前田 稔彦 院長の独自取材記事
まえだ耳鼻咽喉科クリニック
(橿原市/大和八木駅)
最終更新日:2023/07/28

近鉄大阪線・近鉄橿原線大和八木駅から徒歩約5分とアクセス良好な「まえだ耳鼻咽喉科クリニック」。開業から20年にわたり、地域の健康を守り続けている前田稔彦院長は、奈良県に生まれ、耳鼻科の医師だった父と同じ道を選んだ。医院には専用駐車場を12台分備え、車での通院も可能。体が不自由な人のためのエレベーターやバリアフリートイレ、院内専用の車いすも用意して、患者ファーストに努めている。耳鼻咽喉科、アレルギー科の診療を行う中で、前田院長が特に力を入れているのが、薬剤耐性(AMR)対策だ。体の中の菌を確認しながら、適切に抗生物質を投与するなど、患者の健康はもちろん、将来の医療のためにも尽力し続ける前田院長に、現在の医療や今後の展望などについて話を聞いた。
(取材日2023年7月7日)
地域の健康を守る耳鼻咽喉科として貢献し続ける
開業から20年を迎えたそうですね。

2003年4月19日に開業して、今年でちょうど20年。21年目の年になりますね。開業した時は、まさか20年も続くとは思っていませんでした。よく続いたものです(笑)。父が橿原市で開業していたので、場所は変わっていますけれど、それを引き継いだ感じになりますね。もともとは工学に興味があって、大学は工学部に進んだのですが、やはり、父の背中を見ていたからでしょうか。兵庫医科大学に再入学しました。父が医師でなければめざさなかったと思いますし、父が耳鼻咽喉科でなければ耳鼻咽喉科も選んでいないと思います。
医院にはどんな患者さんが多く来られていますか?
地域全体でいうと、ご高齢の方が多いですね。主訴でいうと、梅雨の時期はめまいを訴える方が多いです。気圧が低くなると、三半規管のバランスが崩れるんですよね。通年でいいますと、やはり耳鼻咽喉科ですから、アレルギーでお悩みの方が多いです。スギやヒノキがメインで、時期によっては、ブタクサなどイネ科の雑草ですね。春だけだった花粉症もだんだん通年性になっているのを感じています。他のアレルギーでいいますと、ダニなども季節は関係ないですしね。
アレルギーに関して、予防できることがあれば教えてください。

大人になると難しいですが、衛生仮説といって、乳幼児期にアレルギーになるような物質を体に受けると、アレルギーの発症を抑えることにつながるとされています。例えば、家畜と一緒に生活するなどですね。昔は自分の家や隣の家に牛やヤギがいることも珍しくありませんでした。家畜の糞にエンドトキシンという成分が含まれていて、知らないうちに吸っていたんですよね。そういうものを乳幼児期に吸っていると、アレルギーが出にくくなるといわれています。ところが最近は、「子どもがなめるからきれいにしておこう」などと、あまり汚い物がなくなってきています。周りの物がきれいになることで、自分の免疫を使うことが少なくなってきているのも、アレルギーの方が増えている要因だと思いますね。
今後の医療のためにも、薬剤耐性対策に注力する
20年の間、たくさんの方が来院されていると思いますが、印象に残っている患者さんはいますか?

遠いところから来てくださった人は印象深いですね。例えば、三重県の熊野市から、インターネットの情報やホームページを見て来院してくれた方もいらっしゃいます。時間をかけてまで当院に来てくださった方がいることはありがたいですね。患者さんが喜ぶ姿を見るためにも、より一層精進していきたいです。
医院として今後めざすことは何でしょうか?
今、薬剤耐性(AMR)というものがあります。抗生物質の効果が見込めないという問題のことで、これが最近増えているんです。今は薬ができましたけれど、ここ数年の新型コロナウイルスというのは、抗生物質の効果が見込めませんでした。それと同じで、薬剤に耐性がある菌が増えると、その菌の治療に抗生物質が適さないことがあるんです。例えば、手術でもそうですよね。手術後、感染症を起こさないために抗生物質を用いますが、その効果が見込めなければ命に関わることもあります。そうならないように、余計な抗生物質をあまり使いすぎないように、という指導を厚生労働省が行っています。私もその考えに共感していて、医師としてのライフワークにしています。
抗生物質は使ってはいけないものなのでしょうか?

そうではありません。必要があれば投与するべきだと思います。でも、いわゆる風邪というのは、たいていの場合ウイルスによるものなので、抗生物質は適さないケースが多いんです。それでも風邪には抗生物質を処方されることが多いですよね。20~30年ほど前は、耐性菌というのがあまり出てきていなかったんですよ。だから、とりあえず抗生物質を飲んでおいたらいいだろうという考えが広がってしまったのではないかと考えています。それで今になって、菌が耐性をつけて、抗生物質で治療しづらいケースが増えているように感じています。菌も生き残ろうとしますから、薬の進化といたちごっこになり、菌が耐性を持つスピードのほうが速くなってしまう、抗生物質が適さないケースが増えつつあるというのが現状だと思います。
患者への丁寧な説明で、適切な服薬につなげる
抗生物質を適切に使うことが大事ですね。

そうですね。必要なことを見極めて「適切に」処方するということを心がけています。例えば、がんかもしれない方に、「あなたはがんかもしれないから、とりあえず抗がん剤を飲んでおきましょう」なんてことはしませんよね。がんかどうか適切に診断してから抗がん剤治療に入るわけです。それと同じで、ちゃんと菌が存在することを確認してから処方しています。そうしていても、何年か先に耐性菌はできてしまう可能性はありますが、そのスピードを少しでも遅らせられれば、という思いで診療していますよ。
医師から抗生物質を「飲みきってください」と言われますが、なぜでしょうか?
抗生物質を飲みきるのはとても大事なことです。例えば抗生物質を飲み、菌が100から20ぐらいまで減ったとして、そこで薬を飲むのをやめてしまうと、残った20の菌はすでに少し抵抗のある菌ですから、さらに強い菌として増えてしまいます。だから、最後まで飲みきることで100を0にするのが理想です。服薬遵守というのですが、医師は菌の量を想定して抗生物質の量を設定していますから、途中でやめてはいけません。そのためには、患者さんに「なぜ、この薬を飲まなければいけないのか」ということをしっかり理解してもらう必要があります。だから、服薬遵守率を上げるのはなかなか難しいことなのですが、当院では、その菌をモニターで見てもらうようにしています。こういう菌がいますから、この菌を完全になくさないないといけませんよね、と。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

風邪をひいたら、抗生物質を希望されるケースが多いんですよ。「風邪は抗生物質で治療できる」というイメージがあるのだと思います。当院では、「体の中にある菌をお見せすることができますので、それから抗生物質を使うか決めていきましょう」と、提案をします。モニターでしっかり菌を見ていただいて、それをきっかけに、患者さんにも勉強してもらえたら、お互いにいい関係を築けると思います。患者さんが安心し、納得していただける状況で投薬や治療を行っていきたいですからね。そんなふうに薬剤耐性(AMR)対策を意識しながら、患者さんが、そして人類全体がちょっとでも長く平和に暮らせるようにするというのが、医師としての最後の仕事かもしれないと考えています。