西信 俊宏 理事長、三宅 敬二郎 先生の独自取材記事
在宅診療敬二郎クリニック
(高松市/太田駅)
最終更新日:2025/10/24
「在宅診療敬二郎クリニック」は、24時間365日の支援体制を敷く、「在宅療養支援診療所」だ。2007年の開業以来、およそ20年にわたって、香川県における在宅医療の展開をけん引し続けている。訪問先では医療行為に終始せず、患者本人と、患者に関わるすべての人に寄り添った療養環境を提供。2023年には、先代院長である三宅敬二郎先生に代わり、西信俊宏先生が理事長兼院長に就任した。名誉院長となった三宅先生とともに、患者の人生に向き合う西信理事長。そして患者とその家族が、心から安心できる本物の在宅医療をめざす三宅先生に、さまざまな話を聞いた。
(取材日2025年8月13日)
およそ20年にわたり、香川県の在宅医療に貢献
クリニックの成り立ちについて伺います。

【三宅先生】当院は、私と事務員2人の診療所からスタートしました。総合病院の3代目に生まれ、外科医として30年近く働いていた私は在宅療養支援への参加を機に、この医療を極めたいという想いが強くなり、2007年にその夢をかなえたのです。あれから約20年。当院の常勤スタッフは約20人にまで増え、対応エリアも高松市全域に拡大したことから、2度の移転を経て、今はこの多肥上町に施設を置いています。
【西信理事長】僕はもともと救急の現場にいたのですが、救急搬送に至る前のアプローチを検討する中で、まず総合診療に興味を持ちました。総合病院や大学病院の総合診療科で経験を積み、2022年からは感染症についても勉強する中で、在宅医療という領域の知識が少ないことに気がつきました。在宅医療の勉強をしたいと考えていたタイミングで敬二郎先生と出会い、入職。その1年後となる2023年には、現職を譲り受けました。
こちらのクリニックの特徴を教えてください。
【三宅院長】一つは、チームでの診療体制を構築していることです。当院に在籍する10人の医師は専門性が分かれており、私は外科、西信先生は内科を中心としたプライマリケア、また他にも、形成外科や呼吸器外科の常勤医師がいます。それぞれの視点や経験から患者さんを診られれば、より良い診療方針を考えられるでしょう。もちろん、人によって違いがあってはいけないので、全スタッフが患者さんの状態を理解し、同じクオリティーで診療できるようにと、院内では毎日カンファレンスを実施しています。新規患者さんの受け入れ専門部署となる、地域連携部「うちサポ」を設けている点も当院の特徴です。専門スタッフによるご相談や、訪問診療実施までのサポートは24時間、いつでも受けつけています。さらに、介護や生活のサービスに関しては地域やケアマネジャーとの連携を密にしながら、患者さんが安心して過ごせる療養環境を提供しています。
クリニックを束ねる立場となられた今、西信先生のご感想はいかがですか?

【西信理事長】敬二郎先生がつくり上げてきた仕組みやご家族との関わり方は、衝撃的でした。やっと言葉がわかるくらいのお子さんにも、おじいちゃんやおばあちゃんのことをわかりやすく、しっかりと説明されるんです。患者さんの人生と向き合い、今後の人生の過ごし方を共有する敬二郎先生の姿勢に感銘を受け、在宅医療医は人生の伴走者なのだと思い至りました。患者さんがお亡くなりになった後も伴走を続けられる、それが在宅医療の最大の魅力なのだと思います。奥が深く、難しいからこそ、今は在宅医療に大きなやりがいを感じています。僕が理事長に就任した後も、「個々の患者さんに適した医療を提供する」という開業当初からの姿勢は変わりません。歴史あるこのクリニックで、高松市の在宅医療を担うにはまだまだ経験不足ですが、敬二郎先生に学びながら、さらなるチャレンジを続けていきたいです。
患者とその家族を含めた、総合的なケアを提供
訪問先では、どのようなことができるのでしょうか?

