森田 剛敏 院長の独自取材記事
もりた歯科クリニック
(奈良市/大和西大寺駅)
最終更新日:2025/12/24
大和西大寺駅から徒歩5分、平城宮跡にほど近い「もりた歯科クリニック」は、2009年の開業から一貫して、地域に根差した歯科診療を続けている。大きな特徴は、障害者歯科。両親の影響で子どもの頃からボランティアなどに携わってきた森田剛敏(もりた・たけとし)院長は、自身の使命として障害のある患者を積極的に受け入れてきた。めざすのは、出会った患者との一生涯の付き合い。そのために、それぞれの患者の個性を尊重しながらじっくりと向き合い、家族の思いにも寄り添う。「一人でできないことは多い。周囲の支えのおかげ」と振り返る森田院長に、障害者歯科の道を選んだ経緯や診療で大切にしていること、スタッフへの思い、今後の展望などを聞いた。
(取材日2024年9月11日/更新日2025年11月12日)
両親により培われた感覚と、仲間の支えがあるからこそ
ご開業前にさまざまな経験を積まれたそうですね。

大学を卒業する時から「いずれは開業」が念頭にあったものの、今後何十年も歯科医師として仕事をしていく中で、まずは大学に残ってできる勉強をしたいと考えたんです。障害者歯科の講義は大学で受けていたのですが、より深く知りたいと大阪大学歯学部附属病院の障害者歯科治療部に進みました。当初は3年の予定でしたがまだ足りないと感じ、5年かけてさまざまな障害のある方と関わりました。その後、宝塚で開業していた医局の先輩のもとへ。歯科医院の運営を継続するためには、一般診療も行わなければならないので、障害のある方への診療とどう両立させていくのか、施設面での工夫なども学びました。スキルアップのために他の歯科医院でも研鑚を積み、地元である奈良市で開業したのが2009年です。
障害者歯科に取り組むのはなぜでしょうか?
小学2年生の頃からボーイスカウトに所属してきたことが理由の一つでしょうか。福祉施設でのクリスマスパーティーなどで交流していたので、障害のある方を身近な存在だと感じていました。思えば、過去に民生委員や地域のサークルなどに参加している母の影響も大きいかもしれません。ボーイスカウトに入ったのは両親の勧めでしたが、無理強いすることなく、サッカーの部活動や他の習い事も自由にさせてもらえたので、長く続けてこられたのだと思います。ごみ拾いや募金の呼びかけなどをしてきたことで、ボランティアと呼ばれる活動が当たり前の感覚として培われました。障害者歯科も、地域社会に貢献できることの一つだったのかもしれませんね。
先ほど一般歯科との両立のお話がありましたが、実際に開業してみて感じたことはありますか?

患者さんのこだわりが強かったり、治療に入るまでに普通よりも時間がかかったりと、一筋縄では行かないのが障害者歯科です。ただ、開業した以上は経営のことも考えなければならず、障害のある方をじっくり診てあげたい、良い治療をしてあげたいという気持ちとのジレンマも。それゆえに、並行して一般歯科もしっかりと行える診療体制をつくらなければいけませんでした。その上、障害のある患者さんを診るのも私一人では難しいのです。大学の同級生や医局の後輩など、現在は3人の歯科医師が非常勤として一般歯科、障害者歯科、さらに訪問診療を手伝ってくれています。また、治療が受けられるようになるまでのトレーニングではスタッフが頼りです。当院で対応しきれない場合は他院へ紹介もしますが、知識がなければ橋渡しもできず、さまざまな先生の手を借りながら一歩ずつ進んでいるという感覚です。
患者や保護者の思いに寄り添い、一生涯の付き合いを
障害のある方を受け入れるために、院内にも工夫がたくさんありそうですね。

