中原 久美 院長の独自取材記事
なかはら歯科
(名古屋市西区/庄内通駅)
最終更新日:2021/10/12
庄内通駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅街にある「なかはら歯科」。オリジナルキャラのかわいいサルが描かれた緑の看板が目印の小児歯科・一般歯科の医院だ。院長の中原久美先生は大学卒業後、小児歯科の道を歩み続け、2002年に開業。2011年にこの場所へ移転してきた。院内は明るく優しい色調に整えられ、のびのびと働いているスタッフの明るい笑顔が印象的。キッズルームが窓際にあるため、通りすがりの子どもが院内に入ってきそうになることも。「痛くない、怖くない治療」をモットーに、予防にも力を入れる同院では、1歳半からの口腔ケアも可能だ。全国に1300人ほどしかいない日本小児歯科学会小児歯科専門医でもある中原先生に、小児歯科医療の現状、趣味などを聞いた。
(取材日2016年5月2日)
確かな技術と経験がもたらす「痛みの少ない」治療
歯科医師を志したきっかけ、小児歯科を選んだ理由をお聞かせください。
両親や親戚などに歯科医師がいたというわけではなく、一生続けられる仕事に就きたいと思っていて、医療系の仕事に興味を持っていました。小児歯科は、子どもの成長や発育と大いに関わりますのでとても面白いと感じ、大学卒業後もずっと小児歯科です。具体的には、大学の小児歯科教室で2年研修し、トヨタ病院(現・トヨタ記念病院)小児歯科部門 に2年間勤務し、結婚後も15年くらい一般歯科や矯正歯科の医院で小児歯科担当として勤務してました。2002年に庄内通駅近くに開業し、2011年にここに移転しました。小児だけでなく、障害者の方も多く診てきましたね。
小児歯科の面白さ、難しさ、やりがいはどんなところにありますか。
小児歯科で一番苦労したのは、やはり子どもへの対応の仕方ですね。子どもは大人の小さい版ではなく、子どもには子どもへの対応が必要なんです。子どもは治療を嫌がったり、怖がったりしますから、虫歯をちゃんととりきれるかどうかなど、大人と同じようなレベルで治療ができない場合もあるのです。だからこそ、子どもとのコミュニケーションを重視した小児歯科の意義があるのだと思います。
「痛くない、怖くない歯医者」をめざしているのですね。
特に子どもは、痛い思いをすると歯科医院に来なくなりますので、麻酔の段階から痛みを与えないよう気をつけています。痛みを感じさせないようにするには、表面麻酔を塗ることと打ち方ですね。ゆっくり徐々に針を入れていきますので、子どもも「終わったの?」と気づかないことがあります。小児歯科を専門としているからには、「痛い、怖い」という歯科医院のイメージを払拭しなければなりません。当院は1歳半からの診療を行っていますが、3歳以下のお子さんの治療は難しいものです。その年齢では、話を理解するのは難しいので、進行止めの薬を塗って治療ができるまで待つということもあります。
どうしても泣いてしまう子の治療はどうするのですか?
まず、痛くて泣いているのか、怖がって泣いているのかを見極めます。他の医院で治療にかかったものの、そこではどうしても治療できなくて当院に来た子は、今までのイメージをクリアするのが大変です。緊急性がある場合は泣いていたとしても治療する必要がありますが、そうでなければ治療ができるようになるまで時間を置くこともあります。3ヵ月に1回、検診に来ていただいて虫歯が大きくなっていないかを診ます。定期検診に来るうちに慣れてきて、恐怖心はだんだんなくなってくるようですね。
子どものあごの骨格や歯並びの変化がもたらす影響
小児歯科の現状について教えてください。
小児や障害者の方を専門に診ることができる歯科医師が少なくなっているようです。小児歯科はその後の口腔内の成長を左右する大事な治療です。しかし、経営的な問題もあると思いますが、若い歯科医師の場合、小児歯科よりも矯正やインプラント治療に興味を持つことが多いようですね。当院は矯正治療も行っていますが、今の子は顎が小さいので、永久歯に生え替わったときに、ちゃんと歯が並ばないケースが多いですね。そのような場合、歯が生える幅を確保するために、まず顎を広げるような装置を使用してもらいます。予防矯正のようなものですね。この装置は夜間のみの装着で効果を上げています。
今の小学生の歯の状態はどのような感じですか?
