日置 琢一 院長の独自取材記事
日置クリニック
(四日市市/近鉄四日市駅)
最終更新日:2021/10/12
かまぼこ型の屋根に落ち着いた色合いの「日置クリニック」。満面の笑みで迎えてくれた日置琢一院長は、泌尿器科疾患の治療が専門で、大学病院時代に小児泌尿器科を担当していたこともあって、大人だけでなく子どもの診療も積極的に行ってくれる。愛知県がんセンターでは、前立腺がんや、膀胱がんなどの手術にも携わった。泌尿器科はデリケートな内容が多いだけに行きにくいと感じがちだが、日置院長は「フランクに話せる雰囲気づくりを心がけています」と穏やかに話す。「お子さんだった患者さんが成長している姿を見られることも、この仕事の醍醐味」とにっこり笑う。気の置けない、アットホームな雰囲気の中、ざっくばらんにさまざまに語ってもらった。
(取材日2019年6月12日)
泌尿器科が専門で、さまざまな医療機関から患者が来院
院内は広く、待合室からの眺めも良いですね。
当院の向かいには、このあたりの山一帯を所有されていた会社の創業者の方の邸宅があります。そのため窓からは立派な桜の木など、借景が楽しめるんですよ(笑)。鈴鹿の病院に勤務していたときに通勤途中にこの場所を見つけて一目ぼれして開業しました。院内は木の雰囲気を生かし、親戚のおじさんの家に来てくつろいでいただいているような感じにしています。待合室の壁の絵は患者さんから、飾る場所がないから飾らせて、といただいたもの。その方は、名古屋での勤務時代に上司が担当していた患者さんなのですが、偉い先生より下っ端の私のほうが親しく感じていただけたのでしょう、高齢になられるまで名古屋から通ってきてくださり、ありがたかったですね。
こちらは泌尿器科と皮膚科を標榜されていますね。
基本的に泌尿器科がメインなのですが、皮膚科受診のご希望も多いですね。また、私は三重大学医学部附属病院で長く小児泌尿器科を専門にしていましたので、開業してもお子さんと関わり、病気の改善に力を尽くしたいという思いがあったからです。それでお子さんに患者さんの多い皮膚科も診ようと、開業前に皮膚科の先生に勉強させてもらい、臨床の経験を積みました。患者さんはお子さんを含め、高齢の方まで幅広く来ていただいており、比較的、女性の割合が高いと思います。6対4ぐらいで泌尿器科の方が多いでしょうか。泌尿器科と皮膚科との組み合わせのクリニックでは大抵、皮膚科の患者さんが多くなるようですが、当院は、泌尿器科の専門クリニックであると認知されているのかと思います。近隣の内科さん、総合病院などから患者さんの紹介をいただきます。
長く携わっておられた小児泌尿器科とはどのような病気を診るのでしょうか?
先天奇形といわれる中で泌尿器の奇形はかなり頻度が高く、そうしたお子さんや、水腎症、膀胱尿管逆流症などのお子さんを多く診ていました。泌尿器科というのは専門の医師もあまり多くなく、その中でもさらに小児の分野は専門性の高い領域になります。三重大学でも当時の担当は私1人でした。小児専門病院には専門の部門がありますが、大学病院によっては専門の外来がないところもあります。
子どもも女性も男性も、気楽にかかれる場をめざす
患者はどんな症状で来院されていますか?
よくある症状は、尿が出にくい、夜間に何度もトイレに起きる、外出中に急にトイレに駆け込む、などでしょうか。女性は痛みがあって膀胱炎だと思って来られる方も多いのですが、実際は過活動膀胱や他の病気のこともあります。男性は前立腺肥大症が多く、尿を出すときに勢いがない、出した後に少し漏れるという訴えもあります。前立腺肥大症は合併症を起こさない限り痛みはありませんが、なんかすっきりしないといったことで気づくきっかけになるようです。健康診断で尿に血が混じっていると指摘された、と来られる方もいますが、実はその場合、治療が必要な病気である可能性は低いんです。一方で、目で見てわかる血尿の場合は、薬の治療や場合によっては入院、手術がが必要になるケースもあり、適切な病院に紹介させていただきます。
診療の際、心がけておられるのはどのようなことですか?
