木ノ本 喜史 院長の独自取材記事
きのもと歯科
(吹田市/豊津駅)
最終更新日:2025/04/08

阪急千里線豊津駅を出て東へ向かうとすぐ左手に見えてくるのが「きのもと歯科」。院長の木ノ本喜史(よしふみ)先生は、大阪大学歯学部附属病院で長年にわたり臨床と教育を担当した根管治療のスペシャリストだ。「好きな臨床にもっと力を入れたい」という思いから2005年に開業。気さくな人柄で、患者とともに歯科医師からも信頼が厚い。定期的なメンテナンスも大事にしており、長く通い続ける患者が多いことも同院の特徴だ。歯科医師の見学も積極的に受け入れ、「誰に見られてもよい診療をしていますよ」と朗らかに笑う先生に、診療に対する考え方や情報発信に力を入れる理由などを聞いた。
(取材日2017年10月5日)
「患者さんを治したい」今日まで変わらない思い
歯科医師を志した理由をお聞かせください。

歯科に関心をもったのは、自宅の近所にあった歯科医院の先生がきっかけです。どちらかといえば気難しい感じの方ではあったのですが、治療する姿を見て「尊敬できる方だな、素晴らしい仕事だな」と子ども心に感じていたんですね。そんなところから歯科医師に憧れを抱き、「どんな症状でも治療できて、患者さんに喜んでもらえるような歯科医師になろう」と思って、歯学部に進みました。これは僕だけのことではなく、歯学部に入ってくる学生は、「研究者になりたい」というよりは「目の前の患者さんを治したい」と思っていることが多いと感じています。
根管治療がご専門とお聞きしました。
はい。大学院では接着歯学を研究していましたが、アメリカ留学をきっかけに歯内療法を学び始めました。留学するまでは歯内療法や歯の根っこの治療、つまり根管治療の専門的な教育を受ける機会はありませんでした。アメリカではいくつかある歯科専門領域の中でも歯内療法の人気が非常に高く、大学院には各大学から志の高い学生が集まってきます。アメリカでは当時すでに歯を抜かない治療が普及しており、高く評価されていたのです。このため僕も、根管治療を最初から世界標準で学ぶことができました。また、アメリカの歯科教育実情を学ぶことも、留学の大きな目的でした。留学先のテキサス州サンアントニオは、アメリカ南部らしいとてもフレンドリーな土地柄。他の研究室へふらっと入ってもウェルカムで迎えてくれて、自由に伸び伸びと学ぶことができましたね。
開業を決意された理由を教えてください。

大学では教育、研究、臨床が3つの柱になりますが、帰国後は研究の時間が限られ、教育と大学病院での診療が中心になっていました。そのうちに「やっぱり臨床が好きだし、もっと患者さんの治療に力を入れたい」という思いが強まり、開業へと気持ちが高まっていきました。ぜひ親しみのある北摂でと場所を探し、開業したのが2005年です。専門的な歯内療法や自由診療を行う歯科医院は、ホテルのようなしゃれたデザインにされているところが多いのですが、僕は子どもやファミリー層も診たいと思っていたので、どちらかというとポップな親しみのある感じにしたかったんですね。ですからあえてオレンジや緑、黄色といったカラフルな色調で、楽しい気持ちになるような院内にしました。冬には待合室に日差しが差し込んで暖かいんですよ。
予防とメンテナンスの重要性を実感
現在の診療内容について教えてください。

