飯ケ谷 知彦 院長の独自取材記事
いいがやクリニック
(目黒区/緑が丘駅)
最終更新日:2021/10/12
東急大井町線緑が丘駅改札を出てすぐ目の前の、たいへん静かな環境にあるモダンな建物が「いいがやクリニック」だ。2002年の開業以来、緑が丘・奥沢の住宅街においてかかりつけ医院として地元から愛されてきた。院長の飯ヶ谷知彦先生が専門とする泌尿器を中心に、風邪や高血圧、脂質異常症などの内科・外科といった幅広い悩みに応えている。そんな診療に対する考えや思いを聞いた。
(取材日2016年8月19日)
夜尿症も頻尿も患者の気持ちに寄り添い、不安を軽減
患者さんはどういう方が多いのですか?
泌尿器疾患の方は3~4割。あとは風邪など一般内科領域や高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が多いです。泌尿器の病気の場合、内科疾患も何らか絡んでいるケースは多いので、合わせて診るようになることがよくあります。患者さんは緑が丘、大岡山、奥沢、石川町などの住宅街にお住いの方が多いですね。ゆったりお待ちいただけるよう待合室は広く取ってありますが、道路から中を見ると下足が目に付くようで、少し並んでいると混んでいると思って帰られてしまう方もおられるようです。実際には、お年寄りにはご家族が付き添われていたりしますので、履物の数だけお待たせするわけではないんですよ(笑)。
内科・外科、そして皮膚科も診られるのですね?
もともと大学病院などの勤務を通じて、術前・術後管理や透析の管理も行っていたので、一般的な内科・外科診療には不安はありません。皮膚科については、他のクリニックで治療をしてきたけれど良くならないといった訴えがほとんどです。そうした場合には、使ってきたお薬とその効き方を伺いながら他を試していくことが多いでしょうか。こそっと、専門の先生に電話をして聞く場合もあります。あとは、外陰部の皮膚疾患については皮膚科の先生方があまりご覧にはなりませんし、患者さんも男性なら泌尿器科へ、女性なら婦人科へ足を運ばれますので診る機会が多いですね。汗疹、いわゆるあせもや、カビによるいんきんたむし、かぶれやアレルギーなどの接触性皮膚炎、あるいは性病などの可能性がありますが、投薬でほぼ治ります。アトピーの重症例や掌蹠膿疱症など重いものは皮膚科専門医にご紹介しています。
泌尿器疾患というと、トイレのお悩みが多いのでしょうか?
小児からお年寄りまで悩みはさまざまですが、幼稚園・小学校だと夜尿症、おねしょについてのご相談は多いですね。明らかに泌尿器科的に原因があるものもありますが、精神的な影響によるものもあります。原因を探るために、いつ頃から始まったのかを聞きますが、例えば学期が変わってからであれば環境の変化によるものかもしれません。ただ、よくお母さん方にお伝えしているのは「おねしょをするのは人間だけで、お子さんがぐっすりと深く睡眠がとれている証拠である」ということです。親の愛情に包まれて安心して寝ていられるわけですから、やたらに心配する必要はないですし、むしろお母さんは誇りに感じていいんですよ。勿論、小学校のお泊りなどがある場合には、1ヵ月前に来院していただいて治療はします。
デリケートな部分の痛みや痒みにも、適切に対応
成人の方ではどんな悩みが多いですか?
