森田 剛敏 院長の独自取材記事
もりた歯科クリニック
(奈良市/大和西大寺駅)
最終更新日:2024/11/28

近鉄奈良線・大和西大寺駅より徒歩5分の場所にある、「もりた歯科クリニック」。地域のかかりつけ歯科医師として歩みを続け、2024年7月に開院15周年を迎えた。同院の大きな特徴になっているのが、障害者歯科。両親の影響で子どもの頃からボランティアなどに携わってきた森田剛敏(もりた・たけとし)院長が、自身の使命として障害がある患者の受け入れを積極的に行っている。森田院長がめざすのは、患者との一生涯の付き合い。そのために、丁寧なコミュニケーションを心がけ、保護者の不安にも寄り添う。「一人でできないことは多い。周囲の支えのおかげ」と振り返る森田院長に、障害者歯科の道を選んだ経緯や診療で大切にしていること、今後の展望などを聞いた。
(取材日2024年9月11日)
両親の影響で培われた考えと仲間の支え
開業15周年を迎えられたとお聞きしました。まずは開業までの経緯を教えてください。

大学を卒業する時からいずれは開業することが念頭にあったものの、今後何十年も歯科医師として仕事をしていく中で、まずは大学に残ってできる勉強をしたいと考えたんです。障害者歯科の講義は大学で受けてはいたのですが、より深く知るためには大学病院しかないと思い、大阪大学歯学部附属病院の障害者歯科治療部に進みました。当初は3年の予定でしたが、これではまだ足りないと感じ、5年かけてさまざまな障害のある方と関わってきました。その後、宝塚で開業していた医局の先輩のもとへ。開業して歯科医院を運営していくためには、一般診療も行っていかなければならないので、障害のある方を受け入れながらどう両立させていくのか、施設面での工夫なども学びました。スキルアップのために、さらに他の歯科医院でも研鑚を積み、地元である奈良市で開業したのが2009年です。
障害者歯科を選択された理由は何だったのでしょうか。
小学2年生の頃からボーイスカウトに所属してきたことが理由の一つでしょうか。福祉施設でのクリスマスパーティーなどで交流していたので、障害のある方を身近な存在だと感じていました。思えば、過去に民生委員や地域のサークルなどに参加している母の影響も大きいかもしれません。ボーイスカウトに入ったのは両親の勧めでしたが、無理強いすることなくサッカーの部活動や他の習い事も自由にさせてもらえたので長く続けてこられたのだと思います。ごみ拾いや募金の呼びかけなどをしてきたことで、ボランティアと呼ばれる活動が当たり前の感覚として培われました。障害者歯科も、地域社会に貢献できることの一つだったのかもしれませんね。
先ほど一般歯科との両立のお話がありましたが、実際に開業してみて感じたことはありますか?

こだわりが強かったり普通よりも治療に入るまでに時間がかかったりと、一筋縄では行かないのが障害者歯科です。ただ、開業した以上は経営のことも考えなければいけないので、障害のある方をじっくり診てあげたい、いい治療をしてあげたいという気持ちとのジレンマがありました。それゆえに、一般歯科も受け入れられる診療体制はしっかりとつくらなければいけませんでした。その上、障害のある患者さんを診るのも私一人では難しいのです。診療所のスタッフはもちろんのこと、大学の同級生や医局の後輩など、現在は3人の歯科医師が非常勤として一般歯科、障害者歯科、さらに訪問診療を手伝ってくれています。当院で対応しきれない場合は紹介もしますが、知識がなければ橋渡しもできないので、さまざまな先生の手を借りながら一歩ずつ進んでいるという感覚です。
患者や保護者の不安に寄り添い一生涯の付き合いを
障害のある方を受け入れるために、院内にもこだわりがたくさんありそうですね。

