森本 剛彦 副院長の独自取材記事
MTクリニック
(名古屋市千種区/砂田橋駅)
最終更新日:2025/08/08

住宅街の一軒家で、まるで自宅のような温かさに包まれる「MTクリニック」。2001年の開業以来、地域に根差した医療を提供してきた同院に、2020年から森本剛彦副院長が加わった。「受ける側を経験しているから、患者さんの気持ちがわかるんです」と語る森本副院長は、自ら胃や大腸の内視鏡検査を受け、後輩指導の一環で練習台にもなってきたという。その経験から生まれた「声をかけることを大切にする」診療スタイルは、不安を抱える患者にとって大きな安心につながっている。内視鏡検査の豊富な経験と、病診連携でのスピード感ある対応で地域医療を支える森本副院長に、検査への取り組みや診療への想いを聞いた。
(取材日2025年6月30日)
父の想いを継ぎ、専門性を加えて発展させる
こちらのクリニックの歴史について教えてください。

2001年に父が開業したクリニックで、私が大学5年生の時でした。父は愛知県がんセンターで消化器外科の副部長として膵臓がんを専門に手術をしていましたが、「どんなに手術をしても再発する方もいる。最後は自宅で過ごしたいという願いを叶えられるように」という想いから、訪問診療をメインとした開業を決意したんです。当時はまだ訪問診療を行う医師がほとんどいない時代でしたから、がんの終末期患者さんの在宅看取りに特化した、先駆的な取り組みだったと思います。住宅街の分譲地を利便性の良さで選び、午前だけの外来と午後の訪問診療という体制で始めました。私は2020年から本格的に加わり、期せずしてコロナ禍と重なりましたが、ワクチン接種を機に地域の方々に存在を知っていただけるようになりました。
医師を志し、消化器内科を選んだ理由は?
物心ついた時から父も叔父も全員医師という環境で育ち、医師以外の仕事を見てこなかったんです。私立の医科大学に進学したこともあり、親への恩返しの意味でも将来的にクリニックを継ぐことを考えていました。そこで逆算して考えた時、クリニックレベルでもできる手技が必要だと。循環器ならカテーテル治療はチームが必要です。一人でもできて、手に職をつけられるのは消化管内視鏡だと思い、消化器内科を選びました。初期研修先の中部労災病院で結果的に10年以上みっちり経験を積みました。医師の人数が少なかったので症例が数多く回ってきて、内視鏡だけでなく肝生検、TACE(経カテーテル肝動脈化学塞栓療法)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)など、大学なら分業になるような手技もすべて経験できたのは財産です。
クリニックの特徴的な雰囲気について教えてください。

玄関を開けた瞬間、まるで誰かのお宅に入ったようなホッとする雰囲気があります。待合には院長の趣味である写真や患者さんの絵画作品が飾られ、アットホームな空間です。実は院内の棚は私がDIYで作ったものなんです。プラモデル作りが好きだった延長で、今はインターネットで材料を買って自分で組み立てています。クリニックのホームページも自分と妻の2人で協力して作成・管理していて、薬剤師の妻は裏方としても支えてくれています。コンパクトな院内ですが、2001年当初から電子カルテを導入し、私が来てからはクラウド型に変更してDX化を進めました。胃カメラ、大腸カメラ、エックス線撮影など、小さいながらも必要な設備はすべて整えています。父が始めた温かい雰囲気は大切に引き継ぎながら、効率的で質の高い医療を提供できる環境を整えています。
経験に基づく声かけで患者の不安を和らげる
内視鏡検査について、どのような特徴がありますか?

