小西 薫 院長の独自取材記事
すくすくクリニックこにし
(木田郡三木町/平木駅)
最終更新日:2025/06/11

琴電長尾線・平木駅から徒歩5分ほど。広々とした敷地の中に、病児・病後児保育室、発達支援施設や児童発達支援・放課後等デイサービス施設などを併設する、「すくすくクリニックこにし」がある。院長の小西薫先生は大阪医科大学を卒業後、京都大学医学部小児科へと入局。各地の病院や療育施設などで、長く障害児医療に携わってきた。日本小児科学会小児科専門医・日本小児神経学会小児神経専門医として、同院では身近な育児相談から、発達に関するカウンセリングまで幅広く対応。「診療の際には、“観る”ことを大切にしています」と優しく語る小西院長に、医師をめざした理由や同院の特徴など、さまざまな話を聞いた。
(取材日2025年2月27日)
障害児医療の分野で研鑽を積む
先生が小児科の医師になられた理由は?

歴史が好きで、考古学者の道も考えたのですが、母から「女性も何か資格を取るように」と言われていたことから、医学部への進学を決めました。私の祖父は薬剤師、そして早くに亡くなった父は開業医。地域医療のために尽力する父の姿を見て育ったことも、医師をめざした理由の一つかもしれません。学生時代は診療よりも予防に興味があり、無医村などに赴く予防医学研究会の活動をする中で、保健のお仕事を意識するようになりました。保健業務には、子どもの発育支援や病気の早期発見といった目的がありますから、保健、小児保健、小児科と関心が広がっていったかたちです。
卒業後は、障害児医療に取り組まれたとか。
大学卒業後は、京都大学医学部小児科に入局。京都大学には、学生が自閉症の子どもたちの療育をサポートする障害児医療問題研究会というサークルがありました。小児科の同期で、後に結婚する夫から誘われて参加したこのサークルが、障害児医療とのご縁の始まりです。サークルでは小児神経学を専門とするアドバイザーの先生や、障害者支援施設の先生とのつながりができ、障害児医療の知見を深めました。その後は赴任した福井の総合病院で、発達障害を専門に扱う部門や療育教室を立ち上げたり、福井・埼玉の大学の教育学部非常勤講師として、障害児医学の指導や実習を担当。現在は発達に関すること(夜泣き、歩き出すのが遅い、言葉の発達が遅い、動き回って大変、友達とうまく遊べないなど)のご相談が増えています。気になる行動のわけをご家族と一緒に考えてお子さんを理解して課題を解決する場・医師がもっと増えると良いですね。
病院時代のエピソードはありますか?

福井の病院に勤めている時に、子どもを授かりました。ところが、子どもを大切にする小児科の医師たちから「3歳になるまでは、親が家で見るべきだ」と言われ、0歳児を預かる保育園を探してもなかなか見つけられず、落ち込んでいたんです。そんな時に、とある保育園の先生が「私たちに任せておいて。その代わり、園の子どもたちを診て」とさらりとおっしゃってくださって。ありがたくて……。それまでは受診時の子どもの姿しか見られなかったのが、この時に初めて、子どもの成長過程を見守り続けることができたんです。今では考えられませんが、保育園の給食室が工事の間、他の親御さんたちと交代で子どもたちのお弁当も作っていました。皆さんと助け合いながら子どもを育てた経験は、小児科の医師としてとても勉強になりましたし、この時の経験が私の診療の基礎をつくっています。
子どもが安心して過ごせる環境をつくる
さまざまなご経験を経て、開業されたのですね。