新型コロナウイルス感染症の流行で変更した所もありますが、マンションの1階という限られたスペースの中で、車いすの利用者や一般の患者さん、さらにスタッフも使いやすいよう配慮しています。院内はすべてバリアフリーで、凹凸があると通りにくいので通路が一直線になるよう意識しました。加えて、患者さんやスタッフのプライバシー確保なども考え、壁の高さを細かく調整。トイレ内で車いすが回転できる広さを確保した分、歯磨きなどに使っていただく洗面台は別途待合スペース横に設けています。また、4台あるチェアのうちメインで診療に使う椅子は、開業前に修行をさせてもらった先輩の歯科医院での経験をヒントに特注したもの。診療中にどうしても動いてしまう方の体動コントロールがしやすい造りです。
診療する中で大切にされていることは?
障害の有無に関わらず、ご縁が重なって患者さんの人生に携わることになったのであれば、できる限り長く診続けたいというのが、開業から現在まで変わらない一番の思いです。障害のある方を連れて来られる保護者の方も、患者さんの成長とともにご高齢になられます。ご自身に何かあった時どうするべきかと悩んでいる方はとても多く、その不安にも寄り添い、患者さんと一生涯のお付き合いができるようにしたいのです。
一生涯のお付き合いは、訪問歯科診療をされていることにもつながるのでしょうか?

そうですね。かかりつけ医である限り、今は元気な方が通院できなくなった時にも診ていきたい。「もういらない」と言われるまでは診療を続けたいという願いが、私の一つの軸です。半径16km以内が訪問歯科診療の対象になります。また、訪問している少し遠方の障害者入所施設から、利用者さんを当院まで連れて来ていただくこともあります。時間の都合もあり一度に数人ではありますが、治療が必要な方を指名して、その日の体調や気分などについて職員の方とやりとりしながら連れて来てもらいます。こういった診療も続けていきたいです。
医療からあふれてしまう人をつくりたくない
障害のある患者さんを受け入れる上で、スタッフさんはどのような役割を担っていますか?

訪問診療も含めると、当院では患者さんの約3割が障害や認知症などのある方です。こういった方の場合は、歯科医院の空間や機器に慣れるなど、治療に入るまでにいくつかのトレーニングが必要なこともありますし、通院に不安を感じるご家族へのサポートも欠かせません。このため、歯科衛生士をはじめアシスタント、受付などのスタッフがそれぞれの立場で、患者さんやご家族と丁寧に接してくれています。歯科医師には言いにくくても、スタッフには本音で話せることもあるでしょう。実際の治療やメンテナンス、また気持ちの面でも、歯科医師と患者さんの間に入り橋渡しをしてくれます。多くの事情や悩みを抱える患者さんとご家族を受け入れるためには、スタッフの力が絶対に必要です。
スタッフさんは専門的な経験や勉強をされているのですか?
障害者歯科というと、特殊なことのように感じるかもしれません。ですが、人にはそれぞれキャラクターや個性があり、普段の人間関係でもそれを踏まえてコミュニケーションを取りますよね。つい自分の心に設けてしまう「障害」というバリアを外し個性として受け止めれば、案外とうまくいくことは多いんです。実際、当院の歯科衛生士の1人は学生時代のアルバイトから入ったので、障害のある方と一般の方が一緒になる環境を特別だと思わず受け入れてきたようです。また他のスタッフも障害者医療の経験はありません。もちろん、戸惑うことはその都度サポートしますし、2ヵ月に1回程度は院内勉強会で、私の思いや各スタッフが直面する課題などを率直に話し合います。気さくに話ができる雰囲気は大事にしていますね。また、院外での勉強や障害者歯科に関する専門性の向上についても、積極的にチャレンジしスキルアップできるようサポートしています。
今後の展望をお聞かせください。

「患者さんに健康になってほしい」というのは医療人に本来共通する願いだと思いますが、業務や働き方の効率化を優先すると、医療からあふれてしまう患者さんが出てしまうことも。そんなことがなるべくないように、医療人としての責任を果たしながら、その方の人生における喜びを患者さんやご家族、スタッフと分かち合い、今後も頑張りたいと思います。ただ、私が元気なうちは良いのですが、年齢を重ねて診療ができなくなった時に障害のある患者さんをどうするのか、と考えています。当院で治療ができるようになった方には、他の歯科医院でも治療を受けられるようになってほしいのです。患者さんの意欲に加え、受け入れられる歯科医院や歯科医師を増やすことが奈良県全体の課題でもあると思います。そのために、後進の育成などにも力を入れたいですし、私自身は一日でも長く患者さんの人生にお付き合いできるように健康でいたいですね。
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マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。

