吉成 匡人 副院長の独自取材記事
よしなり内科クリニック
(福岡市南区/西鉄平尾駅)
最終更新日:2025/05/13

福岡赤十字病院の隣、日赤前バス停から徒歩約5分の場所にある「よしなり内科クリニック」は、福岡市南区大楠で長年にわたり地域医療を担ってきた。糖尿病や甲状腺疾患を中心に、生活習慣病の診療を軸としながら、地域のかかりつけ医として幅広い患者を受け入れている。副院長の吉成匡人先生は、大学病院や中核病院での臨床経験に加え、久山町研究などの地域に根差した疫学調査にも携わってきた経歴の持ち主。現在は父である吉成元孝院長との2人体制。「通い続けられること」を第一に、患者の生活背景にまで目を向けた診療を心がけている。今回は吉成副院長に、クリニックの方針や医療に対する思いなどを幅広く聞いてみた。
(取材日2025年4月3日)
研究と診療、それぞれの経験を地域医療に生かす
医師を志したきっかけと、専門分野について教えてください。

医師だった父の姿は幼い頃から身近で、早朝に出かけて夜遅くに帰る日々を見て、仕事の大変さと同時に、人の役に立つ職業としての尊さを感じていました。また、小学生の頃に読んだ児童文学作品に登場する、動物たちと心を通わせ、言葉の裏にある思いをくみ取りながら問題を解決する主人公の姿に感銘を受けました。そうした経験を通して自然と医療の道に興味を持つようになったのだと思います。医師になってからは、総合的に幅広く診ることができる内科の医師を志し、その中で糖尿病や甲状腺疾患を専門とするようになりました。患者さんの背景や生活環境にも配慮しながら、病態を正確に把握し、エビデンスに基づく長期的な将来像を見据えた診療を心がけています。
大学病院や研究機関での経験は、現在の診療にどのように生かされていますか?
勤務していた福岡赤十字病院は、若手にも多くのチャンスを与えてくれる環境があって、幅広い症例にふれることができました。その後、九州大学の大学院で久山町研究と糖尿病患者データベース研究に携わり、糖尿病の発症原因、予防法、さらに糖尿病発症後の合併症の成り立ちを通して学びました。日々論文を読み込み、研究室に在籍するさまざまな診療科の医師との討論を通して、診療の幅を広げ、アップデートする能力を得られたことは大きな財産になっています。また、特に久山町では、町民の皆さんや町役場、大学、地域の開業医が密に連携しており、地域に根づいた健康づくりを体感できました。こうした経験を通して、「病気だけを診るのではなく、その人の暮らしや人生背景に目を向けた診療」が自分の診療スタイルとして培われました。今も、患者さん一人ひとりと丁寧に向き合いながら、その人らしい暮らしを支える医療を心がけています。
これまでの経緯と、現在の診療体制について教えてください。

もともと父のクリニックを手伝うことがあったので、南区大楠を中心とした地域に関わる医療には親しみがありました。研究や臨床を深めたい思いもありましたが、ちょうど学位取得などの節目を迎えた頃、父から将来的な相談を受けたことがきっかけで戻ることを決意しました。患者さんの中には、昔から通ってくださっている方も多く、「後継がいて安心しました」とお声がけいただけることはとても励みになります。長く通ってくださる患者さんが多いからこそ、継続的な関わりを大切にしながら、その方にとってベストな医療を提供していかなければと思っています。
継続的に治療に取り組めることが、患者にとって第一
糖尿病をはじめとした生活習慣病の診療で、大切にされていることは何ですか?

