梶原 秀年 院長の独自取材記事
かじはらペインクリニック
(坂出市/坂出駅)
最終更新日:2024/11/14
JR予讃線・坂出駅から車で約15分。「かじはらペインクリニック」は、19床の入院施設を持つペインクリニックとして2007年に開業。以来、痛みに苦しむ患者たちに寄り添い続けてきた。病気やケガの治療が終わっても、痛みが残ってしまえば、患者の生活の質は著しく低下してしまう。「そういう方たちの痛みの軽減に取り組むことで、皆さんが再び仕事や趣味に打ち込んで、家族と楽しい生活を送れるようになれば、これほどうれしいことはありません」と、日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医の梶原秀年院長はほほ笑む。同一グループの診療所や関連施設とともに、坂出市川津地域の医療支援に身を捧げる梶原院長に、ペインクリニックの治療方法や患者への想いを聞いた。
(取材日2024年9月4日)
心身に負担の少ないブロック注射で痛みの軽減をめざす
ペインクリニックとは、どのような場所を指すのでしょう?
「痛みの治療」に専門的に取り組む診療科やクリニックをペインクリニックと呼びます。痛みにもいろいろありますが、ペインクリニックでは腰痛、肩凝り、頭痛といった一般的なものから椎間板ヘルニア、帯状疱疹、がんの痛みまで、疾患には左右されずに、痛みを緩和させるための治療を行います。例えば、整形外科や内科などで病気やケガの治療は完了していても、痛みが残ってしまう患者さんはいらっしゃるわけです。そういう患者さんに対して、全身管理を続けながら痛みの除去を図っていくのが、ペインクリニックの役割です。内科などと比べると、ペインクリニックを扱っている医療機関は多くありません。さらに個人で開業し、かつ入院施設を有している当院のようなペインクリニックは、たいへん珍しいのではないかと思います。入院ベッド数は19床。そのうち5室は個室となっており、集中的な治療やターミナルケアにも対応することができます。
患者さんの主訴はいかがですか?
患者さんの訴えで多いのは、首や腰の痛み、しびれ、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による痛みなどです。最近では、帯状疱疹の患者さんも増えています。帯状疱疹は通常、1ヵ月程度で発疹が治まるのですが、痛みをそのままにして3、4ヵ月過ごしてしまうと、後遺症を起こして5年も10年も痛みに苦しむ可能性があります。そうならないためにも早めに医療機関を訪れて、治療を始めていただきたいです。ペインクリニックでは体の部位や状態にもよりますが、主には内服治療や、神経ブロック療法を実施します。これは痛む箇所の神経付近に麻酔薬と、場合によってはステロイド剤も注射して、痛みの除去を図る治療法です。体の切開が必要な手術と違って、麻酔も局所麻酔のみ。患者さんの心身に大きな負担をかけません。加えて近年では、患部のエコー(超音波)やエックス線画像をリアルタイムで観察し、安全性に配慮しながら注射ができるようになりました。
ペインクリニックにおける診療の魅力は何ですか?
