金子 卓 院長の独自取材記事
つるみ小磯診療所
(横浜市鶴見区/弁天橋駅)
最終更新日:2025/10/14
JR鶴見線・弁天橋駅から徒歩8分、潮風大通り近くの住宅地に「つるみ小磯診療所」がある。50年以上続いた稲森医院の診療を2024年に引き継ぎ、新たなスタートを切った同院。金子卓院長は横浜市立大学附属市民総合医療センターで20年以上消化器内科の医師として活躍後、40代半ばで地域医療への転身を決意した。「患者さんといろいろな話ができ、その人のことをより深く知れるようになった」と、大学病院時代とは異なる診療の魅力を語る。内科専門でありながら「足の痛みなど内科の範囲ではなさそうなものも含め、どんな症状もまず診る」という幅広い対応と、訪問診療への積極的な取り組みで地域住民の健康を支える。「こんなこと聞いちゃいけないんじゃないか、と思わなくていい」という金子院長に、地域のかかりつけ医としての思いを聞いた。
(取材日2025年9月17日)
大学病院から地域医療へ、新たな挑戦
開業に至るまでの経緯をお聞かせください。

横浜市立大学卒業後、同大学附属市民総合医療センターなどで20年以上、消化器内科の医師として勤務していました。その間、横須賀にある小磯診療所で10年以上非常勤勤務をしていたんです。そこの先生から「鶴見で後継者を探している医院がある」と声をかけていただきました。50年以上地域医療を担ってきた稲森医院のことでした。ちょうど40代半ばになり、医師人生の折り返し点だなと感じていた時期。「同じことを続けるか、新しいフィールドで挑戦するか」を考えていたところに、このお話をいただいたんです。地域のお医者さんとして1人でやってみるのもいいかなと思っていたこともあり、院長就任を決意しました。
なぜ地域医療への転身を決意されたのですか?
大学病院では数ヵ月に1回程度しかお会いしない方もおられましたが、地域のクリニックではもっと頻繁にお会いできます。実際に始めてみると「患者さんといろいろな話ができ、その人のことをより深く知れるようになった」と実感しています。大学病院ではある程度重症化してから来院される方が多いんですが、ここでは日常的な疾患も診ることができる。「こういう疾患って結構多いんだな」という新たな発見もあります。全然知らなかったことを調べる機会も増えて、新しい知識が得られることも楽しいですね。医師として新たな学びがある環境で、患者さん一人ひとりとじっくり向き合える。これが地域医療の魅力だと感じています。
どのような症状の患者さんが来院されていますか?

内科ですから風邪や胃腸炎などの一般的な疾患はもちろん、私の専門である消化器・肝臓疾患も診ています。ただ、地域のクリニックとして「ちょっとした困り事でも気軽に来てほしい」と考えているので、内科の範囲を超えた相談も多いんです。足の痛みや婦人科系の症状などで、「どこに行けばいいかわからない」と思う方もいらっしゃると思います。そういう場合でも、まず診察して対応できることは対応し、専門的な治療が必要なら適切な病院や専門のクリニックへご紹介します。鶴見という土地柄、外国人の患者さんも多く、スマートフォンの翻訳機能を使いながら診療することもあります。地域の総合窓口として、どんな症状でもまず相談してもらえる存在でありたいと思っています。
訪問診療で見えてくる患者の普段の姿
訪問診療にも力を入れているそうですね。

通院されていた方が足腰の問題で来られなくなったり、整形外科的な病気で動けなくなったりした場合に訪問診療を行っています。現在は90代の方を中心に、車で10〜15分圏内のお宅を月2回訪問しています。1人体制なので昼休みを使うことも多く大変ですが、金曜日は別の医師に外来を任せて訪問に専念できる体制をつくりました。訪問診療の良さは、患者さんの本当の生活が見えることです。例えば診察室では緊張されていた認知症の方が、ご自宅ではリラックスされていたり、部屋に飾ってあるものから趣味の話ができたりするようなこともあるでしょう。「この人はこういうのが好きなんだ」という発見があり、より深い関係性が築けます。将来的には終末期の方も含め、お家で最後まで過ごしたい方のサポートもしていきたいと考えています。
診療で心がけていることを教えてください。
まず看護師さんに話を聞いてもらうシステムにしています。医師に直接話しづらいこともありますし、世間話から出てくる情報もある。看護師さんがゆっくり時間をかけて聞いてくれることで、患者さんの緊張もほぐれます。トータルの診療時間も長くなりますね。私自身は「1回は患者さんの目を見る」ことを意識しています。どうしても画面を見ながら話しがちですが、必ず目を合わせるようにしています。それに加えて、診察の最初に「調子はどうですか?」、最後に「他に気になることありますか?」というように、オープンな質問を投げかけることも大切にしています。はい・いいえで答える質問だと言い出しづらいこともあるので、自由に話してもらえる雰囲気づくりを心がけています。
「なんだかだるい」など漠然とした症状への対応はどうされていますか?

実はこういう訴えが一番難しいんですが、だからこそしっかり診ようと思っています。まず診察して本当に大きな病気がないか確認し、必要なら血液検査なども行います。話を聞くだけで気持ちがすっきりしたり、検査で異常がないとわかって安心したりすることもあるでしょう。ただ、精神的なものと決めつけるのは危険です。以前、重大な病気を見逃しそうになった経験から学びました。「よくわからない症状ほど、しっかり診よう」というのが私の方針です。ちょっとした相談から大きな病気が見つかることもあると考えているからです。発見が遅れるようなことはなくしたい、という思いで、どんな些細な症状でも真摯に向き合うようにしています。
いつでも頼れる地域のかかりつけ医として
スタッフとの連携はどのようにされていますか?

コミュニケーションを大切にしています。昼休みにちょっと話しかけたり、日常的な会話を心がけています。2ヵ月に1回は必ずミーティングを開催し、「こうしたらいいのではないか」「ここが困っている」といった意見を出し合って改善につなげています。看護師さんたちの意見は患者さん目線に近いことも多く、とても参考になりますね。診療面では、看護師さんが聞き取った内容と私の診察内容を統合して、チーム医療として機能するよう心がけています。1人で診療していますが、決して1人ではない。スタッフみんなで患者さんを支えているという意識を共有することが、質の高い医療につながると考えています。
今後の展望についてお聞かせください。
明確なビジョンというより、地域のニーズに応じて柔軟に対応していきたいと考えています。今はまだ対応していませんが、将来的には終末期の方の在宅医療も手がけたい。終末期医療は私がもともと専門としていた分野でもありますし、「おうちで最後まで過ごしたい」という希望に応えられる体制を整えていきたいですね。ただ、1人でできることには限界があるので、訪問診療とのバランスを見ながら進めていく必要があります。基本的には「できることから対応していく」というスタンスです。地域に必要とされる医療を提供し続けたい。お盆休みもないので、いつでも頼れる存在として、これからも地域の健康を支えていきます。
地域の方々へのメッセージをお願いします。

「些細なことでも気になったら相談してください」これに尽きます。こんなこと聞いちゃいけないんじゃないか、こんなことで受診していいのか、そんなふうに思わなくていいんです。対応できること、できないことはありますが、できないことでも適切な医療機関をご紹介するなど、何かしらの道筋はつけられます。ちょっとした相談から大きな病気が見つかることもあります。早期発見が何より大切です。病気になるのは仕方ないことですが、治療できるうちに見つけてあげたい。そのためには気軽に相談できる環境が必要だと思っています。訪問診療も行っていますので、通院が難しい方のご相談もお受けしています。地域の皆さんが健康で過ごせるよう、気軽に何でも聞いてください。

