甲斐 康敏 院長の独自取材記事
かい歯科医院
(高槻市/高槻駅)
最終更新日:2021/10/12

高槻駅からバスで15分。市街中心地を少し離れた住宅街の中、大きな通りに面した角地に立つのが「かい歯科医院」だ。同院の最大の特徴は、一般の外来歯科と併行して訪問歯科診療に力を入れていること。病気や寝たきりになって歯科に通えない高齢者たちにとって、在宅で歯科治療や口腔ケアが受けられることは、生活の中できわめて重要なポイントに違いない。「私は生まれも育ちも高槻で、やはり地域への思いが鍵ではないかと感じます」と、優しい穏やかな口調で語るのは、院長を務める甲斐康敏先生。外来での診療時間の合間を縫って、日々忙しく、訪問診療に奔走する。そんな甲斐院長に、訪問歯科診療を取り巻く状況や医療スタンス、高槻市歯科医師での取り組みなど、じっくり聞いてみた。
(取材日2018年1月12日)
かかりつけ歯科医院にこそ訪問してもらいたい
こちらでは訪問歯科診療に力を入れておられますね。

訪問歯科診療は、寝たきりに近い方など、外来で歯科に通えない患者さんを訪問させていただいて行う歯科診療です。ただ、院内の治療とは違って安全確保のため無理をしないことが条件で、行える診療の幅は限られていますので、ある程度の妥協は必要です。近年は病院ではなく在宅での医療を国が推奨し、最終的にはお宅での看取りまでという方針がありますから、それに準じて歯科のほうでも訪問診療が増えるのではないでしょうか。当院では開業時から訪問歯科診療を行っていますが、別に時代を先取りをしようという気持ちがあったわけではなく、もともと私が勤めていたすぐ近くの大きな病院で訪問歯科をやっていて、開業後もそのニーズを受け継いでいる形です。勤務で7年、開業して15年ですから、もう22年間も続けていることになりますね。
訪問歯科を受ける際に気を付けることは何ですか?
在宅での歯科診療に関しては、かかりつけの先生が訪問歯科に対応しているかどうか知らないという方が多いようです。それでかかりつけの先生を素通りし、訪問歯科診療を専門にしている歯科に頼んでいるようですね。それはそれで決して間違いではありませんが、やはり長く付き合っていて事情のわかっている先生に来てもらえるなら、それに越したことはないでしょう。「たぶん来てもらえないだろう」と勝手な思い込みをせず、一度尋ねてみられたらと思います。あと、歯科診療だけではなくて口腔ケアが大切で、それに関しては歯科衛生士の仕事です。これからは口腔ケアをする訪問歯科衛生士の活躍も非常に重要ですね。
院長ご自身の訪問歯科に対する考えを教えてください。

歯科に通えない方を放ったらかしにすることは、やはり良くないと思います。ご自身で動けない方に関してはこちらから出向き、できるだけのことをしてあげるのが良いと思います。もちろん、できないことも多いんですよ。しかし、できることが少しでもあれば、それをして差し上げるのが、理想だと思っております。訪問歯科診療は、まさに患者さんと歯科医師が人として接する医療です。とことんまで治療を追求することはできませんが、それを補うのは患者さんとの親密なコミュニケーションですね。かかりつけの先生が来てくれて、安心して任せられる。そう思っていただきながら、ずっと関わっていられることは、私にとってもたいへん幸せなことです。
地域連携・多職種連携が今後の鍵
院長は高槻市歯科医師会でも活動されていますね。

