中條 貴博 院長の独自取材記事
にこにこ歯科
(綾歌郡綾川町/陶駅)
最終更新日:2024/06/03

「患者さんには、健康に長生きしてほしい。ただそれだけなんです」。綾川町陶(すえ)で2006年に開業した「にこにこ歯科」の中條貴博院長は、熱を込めて何度もそう話す。保険診療と自由診療の狭間で葛藤しながらも、約20年間、一途に患者の健康を願い地域医療に従事してきた。訪れるすべての患者を満足させようと、現在、同院が推進しているのは「1口腔1単位の治療」。その先に思い描く未来とは? 中條院長の雄弁な語り口からは、この時代、この地域において真に必要な歯科医療とは何かをじっくりと考えさせられた。
(取材日2024年3月21日)
早くから開業医を志し、多方面で研鑽
歯科医師をめざした、きっかけがあると伺いました。

高校生の頃に家族で海外旅行をしていたところ、家族の一人が突然、歯の痛みを訴えだしたんです。右往左往する中、ちょうど同じツアーの参加者に歯科医師の方がいらっしゃって、即座に様子を見てくださいました。その姿が格好良くて、まぶしくて。歯科医師をめざしたのは、そんなきっかけからですね。進学先として選んだのは、奥羽大学の歯学部です。四国の香川県育ちですから、なかなか行く機会がない東日本へ行ってみたかったんです(笑)。大学のある福島県で暮らしてみると、四国とはまったく気候が違うので驚きましたよ。卒業した後は地元へ帰って、香川医科大学医学部附属病院(現・香川大学医学部附属病院)の歯科口腔外科に入局しました。
歯科口腔外科を選ばれたのは、なぜですか?
歯科医療においても、抜歯などの外科処置が発生するからです。外科処置は局所麻酔を伴いますから、全身管理も理解しておく必要があると考えて、同じ病院内の麻酔科にも勉強に行かせていただきました。約半年の間に数多くの全身麻酔・管理を経験し、以後は香川県内の歯科医院に勤務していました。規模が大きく日曜診療も行っていたことと、訪問診療にも対応していたことがそちらを選んだ理由です。この歯科医院には多くの歯科医師が勤務していたんですが、当時の体制では、日曜に勤務する歯科医師は1人だけ。つまり、開業後のシミュレーションができたんです。勤務医時代は週に6日働いて、そのうち2日間は訪問診療に対応していました。今でこそ一般化した歯科医院の訪問診療も、あの頃は数が少なかったので、高齢化する社会での開業を見据えて勉強したいと考えたんですね。訪問診療先では、入れ歯の治療と口腔ケアを中心に経験を積みました。
一般歯科の診療に取り組まれたのですね。

そうなんです。僕は歯科口腔外科の出身で、一般歯科の診療経験が少ない。歯科医師も担当制だったので、当初は訪問診療へ行っている間に、患者さんが他の歯科医師を指名するようになることもありました。では、どうやって周囲に追いつくか? 勉強するしかありません。先輩歯科医師が診療する様子を見学しながら、自分なりの理想像を導き出し、そしてその理想像を実現するために試行錯誤をしたわけです。開業する決心を固めたのは、32歳の頃だったと思います。この場所を選んだ理由は、もともと父が営む学習塾があり、敷地も広かったからです。全身管理も訪問診療も、入れ歯の治療も口腔ケアもしっかりと経験を積んでいましたので、開業する段階になっても不安は少なかったです。
18年目の今、追求するのは「1口腔1単位の治療」
入れ歯の治療は、現在も得意分野とされています。