若い女性は膀胱炎、男性は慢性の前立腺炎でしょうか。女性の膀胱炎は、ほとんどが急性膀胱炎で、冷えた時にトイレを我慢したりするときに多く見られます。勿論、疲れた時にも起こります。一方、慢性前立腺炎は、一日中机に座っていたり、長時間の車の運転をされる方に多く見られます。特に、冷えた場合には要注意ですね。お年寄りだといろいろな要素が絡み合って、トイレの悩みで来院されても出づらいのか、近いのか、また、男性なのか、女性なのかによって、大きく異なりますね。たとえば夜間頻尿で他院から紹介されても7~8割は内科か精神科の疾患によるものだったりします。多尿なのか頻尿なのかによっても考えられる症状はちがいます。それによって心不全の予備軍であることも考えられます。男性で出づらさを伴っての頻尿であれば前立腺肥大症を疑いますが、時として進行した前立腺がんが見つかることもあります。
夜間頻尿といっても様々な切り口があるんですね。
そうですね。熟睡できていれば尿意は遠のくものなので、夜間頻尿は睡眠が浅い証拠でもあるんです。だからちょっとした尿意で起きてしまう場合、不眠症や睡眠時無呼吸症候群などを疑うこともあります。また昼間の頻尿であれば、切迫感からトイレのことしか考えられなくなり「間に合わないのでは?」と心理的要因で頻尿を誘発するようなら過活動膀胱というのも疑えます。このように患者さんの多種多様な状況次第で、「頻尿」という切り口から様々な病気を推測できるのです。それは泌尿器疾患に限らず内科疾患にも繋がる可能性があるのです。こうした診療の中で、以前は正しい知識と確かな技術を重視してきましたが、今は患者さんの気持ちに寄り添うのが一番と思っております。じっくりと悩みを聞き、診断によって安心して帰っていただくことが何よりです。また、同時に私も患者さんに、育てられていることを実感し、感謝しております。
前立腺がんも最近増えているとお伺いしました。
もともとはアメリカ人の、特に黒人の方に多いと言われていました。アジアでは少なかったのですが生活の欧米化により、日本でも近年増加傾向で、近い将来には男性がかかるがんの第2位になるのではと言われています。ただし、死亡率は現在でも第7位と、罹患率の割には低いのです。それは治療方法が多くあることによります。私が週1回勤務している東京医療センターの泌尿器科でも治療は行えます。手術でも、2012年から保険適応にもなっている手術ロボットによる根治的前立腺全摘除術という方法もあります。ホルモン療法でも良い薬が出てきています。勿論、がんですから、悪性度の高い質の悪い前立腺がんは、厳しいことに変わりはありませんが、治りやすいがんであるとは言えるでしょう。
気心も技量も知り合った医師同士、信頼して患者を託す
訪問診療もされるそうですね。
大学病院に勤務する息子の手を借りて、前立腺がんや膀胱がんの末期の通院困難な患者さんから、ご希望があれば診ています。消化器系のがんですと徐々にやせ衰えていかれるのを疼痛コントロールなどして見守っていくのですが、尿路系は特殊で、がんが再燃してくると出血してしまうのです。その血の塊が膀胱に詰まると尿が出ず、その苦しみは尋常ではありません。血液の残りかすが尿路にあると、それだけで力んでしまいますし、その瞬間また出血を繰り返すといったことになりますので、泌尿器科の医師でないと管理が難しいことも多々あります。在宅で看取りを数多くやられている先生方でも、ご苦労されているかと思います。
そもそも医師を志されたのは、なぜですか?
生まれ育ったのは台東区の入谷で、中学高校は近くの開成に行きました。当初は大学では電子工学でも学ぼうかと、あまり深く考えていませんでしたが、思いがけず浪人をすることになり、であれば現役の時よりも難易度の高い大学をめざしてみようと思いました。それに父や叔母からのアドバイスもあり、医学部に進むこととなりました。「この大学に入りたい!」といって入ったわけではないですが、慶応義塾大学というのはなぜか通っているうちに愛校心を感じさせるんですね。大学の6年間を通じて、卒業するころにはいつのまにか、自然と自分も愛校心を感じるようになっていました。なので卒業生同士の結束は強いですよね。
最後に、読者に対するメッセージをいただけますか?
子どもの頃から祖父に仕込まれた将棋が好きで、日本将棋連盟の段位では2段を持っています。将棋の楽しさは「考える」こと。今では、ぱっと見た瞬間に10~15手先くらいまでは読めます。名人になると一瞬で何百手まで読めてしまうようで、経験から、ある局面になればこうなるというところまで分かってしまうんです。医学を含めた自然科学にも将棋に似たところがあります。自然科学では目の前の事象を探求しますが、診察していても考えながら私の中で引き出しがいくつか開いて、次の局面を読むようにつながっていく瞬間があるものです。将棋による、一生懸命考え抜く訓練は診療にも生かされていますね。また医師会、三四会(慶応大医学部の卒業生)、また中学高校の卒業生の先生方との絆も一層ありがたく感じており、医師としての財産ですね。この財産を患者様に、少しでも還元できるよう、今後も努力してゆきたいと考えております。