伊藤 浩一 院長の独自取材記事
北山田耳鼻咽喉科
(横浜市都筑区/北山田駅)
最終更新日:2021/10/12

医師になって27年、大学病院や市中病院にて培ったアレルギー治療の豊富な経験を生かし、横浜市都筑区の地域医療に貢献している医師がいる。横浜市営地下鉄グリーンライン北山田駅直結、「北山田耳鼻咽喉科」の伊藤浩一院長だ。患者の約半数を子どもの患者が占めるとあって、院内にはさまざまな工夫を凝らし、「少しでも治療の恐怖心を取り除いてあげたい」という想いで診療にあたっているという。その背景にある、医師をめざしたきっかけとは? 近年注力しているという舌下免疫療法や、アレルギー疾患の予防策などさまざまなトピックスを織り交ぜ、たっぷりと話を聞いた。
(取材日2016年6月13日)
患者の不安や恐怖心と向き合う根からの医療人
ここ都筑区はファミリー層の多いエリアなんですね。

当院の患者さんも平均年齢が若く、半数近くが子どもの患者さんです。待合室のスペースを広めに取ったのもそのためで、ベビーカーのまま入れるようにしているんですよ。このクリニックモールは駅直結ですし、車でお越しになっても地下の駐車場からそのまま上がって来られますから、雨の日も濡れることがありません。そうした通いやすさもお子さん連れが多い理由の一つでしょう。
どのような症状を訴える方が多いですか?
鼻水、アレルギー症状、花粉症、お子さんですと中耳炎が多いです。鼻と耳は奥でつながっていて、子どもの場合その距離が近いですからね。なかなか上手に鼻をかめず、すすったりしているうちに鼻水が耳のほうへと流れてしまいます。それで鼓膜の奥に菌が入り込んで、中耳炎になってしまうわけです。中耳炎には痛みのないものもあり、お子さんが訴えないので気づくのが遅れることがしばしば。風邪をひいたときは、耳のほうも気をつけてあげてください。
子どもの患者さんを迎える上で、何か工夫されていますか?
少しでも恐怖心を和らげてあげることです。例えば、一般的には外に丸出しになっているネブライザー(経口吸入器)を、当院では棚の中に納めて見えないようにしています。機材が視界に入って怖がってしまうお子さんもいますからね。あとはいかにも病院という雰囲気にならないよう、院内は白を基調とした内装に暖色系の家具を合わせて、全体的に温かみを感じられるようにしました。実際の処置の際には「耳垢を取りますよ」「鼻の吸引をしますよ」という風に、次に何をするか必ず知らせるようにしています。耳も鼻も顔の周りにあって近いのに、見えるようで見えない。そんな不安を取り除くためですね。当院のホームページにはお子さんの診察風景がわかる動画をアップしていますから、あらかじめそちらをご覧になると、どんな手順でどんなことを行うかがわかって、お子さんも安心できるかと思います。
そもそもどうして医師を志したのですか?

実は私の妹が生まれつきの脳性麻痺で、小さい頃からずっとその姿を見て育ちました。今はバリアフリーなど体に不自由な人に配慮した環境が整ってきましたが、当時はまだまだ。移動するにも車いすもなく、両親とも非常に苦労していました。そんな様子を見てきたので、妹のような人たちや家族の助けになるような仕事に就きたいという思いがずっとありました。それで医師をめざしたんです。耳鼻科を選んだのは、人間が生きていくために必ず必要な部位だからです。食べる場所であり、呼吸する場所でもある。そして聴覚と嗅覚をつかさどる非常に大事な箇所。耳は体の平衡バランスを取るという意味でも、動物が生きる上で必要不可欠なんですよね。そういうところに純粋に興味を持ちました。
科の枠組みを越えたアレルギーの総合的な医師をめざす
先生はアレルギー治療が専門だと伺いました。

