苅谷 卓昭 院長の独自取材記事
湘南レディースクリニック
(藤沢市/藤沢駅)
最終更新日:2025/04/09

藤沢駅南口から徒歩2分の場所にある「湘南レディースクリニック」。2007年の開院以来、不妊治療、特に体外受精を中心に対応するクリニックだが、産科、婦人科の診療や各種検診など幅広く対応している。苅谷卓昭院長は不妊治療の黎明期から経験を積み、妊娠・出産に関する悩みに応えてきた。「自然な妊娠をめざしつつ、必要に応じてステップアップ治療をするのが当クリニックの方針です。体外受精は患者さんの望む結果を出すための方法の一つでしかありません」と語る院長に、産婦人科の医師を志したきっかけや不妊治療に対する考えなどを聞いた。
(取材日2014年11月20日/修正日2025年3月25日)
湘南エリアの不妊治療施設として開院
どのような患者さんが多いですか?

当クリニックは不妊治療が中心ですので、難治性不妊症の方が圧倒的に多いですね。けれどもそれだけに特化しているわけではなく、妊婦健診などの産科健診や出生前診断、がん検診、月経不順、更年期などの婦人科診療も行っています。不妊治療の他にも、女性としての健康を維持していくためのベストな選択をめざし、「最高の医療を提供する」ことを常に考えています。2007年に開院した湘南エリアの不妊治療施設として経験も長いので、不妊治療を中心にあらゆる患者さんのニーズに応えています。
不妊治療の中でも特に力を入れている治療はありますか?
体外受精ですね。不妊治療の患者さんの目的は妊娠することなので、体外受精を望む方は少なくありません。ただしそれはあくまで方法の一つです。ここは体外受精のためのクリニックではありません。本当に必要な人にだけ体外受精をすることが私の方針であり、当クリニックのコンセプトです。自然妊娠、人工授精、体外受精のどの方法であっても結果が出ることが患者さんにとっての喜びです。自然に妊娠できる方にはそこをめざしていただき、どうしても妊娠できない方の治療を進めていく。それが基本だと思うのですが、そう思っていない医師もいるのが不妊治療の現状だと考えています。当クリニックではこれまで、多くの方のご期待に沿う治療をめざして診療を行ってきました。妊娠が難しい方に基本に忠実な治療をして、妊娠という成果に着実につなげていく。その強い想いを持っているのです。
患者さんの望む結果を出すために何が重要だとお考えですか。

医師にとって重要なことは、豊富な知識、正確な診断、そして迅速な処置の3つであると常に肝に銘じています。これは産婦人科に限らず、どの科の医師にも共通していることだと思います。患者さんのニーズに応える治療を提供するためには、知識を増やして経験を積み、技術を磨くことが不可欠です。私はそのための努力をしてきましたし、これからも続けていきます。人柄はその次ですかね(笑)。患者さんに優しく人柄が良いことも大切ですが、その前にまずこの3つこそが大前提であり、重要だと思っています。
働く女性の時代到来を感じた高校時代に産婦人科を意識
どうして産婦人科の医師になろうと思ったのかお聞かせください。

実は私は文系で法学部を希望していたんです。ただ、真剣に進路を考え始めた高校時代は男女雇用機会均等法が施行される直前の時期で、そこがターニングポイントだったと思います。近い将来、絶対的に女性の社会進出が進むことが予想され、新聞記事などでも多いトピックでした。女性の立場を考える仕事は必ず出てくるし、需要もあるだろうと思ったんです。そこがスタートだったのは間違いないですね。得意な科目、好きな分野、将来の仕事は一致しなくても良いと考え、理系に進路を変えました。それで最初に考えたのが産婦人科の医師で、中でも婦人科はこれからの時代に必要とされる分野だろうと思ったのです。ですから、医師になるなら産婦人科と当初から考えていました。
産婦人科領域の中で、なぜ不妊治療をご専門にされたのですか?
大学卒業後は医局に入局したのですが、北九州の田舎ということもあり症例が少なかったんです。若かったのでいろいろ覚えたいのに、目の前に患者さんがほとんどいないから何もできない。患者さんがいて初めて、医師の技量も経験値も上がるのは当然のことですよね。それで思いきって大学を離れ、横浜の病院に勤めることにしたのです。そこで不妊治療を専門にする先生に出会ったことがこの分野を志すきっかけとなりました。体外受精をはじめとする不妊治療の知識と技術を身につけることができましたし、それ以上に職業としての産婦人科の医師の意義を教えていただけたと感じています。私にとっては恩師であり、今でも尊敬する先生の一人です。
開院に至るまでの経緯を伺います。

