わってきて、変化した点はありますか。

新しい薬やデバイスが登場し、治療法は進化していますね。例えば、尿から糖分を排出させるよう促し血糖値を下げるための薬や、食欲を抑制する働きも期待できる糖尿病治療薬が登場しました。これらの薬を用いた治療は、従来のインスリン主体の治療と比べると、糖尿病に対して治療効果が高いことが期待できます。インスリン注射も、かつては最低でも1日1回は必要だったのが、週に1回でも良くなり、注射に用いるデバイスもキャップを外して押すだけで済むなど簡素化が進んでいます。また、小さなセンサーを体に貼りつけて、24時間、1分ごとに自動で血糖値を計測する装置があり、数値の推移をグラフ化してくれるので、いかに食後に血糖値が上昇するかなどが視覚的にわかり、患者さんの意識が変わることによる期待できる治療効果も大きいですね。
食事の大切さを伝える啓発活動に力を入れているそうですね。
最初は管理栄養士が作った糖質オフのおやつを食べて血糖値を測定したりすることで、食事に対する意識を高める目的で、院内にカフェスペースを設け、その後、個別栄養指導を受けた患者さんが集まって、カロリーを考えた食事を一緒に調理する「食べ方教室」を実施するようになりました。でも、新型コロナウイルス感染症の流行を境にこうした催しは見直して、現在は、当院の管理栄養士が個別に行う栄養相談で対応するとともに、高崎市民の方を対象にしたセミナーの講師をすることで、健康を保つための食事の大切さを伝える活動を積極的に行っています。
スタッフさんも活躍されているんですね。

はい。コロナ禍以降患者さんを集めての指導ができなくなってしまった今、私だけでなく「チーム全体で患者さんを診る」ことに取り組んでいければという思いから、看護師や管理栄養士をはじめとしたスタッフにも継続的に糖尿病合併症や透析予防についての知識を深めてもらっています。とても心強く思っていて、スタッフには感謝しています。
最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
当院では、患者さんとしっかり向き合いたいという思いから、どうしてもお待たせする時間が発生することもあります。ですが、オーダーメイドの医療の提供をめざし、適切なタイミングで患者さんに合う治療を行うこと、患者さん一人ひとりに寄り添い、治療を継続していただけるように努めています。糖尿病は発症してもなかなか自覚症状が現れませんが、神経や網膜、腎臓などへの合併症、がんや動脈硬化に伴う心疾患、脳卒中など、生活の質に大きく影響する病気を引き起こします。早い段階で適切な治療を行うことで合併症の発症率が低下が期待できるという統計もあり、早期発見・早期治療が何より大切だということを声を大にして言いたいですね。もしも過去に治療が嫌になって離脱してしまった方も、今は薬の種類や治療の選択肢も増え、今度はうまくいくかもしれませんから、まずはいらしていただきたいです。