【西信理事長】血液検査や心電図検査、超音波検査の他、在宅酸素療法や人工呼吸器の管理、また褥瘡(床ずれ)などの傷の処置まで幅広く行うことができます。お看取りに関しては、がん患者さんも非がん患者さんも、等しく対応してきました。がんという疾患はさまざまな苦痛を伴いますので、がん患者さんに対する緩和ケアにも力を注いでいます。苦しさを和らげながら、患者さんとご家族の穏やかな時間を手助けすること、さらにご遺族のグリーフケア、心のケアを行うことも、当院の役割です。
【三宅先生】私の根底には、「病気を治す」のではなく、患者さんの苦痛を取り除いてあげたいという想いがあります。若い頃には、痛みの治療と向き合うために大学の反対を押し切って、関東の専門病院で学んだこともありました。思えば緩和ケアに対する関心も、その当時からあったのかもしれません。開業当初から開始した緩和ケアは、これからも当院の一つの柱です。
お二人の、診療のモットーをお聞かせください。
【三宅先生】患者さんと、そのご家族の満足感を大切にすることです。在宅医療は患者さん本人だけでなく、そのご家庭全体を診るものです。ご家族が疲弊しているようでは、良質な医療とは言えません。患者さんを診ながらご家族の変化も見逃さず、必要と判断すれば、訪問先でご家族の診療を行うこともあります。「お家に帰ろう」という言葉をモットーに、私は患者さんとご家族が笑顔になれるような診療を行いたいのです。それこそ、外科医だった頃はご遺族からお手紙をいただくようなことはありませんでした。患者さんがお亡くなりになったとしても、ご遺族と悲しみを分かち合い、癒やし合える関係性を築いていきたいと思います。
西信先生のモットーはいかがですか?

【西信理事長】医師として精一杯生きてきた今、思うのは、医療に最も必要なのは「想像力」だということです。患者さん、そしてご家族は一体何にお困りなのか、今後どのようなことが起こり得るのか、僕たちがどんな提案をすれば、より良い状況へと導けるのか。そんなふうに常に想像力を働かせた上で、その後は実際に行動することを診療のモットーに掲げています。「想像力と行動力」、それこそが医療人として大切にしなければならないものではないでしょうか。
「出会えて良かった」と思える在宅医療を
今後の展望があれば、お聞かせください。

【三宅先生】このクリニックは続いていかなかったとしても、在宅医療というスタイルはこの先何十年も続いてほしい。私は開業当初から、そう願い続けてきました。西信先生は後進の育成や教育にも熱心で、数十年先を見据えながら行動してくださるので、非常に頼りになります。就任当初は悩む場面も多かったようですが、私は安心して、バトンタッチをすることができました。これからも西信先生をはじめとした若い先生方を支えながら、「このクリニックに出会えて良かった」と皆さんに感じていただけるような医療を続けていけたらと思います。
西信先生の展望は?
【西信理事長】敬二郎先生が育ててきた在宅医療を継続していくこと、そのためのシステムや組織づくりをして、このクリニックを安定的に継続・発展させることが僕の役割です。敬二郎先生と同じ想いをスタッフ全員で共有し、高松市の在宅医療に貢献していきたいです。医療の本分である臨床についてもさらに修練を続けながら、地域におけるクリニックの価値や存在感を高めていくことに力を注ぎます。
最後に、読者に伝えたい言葉はありますか?

【三宅先生】私が開業した頃に比べれば、在宅医療にあたるクリニックは増えました。しかし、24時間365日体制で対応できる所は、まだまだ少ないのが現状です。患者さんに適した医療を提供し、患者さんとご家族の安らぎの場をつくる、「本物の在宅医療」が当たり前になることが私の願いです。患者さんもご家族もご遺族も全員診る、心のケアもする。それが当院の在宅医療です。困ったことがあれば、まずは何でも相談してください。
【西信理事長】皆さんが安心して医療を受けられるよう、患者さんと、患者さんを支えるご家族のために力を尽くします。電話でも、訪問でも、手段は問いません。どのようなことでも、不安があればご相談いただきたいと思います。僕たちはお一人お一人の生活に根差した療養環境を、全力でサポートします。

