鷹取 正幸 院長の独自取材記事
医療法人 敬愛舎 たかとり歯科クリニック
(北九州市八幡西区/永犬丸駅)
最終更新日:2024/09/18

永犬丸駅から徒歩10分、高台の住宅街にある「たかとり歯科クリニック」。院長を務めるのは、永犬丸小学校、永犬丸中学校を卒業した、永犬丸育ちの鷹取正幸先生。1991年に開業し、地域の歯科医療に尽力してきた。十数年前に改装したという院内は、ステンドグラスをあしらった診療ユニットの仕切りや、ナラの無垢材で作られた収納ワゴンなど、随所に職人の手仕事が見て取れる。鷹取院長自身もまた、「口下手だから言葉より治療で示したい」と話す職人気質の先生。そんな鷹取院長に、同院の診療方針や大切にしていることなど話を聞いた。
(取材日2024年6月12日)
一つ一つ積み上げ長持ちする治療をめざす
落ち着きのあるすてきなクリニックですね。

ありがとうございます。十数年前に歯科医院を改装したんです。グラバー園近くにある美術館が気に入り、そちらをデザインされた長崎県の設計士さんにお願いしました。ですから、受付のレトロモダンなペンダントライトやステンドグラスをはめ込んだパーティション、診療室と受付を仕切るドアなど、洋館のイメージに仕上がっていますね。他にも、電気のスイッチプレートは有田焼ですし、治療器具を収納するワゴンは、家具職人にオーダーしてナラの無垢材で仕立ててもらいました。待ち時間も患者さんにゆったりと過ごしてほしいという思いと、職人仕事へのリスペクトから、このような院内空間となりました。私自身も職人としての誇りを忘れず、歯科治療に向き合っています。
診療方針についてお聞かせください。
当院は、保険診療を基本としています。自由診療に対応できるスキルも当然持っていますが、働いて保険料を納めている人や、保険料を納めてきた人が、必要な治療をきちんと受けられることが大事だと思うからです。私の親は公務員で、普通の家庭で育ったこともあるかもしれません。保険診療は材料や治療方法などに制限はありますが、その中でも職人としての技術で一つ一つ積み上げる治療していくことにやりがいを感じています。お口の中の治療は患者さんには見えづらく、言い方は悪いですが、手を抜こうと思えば抜けると思うんです。見えづらいところこそ、しっかりと治療することが、歯の長持ちにつながります。それが、私のめざす一つ一つ積み上げる治療です。患者さんには、いつまでも自分の歯で食事ができる喜びを感じていただきたいですね。ここだけを手っ取り早く治療してほしいという突貫工事のような治療は不得意ですので、ご容赦ください。
どのような患者さんが来院されていますか?

患者さんの層としては、小児から高齢の方まで幅広いです。やはりお近くにお住まいの方が多いですが、引っ越しても当院に通い続けてくださる方もいて、北九州市外からもいらっしゃいます。長年通ってくださる患者さんは、メンテナンス目的の方が多いですね。現在小児歯科は、土曜に九州歯科大学病院の西田郁子准教授が、咬合誘導も含め診療。また、火曜には非常勤の柴原由美子先生も診療されています。九州大学歯学部で教鞭を執り、心理学の知見もある先生です。患者さんや先生方とともにクリニックもここまで年月を重ねてこられたことを、うれしく思います。
大学病院の歯科口腔外科や村立診療所を経て開業
先生が歯科医師をめざした理由を伺えますか?

