相原 浩輝 院長の独自取材記事
あいはら子どもクリニック
(神戸市垂水区/垂水駅)
最終更新日:2025/04/10

海を望む垂水駅を降り、昔ながらの店がひしめく商店街を通り抜けた先にあるショッピングモール。その2階のクリニックゾーンに、「あいはら子どもクリニック」はある。広々とした待合室には大きなソファーがあり、不安な気持ちの子どもやその家族もほっと一息つけそうな空間だ。他にも院内の端々に、患者へのさりげない思いやりが施されている。近年は予約制のため来院者が重なることはほぼないというが、仮にそうなってもソーシャルディスタンスを保ちやすい環境が整備されている。開業して25年になるという相原浩輝院長は、子どもたちのため日々の診療に力を注ぎながら、神戸市医師会の一員としても地域全体の医療体制の改善に取り組む。その情熱のルーツはどこにあるのか、相原院長に詳しく話を聞いた。
(取材日2025年2月6日)
医師を志したルーツは、病気がちだった子ども時代
医師をめざされたきっかけをお聞かせください。

もともと小さい頃の僕は病気がちで、幼稚園や小学校を休むことも多かったんです。父が医師だったこともあり、自宅で薬を飲んで療養しながら、「将来は僕と同じような子を助けてあげられるお医者さんになりたい」と子ども心に思っていました。成長して大学に入学し、医学を学んでいる時も、「困っている子どもや弱っている人たちの助けになりたい」という気持ちは強かったですね。
これまでどのようなキャリアを積んでこられたのですか?
学生時代は、無医村地区の健康診断業務を手伝ったり、自閉症の子どもたちが参加するキャンプにトレーナーとして参加したりして、お年寄りや、障害を持つ子どもたちなど患者さんに寄り添う大切さを学べたと思います。大学卒業後に進んだ神戸大学大学院では、生化学の教室でがん細胞の分化や細胞のシグナル伝達の研究に打ち込みました。その後、神戸大学医学部の小児科に入局し、そこから高槻や豊岡など神戸市内にある主要な関連病院で勤務しました。そのうちの一つ、高槻病院は、未熟児・新生児治療において国内でも先進的な病院だったため、外来や夜間当直もひっきりなしでしたね。そこでの経験が今とても役立っています。病院勤務時代は、新生児医療や救急、アレルギー医療を中心に対応する充実した日々でしたが、もともと故郷で地域医療に携わることを希望していたため、40歳を節目に開業しました。
クリニックのホームページに医療情報を載せていらっしゃいますが、それはなぜですか?

地域の方々に、適切な医療知識を知っていただきたいと考えているからです。25年前に開業した当時は、地域の休日救急体制がまだできていませんでした。それで、当院のホームページを見てもらうことで、病気の子を持つお母さんたちの不安を少しでも和らげたいと思ったのです。その頃は、小児の休日初期急病センターのような施設がなく、日曜日に子どもが受診できる救急診療所も近隣にはありませんでした。それで小児科の医師たちに呼びかけ、休日ごとに交代で診療をしていた時期もありました。開業医はまず地域医療の一番手として、初期救急も担わねばという思いでしたね。その後、地域の小児科医師たちの働きかけで、西部休日急病センターや神戸こども初期急病センターが設立され、現在に至っています。
子どもや家族への優しさに満ちた良質な治療に努める
クリニックではどのような診療をしていますか?

