湯浅 由啓 院長の独自取材記事
ゆあさこどもクリニック
(鹿児島市/宇宿駅)
最終更新日:2024/10/22

鹿児島市の宇宿の住宅街にある「ゆあさこどもクリニック」。上階にある鐘が朝夕に心地良い音を奏でる同院は、2006年より地域の子どもを優しく見守り続けてきた。院長の湯浅由啓先生は、鹿児島大学病院をはじめ市内の基幹病院で小児科疾患全般の診療を重ねてきた医師。その研鑽を生かし、身近な感染症から便秘・喘息・アレルギー性鼻炎などの慢性の疾患まで幅広く診療を展開している。子育て中の母親の悩み相談にも積極的に応じるほか、さまざまな情報が出回るワクチン接種については「正しい情報に基づいて感染から身を守る選択をしてほしい」と呼びかける。そんな湯浅院長に、ワクチン接種の意義や診療への想いを聞いた。
(取材日2024年9月18日)
病院らしくない、患者がくつろげるクリニック
2006年に開業された際、内装や外観にこだわったと伺っています。

患者さんのことを考えた時に、“病院らしくないクリニック”にしたいと考えました。無機質的な堅苦しい空間ではなく、例えば赤ちゃんが待合室でハイハイできるような、くつろげる雰囲気をめざしました。ですので、当院は靴を脱いで入っていただくスタイルをとっています。待合室の椅子も、家庭にあるソファーのような椅子にするなどの配慮をしました。また、お子さんが遊んでいる様子が外から見えるよう、待合室の窓は円形にカーブさせ、全面ガラス張りにしました。ちなみに当院の3階には朝夕を知らせる鐘があり、クリニックのロゴマークにもなっています。
診療で心がけていることを教えてください。
何より親御さんやお子さんたちの訴えを親身になって聞くことですね。初診の際にもお伝えしていますが、病気のことはもちろんお子さんのお体で心配なことは何でも相談していただきたいと思っています。インターネットで調べすぎると不安が増してしまう方もいると思いますので、まずは考え過ぎずに一度聞いていただければ、と。また、わかりやすく簡潔に説明するよう心がけています。ただし、聞きなじみのない医療の話はよく理解できない場合もあるでしょう。ご様子を伺いながら、必要であればかみ砕いて説明し直すよう努めています。
どのような症状の方が多いのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症が5類に移行した後、手足口病やヘルパンギーナ、アデノウイルスなど、さまざまなウイルス性感染症が一気に増えたのを感じています。インフルエンザは5・6月など季節外れの感染も見られます。新型コロナウイルス感染症の流行下における厳重な感染症対策により病気にかかる人が減った一方で、個人の免疫が落ちてしまったのが原因といわれています。そのような背景もあり、当院では、1回の検査で12種類の病原体を検査できるPCR検査機器を導入しました。新型コロナウイルス感染症やマイコプラズマ感染症などは単独の検査もできますが、例えば複数の検査をしたのに原因がわからないまま熱が続いている方などには、これを活用して少しでも苦痛や不安を軽減できればいいな、と思っています。
適切なタイミングでのワクチン接種を推奨
ワクチン接種の重要性を広めているそうですね。

まず、ワクチン接種による副作用に不安を抱く方もいらしゃるかもしれませんが、命に関わるような事態に陥ることはめったに起こらない、とお伝えしたいのです。もちろん100万人に1人くらいは何らかの症状が起こり得る可能性はあるものの、ごくまれなことです。ワクチン接種を受ける人が増えるほど、感染症をうつしてしまう人も減っていくことになり、社会全体で感染症を減らすことが望めます。その上で近年私が特に懸念しているのは、子宮頸がんワクチンの接種です。日本で接種が始まった際に体の痛みを訴える人たちが相次いだことから、国が積極的な接種の呼びかけを一旦中止し、結果的に世間にマイナスのイメージが定着してしまいました。しかし、その後の大規模調査により、接種の有無に関わらず思春期の女性には一定の割合でこうした症状が起きていることがわかりました。つまり、ワクチンとの直接的な因果関係は考えにくいのです。
一方で、「子宮頸がん検診を受けていれば大丈夫」と考えている人も多いと伺いました。
子宮頸がんの中には、悪性度が高くて抗がん剤による治療が難しい腺がんがあり、全体の3~4割を占めるほど増えています。このがんは検診では簡単に見つけることができません。一方で、ワクチン接種により子宮頸がんの罹患リスクを減らすことも望めるため、私はワクチン接種が非常に大切だと考えています。ただし、ワクチンの期待できる効果を最大限に得るためには、性交渉が始まる前に接種することが重要です。私としては、接種が可能になる「小学校6年生のタイミング」での接種を推奨したいと考えています。理由としては、小学6年生~中学1年生では紛らわしい症状が出ることは極めて少ないのと、中学生になると勉強や部活動などで時間的に忙しくなるためです。現在私は、鹿児島県小児科医会を通じて、小学校6年生の春に接種券を送付するよう、県内の各市町村に働きかけを行っています。すでに鹿児島市をはじめいくつかの市に対応していただいています。
慢性の疾患の治療についてはいかがでしょうか。