私たちが大切にしているのは、「通い続けてもらえるクリニック」であることです。生活習慣病は途中で通院をやめてしまうと病状が悪化してしまいます。ですから、安心して通い続けていただけるよう、治療方針や目的をしっかりと共有しともに歩んでいくこと、また前向きに治療に取り組める環境づくりが重要だと考えています。まずは診察時の丁寧な説明、また治療を続けていくには目標意識も欠かせません。当院では、「通勤時にバスを1つ手前で降りる」といった小さな目標を毎回の来院時に持ち帰っていただいています。積み重ねることで、患者さんご自身の「自分の体を自分でコントロールできる」という自信につながればと思います。さらに、当院は糖尿病診療に必要な検査体制を院内に整えています。眼底検査や動脈硬化、骨粗しょう症の検査を院内で実施できるほか、エコー検査も医師自身が行い、患者さんと画像を確認しながら一緒に治療方針を決めています。
スタッフと連携した診療体制について教えてください。
糖尿病の診療は、医師だけでなく事務、看護師、管理栄養士など多職種のチームでサポートすることが欠かせません。当院では、インスリンやGLP-1受容体作動薬の注射の指導や持続血糖測定器も含めた血糖測定機器の使い方、フットケア、日常生活での注意点まで、看護師がきめ細かにフォローしています。継続的な関わりの中で患者さんの変化をいち早く察知して医師に共有してくれることもあり、非常に心強い存在です。また、ベテランの管理栄養士による食事指導は、糖尿病だけでなく脂質異常症や高尿酸血症などさまざまな患者さんに対応できます。受付スタッフも含め、全員が患者さんとって、私にとってなくてはならない存在ですね。
甲状腺疾患の診療において、特に大切にしていることはありますか?

甲状腺の病気には、橋本病やバセドウ病といったホルモンのバランスに関わるものや、腫瘍ができるものなどがあります。これらは、初期には症状が目立ちにくく、「動悸」「体重減少」「手の震え」「疲れやすさ」「体の冷え」「便秘」など、日常のちょっとした不調として現れることがあります。当院では、詳細な問診と検査を通じて、患者さんご自身でも気づきにくいサインを見逃さないよう心がけています。内服治療で十分にコントロールできない場合や、甲状腺腫瘍に対して当院で行った細胞診の結果に応じて、放射線治療や手術が可能な専門医療機関と連携し、適切な対応につなげていきます。不安を抱えて来院される患者さんにも、安心して治療を続けていただけるよう、わかりやすい説明と丁寧な対応を大切にしています。
相談しやすいと感じてもらえるクリニックをめざして
一般内科や地域医療において、副院長として感じるやりがいはありますか?

父と私の2人体制になってからは、糖尿病や甲状腺疾患に限らず、頭痛や不眠といった一般的な内科疾患にも、より丁寧に対応できるようになったのではないかと思っています。地域に根差した医療機関として、どんな体調の変化もまずは気軽に相談していただけるような存在でありたいですね。地域の皆さんは医療に対してまっすぐに向き合ってくださる方が多く、この地域ならではの温かさを感じることも多いですね。自分自身が長年親しんできたこの土地で、信頼を築いていけることに大きなやりがいを感じています。
院長先生が長年続けてこられた地域活動も印象的ですよね。
父が長年にわたり、糖尿病教室や認知症啓発の講演、学校での健康教育など、地域の健康づくりに積極的に取り組んできました。医師会の活動や看護師の専門性を深めるための教育支援など、医療者向けの発信も多く、私自身もその背中から学ぶことがたくさんあります。そうした活動を通じて地域と信頼関係を築いてきた父の姿は、めざすべき医師像の一つです。私もこれから、地域の皆さんに「この町にこのクリニックがあって良かった」と思ってもらえる存在となれるよう、日々の診療に取り組んでいきたいと考えています。
今後めざすクリニックの姿と、患者さんへのメッセージをお願いします。

これからの医療環境が変化していく中で、医療DXなど新しい取り組みにも少しずつ対応していきたいと考えています。ただ、まずは今来てくださっている患者さんをしっかり支えることが何より大切です。診療を通して「相談しやすい」と感じていただけることが、私たちにとって何よりもうれしいことです。生活習慣病や甲状腺疾患など、長く付き合う必要がある病気ほど、通いやすく、ちょっとした疑問でも気軽に話せるような「安心できる場所」が必要だと思います。これからも、患者さん一人ひとりにとって、そうした存在であり続けられるよう努めていきます。