出井 庸喜 院長の独自取材記事
でい歯科医院
(香芝市/五位堂駅)
最終更新日:2024/12/13
近鉄大阪線の五位堂駅よりバスで約3分の場所にある「でい歯科医院」。「この仕事が好き」という熱い思いのもと勉強を続ける出井庸喜(のぶよし)院長が、2003年に開業したクリニックだ。出井院長が特に注力しているのが、子どもの成長・発育のサポート。舌と全身の関わりについて学んだことで熱心に取り組み始めたのだといい、自身の子どもに実践した経験も踏まえ保護者への啓発に力を入れている。「歯科と医科の垣根を越えた診療を行う場所」をつくることを目標に掲げる出井院長に、診療にかける思いや今後の展望などを聞いた。
(取材日2024年11月20日)
舌の勉強をきっかけに、子どもの成長・発育に着目
まずは歯科医師をめざしたきっかけからお聞かせください。
最初に意識したのは高校生の頃です。遊んでいて根元から歯が折れてしまい、神経を取らなければいけなくなってしまったんです。初めて歯科の治療にふれた驚きや感動と同時に、不満や疑問に感じることもありました。もともと人の役に立てる仕事をしたいと考えていたこともあり、歯科への興味が高まったのでこの道を選択したのですが、結果として自分に合っていたと感じています。痛みに対処するだけの対症療法ではなく、削って作ってきれいに整えていくという過程に携われることや、口の中から全身の健康にタッチできること。特に口と全身とのつながりが指摘されるようになったのは最近なので、まだまだ発展していく可能性のある分野だという点に、わくわくします。開業して老若男女さまざまな患者さんとお会いする中で問題に直面し、勉強を重ねることで視野が広がっていったと感じています。
注力されている診療は何ですか?
力を入れているのは、子どもの成長・発育のサポートです。熱心に取り組むようになったきっかけは「舌」。開業前、大学病院で顎関節やインプラント治療などを専門に勉強していたのですが、腰痛や耳鳴りを主訴に来られる方が多い、少し変わった講座に在籍していました。「歯科なのに腰痛?」と思いながらも、教授の指示どおり治療を行います。しかし、患者さんから「舌が当たるのが気になる」と指摘されて……。今でこそ口腔機能低下症などの名前がつき、全身の健康と舌との関連がいわれるようになりましたが、当時は舌のことを習う機会がなく、患者さんの訴えに共感できなかったんです。開業後、先輩に声をかけてもらい参加したのが、舌についての勉強会でした。そこで舌のポジションや使い方、それが噛み合わせや口腔機能の成長にどう影響するのかなど、ずっと気になっていたことを学べました。舌が成長に大きく関わることを知り、驚きましたね。
大学病院時代に感じていた疑問が解消されたのですね。それからの取り組みを教えてください。
すぐに当院で舌のトレーニングを取り入れました。これをきっかけに、骨格や姿勢、呼吸などを意識した機能的な面を視野に入れた治療を追求するようになりました。舌の使い方や姿勢を整えるなどの習慣を子どものうちに正しく身につけておけば、大人になってからも良い影響が続くはずですから。熱心に子どもの成長・発育のサポートに取り組んでいるのは、そのためですね。私自身、子どもが4人いるのですが、親として経験したこともお伝えしています。
めざすのは、歯科と医科の垣根を越えた診療
子どもの成長発育に注力されていることに関連して、絵本も作成されたそうですね。
開業して少したった頃、歯科医師はある意味「井の中の蛙」だと感じて。一般的な人の意見や価値観などにふれず考えが偏ってしまうことを避けるために、経営塾に参加してみたんです。そこで「仕事に対してどんなミッションを持って取り組んでいるか」と問われて。さらに別の起業家育成塾では「社会に貢献するために自分ができることは何か」というテーマを与えられました。どちらの質問もこれまで考えたことがなかったですし、今の仕事と別の視点でもいいと言われたのですが、改めて「歯科が好きだ」「子どもの呼吸や姿勢の大切さをもっと知ってもらうべきだ」と気づきました。子どもの口腔機能発達不全の一つである「お口ポカン」は当時まだ広まっていなかったので、細かい方法を教えるのではなく、保護者に「何となく大事らしい」と伝えられればと思い、絵本という形を選びました。
