杉藤 庄平 院長の独自取材記事
医療法人愛慧会 すぎとう歯科クリニック
(あま市/木田駅)
最終更新日:2022/06/28
名鉄津島線木田駅から徒歩5分、2001年から地域で歯科医療を行う「すぎとう歯科クリニック」の杉藤庄平院長を訪ねた。この地は平成の大合併以前は旧美和町と呼ばれ、古くは多くの武将を輩出している土地であり、弥生時代の遺跡も多数あることから、とても長い歴史を持つ。地元の旧美和町が故郷である杉藤先生は、呉服屋に生まれ、大学進学とともに医療を志すことになる。「人を幸せにするのはまず身内から、家族を幸せにしなければスタッフを幸せにすることができない、スタッフを幸せにできなければ患者さんを幸せにすることはできない」と語る先生に歯科医師としての理想の姿から歯科診療にかける想いについて話を聞いた。
(取材日2016年10月24日)
役割は「地域の町医者」であること
先生のモットーや診療スタンスについて教えてください。
患者さんが気軽に、お口の中のことであれば何でも相談できて、適切な治療が受けられる「歯科治療の入り口」的な存在でありたいと思っています。もちろん、大学に残って専門的な勉強もしましたので専門的な治療技術もありますが、開業したこの地で、患者さんから求められているのは、僕の専門分野の治療ではありません。患者さんが抱える疾患の種類や進行具合は人それぞれ違うので、その一つ一つに対し、適切な治療を施し、これ以上悪くならないようにメンテナンスするなど、その人に合った幅広い分野での総合的な歯科治療の提供が求められているので、一般歯科を中心に、幅広く診ることができるクリニックづくりをしています。
名古屋市の西に位置するあま市ですが、地域の患者さんの特徴を教えていただけますか。
それぞれの地域で、特性が違うように思います。あま市の患者さんの傾向としては、割と保守的な人が多いと感じます。これは愛知県の人全体に言えることだと思います。僕は各患者さんの意向をしっかりと受けとめ、希望に沿った治療計画を提案し、適切な治療を施すことで、信頼を積み上げてくることができました。開業当時のエピソードなのですが、面白いことに新しい歯科医院ができると、最初は子どもさんの患者から増えていきます。お母さんが子どもを連れてくるのです。そこで大丈夫だとわかると、今度はお母さんが患者さんとして通ってくれるようになります。
最初に子ども、その後にお母さん、と順番があるんですね、面白い傾向ですね。
実はこれで終わりではありません。お母さんが治療を受けて、気に入ってくれるとしますよね、そうすると今度はお父さんが来てくれるようになります。お父さんも通ってくれるようになると、最後におじいちゃん、おばあちゃんまで通ってくれるようになります。このようにクチコミが広がっていくことを開業から数年間、この身に感じながら診療にあたってきました。現在はおかげさまで、多くの方が来院されています。歯科医師は僕を含めて2人で診ていますので、できるだけお待たせしないように努力していますが、ぜひ事前予約と、時間に余裕を持って予約時間の少し前に来院してくれるとうれしいですね。
虫歯予防や予防歯科には早めの通院が大切
小児歯科にも対応されていますね。子育て中のお母さんに向けたメッセージをお願いします。
お子さんの歯が少しでも生えてきたら、歯医者に慣れさせるためにクリニックに来てほしいということです。子どもが歯医者さんに慣れて、治療を受けることに抵抗がなくなれば、その子の成長に合わせた予防治療に取り組んでいくことができます。早めの歯科医院通いをお勧めする理由は他にもありまして、それは「免疫力」についてです。子どもがだいたい1歳になる頃までは、お母さんの免疫が効いているので歯も体も抵抗力が強いのですが、お母さんの免疫が切れる1歳以降からは、自分で自分の身を守らなければなりません。「自分の免疫で」と言ってもまだ1歳そこそこの子どもたちの免疫力は弱いため、虫歯になりやすく、体調も崩しやすくなります。だからこそ、弱くなる前にお子さんの歯へのフッ素塗布や、定期検診をお勧めしています。
抵抗力をつける段階は、お子さんたちも虫歯になりやすいのでしょうか?