気になるのは、やはり歯並びです。軟らかい食べ物が多いのか、固い物が食べられないのか、しっかり噛んで食べていないのでしょう。だから顎も育っていません。昔の子どもは固い物をよく噛んで食べ、乳歯が擦り減っていたのですが、今の子どもはほとんど擦り減りもなく、生え替わりまできれいな状態の子もいます。顎が育たなければ噛む力が弱くなって、健康にも影響が出ます。下顎が小さくなると、下顎が落ち込んで寝ているとき息ができにくくなります。いびきがその典型ですね。顎が小さくなって骨格が悪くなると、歯並びも悪くなり、結果虫歯にもなりやすくなります。当院でも、マウスピース矯正をしている子どもさんが3分の1もいるぐらいで、子どもの骨格や歯並びが変わってきていると思います。
診療の際に気をつけていることはありますか?
子どもにストレスを与えないようにすることです。3、4歳でひどい虫歯になった子がたまにいるのですが、そういう子たちに対してなるべく痛みを与えないようにしています。大きな虫歯になってしまった子は、大人と一緒で神経を取らなくてはならないこともあります。乳歯の前歯が真っ黒だった子に真っ白の永久歯が生えてきたときはうれしいですね。やはり子どもを診ていますから、一人ひとりの子の成長・発育ともにずっと診ていきたいと思っています。開業して10数年がたち、幼稚園生だった子が、今は高校生、大学生になって当院に顔を出してくれているのがうれしいですね。
小さな頃から歯を大事にする意識をつないでいきたい
印象に残っているエピソードなどありますか?
私自身の話では、小児歯科の治療を始めた初期の頃は、まだまだ子どもを泣かせてしまうことがよくありました。そのせいで、本来はかわいいはずの子どもがそう思えなくなってしまったこともありました。子どもは泣いてしまうと手に負えなくなりますので、そうならないようにするため、経験と工夫を重ね、10年はかかったと思います。実際の治療で印象深いのは、顎がとても小さい子がいて、このままだと絶対に歯並びがガタガタの乱杭歯(叢生歯)になるだろうと思われたのが、顎を広げる矯正をすることによってきれいな歯並びになったことが印象に残っています。その子は今でも来てくれているのですが、それがまたうれしいですね。
ご趣味や休日の過ごし方についてお聞かせください。
趣味は小さい頃から続けているバイオリンです。今は地元のオーケストラに所属し、年に1回定期演奏会で弾いています。前は県の医師会オーケストラにいたのですが、開業してから出席するのが大変で、地元のオーケストラに入りました。主人と一緒に超一流プロの演奏もよく聴きにいきますね。主人は今でも医師会のオーケストラでコントラバスを弾いています。主人とはそのオーケストラで出会ったんですよ。バイオリンを始めたのは、たぶん両親が好きだったからだと思いますが、私自身物心つく頃からやっていました。休みの日は、出かけることが多くて家にいることは少ないですね。月に1回、矯正専門の歯科医師の所に勉強しに行っています。当院は矯正治療を専門に行う医院ではありませんが、小児歯科を専門としていますので、矯正治療も行うからには専門的に学びたいと思っています。
患者さんや読者へメッセージをお願いします。
まずはお子さんの歯磨きとおやつに気をつけていただければと思います。子どもがいったん甘い物を覚えてしまうとそれをなしにするのは難しいのが実際のところでしょう。幼稚園に通い始めるとお友だちが食べているのを見て、「自分も食べたい」となりますので、幼稚園に行くまでは、できるだけご家庭で甘い物を少なくすることをお勧めします。歯磨きのブラッシングについては、当院では毎回赤く染めて汚れている箇所を確かめながら行います。ご家庭では2歳くらいまではお母さんがブラッシングして、3歳頃からは徐々に自分でできるようにしていければいいと思います。私どもは、患者さんと長くお付き合いしたいと考えています。きれいな歯をずっと維持していくのは長い年月の積み重ねでもあります。当院でそれを実践してきた子が大きくなって、また次の世代につながっていけば、これほどうれしいことはありません。