急性の疾患に加え、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、舌下免疫治療の対象となるスギ花粉症やダニアレルギー、また、食物アレルギーといったアレルギー疾患の患者さんが多いですね。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、手足口病、ヘルパンギーナ、溶連菌感染症に、感染性の腸炎のお子さんもいらっしゃいます。もちろん、乳児健診や予防接種にも対応しています。他には、小さいお子さんに関するさまざまなトラブルのご相談も少なくありません。不安を抱えている保護者は多く、間違った情報がインターネットでも散見されるため、できるだけ丁寧な説明を意識しています。スタッフにも、子どもたちには優しい声かけをしようと話しています。泣いている子には「泣いたら駄目」ではなく、共感して慰め、できたら褒めてあげることが大切です。お母さんやお父さん、そして子どもに、まずは「よく頑張ったね」と伝えるように心がけています。
先生の医師としての強みを教えてください。
さまざまな病院でたくさんの臨床経験を積んできたことですね。救急対応では過酷な現場も多く経験してきましたので、重症かどうかの判断力に長けていると自負しています。また、喘息やアトピー性皮膚炎、じんましん、アレルギー、花粉症などの診療経験も豊富です。どの病気もマニュアルどおりの対応では駄目なことも多いので、一人ひとりに沿った治療を大事にしています。例えば、夜に咳をしているからといって、喘息が原因とは限りません。後鼻漏による乳幼児の咳もよくあるからです。本当に喘息かどうかの見極めは難しいので、呼気中の二酸化窒素濃度を測り、気道の炎症具合を客観的に見ていきます。原因は、鼻なのか、気管なのか、あるいは心理的なものなのか、まずはそれを確認することが必要です。いつも症状から「本質は何なのか」を究明したいと考えるのは、大学や大学院で研究に没頭したことがベースにあるからだと思っています。
そうした先生の強みをクリニックで生かすため、工夫されていることや心がけていることはありますか?

症状の原因に迫るため、検査機器や診断キットなどを充実させています。また、適切な診療には患者さんの緊張を取ることも大切ですから、できるだけ痛みを抑える配慮は怠りません。注射や検査時に「ここではあまり痛くなかった」と思ってもらえるように努めています。インフルエンザの鼻咽頭の検査でも、なるべく痛みを抑えるような方法はありますからね。さらに、声かけのタイミングまで気を配っていることも、痛みに配慮する一環です。
地域の子どもを守るため、常に何ができるのか考えたい
医師の立場から、最近気になることはありますか?

地域のために何ができるのかと、いつも考えています。例えば、小児の在宅診療が手つかずな一方で、医療的ケア児はどんどん増えている現状があります。人工呼吸などの医療的ケアを受けながら保育所や学校に通う子どもが増加しているのですから、その子たちを地域で受け止めなければいけません。高度専門病院と家とのつながりだけでなく、訪問看護ステーションや障害者相談支援センター、通所施設などを含めて多職種が連携し、子どもたちを守る体制をつくる必要があります。今は小児が使えるサービスが限られていて、在宅で保護者が3時間ごとに吸引をしているケースも見られます。また、災害時に一人も取り残さないようなネットワークもつくりたいですね。そうした思いを形にするため、神戸市医師会での活動を通じて取り組みを進めています。
啓発活動でお芝居のイベントもされていると伺いました。
そうなんです。神戸市医師会や行政、NPO法人が協力して、医療や介護の諸問題を市民の皆さんに演劇仕立てで啓発するイベントを行っています。医療や介護関係者を中心に多職種の有志が約80人も参加し、お芝居で医療知識を地域の方々に伝えているんですよ。市民の皆さまも楽しみにしてくださり、おかげさまで毎回ホールが満員になる盛況です。僕は日ごろの音楽の趣味を生かして、劇で使う楽曲を制作しています。
長年地域医療に貢献されていますが、先生がやりがいを感じるのはどんな時ですか?

開業したての頃に知っていたお子さんが成長して、お父さんやお母さんになって自分の子どもを連れてきてくれるのは、やはりうれしいですね。また先日は、子どもの患者さんが、学校の作文に「先生は優しくて丁寧で、怖くなかったよ」と当院のことを書いてくれたんです。丁寧に学校の先生に紹介してもらえたようで、スタッフみんなでうれしく感じました。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
今は7割方のご家庭が共働きで、どうしても時間的な余裕がない親御さんが多いと思います。子どもにも保護者にも、つまり家族全体にストレスがかかっている時代ですから、僕たちがそれをいたわってあげたり努力を認めてあげたりする姿勢は、とても大切だと感じています。子育てをもっと楽しいものにするためにも、何かヒントを伝えられたらいいなと思いますね。子どもとそのご家族を含めて、誠実に対応することを心がけています。ぜひ何でも気軽にご相談ください。