阿瀬川 孝治 院長、吉家 洋 さん、伏木田 怜奈 さんの独自取材記事
汐入メンタルクリニック
(横須賀市/汐入駅)
最終更新日:2024/12/10

汐入駅から2分の場所にある「汐入メンタルクリニック」は、医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師、作業療法士、事務スタッフなどおよそ40人のスタッフによる「チームワークを重視した、地域密着型の精神科診療」を提供している。精神科を専門とする阿瀬川孝治院長は、精神医学的な諸問題に対して多くの診療領域、多くの医療職域が連携し合う「リエゾン精神医学」を学び、多角的な視点から立体的に精神科に関わる諸問題を照らしてきた。今回は精神保健福祉士としてデイケアサービスをけん引する吉家洋さんと、同じく精神保健福祉士の訪問看護を担当する伏木田怜奈さんを交えて、各機能の特徴や診療の際に心がけていることを語ってもらった。
(取材日2024年10月8日)
外来や精神科デイケアで幅広いサポートを提供
こちらのクリニックの特徴を教えてください。

【阿瀬川院長】当院は前理事長の伊丹昭先生が2001年に開業しています。総合病院の精神科は完全予約制で午前中のみの診療で終わってしまうことが多く、予約が取りにくい傾向がありますが、当院は開業当初から神経科、精神科、心療内科の診療を月曜の朝9時から土曜の18時まで行っています。また、精神的に追い詰められてしまっている患者さんをできる限りお待たせしないように、現在は6人の常勤医師が曜日や時間を分担しながら切れ目なく診療するようにしています。クリニックの柱は大きく分けて4本です。まずは医師が診療を行う外来治療・訪問診療、公認心理師による心理カウンセリング、精神科リハビリテーションを行うデイケア、そして地域に出向く訪問看護。精神保健福祉士や看護師など多職種のスタッフが連携を取りながら幅広い患者さんを診ていることが大きな特徴です。
近年、外来で訪れる患者さんに目立った傾向はありますか?
【伏木田さん】私は精神保健福祉士として外来の補助も行っていますが、近年は若い患者さんが増えている印象です。ひと昔前は精神科に行くことに抵抗を感じてしまう人がいましたが、今は不調を感じたら症状が重くなる前に足を運んでくださる方が多いです。ご家族や学校の先生が背中を押してくれているケースもあり、その影響で孤立する患者さんが減っているのであればうれしいです。
【阿瀬川院長】大前提として、医療機関であるわれわれの使命は患者さんの命を守ること。「生きることに疲れた」など、モヤモヤした気持ちを吐き出すだけでもスッキリして、薬を処方せずに診療を終えるというようなことも期待できるかもしれません。当院は明るい人柄のスタッフが多いので、緊張せずに気軽に受診していただきたいですね。
皆さん生き生きとした表情をされていますが、院内の雰囲気の良さを保つ秘訣はありますか?

【吉家さん】当院は約40人のスタッフが勤務しておりますが、勤続年数が長い人ばかりなんです。長い付き合いなので、家族のようにお互いを信頼できているし、本音で会話をできていることが一つの強みなのではないかと思います。風通しの良い雰囲気を保てているのは、院長が誰よりもおしゃべりで全員とフラットに接してくれる人だからかもしれません(笑)。
【伏木田さん】スタッフ同士の関係が良くないと重い空気が患者さんに伝染してしまう可能性がありますし、情報の共有も兼ねてスタッフ同士で積極的にコミュニケーションを取るようにしています。
【阿瀬川院長】当院はスタッフ一人ひとりが「困って来ている患者さんが少しでも楽になれるように」という思いで接しています。退職が少ないのも、真面目に医療に携われる場と思ってもらえているからかな、という手応えがあります。今後もチームワークを大事にしていきたいですね。
専門のスタッフが就労支援や訪問看護も行う
精神科デイケアではどんなことを行っていますか?