僕が勤務医だった頃、香川県ではインプラント治療もメジャーではなく、歯を抜いたら入れ歯を入れるしかありませんでした。特に総入れ歯などはお口の中で動きますから、装着後にしっかり噛めるかどうかは、歯科医師の実力次第。歯科医師になりたての頃は、患者さんから「入れ歯に顎を合わせなければいけないのか」「そうではなくて、私の顎に入れ歯を合わせるべきだろう」と言われたこともあります。先輩に指導を頼んだり、講習会に行ったりしながら勉強を続けて、今では長期間にわたって快適な入れ歯をめざせるようになりました。加えて、歯を失った場合の新たな選択肢となるインプラント治療にも積極的に対応しています。咬合力(噛む力)と口腔内細菌、この2つをコントロールできなければ、歯は長持ちしません。自由診療にはなりますが、入れ歯よりも高い咬合力が期待できることから、当院ではインプラント治療をお勧めするケースが増えています。
開業当時よりも、自由診療が多くなっているのでしょうか?
たくさんの講習会に通う中で、本当に患者さんの歯のため、体のためになる治療を考え抜いていくと、保険の治療は最低限の治療にしかならないことに気がつきました。歯がなくなったとしても、残っている歯の長期保存が望める治療があれば、僕はそちらを提供したいと思うんです。患者さんにとって最善の歯科医療を追求するため、現在は「1口腔1単位」という考え方に基づいた歯科治療を進めています。一部の歯だけを治療するのではなく、お口の中を全体的に診て、全顎的に治療を施すということです。自由診療は、そのための手段となります。約20年前の開業当時はほぼ100%、保険診療でしたが、今は噛み合わせの治療もインプラント治療も含めた、1口腔1単位の治療を選ばれる患者さんがほとんどです。特に、この綾川町というエリアはそういう治療を必要とする患者さんが多いと感じます。
患者さんの意識も変わってきていると。

もちろん、今でも「インプラントはいらない。入れ歯がいい」とおっしゃるような患者さんは来られます。そういう方に1口腔1単位の治療をご説明しても、なかなか受け入れてはもらえません。しかし、当院がご提供したいのは早くて手軽なファストフードではなく、時間もお金もかかるけれど、相応の満足感が得られるフルコースのフランス料理です。これからはそういう歯科医院のイメージづくりも大切だと考えて、ちょうど昨年、院内のリフォームを実施しました。明るく生まれ変わった院内には、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を設置した診療室やカウンセリングルーム、2種類の画像診断装置などをそろえています。さらに、年齢の上がってきた患者さんは車いすも利用されますから、スリッパの使用を中止して、土足で入室できるバリアフリー設計に変更しました。
クオリティーオブライフの向上、そして健康寿命延伸へ
1口腔1単位の治療を行った先の、先生の目標とは?

医科の医師は、患者さんに延命処置を施すことができます。対する歯科医師ができること、それは患者さんのクオリティーオブライフの向上です。誰だって、食べたいものをありのまま最後まで食べたいですよね。僕自身もそうですし、患者さんにもそうなってもらいたいと思います。1口腔1単位の治療を行うことで、患者さんが食形態などを制限されない食事が取れるようになれば、それが生活の質の向上につながると考えています。例えば入れ歯を入れるのが嫌で、長年歯がない状態で過ごしてきたご高齢の方が、インプラント治療を選択されたとしましょう。そういう方が、この先一生食べられないと思っていた大好物をもう一度食べて、感動して、生活の質が向上したと思えたなら、歯科医師としてこの社会に貢献できたといえるかもしれません。
制限のない食事の摂取は、健康寿命の延伸にもつながるのでは?
そういうことです。日本人の平均寿命は、男性が81歳、女性が87歳。けれども、日常生活が制限されない健康寿命との間には、男性で約9年、女性で約12年の開きがあります。僕たち医療人は、この不健康寿命をいかに短くして、いかに健康寿命を延ばせるかを考えなければなりません。僕のモットーは、「基本に忠実にすること」。何事もそうだと思いますが、基本がわかっていなければ応用はできません。基本どおり、マニュアルどおりのことを一つ一つ丁寧に実践することが、患者さんの健康寿命延伸にもつながると信じています。
最後に、読者へのメッセージをいただけますか。

「片側で噛めるから、もう片方の治療はやらなくていい」と言われる方に、お尋ねしたいことがあります。いざ不健康寿命を迎えた時に、今まで噛めていたところで噛めなくなったらどうしますか? 寝たきりの状態になってから、歯の治療を進めるのは難しいことです。噛めなくなったら、食事ができなくなったら、生活の質は低下します。僕がお伝えしたいのは、健康なうちに、左右両方の歯で噛めるようにしていただきたいということです。地域の皆さんが健康な状態で長生きをされること、それが僕の一番の願いです。
自由診療費用の目安
自由診療とはインプラント治療/35万円~、マウスピース型装置を用いた矯正/フルパッケージ77万円〜
※歯科分野の記事に関しては、歯科技工士法に基づき記事の作成・情報提供をしております。
マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。