宮木 大 理事長の独自取材記事
在宅療養支援クリニックかえでの風
(町田市/古淵駅)
最終更新日:2026/10/15
2012年に町田市で開院し、訪問診療を中心に地域の療養生活を支えてきた「在宅療養支援クリニックかえでの風」。19床の入院設備も備え、2026年6月には新たに外来診療をスタートした。宮木大理事長は、大学病院の救急や総合診療の現場での経験を生かし、病気だけを見るのではなく、その人がどのような生活を送りたいのかを考慮した医療を提供。医療従事者や患者に向けた勉強会、講演会などの啓発活動にも取り組み、その視線は患者本人だけでなく、療養生活を支える家族にも向けられている。訪問、入院、外来と切れ目なく支える体制を整えた背景や、外来診療の特徴、患者や家族と向き合う上で大切にしていることを聞いた。
(取材日2026年9月17日)
在宅医療を軸に、外来診療でも患者と家族を支える
まずは御院の特徴について教えてください。

当院は、通院が難しい方や最期までご自宅で過ごしたい方などを対象に、訪問診療を行っています。患者さんはがんの方が多いですが、認知症や心不全、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など疾患はさまざまです。複数の病気や症状を抱える方も少なくないため、プライマリケアを重視し、慢性疾患の管理から急な体調変化まで幅広く対応しています。また、医療用麻薬による疼痛管理、CART(腹水ろ過濃縮再静注法)や輸血など、在宅でもできる限り病院と遜色ない医療を提供できるよう、体制を整えてきました。現在は19床の入院設備も備えています。患者さんが病気によって生活の選択肢を失わないよう、どうすれば実現できるのかを考えることを大切にしています。
在宅医療を中心に行う中、2026年6月から外来診療も始められたそうですね。
もともと当法人は訪問診療からスタートし、通院が難しい方の療養生活を支えてきました。その中で気になっていたのが、介護を担うご家族の健康です。訪問診療は基本的に、自力で医療機関を受診することが難しい方を対象としていますから、ご家族に体調の不安があっても、その場で診療することはできません。そこで、ご家族の健康もしっかり支えたいと考え、外来を始めました。在宅療養中の方のご家族に限った外来ではありません。近隣の内科クリニックが閉院したこともあり、地域の方にも来ていただいています。また、入院にも対応しており、外来、訪問、入院というそれぞれの機能を持つことで、その方の状態や生活環境に合わせて必要な医療を考えられることも特徴です。患者さんだけでなく、ご家族も必要なときに相談できる場所でありたいですね。
外来ではどのような診療を行っているのでしょうか。

生活習慣病などの慢性疾患を中心に、相談を受けています。標榜は内科ですが、私は救急医療から総合診療へ進んできたこともあり、幅広く診ることを大切にしています。例えば、お子さんの風邪がお母さんにうつった場合には、親子で一緒に診ることもできます。また、「何科に行けばいいかわからない」という方も、まずご相談ください。幅広く診た上で、専門的な診療が必要であれば適切な診療科につなげられることも総合診療の強みです。患者さん自身が受診先を判断する必要はありません。身近な相談窓口として利用していただき、必要に応じて専門の医療機関へ紹介する役割も担いたいと考えています。
救急と総合診療の経験から在宅医療の道へ
先生が在宅医療に携わるようになった経緯を教えてください。