新型コロナウイルス感染症の流行で変更せざるを得なくなったところもありますが、マンションの1階という限られたスペースの中で車いすの利用者や一般の患者さん、さらにスタッフも使いやすいよう配慮しています。院内はすべてバリアフリーで、凹凸があると通りにくいので通路が一直線になるよう意識しました。加えて、患者さんやスタッフのプライバシー確保なども考え、壁の高さを調整しました。トイレ内で車いすが回転できる広さを確保した分、歯磨きなどに使っていただく洗面台は別途待合スペース横に設けています。また、4台あるチェアのうちメインで診療に使う椅子は、開業前に修行をさせてもらった先輩の歯科医院での経験をヒントに特注したもの。診療中にどうしても動いてしまう方の体動コントロールがしやすい造りです。
診療する中で大切にされていることは?
障害の有無に関わらず、ご縁が重なって患者さんの人生に携わることになったのであれば、できる限り長く診続けたいというのが一番の思いです。障害のある方を連れてきてくれる保護者も、患者さんの成長とともにだんだんと年齢が上がっていきますよね。将来どうしていくか、ご自身に何かあった時どうするべきかという悩みを抱えている保護者もたくさんいらっしゃいます。その不安に寄り添い、一生涯のお付き合いができるようにしたいと思っています。
一生涯のお付き合いは、訪問診療をされていることにもつながるのでしょうか。

そうですね。かかりつけ医として役割を果たすためには、今は元気な方がだんだんと通院できなくなったり、自宅から出られなくなったりした時にも診ていけるようにしたいですから。「もういらない」と言われるまでは診療を続けたいという願いが、私の一つの軸になっています。半径16km以内が訪問診療の対象になります。また、訪問診療を行っている少し遠い場所にある障害者の入所施設から、職員さんに利用者さんを数人ずつ当院に連れて来ていただくケースもあります。時間に限りがあるので一度に受け入れられるのは数人ですが、治療が必要な方をこちらから指名して、その日の体調や気分などを職員の方とやりとりしながら連れて来てもらっています。こういった診療も、続けていきたいですね。
乗り越えるまでに時間がかかるからこそ望む未来とは
患者さんとの関わりで意識していることを教えてください。

まずは丁寧なコミュニケーションですね。初診では1時間の枠を設けていて、よほど腫れていて痛みがありすぐに処置が必要といった場合でなければお話をする時間を長く取っています。どんなことに困っているのかをお聞きし、治療計画に納得してもらった上で通っていただきたいですから。また、障害のある方は先ほどの年齢の話を含め、保護者が不安に感じていることが特に多いので、そこもしっかりとコミュニケーションを取りながら進めていくことを大切にしています。歯科医院の空間や機器に慣れることからスタートするなど、障害のある方はどうしても一般の方より治療までに時間がかかります。通院回数が増えるだけでも保護者にとっては大きな負担になるので、なるべく早く治療を終えるための対策や患者さん本人が「頑張って通院しよう」と思えるような工夫など、これまでの経験を生かしながら向き合っています。
スタッフさんのサポートも、大きく関わってきそうですね。
治療に向けてのトレーニングや予防へのトレーニングに関わることなどは、歯科衛生士が担当してくれています。特に障害のある方が治療を受けられるようになるまでのトレーニングは、なかなか進まないこともあります。先が見えないと、保護者は「いつ治療が始まるのだろう」「歯科医師は診てくれないのか?」と、どこか放置されているような感覚になってしまうかもしれません。そこで現状の報告や今後の治療方針などを含め、私も一緒にコミュニケーションを取る機会をつくっています。歯科衛生士はその仲介役を担っているので、とても重要なポジションであり、スキルも必要です。よく頑張ってくれていますし、スタッフには本当に支えられています。
最後に今後の展望をお聞かせください。

私が元気なうちは多くの方に来ていただきたいですが、年齢を重ねて診療ができなくなった時に障害のある患者さんをどうするのかと考えています。今は当院限定でもいいのですが、将来的にそれで終わるようなことはしたくない。当院で治療に取り組めるようになった方には、他の歯科医院でも治療が受けられるようになってほしいのです。患者さん自身の努力やモチベーションももちろん必要ですが、受け入れられる歯科医院や歯科医師を増やすことが奈良県全体の課題でもあると思っています。そのために、後進の育成などにも力を入れていきたいですし、私自身は1日でも長く患者さんの人生にお付き合いできるように健康でいたいですね。
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マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。