はい。現在、訪問歯科関連の担当として取り組みの真っ最中です。患者さんが安心して診療を受けられるためには、やはりかかりつけの先生に訪問へ行っていただくのが理想です。それが難しいようであれば歯科医師会が受け皿になり、近所で訪問歯科を行っている先生に行っていただくようにしています。こうしたシステム自体は以前からあるのですが、まだまだ周知し切れていない部分があり、それは今後の課題ですね。地域連携・多職種連携というのは国を挙げてスタートしているテーマで、歯のことに限らず、その方の健康管理に大きく関わってきます。しっかりと仕上がったシステムに改善を重ねていけば、患者さんも先生方も、より安心して医療に取り組むことができると期待して励んでいます。
現在、訪問歯科を取り巻く環境はどう変化していますか?
今、医療システム自体がどんどん変わっていく時代で、先ほど言った地域連携・多職種連携に向かっている最中です。その中でキーワードとなるのは、やはり、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師・かかりつけ歯科ですね。そこにケアマネジャーや栄養士など、リハビリテーションの先生方との連携も加わり、皆さんが安心して安全な医療を受けられるためのシステムづくりが実現しようとしています。まだ手探りの部分もありますが、それを患者さんにうまく利用していただけるためにも、歯科の場合はかかりつけの歯科医師がそのまま訪問診療を行うというスタンスが、これからは重要だと思います。
歯科医師にとって、外来診療と訪問診療の両立は大変でしょうか?

そうですね。私自身は最初からずっとこれでやってきているので、きついという感覚はありませんが、新たに始めようとして、なかなか重い腰が上がらない先生方もいらっしゃるかもしれません。ただ、訪問歯科が大切だということは先生方もわかってらっしゃって、意欲のある先生はすごく多いんです。ですから、その後押しができるよう、歯科医師会でどうにか良いシステムをつくり、そこに乗っかっていただけるようになればと思います。今、医科はもちろんですが、訪問薬剤師も増えています。歯科のほうでも、勇気を出して訪問診療を始めようという先生も増えてくると思います。
地域への思いが未来を開く
院長が歯科医師になったきっかけを教えてください。

小学生の頃、「大人になったら歯医者になりたい」という仲の良い友達がいたんです。そのうち彼は引っ越してしまったのですが、私が医科か歯科か選ぶ段になってその記憶がよみがえり、「歯科に進めば、あいつに会えるかもしれない」というのが頭をよぎったんですね。それが一つの引き金となって、神奈川歯科大学に進学しました。大学では、歯科が医科より決して劣るわけではなく、医科の中の一つとして大切な科であることを学びました。勉強するほどにその意義や楽しさを実感し、どんどんのめり込んでいったというのが正直なところです。
診療に際して気を付けていることは何ですか?
私自身、すごく怖がりで、子どもの頃は歯医者が大嫌いだったんですよ。歯を抜かれるのが嫌で逃げ回り、治療させまいとして暴れたこともありました(笑)。そのときの感情や痛みがよくわかるので、子どもの患者さんには怖い思い、痛い思いをさせないよう、接し方にはとても気を使っています。また、高度な技術を用いた審美的な治療などに特化した方向に向かうのではなく、医療の中の一つとして歯科を捉えていければと考えています。お医者さまは歯科のことはそんなに詳しくないでしょうし、逆に私たち歯科医師は全身管理をあらためて勉強しなくてはなりません。今、摂食嚥下(えんげ)が問題になっていますが、口腔内のことでもあり、お医者さまのほうでどうしても診きれない部分は歯科の新たな役割だと思います。
最後に、読者へ向けたメッセージをお聞かせください。

長期間にわたって診療を受けられた歯科があるのなら、訪問歯科診療を行っているかどうか、まずは一言聞いてみてください。歯科医師会でも訪問歯科を紹介していただけますし、訪問診療専門の先生にご相談いただくのも良いでしょう。幸運なことに、高槻市は医科と歯科、薬剤師さんとの連携がすごく密なんですね。全国的にも安心して医療を受けられる街の一つではないかと思います。高槻はいい街です。地元の大切さを親から子へ伝えていけば、おのずと地域密着や地域愛が育ち、それが子どもたちの未来にとって大きな支えになっていくのではないでしょうか。