内門 大丈 院長の独自取材記事
メモリーケアクリニック湘南
(平塚市/平塚駅)
最終更新日:2024/11/12
外来診療から在宅医療まで切れ目なく、総合的な診療を行う「メモリーケアクリニック湘南」を開院した内門大丈院長。精神医療について研鑽を積む中で、レビー小体型認知症の分野で知られる小阪憲司先生と出会い、もっと認知症診療を学びたいと大学院へ。その後、米国メイヨークリニックへの研究留学や総合病院での臨床経験を経て、平塚市で在宅医療を経験。認知症患者を外来から在宅医療までトータルにサポートしたいと考えるようになったという。認知症に関する啓発活動や地域コミュニティーの活性化にも積極的に取り組む。そんな内門院長に同院の特徴や診療への思いなどを聞いた。
(取材日2024年10月7日)
認知症を中心に内科疾患を含めて総合的に診療
クリニックの成り立ちやあらましを教えてください。
この地にあった「湘南四之宮クリニック」を継承する形で2022年に開院しました。内科診療、外来対応医療機関、特定健診や予防接種などのかかりつけ医機能に加えて認知症の早期診断・治療、高齢者の総合診療、在宅医療・遠隔医療にも対応しています。現在、常勤医は5人で、認知症を専門とする私のほか、内科や外科、麻酔科といった専門性の異なる医師がかかりつけ医の視点を持ち、全員外来と在宅の両方を行っているのが特徴です。通院ができなくなったときは訪問診療を提供し、最後の看取りまで関わることをめざしています。患者さんは近隣の方も多いですが、私の専門であるレビー小体型認知症の患者さんやご家族が相談やセカンドオピニオンとして遠方から来られることもあります。最近は、軽度認知障害や早期治療に関する啓発が進み、早めに相談したいという方が増えてきましたね。
こちらのクリニックの認知症診療にはどのような特徴がありますか。
認知症も早期に状況を把握することで、予防や悪化を防げる可能性が見込めるようになります。当院では、ご本人やご家族が不安や疑問を持たれた時に、内科診療と併せて相談していただくことで原因や症状の早期発見をめざします。近年進化が著しい認知症治療薬に関しても、積極的に導入したいと考えています。さらに2024年11月より、レカネマブのフォローアップにも対応します。また、連携型認知症疾患医療センター、平塚市認知症初期集中支援チームも院内に設置し、多職種連携の中で患者さんだけでなくご家族の負担も軽減できるように努めています。厚生労働省が推進する「認知症の人と家族の一体的支援プログラム」として、繁田雅弘先生の実家を利用したSHIGETAハウスとも連携しています。
どのような経緯で認知症診療に携わるようになられたのですか。
伊豆逓信病院(現・NTT東日本伊豆病院)精神科に勤務していた時に、併設されていた痴呆疾患医療センター(現・認知症疾患医療センター)でも診療に携わっていました。当時、横浜市立大学医学部精神医学教室の主任教授であり、レビー小体型認知症の発見者である小阪憲司先と出会うことができ、もっと勉強したいという思いが募り、大学院に進学して小阪先生の神経病理学のグループに入りました。認知症について神経病理的な研究を行うとともに、物忘れの外来にて臨床経験を積みました。その後、米国のメイヨークリニックへの研究留学、総合病院精神科での臨床経験を経て、「湘南いなほクリニック」を共同経営の形で立ち上げ、在宅医療を中心に行っていました。その経験を発展させて、外来診療も在宅医療にも対応できるクリニックをつくりたいという思いから、2022年に独立して当院を開院しました。
啓発活動や地域コミュニティーの活性化にも取り組む
認知症の定義や、ご専門のレビー小体型認知症について教えてください。
認知症とは、何らかの脳の病気により脳の神経細胞の働きが徐々に低下して、記憶や判断力、理解力、集中力などの認知機能が低下し日常生活に支障を来した状態です。先天的な知的障害などではなく、いったん正常に発達した知性や知能が不可逆的に低下することが特徴です。65歳未満で発症する場合は「若年性認知症」と呼ばれます。最も多いのが「アルツハイマー型認知症」で、次に多いのが「レビー小体型認知症」とされています。レビー小体型認知症は脳の神経細胞の中にレビー小体と呼ばれる構造物が生じることでさまざまな症状が現れる病気です。主な症状は、認知機能障害、幻視、レム睡眠行動異常症と呼ばれる睡眠障害などです。人によって強く現れる症状が異なるほか、初期や中期では記憶障害といった認知機能障害などの症状が目立たないケースも多く、病気に気づきにくいこともあります。