なるべくフランクな雰囲気づくりを心がけています。泌尿器科は行きにくいところと思われているかもしれませんが、皆さんが思われているほど内科診療と変わらないですよ。初診は緊張されるでしょうが、「親戚のおじさんに医者がいる」ぐらいの気楽な気持ちで受診できるような環境づくりに配慮しています。泌尿器科の病気には手術が必要となることも多いですが、病院ではなかなか聞けない事がうちでは話しやすいのではないでしょうか。総合病院で聞くような内容を、気楽な場所でゆっくりとかみ砕いてお話しできるところが、当院の良さかなと思います。
お子さんに対して気をつけていらっしゃることは?
なるべく怖がらせないようにするということです。お子さんは実はかなり我慢ができるんですよ。大抵、何をされるのかわからなくて怖くて泣きますが、事前にきちんとお話をすると頑張るお子さんは多いです。お子さんを無理に押さえ込むことも基本的にしませんね。大学病院の頃は、膀胱尿管逆流症の検査で尿道にカテーテルを通していたのですが、幼児や小学生は夏休みになると、検査日に7~8人集中して来られるのです。1人が泣くと連鎖してみんな泣くので、いかに最初の子を泣かさないかということに非常に気を配りました。技術も大事ですが、まずお子さんとの信頼関係が大事だというのが私の考えです。それは大人も同じで、治療の段取りがわからないと不安に思われますので、丁寧に説明するようにしています。
検査による的確な診断と、病院との連携力も強み
心に残っている患者さんなどあればお聞かせください。
たくさんありますが、あるお母さんのことが特に印象に残っています。お子さんを診察する中で、ご自身が赤ちゃんの頃、三重大学の泌尿器科へかかっていたというお話をされました。二十数年前ということで、もしやと思い、お尋ねしたら私が担当した患者さんだったんです。子どもの泌尿器科の病気は命には関わらないことが多いのですが、腎盂腎炎や、女性の場合は妊娠、出産のリスクがあります。その方は問題なく2人目を妊娠されており、腎臓も調べさせていただいたら正常でした。次の診察時にはそのお母さんもいらして「あのときはお世話になりました」と。これは本当に小児泌尿器科をやっている醍醐味ですね。成人されて社会生活を送っている患者さんとお会いするのは、とてもうれしいものです。
そもそも先生が泌尿器科を専門にされたのはなぜですか?
臨床研修が義務ではなかった時代、私は自発的に各科を回ったのですが、そのときに、腎臓はおもしろい臓器だと興味を持ちました。それで腎内科もいいなと考えたのですが、外科手術も魅力があり、迷った結果、診断から内科治療、外科治療と一貫して患者さんを診られる泌尿器科を選んだんです。中でも小児泌尿器科は専門性が高く、医師の数が少ない領域ですので、三重大学では、県内の該当するお子さんはほとんど診ていたのではないかと思うこともありました。そのため大人になった患者さんやその親御さんと再会することはお話した以外にも割とあって、やはり子どもさんのことはライフワークとして関わっていきたいですね。一般の小児科では気づくことの難しい、手術が必要な病気を見つけて小児専門病院へ紹介することもあります。
最後に、改めて泌尿器科専門クリニックとしての強みとは?
勤務医時代、泌尿器科は医師が限られていて患者さんは数時間待ち、診察ではゆっくりお話もできない状態でした。手術も多く、入院治療を充実させようとすると外来まで手が回らなかったんです。ですから私が開業したのは、ホームドクターをめざすというより、病院の外来機能を補完したいという気持ちからでした。そのため超音波検査機器や内視鏡検査機器、CTなど、近隣の総合病院と同等レベルの診断ができるように設備を整えています。紹介で来られた方には1時間ほどで結果をお伝えできるようにしています。必要ならば迅速に病院へデータを送ることができる連携力も強みですね。前立腺がんではロボット手術やIMRT(強度変調放射線治療)ができる時代になりましたので、患者さんの希望される治療が可能な病院へ紹介します。的確な診断、そして病院へのスムーズな橋渡しも当院の重要な役割だと思っています。