鳥内 勉 院長の独自取材記事
ひかり心身クリニック
(四日市市/霞ヶ浦駅)
最終更新日:2024/01/09
四日市市内、近鉄名古屋線の霞ヶ浦駅から徒歩2分。「ひかり心身クリニック」は駅に近い好立地に駐車場も完備。鳥内勉院長は老年精神医学を専門としており、患者には中高年の男女が多い。岐阜県出身の鳥内院長は、開業前すでに四日市市内に自宅を構えており、地域医療にも心を寄せ続ける。クリニック名の由来を尋ねると、「鉄道が好きで、自分自身が東海道新幹線開業の1964年生まれであり、ひかり号と希望の光に通じるイメージから」と思わずほっとさせられるような話だ。社会の目まぐるしい変化に対応しながら、精神科の医師として自らのメンタルヘルスケアも忘れない鳥内院長にさまざまに話を聞いた。
(取材日2019年6月27日)
良き先生との出会い、思春期の葛藤を経て、医学の道へ
精神科の医師になった経緯を教えてください。
僕は岐阜県の揖斐川上流、谷汲山華厳寺というお寺のある山村出身なんですよ。幼い頃は病弱で、近所の診療所の先生にたいへんお世話になりました。先生は優しくて、診療科目に関わらずどんな病気でも診てくださいました。僕からすると、何でも治してくれる先生のように見えました。また、高校生になると悩むことが多く、心理的に自分は強くないとも自覚していました。それで心理学に興味が湧いてきたんです。そうして医師や医学を身近に感じる中、建設会社勤務で病院建設現場を監督することも多かった一番上の兄が、徳田虎雄先生が書いた本を勧めてくれました。読んでみたところ、「生命だけは平等だ」などの先生の言葉にとても感銘を受けたんです。そこから本気で医師を志すようになり、三重大学の医学部に進みました。
開業までに5つもの病院での勤務経験があるのですね。
やや多めかもしれませんね。開業の目前には、他の先生と交代で週に一度だけ桑名市民病院の外来にも入っていたので、実質6つの病院を経験したことになるでしょうか。1つの病院で多くの経験をさせていただいたと実感して、そろそろ開業を……と思う頃、別の病院の院長から来てくれないかと言われたり、病院機能評価の医局内委員として迎えられたりして、結局、勤務医をそれなりに長く続けることになりました。もちろん年長の先生方から求められることは、医師として自信につながる部分がありましたし、貴重な経験ができたと思います。
開業のきっかけは何だったのでしょうか?
医師を志すきっかけを与えてくれたのが一番上の兄だとしたら、開業のきっかけをつくってくれたのは2番目の兄だったんです。2番目の兄が仕事の関係で三重県に赴任してきたとき、「開業するなら今がいいんじゃない?」と勧めてくれました。兄は経済人なので、経済的な視点で何か追い風を感じていたようです。また勤務医に少し行き詰まりを感じていたことも理由にあります。当時は入院された後、なかなか退院につながらない患者さんが多く、閉塞感もありました。それに勤務医は年数がたつと役職もついてきて、診療以外で時間を割くことも増えます。医師として患者さんと接する時間が自分のやりがいでしたので、開業して地域の方と深く関わりたいと思いました。
すべての根底に「同じ人間である」という理念
開業してから14年目ですね。振り返るといかがですか?
振り返ってみると、自然と地域に溶け込めて良かったなと思います。患者さんとの関係もそうですし、内科をはじめ他の科の先生方とのお付き合いも同様に良好です。患者さんはお車で来院される方が圧倒的に多いですが、徒歩や自転車で来られる近隣の方もいますし、いずれにせよ四日市の方が中心です。遠いところでは松阪や名古屋、滋賀県から来ていただいている患者さんもいます。その方はドライブがてらなんておっしゃいつつ、月1回必ず通ってくださってるんですよ。また、以前勤めていた病院時代からの患者さんが開院後も自分のところに来てくれることをうれしく思いますね。
診療方針や診療上の心がけをお聞かせください。
医師になった当初から「The same human being」、つまり患者さんも医師もスタッフも同じ人間であるという考えをベースにしてきました。今後もその観点に基づいて診療をしていきたいですね。患者さんの症状は百人百様。人間関係で仕事がうまくいかなくなったり、家族関係がうまくいかない方を、どのように改善に向けていくか。個々の症例に応じてどんなアプローチをするのか方法は手探りで、処方も試行錯誤です。職場に原因があるとしたら、診断書を出すことで職場に配慮を促す場合もあります。また、待合室は受付に背を向ける形で椅子を配置するなど、院内の環境には気を使っています。患者さん同士がなるべく顔を合わせないように工夫したり、患者さんのお名前を呼ばず待合室まで迎えにいくこともあり、プライバシーに配慮するよう心がけています。
四日市における精神科の現状について教えてください。
四日市は三重県で一番大きい都市ですので、その分患者さんは多いです。市内にメンタルクリニックはいくつかありますが、どこも予約が取りにくい状況かと思います。当院も予約制で毎日多くの患者さんが来院されますが、初診の方は必ず30分以上の時間を取り、しっかりとお話を聴かせていただきます。患者さんは20代から100歳近くの方まで幅広く、日中通える主婦の方が多い分、女性が6割くらいです。反対に、働かれていて時間的にクリニックに通いにくいという男性は、心の悩みを我慢していらっしゃる方も多いのではないかと心配です。僕は産業医学についても精通しているため、当地で働く方々のお役にも立てると思います。
多様化、複雑化する現代社会と向き合いながら
精神科を受診すべきタイミングを教えてください。
何か抱えているものが長引いている時は、ためらわずに来てほしいですね。例えば1つの目安として、一日中憂うつな気分が2週間以上続いたら、うつ病を疑うということはあります。当然それだけでは診断できないので、ちょっとでも精神科を意識したら、とにかく我慢せず来てほしいです。1回話すと気が楽になったように感じる場合もあるでしょうし、何でもなければ何でもないで構わないですから。以前に比べて精神科に抵抗感のある人は少なくなっていると実感していますし、同じように悩んでいる方が何人も来院されていますので、安心して来てくださいとお伝えしたいですね。
現代社会において、精神科の医師として感じることはありますか?
抗うつ剤の新薬が次々に出てきて、患者さんも増えたと感じています。社会が複雑化して余裕を失い、うつ病の方は増えました。また、病気と扱われていなかった症状に名前がついたことで、疾患があるとみなされる方も増えました。精神科では「治った・治っていない」の線引きが難しく、もともとグレーゾーンが非常に広い中、疾患が増えたことでグレーゾーンもさらに広がっていると感じます。それでも、働いていなかった患者さんが働き始めたり、1ヵ月前に比べてできることが増えたりするなど、患者さんが変化していく様子を見ることができたら、精神科の医師として喜びを感じると思います。そうした喜びを積み重ねていくことが、診療におけるやりがいだと思います。
今後の展望をどのようにお考えですか。
開院以来の診療理念である「The same human being」という考え方をもとに、一人ひとりに合った診療を続けていくことで、これからも地域の方々の支えになればそれが本望かなと思います。他の診療科の先生方との連携や関係性も築いてきましたので、あらゆる診療科で協働し、「地域のクリニック全体で地域の方々を支えていく」という同じ方向をめざした地域医療を提供し続けたいです。