中西 善久 院長の独自取材記事
中西心療内科・内科医院
(大阪市東成区/森ノ宮駅)
最終更新日:2025/01/30

大阪環状線や大阪メトロ中央線・大阪メトロ長堀鶴見緑地線の森ノ宮駅から東へ歩いて約7分。近隣にある大阪城周辺のにぎわいから離れた、落ち着いた住宅街の一角にある「中西心療内科・内科医院」。内科の一般診療はもとより、心療内科や精神科に加えて、児童精神科も診療している同院は、中西善久院長が2003年に開業した。現在は発達障害や心の悩みなどによって生きづらさを抱える子どもや保護者、さらに最近では自らの発達障害を疑う大人が、多数相談に訪れている。中西院長は文学部を卒業し、大学院では哲学について探求。そこから医師をめざしたという珍しい経歴の持ち主。穏やかに優しく患者と向き合う一方で、時代によって変化する心の病の原因を追究し続ける中西院長に、同院の特徴や診療内容について聞いた。
(取材日2018年10月3日/再取材日2024年8月15日)
未就学児の発達障害診療を実施
こちらには、どのような患者さんがお越しですか?

当院は風邪などいわゆる内科診療も行っていますが、心療内科や精神科、児童精神科を主体としていることもあって、心の不安や発達障害といったお悩みで受診される方がほとんどです。「最近気分が落ち込むけれど、これは体の不調から来るのか、心の不調から来るのかわからない」といった場合も、当院であれば心も体も総合的に診療できますし、「うちの子に気になる行動がある」「発達が他の子に比べて遅い」といった時には、カウンセリングや心理検査など専門的な診断・治療も行います。まずは「今悩んでいることを聞いてもらう」くらいのつもりで、ご相談にお越しいただければと思います。
小さなお子さんの受診も積極的に受け入れられているのですね。
初診でお越しになる患者さんのほとんどは、5歳以下の幼児です。大半は発達に関する相談で、来院のきっかけは言葉が遅い、発育が遅い、お友達と遊べないなど。親御さんが心配で連れて来られたり、健診などで指摘されたりとさまざまです。市内の保健センターなどからのご紹介でお越しになる方もいますが、遠方からもたくさんの方が受診されています。というのも、未就学児を診療する精神科関連の医療機関が少ないのが現状だからです。ですから、当院ではあえて毎月必ず新規患者さんの受診枠を設けることをポリシーにしています。それは、少しでも発達障害で苦しい思いをされる親子を助けたいという思いから。そのため、タイミングによっては初診まで3ヵ月程度お待ちいただくこともあります。
5歳以下のお子さんでは、診療はどのように進むのですか?

特に精神科や心療内科での初診ではまとまった時間が必要になりますので、完全予約制です。受診を希望される場合は、必ず電話で予約していただき、問診票をお送りしますので、初診時に記入してきてもらいます。初診では今の困り事や発達歴などを、およそ1時間かけてお聞きします。特に1歳までの発達歴は診断の重要な手がかりになるので、詳しくお聞きします。必要と判断される場合には、後日1~2時間ほどかけて、専門の臨床心理士が保険診療の範囲内で発達検査をいたします。そして、問診や検査の結果を総合して、その子の発達特性の説明と病名の告知、今後の療育の大まかな展望をお話しします。お子さんの病名やその特徴をしっかり理解できれば、その後の療育やサポートについても希望を持って、積極的に取り組むことができるでしょう。
発達障害とトラウマ、両方に光を当てる
診断後のサポートについても教えてください。