私が不妊治療に関わり始めた頃は、体外受精どころか、不妊治療自体もまだメジャーではない時代でした。不妊治療を手がける医療施設は当時、神奈川県内でも数軒程度だったと記憶しています。その頃はまだ若く、知識や技術がすぐ身につき、不妊治療の素晴らしさややりがいも知ることができました。けれど年齢は30歳にもなっておらず、患者さんの背景まで背負うには人間としての厚み、人生経験が足りなかったんです。例えば40歳の不妊症の方の気持ちを完全には理解しきれず、まだその道に進んではいけないと思いました。そこでいったん不妊治療は封印し、もう一度初めから産科、婦人科の病気や治療について、聖マリアンナ医科大学病院の産婦人科でさまざまな経験を積ませていただきました。そして約10年が過ぎた頃、大学病院から別の場所に自分のポジションを移してもいいのではないかと考えるようになり、開院を意識し始めたのです。
患者の思いを結実するために、最善の医療を提供したい
藤沢で開院されたのはなぜですか?

藤沢に住み、市内の産婦人科医院で非常勤の勤務医をする機会を経て、その頃藤沢市で不妊治療に関する施設が必要とされていることを知りました。お産に関しては素晴らしい先生方、良い産院もたくさんあったのですが、不妊症や不育症を診る医師は少なく、それなら私の知識や技術をここで提供すべきだと考えたのです。産婦人科領域のさまざまな知識や経験を積み、年齢も重ねていたので、封印を解き、不妊治療を行う時期だと考え、2007年に開院しました。導入した治療法や機器などにおいて、この地域で先駆的な役割を果たせたと思っています。開院以来たくさんの方に来院いただき施設が手狭になったのを機に、2014年に拡張のために移転し現在に至っています。その際、体外受精部門を拡大し、さらに高度な不妊治療に対応できるようになりました。
今後、取り組みたい治療などはありますか?
体外受精については、10年ほど前より技術的進歩がなく、今は受精卵診断や着床環境などに視点が移っています。そのため、着床障害や不育症に起因する不妊治療にはもっと力を入れたいと思っています。妊娠できるのにおなかの中で赤ちゃんが育たない、流産を繰り返してしまうという人は不育の因子を持っていると考えられます。この治療に関しては、私が聖マリアンナ医科大学で基礎研究を行ってきた領域なので、何かいいアプローチがあればと日々考えています。今、世の中で気がかりとされることに、少子化による人口減少がありますよね。私たちの仕事は、究極を言えば人口を増やすことと思っています。着床障害、不育症を何とかできれば人口増加にもつながります。また治療に加え、広報活動の必要性も感じています。妊娠することや子どもを持つことの良さを伝えたり、足踏みしている人たちに治療のステップを発信したりすることも私たちの役割だと思っています。
最後に読者へメッセージをお願いします。

諦めないことは大事だと思います。人生何でもそうで、うまくいかないこともいっぱいありますよね。でも諦めずに工夫してアプローチをしっかりしていけば、目的は達せられるのではないでしょうか。同様に不妊症や不育症で赤ちゃんが欲しくてうまくいかない場合でも、最後は患者さんの思いが勝つんですよ。「この人すごいな」「こんなに頑張るの?」と私たちが圧倒されるくらい頑張り屋さんのご夫妻もいます。でもそういう人たちの願いはかなうし、結果が出ると思っています。逆に「もう嫌だ」と臆病になってしまう人もいますが、そうなると人生すべてが諦めになってしまう。私は人生論を語るほど偉くありませんが、諦めないという気持ちはすごく大事です。そのために、とにかく正確な手法で導きサジェストするということを大切にしたい。患者さんの思いと私たちの適切なご提案、そしてお互いの信頼関係があれば、必ず良い結果につながると思っています。
自由診療費用の目安
自由診療とは採卵/3万5200円~、顕微授精/5万2800円~、胚培養/4万9500円~、延長培養/1万6500円~、胚凍結/5万5000円~、凍結胚管理(1年毎)/3万8500円、新鮮胚移植/9万3500円、凍結胚ー融解移植/14万3000円、アシステッドハッチング/1万1000円、生殖補助医療管理費(月毎)/3300円、AMH採血(6ヵ月)/6600円
※排卵、顕微授精、胚培養、延長培養、胚凍結は個数によって金額に差異が生じます。