便秘のご相談は多いですね。放置すると便が硬くなって排便時の痛みや出血につながり、我慢してしまうなど悪循環に陥ります。ですので、気になった時に早めに受診していただければ、と思います。年齢に合わせたお薬や食事の工夫などを提案して改善をめざしますが、何より重要なのは排便の習慣づけです。便をしたくなったらトイレに行くのではなく、朝食後の決まった時間にトイレで試みるなど、毎日続けていくのが大切でしょう。また、喘息のお子さんも多いです。例えば風邪をひいた後に2~3週間以上咳が続くことがあれば、喘息の可能性もあります。症状や生活環境、家族歴などについての細かい問診の上、吸入ステロイド薬を試して経過を確認したり、アレルギー検査をしたり、季節性喘息であれば予防としてお薬の服用をご提案したりする場合もあります。
子どもの病気で悩む母親の力になりたい
アレルギー性鼻炎の治療について教えてください。

スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎の治療法の一つに、舌下免疫療法があります。アレルゲンを少量から体内に吸収させ体に慣らしていくことで、根本的な体質改善がめざせる治療法です。治療期間は3~5年くらいかかりますが、現在飲み薬を服用している方でも、症状の軽減やお薬を減らすことが望めます。鼻水・鼻づまりの症状が強いお子さんは、勉強に集中できない・眠れないなど生活全般に支障を来すこともあるかと思います。重症度に関わらず患者さんが希望されれば軽症でも開始できますので、お悩みの方はぜひご相談いただければと思います。
ところで、湯浅院長が小児科の医師をめざした理由や、開業前のご研鑽について教えてください。
もともと子どもが好きで人の役に立ちたいと思い、小児科の医師をめざしました。また、私には病気を患う家族がいて、家族みんなでずっとお世話をしていました。私が高校生の頃に他界してしまったのですが、そのような生活環境も多少は影響しているのかもしれません。鹿児島大学病院の小児科に入局後、循環器のグループに所属しながら、特に小児の先天性心疾患の領域を学びました。種々の先天性心疾患の心エコー検査やファロー四徴症や心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、川崎病などの心臓カテーテル検査なども多く経験しました。私が医師になりたての頃は複雑な心疾患の手術に関しては福岡や熊本に飛行機で搬送することが多く、患者さんに対してはいつも「早く鹿児島でも手術をしてあげられるようにしたい」と願っていましたね。現在では鹿児島でもさまざまな手術ができるようになり、とてもうれしく思っています。
最後に地域の方へメッセージをお願いします。

いつの時代でも子どもに熱が出たとなれば、呼ばれるのはお母さんです。そんな子育て中のお母さんたちのお力になりたいと常々思っています。昨今要望の多い病児保育に関しては、小児科医会の活動を通じて前向きに進めていけたら、と願っています。また、繰り返しますが、鼻や皮膚の症状を含めお子さんのお体のお悩みがあれば、どんな些細なことでもご相談いただきたいです。特に現代はインターネット上に情報があふれ、むやみに不安がる方もいらしゃると思いますが、出所がわからない情報をうのみにしないようお伝えしたいですね。私たち小児科医は子どもさんたちの総合医です。まずは医療の入り口としてどのようなことでも気軽にご相談ください。