絵本のタイトルにはどのような思いを込められたのでしょうか。
絵本のタイトルは「NOBODA(のぼだ)せんせい」。これは「NO BORDER」を意味し、子どもに関わるすべての人が歯科や医科の垣根を越えて応援できる世界、「ノーボーダーランド」を描いています。絵本のテーマにしている呼吸の問題は、本来耳鼻咽喉科の医師との連携が必要です。歯科医師は歯列矯正はできますが、口腔以外の粘膜には触れませんから。他にも、姿勢や体のゆがみ、噛み合わせとのつながりなど、口だけではなく子どもの体全体を診てあげられる場所があってもいいのではないかと考えました。
診療科の垣根なく相談ができる場所ということでしょうか。
そうですね。何となく体調が悪い状態が続いているけれど、どこに相談すればよいかわからない子どもは実は多くいます。しかし、人に言うほどでもないからと症状を放置したままでは「調子の悪い大人」になってしまうかもしれません。虫歯だけなら歯科医師が治療すれば済みますが、姿勢の悪さが関連していたり、鼻の通りが悪いことで睡眠に影響が出ていたりするなら、別のアプローチが必要ですよね。根本的に改善をめざせる可能性があるなら、諦めてほしくないんです。絵本の世界観そのままは難しいものの、歯科と医科が一緒になって子どもの成長を見守れる場所をつくることが私自身の夢であり、たくさんの人を巻き込んでいつか実現したいと思っています。
子どものうちからの習慣づくりが親から子へのギフトに
先ほど大学病院で学ばれたことのお話がありました。現在の診療とのつながりを教えてください。
子どもは成長途中なので、習慣づけを小さい頃から行っていくことが大切です。一方で、大人はすでに成長がストップしているところで崩れてしまった状態。それを立て直すことを歯科の用語で「咬合再構成」といいますが、ガタガタの歯並びやかぶせ物がずれているなど「歯だけの問題」の解決を図ることは、大学病院で学んだインプラント治療や矯正などの専門的な分野での知識が生かされています。さらに子どもと同じように呼吸や姿勢など機能的なアプローチをプラスすることで、不快な症状を減らすことにつなげられるのではと考え、開業後も勉強を続けてきました。ただ、大人は骨格がすでにできあがっている上に、これまで続けてきた習慣や姿勢の悪さなどを変えることは子ども以上に難しいものです。そのため、これまでの経験を踏まえた他のアプローチを検討しているところです。
今後の展望をお聞かせください。
子どもの成長・発育のサポートにもっと力を入れて取り組みたいですし、保護者にも広く知らせたいと考えています。加えて、先ほどお話ししたような困っている大人の選択肢も増やしていきたいですね。例えば、顎関節症は食いしばりによって引き起こされることが多く、大半はマウスピースによる治療を行います。中にはマウスピースだけでは改善が図れないケースもあり、全身のバランスの重要性を実感しています。より説得力のある治療ができるよう、まだまだ勉強を続けていきたいですね。また、当院の休診日には県内の障害者施設での診療を行っています。障害のある方を診られる施設を増やすことが県内の課題であり、一緒に勉強している先輩歯科医師らとともに奈良県全体を盛り上げていくことも今後の目標です。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
子どもの頃から正しい舌の使い方や呼吸法を身につけること、そのために定期的に歯科医院へ通う習慣をつけることは、親から子への「最高のギフト」だと思っています。金銭面や身体的な負担が少なく済むことに加え、大人になってからではアプローチできないケースもありますから。将来の選択肢を増やすために塾へ通わせるのと同じように、早い段階から口腔内のコントロールを図ることが、子どもたちの将来の健康につながると知っていただきたいです。そして、全身を意識した診療を行っている当院を選んでいただければうれしいです。
※歯科分野の記事に関しては、歯科技工士法に基づき記事の作成・情報提供をしております。
マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。