発達障害は、障害というより、その子なりの「特徴」や「個性」、時には「才能」でさえあると考えています。親御さんにはこの点を繰り返しお伝えして、お子さんの特性を受け入れ、伸ばせる希望を持ってほしいと思います。大切なのは、できるだけ早い段階から療育に取りかかること。場合によっては、お子さんに適した療育機関を利用してもらったり、薬を処方したりすることが役立つケースも。お薬に関しては治療としてというよりも、私の中では親御さんにお子さんをしっかり褒めてもらうチャンスだと捉えています。「じっと座っていられたね」「ちゃんとお話が聞けたね」と褒めるきっかけにして、子どもが伸びるチャンスを与えてあげたい。そうやって、親子関係の構築にも、少しずつ手を差し伸べられたらと思っています。
トラウマに関する研究にも取り組んでいらっしゃいますね。
ACE研究といわれる、いわゆるトラウマの診療にも力を入れています。きっかけは、発達障害の患者さんと多く接する中で、最終的に、その背景に虐待やいじめ、子どもが目撃するものも含めた家庭内での危機的ストレスといった心的外傷(トラウマ)が影響しているのではないかと気づいたことです。近年の研究では幼児期に愛着形成がうまくいかないと神経回路や自律神経、免疫システムにまで悪影響を及ぼし、ひいては学習や行動、健康を左右することもあるともいわれています。トラウマに対する社会の認知度はまだまだ高くありませんが、さまざまな精神疾患を治療する上で、トラウマケアは避けて通れないと感じています。
発達障害の治療では、トラウマにも光を当てることが大切ということでしょうか。

事前にトラウマになった体験について解き明かせば、その子の苦手を知ることにつながり、それを回避した環境を提供できるでしょう。私は発達障害を広く捉えることが重要だと思っています。いわゆるグレーゾーンという診断で見過ごされ、その人が進学や就職してから発達障害がわかって、周囲になじめない、認められないような状況になるのはたいへんに残念です。一人ひとりの患者さんの内面にまで踏み込んだ治療は時間がかかり、簡単なことではありません。ですが、早めに知って対処法を身につけることで回避を望める困難はたくさんある。その子の将来まで見据えた治療ができればと思っています。
多職種で連携し、新たなアプローチ法にも取り組みたい
お子さんや保護者と話をされる時には、どのような点を大事にしていますか?

親御さんも含め、お子さん自身が生活の中で感じる生きづらさを、きちんとくむことを大事にしています。発達障害の子は、自分がどの場面でどのように困っているのか人に伝えることが難しいですし、そもそも自覚するのも苦手です。不登校やなんらかの身体症状は、何か困り事があるというサインですから、それを受け止めて、こちらが問題を読み解いてあげることが必要です。またASDやADHDの特性は異なるものの、併発している子も多いなど、発達障害は複雑です。親御さんには、「苦手は工夫して乗りきり、できることを上手に伸ばすことで、その子なりの可能性が見えてきますよ」とお話しするようにしています。未就学児や低学年では、園や学校の先生にその子の特性を踏まえた対応をしてもらうことも不可欠です。必要に応じて自作の資料をお渡しするなどして協力を求めます。
スタッフさんも明るく、院内はアットホームな雰囲気ですね。
患者さんからの問い合わせの電話を最初に受けるのは受付スタッフです。その際、意に沿わなかったり、誤解が生じたりすると、診療に対する期待感も最初から損なわれます。逆に、気持ち良く応対して前向きに来院してもらえると、診療ははるかに進めやすいものです。当院のスタッフに、私があれこれ教育したり、スタッフ会議を開いたりすることはまったくなく、みんなそれぞれ自分の役割を自発的に気持ち良く果たしてくれています。だからこそ私の診療も成り立っているといえますね。スタッフは当院の財産だと感謝しています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

最近は治療のアプローチ方法もいろいろと検討されるようになってきました。少しずつ発達障害や心の病気に対する理解が深まってきていると感じ、うれしく思います。当院では日頃から、病院の先生や医療関係者とメールや手紙でやりとりを行って、これからについて話し合うことも多いですね。その中で、今後は心理的なアプローチだけでなく、例えばヨガや体操など、体を動かすことで全身に働きかけるようなアプローチも考えていきたいと考えています。体を動かすことは心への良い影響にもつながりますから、ぜひ親子で参加してほしいですね。患者さんやそのご家族にとって、何より「安全で安心できる場所」をめざしていきたいと思っています。いつでもご相談ください。