診療の際、どのようなことを大切にされていますか。
自分自身が受けたいと思うような診療や対応を心がけています。また、当院では「今日生きることを大切にする」というミッションを掲げています。高齢の方の場合、過去を悔やんだり将来のことを悩んだりすることより、その日その日を一生懸命に生きるほうが現実的ですし、認知症以外にも生活習慣病を含めてさまざまな不具合があることが多いので、医療者として総合的に診てその時々のベストを尽くす、それが認知症診療や高齢者の在宅医療の基本だと考えています。どんなに厳しい状況を前にしても、そばにい続けて伴走する、力を合わせて患者さんやご家族に寄り添っていくことが求められると考えています。
医療以外にもさまざまな取り組みをされていると聞きました。
これまで多くの認知症の患者さんを診てきて、人との関わりがBPSD(認知症の行動・心理症状)の改善に役立った例を目の当たりにしてきました。私は人薬(ひとぐすり)と呼んでいますが、家族や周囲の援助がいかに有用であるかを実感し、人の精神は人の力でないと治らないこともあるのではないかと考えています。総合的に患者さんを支えるためには医療の提供だけではなく、地域全体がさまざまなアプローチで支援することが大切と考えて、クリニックの運営のほか、認知症に関する啓発活動や地域コミュニティーの活性化に積極的に取り組んでいます。
生活習慣病に留意して早期発見・治療を心がけてほしい
長年、診療に携わる中での想いや、医院のこだわりを聞かせてください。
認知症患者さんは増えていますが、対応する医療機関は少ないのが現状です。しかし、認知症は高齢になれば多くの人がかかる病気であり、人は必ず老いていくわけですから、認知症は誰にとっても他人事ではありません。将来、認知症になった時に、患者さんをしっかり診て、患者さんやご家族を支えていける医療環境をつくっていきたいですね。また、認知症患者さんの高齢者の方は一人で来れない方も多く、家族と来院したり、車いすを利用することも少なくありません。そういう患者さんを診療する上で、通いやすいように広い駐車場や広い診察室、トイレなどをつくりました。イメージカラーは青色なので、そこも基調となっております。
後進の育成などにも注力されているのですね。
そうです。若い医師にも認知症や高齢者医療を経験してほしいと考えて、横浜市立大学や東海大学の医学部生や研修医を積極的に受け入れています。治療の難しい病気を抱える患者さんをどうサポートするかを考えることもとても重要であり、若い先生たちにもぜひ学んでほしいと思っています。また、繁田先生と協同して「栄樹庵診療所」というクリニックを開設しました。繁田先生の精神療法はとても重要だと考えていますので、当院とも連携しながら、患者さん本人やご家族にアプローチしていきたいと思っています。地域のさまざまな社会資源を生かして、認知症だけではなく、難病なども含めて、より困っている方やご家族をサポートしていけるような取り組みができたらいいなと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
4、50代の世代は、健康診断で血圧や血糖値が高いと指摘されても、放置しがちな方が多いようです。しかし、中高年時の悪玉コレステロールが認知症のリスクになることもわかっています。また認知症だけでなく、がんの発症と糖尿病も関係があるといわれています。相互に関連していますから、若い頃から生活習慣病の予防や管理に対応することが、健康寿命の延長につながります。何か異常値を指摘されたら、かかりつけ医を見つけて定期的に通院することを心がけてください。認知症に関しては、物忘れなどをご家族に指摘されたり、自分でも変だなと感じたりしたら、早めの受診をお勧めします。早い時期のほうがさまざまな対応ができる可能性があるので、不安を感じたら気軽に受診していただきたいです。