【阿瀬川院長】当院のデイケアは精神科の治療を受けている方がリハビリテーションを行う通所施設です。プログラムと呼ばれるさまざまな活動を通して日常生活や社会生活に必要な力や自信の回復・獲得をめざします。それは薬を処方することよりも大事な機能であると考えています。
【吉家さん】一緒に創作活動やサークル活動を行うプログラムもあれば、スーツを着用して参加していただく就労支援プログラムもあります。10代から80代まで年齢層は幅広く、外来の主治医からの紹介で入ってこられる方が多いですが、他院に通院しながら当院のデイケアをご利用いただくことも可能です。
就労支援プログラムの特徴を教えてください。
【吉家さん】当院は医療機関なので、仕事の実務スキルを磨くというよりは、ご自身の病気や特性について理解していただき、安定した職業生活をするために必要な力を身につけること重視しています。また、アメリカの精神的困難を抱えた人たちによってつくられたリカバリープログラム「WRAP(元気回復行動プラン)」を担当するスタッフたちと一緒に、自分の強みや課題に気づくためのサポートをしています。一方でハローワークと連携しながら就職をお手伝いして、就労された後も私たちの方から職場に伺ってお仕事ぶりを見守るなど、アフターフォローにも力を入れています。勤務先は幅広く、障害者手帳をお持ちの方を対象にした雇用で働かれている方もいれば、病気を伏せて働かれている方もいます。
訪問看護はどのような方を対象にしていますか?

【伏木田さん】慢性的な統合失調症や双極性障害といった疾患をお持ちで、日常生活に人の支えが必要な方々を対象に、こちらからご自宅に訪問してケアやサポートを行います。多職種のスタッフが在籍する当院の特徴を生かし、一般的な訪問看護ステーションとは違って看護師と精神保健福祉士のペアで訪問することが特徴です。患者さんを多角的に看ることができますし、さまざまな連携がスムーズにできることがメリットです。幅広い年代の方々にご利用いただいておりますが、心がけているのは症状の回復を焦らず一人ひとりのペースに合わせること。こちらからあれこれと行動を指示したり、元気を引き出そうとしたりするのではなく、ご本人から自発的に出てくる希望を大切にしたいと考えております。
本質的な疑問を忘れず、チーム医療を展開する
デイケアの業務や訪問看護を兼任されている方もいると聞きました。

【阿瀬川院長】そうですね。訪問看護で関わった方々が、社会活動に復帰するための次の一歩として、精神科の専門知識を備えたスタッフが集まる当院のデイケアを紹介することが多いです。その場合、訪問看護で顔見知りになったスタッフがデイケアにも在籍していれば、患者さんも安心して溶け込めるのではないかと考えています。伏木田のように外来の補助と訪問看護を兼任しているスタッフもいますし、各機能を兼任しているからこそ一人ひとりに合った医療をスムーズにご提案させていただくことが可能です。
普段、どんなことを目標に患者さんたちと接していますか?
【吉家さん】精神科デイケアでは、最初の時点で何がしたいのか、目標が曖昧な方が多いのですが、そういう方が、私たちのケアを通して自発的にやりたいことを見つけられればいいなと思いながら日々業務にあたっています。どんどん笑顔が増えて活動的になっていったり、最初はここに来るだけで大変だった方がだんだん息抜きの場として使ってくださるようになったり、そんな姿が見られる場所にしていきたいです。
【伏木田さん】訪問看護においては、例えば最初は家から出られない状態でサポートに抵抗を示されていた方でも、私たちに心を開いてくださるように、時間をかけて少しずつ関係性を築いていくように努めています。元気を回復していくことができれば、症状へのとらわれが和らぎ、外に出かけたり、友達と遊んだりと、できることが増えていくと考えられるので、皆さんが元気を取り戻すための過程に伴走していけるところにやりがいを感じています。
最後に、今後の展望や展望を教えてください。

【阿瀬川院長】当院は開業から20年以上たち、精神科医療に熟練したスタッフがたくさん在籍しております。今後も「何のためにやっているのか?」「本当の意味で患者さんのためになる医療をしているのか?」といった本質的な疑問を忘れず、今後も少しでも長く地域の方々に貢献していきたいですね。「自分は良いことをやっているのだ」と自己満足に酔うことなく、今後もチームワークを大事にしながら、一人でも多くの方を救えるように力を尽くしていきます。