中野 静雄 院長の独自取材記事
なかのクリニック
(鹿児島市/市立病院前駅)
最終更新日:2024/10/25
市電「市立病院前」電停を下車してみずほ通りへ進むと、左手にある「なかのクリニック」。鹿児島大学病院などで長年にわたり研鑽を積んだ中野静雄先生が、2008年に開業したクリニックだ。鹿児島では数少ない、甲状腺疾患や消化器疾患の診療を専門的に行う同院には、県内各地から患者が訪れる。一方で、地域のかかりつけ医としても広く診療を行い、専門外の疾患が疑われる場合には適切な医療機関へ迅速に紹介するなど、スムーズな病診連携へ積極的に取り組む。「人と話すのが好きで医師になった」という中野院長の温かい人柄が垣間見えるインタビューとなった。
(取材日2021年3月5日)
連携先病院で手術、術後管理は通いやすいクリニックで
開業までのいきさつを教えてください。
私は鹿児島県阿久根市の出身で、高校時代は物作りに興味を持っていました。しかし、人と話をするのが好きだったこともあり、黙々と作業するイメージの工学より医学に興味を持つようになりました。滋賀医科大学を卒業後は、鹿児島大学病院や鹿児島県立薩南病院などで働き、40代までは研究発表も行っていました。その後は鹿児島大学病院で病棟医長や医局長を務めましたが、だんだん患者さんと接するよりも事務作業のほうが忙しくなってしまったんです。年齢と経験を重ねれば求められる役割が変わっていくのは仕方のないことですが、私は患者さんの診療をしていきたかったんですね。それで開業を考えるようになりました。およそ20年、甲状腺と消化器の研究をしてきたのですが、開業した2008年当時、鹿児島県に甲状腺の専門家が少なく専門的に治療を行う病院もあまりなかったので、大学病院での経験を生かして、この2つを診療の中心に据えました。
甲状腺を専門にするクリニックは珍しいと感じます。
甲状腺の診療というと内分泌内科の診療分野となりますが、マイナーなイメージがあるかもしれませんね。それでも患者さんはたくさんいますし、中には大隅半島や宮崎県から通ってこられる患者さんもいます。13年前の開業時には、甲状腺を専門に診療を行うクリニックがほとんどありませんでしたが、私は大学病院で多くの甲状腺疾患の患者さんを診てきましたので、他の疾患との鑑別をする機会も多くありました。脈が速い、息苦しいという訴えで心電図検査をしたり胸部レントゲンも撮ったが診断がつかない、そこで循環器内科からの紹介で来院されて、バセドウ病が見つかることもあります。内分泌系の症状があって苦しんでいるのに適切な診療が受けられず、困っておられる方々をこちらで診させていただき、楽になっていただければと思って開業しました。
連携先の病院でも、甲状腺の手術をされることがあるそうですね。
鹿児島市鴨池にある今村総合病院と連携しており、共同で診ている甲状腺疾患の患者さんの手術を私が行っています。依頼があれば他院に出向き、鹿児島県内ではこれまでもあちこちで執刀してきました。逆に、当院に通院中の患者さんが他の病気になったときは、今村総合病院や他の病院に紹介して適切に専門的な治療を受けていただけるよう連携しています。私は、知ったかぶりをしないことをモットーにしております。もちろん、地域のかかりつけ医の役割としての、基本的な診察や処方は行いますが、私の専門外の疾患が疑われれば、すぐに専門の先生へつなげていきます。当院は街中にあり、医師が一人しかいない離島やへき地とは違います。すべての患者さんを自分一人で診ようと思わずに、さまざまな先生方や医療機関と協力し合いながら、患者さんが適切な医療を受けてもらうようにしていくのが理想だと思っています。
知らないことは知らないと告げるのが患者の利益になる
大学では消化器疾患も長く扱ってこられたそうですね。