個々の患者さんの、その人らしい生活を長期にわたってサポートできるところが最大の魅力です。例えば末期のがんで抗がん剤治療もできない、手術もできないとなったときに、ペインクリニックならその後も患者さんに寄り添って、全身管理をしながら、痛みを緩和するための治療を継続することができます。痛みは、その人の生活の質を著しく低下させるものです。仕事ができない、趣味ができない、家族と楽しく過ごせないとなると、いくら病気やケガが治ったとしても、その人の生活には支障が残ってしまうでしょう。そういう患者さんに対して、もう一度その人らしい生活を提供することができれば、これほどうれしいことはありません。
患者の本音を引き出し、治療に結びつける
開業の経緯についても伺いたいです。
近畿大学医学部を卒業後、兄と同じ岡山大学医学部附属病院(現・岡山大学病院)の麻酔科蘇生科に入局し、全身管理を経験する中でペインクリニックを志しました。佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)ペインクリニック科への国内留学も経験し、2007年に開業。クリニックの建築にあたっては入院設備を持つことを前提として、医療施設らしくない建物にこだわりました。入院生活が長引くと精神的にも負担がかかりますので、自分の家のような居心地の良い環境を作りたかったんです。2階の談話コーナーの大きな窓からは、正面に飯野山が見えます。小さいですがテラスもありますし、外の景色を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごしていただきたいです。
医療機器も充実しているそうですね。
基本的な検査機器だけでなく、専門的で高度な医療機器を数多くそろえています。針の先端温度が90度まで上昇する針を用いて、神経に熱を加え痛みの緩和を図る高周波熱凝固治療装置などが代表的です。またその他にも、脊髄を覆う硬膜の外側のスペースに針を刺してカテーテルを挿入し、神経周辺の癒着を剥離する硬膜外腔癒着剥離術(Raczカテーテル)や、椎間板に針を刺して電極を挿入し、椎間板ヘルニアの縮小や痛みの軽減をめざす経皮的髄核摘出術にも対応しています。針だけの治療は低侵襲で患者さんの負担が少なく、治療期間も短く済みます。腰の手術は通常1、2週間程度かかりますが、当院の場合は1泊2日が目安です。麻酔は局所麻酔のみですので、心臓や腎臓の状態が悪く、全身麻酔が困難な方の治療にも対応可能です。
診療では、どのようなことを心がけていますか?
患者さんの中には、どうしても医師である私に遠慮をしてしまって、自分から「痛い」と言えない方がいらっしゃいます。そういう方は、「最近どうですか?」とお尋ねしても「大丈夫です」と答えてしまうので、患者さんが話しやすい状況や環境をつくることを、常に心がけています。日頃から会話を重ねて信頼関係を築けていれば、何でも自然にお話しできるでしょう。これは、かつての恩師の教えでもあります。患者さんが、本当にその人らしい生活を送れているのかどうかを確かめるためには、ある程度踏み込んで、患者さんの訴えに耳を傾けなければなりません。当院では毎朝7時頃に必ず病棟を回って、入院患者さん一人ひとりと話をする時間をつくっています。そういう積み重ねが、とても大切だと思います。
整形外科・内科の兄弟と連携し、地域医療を支える
ご兄弟とも、同じ敷地内で開業されているとか。
兄が整形外科、私がペインクリニック、弟が内科の医師です。すぐ近くの場所で、3人の医師がそれぞれの専門性を持ち寄って連携できることは大きな強みとなっています。整形外科医の父と看護師の母が、地域の皆さんの健康を守っている姿、仕事ぶりを小さな頃から見てきたので、息子は3人とも医師の道を選んだのでしょうね。整形外科だけでは痛みが取り除けないときがありますし、ペインクリニックだけでも、どこに痛みの原因があるのか、判断しかねるときがあります。MRIやCT、エックス線検査の結果を兄と一緒に見て、二人で相談しながら治療方針を決める日もあれば、心臓の状態が悪い患者さんや、肺炎を起こした患者さんが来られて、内科の弟の力を借りる日もあります。法人ではデイケアセンターも運営していますので、医療と介護の両面で、患者さんたちを支えていきたいです。
休日の過ごし方を教えていただけますか?
ビールを飲みながら、飼い猫のロシアンブルー2匹と遊んでいます。ずっと犬派でしたが、ペットショップで運命的な出会いをして以来、かわいすぎて完全に猫派になりました。それから最近はまっているのは、ビリヤードですね。学生時代を思い出してビリヤード場に行ってみたところ、意外にも同世代の人たちが集まっていて、しかも、皆さんすごくお上手なんです。まるで部活のような雰囲気で、楽しくゲームしています。この年になって友達ができるとは思っていなかったので、それもうれしかったです。
今後の抱負をお願いします。
これまでのペインクリニックは、大学病院や総合病院で扱われることがほとんどでした。大きな病院まで出て行かないと、ペインクリニックの専門的な治療を受けられなかったんです。今後は、大規模病院で行われている先進の痛みの緩和治療を、地元地域で受けられるようにしたい。当院もそのための努力を惜しまずに、より良い治療を提供していきたいです。私の長男もペインクリニック志望なので、10年後、15年後に、親子で一緒に治療ができれば幸せですね。その時まで現役バリバリで、患者さんが痛みでお困りのときには、気軽になんでも相談できるクリニックであり続けようと思います。