医師として27年間、アレルギーの分野をライフワークとし、当院でも積極的に診療にあたってきました。免疫療法はその代表です。免疫療法とはアレルギーの原因物質をあえて体内に投与し、慣れさせることでアレルギー反応を起こしにくくするもの。体質を根本から変えることを目的とした、歴史ある治療法なんですよ。従来の皮下注射法では副作用としてアレルギー反応が出る場合があり、医師にとっても敷居の高いものでした。しかし近年は舌下免疫療法という治療法が登場し、普及しつつあります。アレルギー診療ガイドラインにも「免疫療法はアレルギーの基本的治療法」と明記されるなど、有効性が見直されてきました。アレルギー疾患の患者は年々増加傾向にあり、食物アレルギーの方も増えています。私も耳鼻科に特化するのではなく、トータルにアレルギー疾患を診られる医師をめざしています。
舌下免疫療法とはどんな治療法なのですか?
皮下注射法が抗原を注射によって体内に投与するのに対し、舌下免疫療法は錠剤や液剤を舌の下に入れて、口の中から吸収させます。中には一時的に口の中がイガイガしたり、かゆくなったりする方がいますが、ほとんどの場合、重篤な副反応は起こりません。現在はスギ花粉、ダニの2種類があります。対象年齢は12歳以上。それ未満になると皮下注射法となり、当院でも早くて5歳の患者さんが治療を受けています。ちなみに舌下免疫療法はスギ花粉とダニアレルギー、両方を一度には進められません。どちらも希望される方は皮下注射による治療となります。
免疫療法のデメリットを教えてください。

治療期間が長いことですね。まずは2週間に1度の注射を7、8ヵ月続け、抗体の濃度を徐々に上げていきます。そしてある程度効果が出るとされる濃度に達したら、月1度の注射を短くとも3~5年継続しながら様子を見ていくイメージです。即効性のある治療ではありませんから、患者さんと医師の双方に、じっくり治していくという心構えが必要ですね。この免疫療法は体質そのものを変えられるという点で、治療を止めた後も長期にわたって良好な状態が続くといわれており、妊娠を希望する方、もしくは妊娠中の方でも治療を継続できます。薬に頼りたくないという方にもお勧めです。
人々の暮らしに沿うアドバイスでアレルギー対策を啓発
自宅でできるアレルギー対策はありますか?

最近はアレルギー疾患も低年齢化が進んでいて、スギ花粉では2歳から抗体が確認されるほど。その背景には生活環境、食習慣の変化が大きく影響しており、遺伝的な原因を除けば、乳幼児期からのケアが大切になります。タンパク質や糖質の取り過ぎは抗体が作られやすくなるので注意をし、なるべくダニやほこりのない生活環境を心がけてください。家ダニは人間の垢やふけを栄養にしていて、特に寝具の中はダニの巣窟です。防ダニのカバーをかけるなど工夫が必要ですね。アレルギー症状はダニの死骸によっても引き起こされるので、布団を干した後は掃除機や布団用クリーナで吸い取るとよいでしょう。また、花粉は大気汚染物質と結びつくと鼻の粘膜に吸収されやすくなります。花粉が飛ぶ時期は外出を控える、マスクをして外に出るなど、吸い込まないのが一番の予防策です。
読者の皆さんにアドバイスをお願いします。
風邪の症状が出ると内科で診てもらう人が多いかと思います。しかし風邪の症状のほとんどが、「上気道炎」といって首から上の炎症になります。首から上は基本的に耳鼻科の領域、つまり耳鼻科にかかったほうがいいこともあります。患部に対して直接的な治療が可能ですし、鼻吸引をするだけで細菌の量が2/3減るというデータも出ていますからね。中にはただの風邪だと思っていたら、喉の奥が腫れる喉頭炎だったというケースもあります。そうなると命に関わる事態にもなりかねません。小児科で喘息と診断されたお子さんが、実は鼻水が喉のほうに落ちて咳の症状を起こしていただけということもありました。咳が続く、鼻水が止まらないといったときも、やはり耳鼻科を受診してほしいですね。
日々の診療でお忙しい中、プライベートではいかがお過ごしですか?

最近は英語の本を読むのに凝っています。もともとミステリー小説が好きなのですが、海外の作品は翻訳時にどうしても日本語のニュアンスが入ってしまいますよね。だから原書が読みたいなあと。英語は得意なほうではなかったんですけど、小学生向けの作品から始めて、とにかく数を読むようにしました。随分慣れてきて、楽しみながらすらすら読めるようになりました(笑)。あとは歴史名所巡りですね。私は理系ですが日本史も大好きで、歴史学者になりたかったんですよ。