専門機関に訪れる方だけを診るのではなく、「健康相談も含めて対応しながら、地域の方々を支えたい」という想いが強くなり、所長を務めていた埼玉の療育施設を早期退職して、夫の故郷であるこの三木町で2010年に開業しました。常勤の医師は、当時も今も私一人です。夫は京都の大学で赤ちゃん学の研究施設を立ち上げていたので、こちらでは非常勤の医師として不定期に診察をしたり、親御さんたちに研究のお話をしたりしていました。この場所で開業するにあたって心がけたのは、子どもたちが不安なく過ごせるような環境をつくることです。例えば待ち時間に他の子どもの泣き声が聞こえてくると、子どもは不安になりますよね。診察室や処置室の声が聞こえにくいよう、中待合は院内の窓際に、椅子も窓向きに配置しました。他にも丸みを帯びた外観デザインにしたり、駐車場の中央に緑地帯を設けたりといった工夫を凝らしています。
一般診療では、どのような症状の患者さんが多いですか?
発熱や咳などを除けば、最近増えているのは慢性的な頭痛や腹痛、下痢、便秘、あとはめまいや立ちくらみなどの不定愁訴でしょうか。小児科の受診頻度は成長とともに下がっていくはずですが、腹痛などで何度も訪れる子どもは、もしかしたら心因性の問題があるかもしれません。3歳児健診では、3分の1程度のお子さんに便秘の症状が見られることもあります。便は健康のバロメーターですから、正常な排便の周知に努めていきたいです。それから寝つきや寝起きの悪さ、夜泣きといった睡眠についてのご相談も多いです。睡眠障害があると、お子さんの成長・発達はもちろん、ご家族との生活にも影響が出てしまうでしょう。添い寝・添い乳の習慣が睡眠障害の原因になることもありますから、お子さんの成長に合わせて上手に卒業していくことが大切です。卒乳などのお悩みも、どうぞ気軽にご相談ください。
発達カウンセリングについてはいかがですか?

走り回る、動き回る、言葉が遅れている、他の子とうまく遊べないといったお悩みが目立ちますが、最近は何でも神経発達症と考えすぎてしまう傾向があるようです。気になる行動があったとしても、そのすべてが神経発達症の症状とは限りませんので、カウンセリングでお尋ねいただければと思います。当院では神経発達症のお子さんに対して、2つの居場所をご用意しています。一つは発達支援センターです。こちらでは0~2歳児の親子を対象として、毎週火曜日の午前中に感覚・運動・コミュニケーションを柱としたさまざまな遊びを実施しています。加えて2018年には、別棟の施設でも児童発達支援事業を開始しました。こちらでは平日と土曜日の日中の時間に、工作や体を使った遊びを行います。専門的な知識を持ったスタッフが、お子さんの特性を考慮したコミュニケーションを促しますので、受給者証を持っているお子さんはこちらもご活用ください。
食事・睡眠・排せつの悩みも気軽に相談を
病児・病後児保育室は、いつ頃開かれたのですか?

医院北側の病児・病後児保育室は、町の委託を受けて2019年に開設しました。この施設に関しては、福井での経験が生かされています。福井の病院では30年以上前から病児・病後児保育室を開設していましたので、地域の需要を鑑みて、当院でも後から併設しました。児童発達支援から病児・病後児保育まで幅広く対応することで、地域の子育てを支援します。
診療をする上で、大切にしていることは?
若い頃は、病気を見逃さないために「診る」ことを重視していましたが、今は「観る」ことを大切にしています。発熱などの症状で来られても、発達のお悩み相談で来られてもそれは同様です。初診時にはお子さん一人ひとりを白紙の状態で観て、お子さんの特性に合わせた支援を考えます。発達に関するカウンセリングの際も、検査の結果だけを診るのではなく、お子さんが実際に遊んでいる姿をじっくりと観ます。動き回る子に対しては、「座りなさい」と言うよりも、座って遊べるおもちゃを与えたほうが良いかもしれません。子どもたちを観て、「何を考えているのかな」「どんなタイプなのかな」と考えていると、いまだに新たな発見や驚きがあります。これからもお子さんの成長や発達を見守りながら、親子の「通訳」のような存在になれたらうれしいです。
読者に向けたメッセージをお願いします。

子どもたちの見守り役を担う医師が一人でも増えていくように、当院では医学部の学生の実習を受け入れています。また、地域の園医や校医を務めています。子どもたちを観て学べることも多いので、事情が許せば、今後は園医としての活動を増やせればいいですね。親御さんたちには、食事や睡眠、排せつのお悩みでも小児科を頼っていただければ幸いです。治療の必要はなくても、それがきっかけでお子さんの特性がわかることもあるでしょう。普段の生活の中で気になることがあれば、何でも構いません。気軽に私たちにお話しください。