はい。私は日本消化器外科学会消化器外科専門医と、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医の資格を取得しています。もっと広く世間に知られるべきだと思っているのは、ピロリ菌のことですね。慢性胃炎や胃潰瘍は中年以上に多い病気と思われがちですが、実は5歳頃までの幼少期にピロリ菌に感染していることが原因となるケースがたいへん多いと考えられます。ピロリ菌を原因とする慢性胃炎にストレスが加わって胃潰瘍になったり、中年以降になると胃がんになってしまうこともあります。また、ピロリ菌のない人は胃がんのリスクは低いと考えられます。ピロリ菌感染が胃がん発症のきっかけになるとわかっている以上、検査をしてピロリ菌陽性の場合、除菌していけばリスクを下げていくことが望めます。除菌には入院は不要で、外来で抗生剤を飲むだけです。国民がみんなで検査・除菌してピロリ菌がいなくなったら、日本の胃がんは激減していくと信じています。
胃の痛みで悩んでいる方も多いでしょうし、たいへん興味深いです。
胃炎の原因はさまざまですが、ピロリ菌がいると症状が出やすいのです。心身にストレスがかかると、ピロリ菌のいる胃袋は胃炎を起こしたり胃潰瘍になったりしやすく、さらにストレスが強くなると胃が痛くなってしまいます。ですから、少し忙しくなると胃が痛くなり、踏ん張りが利かなくなるタイプの人なら、一度はピロリ菌があるかどうか調べてみるのをお勧めします。ピロリ菌に感染しないためには、感染に対する抵抗力の低い5歳までに生水や井戸水を飲まないこと、親や祖父母などピロリ菌がいる可能性のある人と箸の共有や口移しをしないことですね。昨今は世の中が清潔志向になったので、若い世代の陽性率はかなり低くなってきています。
患者さんと接する際に心がけていることがあれば教えてください。
私は人と話すのが好きで医師になりましたので、患者さんの訴えを静かに聞くことは不得意なのかもしれません。ついつい口を挟んでしまうんですね(笑)。ただ、心がけているのは、正しく真面目に答えること、知らないことは知らないということ、うそはつかないことです。「知らない」と口にするのが恥ずかしいと感じても、知らないままで生きてきたのだから、その事実をありのままに受け止めないといけません。だからこそ「調べておきます」とか「私はそのことは知らないから、その分野に強い先生に聞いたほうがいい」などと伝えるべきですし、患者さんのためにもそうするべきと思います。恥をかいても、知らないことは知らないと言える自信と覚悟を持ちたいと思っています。
専門性を維持しながら、かかりつけ医としても対応
やりがいを感じるのはどんなときですか。
病と闘う患者さん、支えるご家族、皆さん本当に立派です。そんな皆さんから「ありがとう」と言われたときです。手術後に予後が悪く亡くなられたとき、末期がんの患者さんを看取ったときなど、その後にご家族から「ありがとう」と言っていただいたときなどは、私自身、間違ったことはしなかったんだと救われる気持ちになります。医師に限らずどんな仕事でも、それが原動力なのではないでしょうか。そう言っていただけるように、真剣に仕事をしていますし、患者さんに異変が起きれば夜中でも電話を受けられるよう、家族も協力してくれています。
毎日お忙しいと思いますが、休日はどのように過ごされていますか。
趣味は盆栽でサツキを育てること、それとゴルフです。盆栽は高校時代に始めて熱中したのですが、丁寧な世話が必要なのに今はあまり時間がかけられないため、知人に預けて展覧会に出してもらっています。家族とは時々、旅行に行きますね。最近はなかなか新型コロナウイルス感染症の影響で行けないですが、その前は予約の取れないGWに4日かけて九州旅行をしました。車であてもなく出かけ、1泊目は車中で、2泊目は偶然見つけた安宿で、3泊目は一人何万円もする高級ホテルにたまたま当日予約で泊まれました。そんな行き当たりばったりな旅も楽しかったですよ。
今後の展望をお聞かせください。
まず、甲状腺疾患と消化器疾患については、引き続き専門的に対応していく医療機関でありたいですね。また、大きな病院との使い分けとして幅広く対応する地域医療の担い手として、皆さんが遠慮なく相談できるクリニックでありたいと願っています。そのためにも、患者さんから見て敷居が高くならないよう、話しにくく尋ねにくいところにならないよう、受付や看護師などスタッフたちにも日頃からよく話しています。どんな質問でも患者さんが気後れせずに質問することができて、私も真剣にできるだけ答えて、信頼関係をつくっていきたいですね。