もともと大学病院で内科系の救急に携わり、より幅広い内科診療を身につけたいと考えて総合診療科へ進みました。経験を重ね、チームをまとめる立場になったことでマネジメントを学ぶ必要性を感じ、社会人大学院で経営について学ぶことに。そこで現在の法人につながる仲間と出会い、一緒に仕事をしようと誘われたことが転機になりました。当時は救急医療の現場にいたため、在宅医療については病院側から見える一面しか知りませんでした。その後、在宅医療に携わる人たちから現場の実情や考えを聞く中で、見方が変わっていったんです。それまで医療一筋で歩んできた自分に何ができるかを考え、訪問看護や介護に取り組んでいた仲間とともに医療の部分を担おうと決意。そうして2012年、在宅医療の世界に踏み出しました。
在宅医療に携わる中で、大切にするようになったことはありますか?
病院にいた頃は、「誰もが病気は治したいものだ」と、どこかで考えていました。ですが生活の場へ伺うと、必ずしもそうではありません。治療によってそれまでの暮らしが大きく変わるのであれば、あえて治療を望まない方もいます。そこで大切になるのが、私たちが掲げている「患者利益の最大化」という考え方です。医学的にできることをすべて行うのではなく、その方にとって何が一番良いのかを考える。医療者の「こうあるべき」を押しつけるのではなく、ご本人がどうしたいのかをお聞きし、その思いをもとに医療を組み立てていきます。人生の大部分をご自身で選択して生きてきたのに、病気になった途端、医療者がすべてを決めるのは違うと思うのです。その方の人生を左右する権利は誰にもありませんから、ご本人の選択を大切にしたいですね。
患者さんやご家族とは、どのような関係を築きたいと考えていますか?

在宅医療では、医師を頂点とするのではなく、それぞれの専門職が横につながるチームであることが重要です。その中心に置くのは患者さん自身というより、「患者さんの思い」だと考えています。医師や看護師、薬剤師、ケアマネジャーに加え、患者さんやご家族もそれぞれの立場でわかることがあります。専門性や経験を持ち寄り、ご本人の思いをどう実現するかを一緒に考えることが大切です。例えば、病状が進み、自由に外出することが難しくなった患者さんから、「映画館に行きたい」という希望を聞いた場合でも、ご家族や医療スタッフと相談することで、実現する方法を見つけ出せるかもしれません。病気だからできないと最初から決めるのではなく、どうすればできるのかをみんなで考える。誰かが一方的に「治療してあげる」のではなく、患者さんの思いを中心に、同じ目的に向かって歩む関係でありたいですね。
本人の希望と家族の生活をともに大切に
入院設備はどのような場合に利用できますか?

当院には19床の入院設備があり、私たちは緩和ケアを一つの大きな役割と考えています。ただ、最期まで入院して過ごすためだけの場所ではありません。例えば、在宅療養中に一時的に体調を崩した方や、症状のコントロールが必要になった方に入院していただき、状態が整えば再びご自宅へ戻っていただく。急性期病院での治療を終えたものの、すぐに自宅へ戻るにはもう一段階準備が必要な場合に入院していただき、ご自宅の環境を整えてから戻っていただくこともあります。また、ご家族が医療的なケアに不安を感じている場合には、看護師と一緒に練習し、自信を持ってから自宅療養に移ることもできます。病院と自宅の間をつなぎ、患者さんが望む場所で生活を続けられるよう支えることも、入院設備の役割だと考えています。
患者さんだけでなく、ご家族を支えることも重視されているのですね。
在宅療養では、ご家族が「自分が最後まで支えなければ」と頑張りすぎてしまうことがあります。しかし、患者さんの希望をかなえるために、ご家族が疲れ切ってしまっては、その方の生活まで守れなくなってしまいます。当院では、ご家族に休んでいただくための一時的な入院「レスパイト入院」にも対応しています。患者さんの人生が大切なのと同じように、ご家族の人生も続いていきます。ご家族だけですべてを抱え込む必要はありません。つらくなったら、たった一言「助けて」と言っていただければ、医療や介護に関わる人たちと一緒に、みんなができるだけ無理なく過ごせる方法を考えていきます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

病気になったからといって、したいことをすべて我慢する必要はありません。「こうしたいけれど、病気だから無理だろう」と最初から選択肢を狭めるのではなく、まず希望を聞かせてほしいと思います。もちろん、すべてを実現できるわけではありません。それでも、どうすればできるかを一緒に考えることはできます。医療者との関係にも相性がありますから、自分の希望を話せて、この人なら信頼できると思える医療者を見つけることも大切でしょう。そして患者さんだけでなく、ご家族も一人で抱え込まないでください。外来でも訪問診療でも、「困っている」「助けてほしい」と話していただくところから、一緒に解決策を考えていければと思います。