私のことをとてもかわいがってくれた祖母が、自分のためにではなく、人のために生きることの大切さを折にふれて伝えてくれました。将来は人の役に立つ仕事をしなくてはというのが、幼少期から刷り込まれていたんだと思います。医療分野をめざして勉強に励みました。先に申しましたように、公務員の家庭ということもあって国立に志望校を絞り、九州大学歯学部に入学しました。入学後も歯科医師になってからも、果たして自分は歯科医師に向いているのか自問自答しながら、進んできたように思います。さまざまな患者さんとの関わりの中で、やると決めたらとことん突き詰めて上をめざすという自分の性格が、この仕事には合っていると思えるようになりました。
こちらで開業されるまでのご経歴を教えてください。
九州大学を卒業後、実家に近い産業医科大学病院の歯科・口腔外科に入局し、2年間勤務しました。アカデミックな職場は自分にはあまり合わないなと感じていたところ、大学時代の先輩に声をかけられ、飯塚市内にある医療法人に移りました。1年目は小児歯科を任され、2年目は同医療法人が歯科医師を派遣していた、小石原村立歯科診療所(現・小石原歯科診療所)へ赴任しました。そこでは一人ですべての歯科診療を担い、たいへん勉強になりましたね。患者さんは高齢の方が大半で、義歯を多く作製させていただきました。場数をたくさん踏んできましたので、義歯は今も得意な治療の一つです。県境に位置する小さな診療所だったのですが、1年間の勤務のうちに、朝倉から患者さんにお越しいただいたり、県境を越えて大分県の患者さんも見えたりするようになりました。
4年間の勤務医を経て、1991年に開業されたんですね。

もともと私は独立するつもりはなく、このまま医療法人で働き続けられたらと思っていたんですよ。ですが、診療所を経験したことで、一人でやっていく道もあるのかなと考えるようになりました。この場所は、最初は私の親が見つけたんです。地元に戻ってきてほしかったんでしょうね。帰省した折に見に行ったところ、ここで開業するイメージが明確に湧いてきたんです。その足で所有者さんのもとを訪れ、土地を売ってもらえないかお願いしたところ、承諾してくださったんです。これも運命だと思い、開業に至りました。
当たり前のことを当たり前に。言葉より治療で示す
患者さんと接する時に心がけているのはどんなことでしょう?

当たり前のことを当たり前にすることですね。私は口下手で、説明があまりうまくないんです。その分、治療で示したいと思っています。患者さんには、すぐには伝わらないかもしれませんが、時間がたつほどに、一つ一つ積み上げて長持ちをめざす当院の治療をご理解いただけると信じています。それともう一つは、治療を「してあげる」のではなく、「させていただく」という気持ちで、患者さんに接することですね。「患者」ではなく「患者さん」。「患者さま」は行きすぎかな。高齢の方でも年若い方でも、敬意を持ち、対等な関係で治療を行いたいと考えています。スタッフもまた、同様の気持ちで接していると思います。こちらが何も言わずとも、自然とそうした姿勢が身に着いているスタッフがそろっていて、私も非常に助けられています。当院は、歯科衛生士を慕って通ってくださる患者さんも多いですね。
鷹取先生は、長年勉強会も主催されているとか。
ええ、当院で開院当初より、勉強会を開催しています。最初は、前職で一緒に働いていた歯科医師が中心メンバーで、その後は勉強熱心な先生を誘うなどして、月1回のペースで続けています。意見交換をしたり、症例を紹介しあったり、いろいろな角度からの視点が得られて、毎回学びが多いですね。他にも、九州大学出身で北九州市を拠点とする歯科医師同士の勉強会にも定期的に参加し、研鑽を積んでいます。
忙しい日々の中で、リラックス法はありますか?

仕事が休みの日には、山登りをしています。登っている間は本当につらくて、どうしてこんなことしているんだろうって、毎回思うんですよ。けれど、それが無になれていいようで、心が浄化されます。おかげで開業以来、体調不良で休診にしたことは一度もありません。
最後に、ドクターズファイルの読者へメッセージをお願いします。
歯科治療はパラダイムシフトが起きているといわれ、新しい治療器具や診断ツールが次々と出てきています。ただ、どんなに便利な機械が登場しても、治療の基本は変わらず、手仕事だと捉えています。一人ひとりの患者さんに向き合い、自分の持てるものを全部出すことが、私のモットーです。すべてを出すから、自分は生かされているという思いで診療しています。どんな仕事もそうだと思いますが、経験を積むほどにいろいろなものが見えてくるものです。気になるところは妥協せずしっかりと治療したいですし、急患を受け入れるのもクリニックの務めです。そのため、お待たせすることもあるかと思いますが、当院の診療スタンスをご理解いただければ幸いです。