院全体では6割の患者さんが治療で、4割の方がメンテナンスで来られています。治療の6割のうち、1割は近所のお子さんで、最近は男の僕よりも女性の先生を希望するお子さんが多いんですよ(笑)。大人の患者さんのうち、他院からの紹介やインターネットで探して受診されるような根管治療の難しい患者さんは、主に僕が担当します。「歯を抜かなければならないと言われたけれど、何とか残して治療できませんか」というご相談が多いですね。歯が残っていて割れていなければ、治る可能性は期待できます。ただし根管治療は歯科用顕微鏡を使った精密治療ですので、1日に診療できる人数は限られます。根管治療を行った患者さんは、かぶせ物まですべて当院で対応しますし、治療した歯は長く使ってほしいのでメンテナンスにも来ていただくようにしています。
治療とともに、メンテナンスにも力を入れているのですね。
大学では非常に難しい症例も多数担当しましたが、開業後20年たった現在も、再発しないように定期的にメンテナンスに来られている方が複数いらっしゃいます。また開業後の患者さんも、メンテナンスに続けて通われる方が増えています。難しい状態の歯を治療した場合でも、きちんと手入れを続けていれば再発はそれほどないと考えています。それを見ていると、歯は悪くならないように予防することがより大事だと思うようになりました。開業して、患者さんと長い時間お付き合いできるようになったからこそ気づいたことですね。また若い頃は、治療の成果は10年も維持できれば十分と思っていましたが、30歳の患者さんで治療して20年たっても50歳。自分が50歳を超えた今、まだまだ歯は抜きたくありません。10年、20年といわず、より長い期間にわたり効果が維持できる診療をしたいですね。
患者さんとお話しする際には、どのようなことを心がけていますか。

患者さんにとって、病院は特殊な場所ですから緊張されています。だから本音をできるだけ話してもらえるように、話しやすい雰囲気を大事にしています。それから、今はさまざまな治療選択肢がありますが、患者さんには「ご自身が納得できる方法を、将来悔いが残らないようによく考えて決めていきましょう」とお伝えしています。特に根管治療には時間がかかりますし、痛みが主な症状であることが多いので、治療内容と併せて痛みが落ち着く過程を詳しく説明するようにしています。患者さんが、治療に対して信用や信頼をもっていないと、なくなるはずの痛みも取れにくくなってしまうのでね。患者さんに信頼してもらえること、そして日頃から治療内容をわかりやすく発信しておくことが大事ですね。
役に立つ診療情報はオープンにして共有したい
歯科医師向けの情報発信にも継続的に取り組まれています。

若い先生を指導するようになった当初、なかなか理解してもらえず、次第に「わかるように教えなければならない」と思うようになりました。また「何を読んで勉強したらいいんですか」と相談されても紹介できる良い本がなかったので、自分で専門書を書いたり編集したりするようになったんですね。最近、5冊目を発行したところですし、以前に出した本もいずれ改訂できるよう常に準備を進めています。また、歯科医師の見学も積極的に受け入れています。大学では学生や若い先生に見せながら診療していたので慣れていますし、逆に誰に見られてもよい診療をしていますよ。週末は、勉強会や講演で全国各地に出かけていますが、特に若い先生にお話しするのは楽しいですね。
先生が、積極的に情報発信や公開を行うのはなぜですか。
僕は、医療はクローズするものではないと考えています。僕が行っている治療法が役に立つものであれば、他の先生にもどんどん真似してもらって広めてほしいのです。歯科では、新たに何かを発見するというよりは、誰かが先に見つけていた知見や方法を学んでいる場合が多いのです。時には30年前に発表された論文が日の目を見ないまま埋もれていたりすることもあるんですね。僕自身、過去の論文を読んで「学生のときにこれを教えてほしかった」と痛感した経験があります。著作や講演、技術指導などを通じて、自分の持っている技術や知識はこれからもオープンに伝えていきたいですね。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

歯科疾患は予防によって発症や進行を防いでいける場合が多いので、メンテナンスの重要性を伝えていきたいですね。もし治療が必要であっても、症状が軽いうちに受診すればより早く治ることが望めます。悪化した根管を治療するのは、いわば“敗戦処理投手”。あの手この手で治療しますが、もっと早い段階で受診してもらえれば、と思うことも少なくありません。ただ、現在診ている患者さんとそのメンテナンスを大事にしているので、新規の患者さんを診ることが物理的に難しくなっています。将来はきのもと歯科がいいという患者さんのためだけの会員制歯科医院のようになるかもしれません。それぞれの患者さんが信頼できる歯科医院を見つけ、治療だけでなくメンテナンスや予防を通じて、長いお付き合いをされると良いと思います。