お母さんの意識次第で、お子さんのお口の健康状態に違いがでます。子どもの虫歯の進行は本当に早くて、歯を作っている成分比も大人と子どもでは違い、子どもの歯はとても柔らかいのです。だから、一旦虫歯ができてしまうと大人の場合は進行がゆっくりであることが多いので、経過を落ち着いて見ることができるのですが、子どもの虫歯はあっという間に進行するため、歯が黒くなる間もなく、見た目は白いまま進行してしまうことがよくあります。虫歯が白いまま進行した場合、お母さんがお家でブラッシングしていても、進行中の虫歯を見逃してしまう可能性がとても高くなってしまいます。だからそうなる前に、定期的に通ってもらうことと、ブラッシングをしていて「何かおかしい」と思ったらすぐに歯科医院に行く、という意識をお母さんに持ってもらいたいと思います。
こちらに通っている患者さんの多くが、定期検診を忘れないそうですね。
日々たいへん多くの患者さんを診ておりますが、その3分の2は定期検診の患者さんです。予防治療、歯のメンテナンスの大切さを伝えた結果でしょうか。大人の場合は半年に1度は来てもらえるように呼びかけていますし、子どもの場合は乳歯が残っている場合は4ヵ月に一度来てほしい、と伝えています。僕個人的な思いとしては、3ヵ月に一度通って歯石除去が理想のペースです。なぜかというと、プラーク(歯垢)が成長・成熟してバイオフィルムとなり、バイオフィルムが石灰化して歯石になるのですが、そのバイオフィルムは、歯科で歯石を落としてから3ヵ月で形成されるからです。だから、僕個人の理想はバイオフィルムができたらすぐに落とす、というのが本来は理想であるという思いはあります。ただそれではあまりにも治療間隔が短く、来院をやめてしまう人がでるので、半年に1度、という呼びかけにしているのです。
「妥協は常に後退」を心に、真摯に診療に臨む
補綴について、どのような学びをされたのですか?
大学時代の教授からは特に影響を受けました。その先生は90歳を超えられた今現在も現役の歯科医師です。とても厳格な先生でしたが先生の指導はただ厳しいのではなく、しっかりとした理論に裏づけられ、治療技術に一切妥協を許さない姿勢に感銘を受けましたし、学生時代から随分時間がたった現在でもめざす歯科医師像であることは間違いありません。先生からのお言葉で印象に残っているのは、「妥協は常に後退である」です。その心は「この程度でいいだろう、という考え方は、その時点で後退しているので、簡単に手を打たないように」ということです。指導を受けている間、何度も言われていましたので、今でもそのお言葉を心に留めて日々の診療にあたっています。
今後、力を入れていくこと、未来の展望や目標を教えてください。
息子が研修医2年目でして、あと5~6年後にはこのクリニックに帰ってきてほしいと思っています。その後1年だけ一緒に仕事を教えた後、僕は在宅訪問診療にあたりたいと思っています。国の方向性としても、医療全体的に「在宅」というのがキーワードとなっています。現在でも活動は限られていますが、往診をすることがあります。その中で感じるのは、患者さんの自宅で診る際は、ご家族に理解がある人ばかりなのでスムーズなのですが、患者さんが他の病気等で入院している病院へ往診に行く際、どうしてもその病院からの理解が得にくかったりすることがあります。今後必ず在宅診療のニーズは高まると思いますので、細かい課題はクリアしながら進めていく必要がありますね。
地域の人に尽くしている先生の姿勢が表れていますね。
若い頃は新聞記者になりたい、など医療従事者になるとは思っていませんでしたが、これまで長い間歯科医師を続けてきて、この仕事をさせてもらって本当に良かったと思っています。診療は人のために役立っていると感じますし、やりがいがあります。確かに今の時代は歯科クリニックの運営が厳しい時代に入ってきていると思いますが、おかげさまで患者さんと仲良く楽しくできていますし、これからもできる限り、歯科診療を続けていきたいと思います。