上部内視鏡、下部内視鏡の検査を数多く経験してきました。日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医として、専門的な観点からわかりやすい医療を提供しています。胃カメラは経口・経鼻どちらも対応し、大腸カメラではポリープの日帰り切除も可能です。リアルタイムでモニターを見ながら「これから取りますね」「耳垢みたいな大きさでしょ? でも放っておくとがんになることもあるから」と例え話を交えて説明していきます.雑草も大きくなってからの処理よりも小さいうちに取ったほうが楽なのと同じでポリープも、大きくなったりがん化する前に、早期に対処することの大切さを伝えています。検査は予約制で平日の午後に行います。麻酔を使った検査にも対応し、嘔吐反射が強い方や痛みに敏感な方にも安心して受けていただけるよう工夫しています。
検査時に心がけていることは何ですか?
とにかく声をかけることを大切にしています。実は私自身、経鼻カメラも経口カメラも受けた経験があるんです。中部労災病院時代には研修医の指導で「私を診ていいよ」と自ら練習台になっていました。「もっと押しな、上げな」と指導しながら検査を受けると、患者さんの不快感がよくわかります。ある時、部長に「7割終わったところで『あと3割ですよ』と言われるとゴールが見えて気が楽だった」と教えていただきました。それ以来、「今半分まで来ましたよ」「もうすぐ食道を見て終わりますからね」と進行状況を伝えるようにしています。検査中ずっと黙っていると患者さんは不安になります。会話しながら検査することで、余裕があることも伝わりますし、患者さんもリラックスできると思います。
診療のモットーを教えてください。

「よく身の程を知れ」という武田信玄に仕えた武将・小幡虎盛の言葉を胸に刻んでいます。どんなに頑張っても自分の力量以上のことを無理してやることはしない。だから患者さんの数を増やすにしても上限を持って、一人ひとり丁寧に診られるよう心がけています。病診連携では、紹介状の質にこだわります。当院でできる検査を事前に行い診断をつけ、大腸がんなら転移の有無まで確認してから紹介する。そうすることで患者さんは同じ検査を繰り返さずに済み、紹介先ですぐに治療に入れます。待ち時間を減らすことも重要で、予約時間どおりに診察できるよう調整しています。
地域に根差し、できることを全力で提供できるように
現在の診療体制について教えてください。

スタッフは全員パートタイマーで、看護師は午前2人、午後1人の体制です。小さいクリニックだからこそ風通しの良さを大切にし、トラブルがあったとしても犯人探しではなく、同じミスを防ぐための改善策を考えるようにしています。薬剤師の妻は、受付のバックアップやホームページの作成、管理など裏方を支えてくれています。診療内容は本当に多岐にわたり、便秘、腹痛、糖尿病、高血圧、喘息、さらにはけがまで診ることもあります。「ここ消化器なんだ」と驚かれることもありますが、消化器内科がメインでありながら、「町医者」として幅広く対応しています。名古屋医療センターや名古屋市立大学医学部附属東部医療センター、愛知県がんセンターとはウェブ予約システムで連携し、その場で予約を取れるようにして患者さんの負担を減らしています。
今後の展望をお聞かせください。
与えられた場所でベストを尽くすというスタンスで、今の規模で質の高い医療を提供し続けたいと思っています。ただ、内視鏡検査の数はもう少し増やしていけたらと考えています。父が始めた在宅医療から、私の代では外来と専門的な検査を中心にシフトしましたが、患者さんとの温かい関係性は変わらず大切にしていきたいです。新型コロナウイルス感染症を機に「ここはクリニックだったんですね」と気づいてくださった方も多く、今後も地域の方々に「相談しやすい町の医者」として認識していただけるよう努めます。潰瘍性大腸炎など、症状が落ち着いている方の管理や、大きな病院に行く手前で食い止められる疾患への対応など、クリニックレベルでできる専門的な医療を追求していきます。
読者へのメッセージをお願いします。

「ここはクリニックです。来てください」というのが率直なメッセージです。住宅街にあるので本当に普通の家だと思われていることも多いんですよ(笑)。でも実は、胃カメラも大腸カメラもできる専門的な検査体制が整っています。相談いただければ、できることを全力でやらせていただきます。血便があれば貧血の程度を確認し、必要な検査を行い、紹介が必要な場合も「ここまで調べました、あとはこの部分をお願いします」という形で、患者さんが二度手間にならないよう配慮します。待ち時間も少なく、予約時間どおりに診察を受けられるよう心がけています。消化器の症状はもちろん、風邪や高血圧、けがまで、困ったことがあればまず相談してください。