片岡 努 院長の独自取材記事
宇品神田クリニック
(広島市南区/宇品二丁目駅)
最終更新日:2025/02/03

宇品二丁目駅の目の前にある「宇品神田クリニック」。地域のクリニックとして親しまれてきた歴史あるクリニックを、院長の片岡努先生が2023年に承継し、アットホームな雰囲気は以前のままに、豊富な臨床経験を生かして、同院を訪れる患者の幅広い症例の診療にあたっている。以前勤務していた大学病院では臨床のほか、若手医師の指導や学生への授業を行い、大学院ではPTSDの理論解明につながるような研究を行うなど、専門分野での知見も深い片岡院長。一方で、人柄は柔和かつ穏やかで「患者さんに笑顔になってほしいので、まずは自分が笑顔でいることを心がけています」との言葉どおり、笑顔とやわらかな物腰が印象的だ。そんな片岡院長にクリニックの特徴や今後の展望について聞いた。
(取材日2024年12月12日)
地域に根差した切れ目のない医療をめざして
こちらのクリニックの特徴を教えてください。

当院は精神科、心療内科のクリニックとして、1998年に前院長が開業しました。25年にわたって地域の心のよりどころとして親しまれてきましたが、2023年の前院長の引退に伴い、後を引き継ぎ、私が院長に就任しました。その後、建物の老朽化のためにすぐそばに移転しましたが、前院長がこのクリニックに込めた思いも大切に残しつつ、地域の方々の健康に携わる使命を感じながら日々の診療を行っています。当院に来られる患者さんは、10代から90代までと幅広いです。ご高齢の患者さんは物忘れや認知症を伴う妄想などの悩み、働き世代だと仕事のストレスからくるうつや不眠、若年層の方は思春期特有の心の問題や不登校など、さまざまな困り事でいらっしゃいます。
長らく大学病院や基幹病院などで勤務されていたそうですね。
県立広島病院や広島大学病院などでの勤務が長かったですね。途中で大学院に籍を置き、PTSDに関する研究に従事した経験もあります。勤務医時代には異動などがある関係で、患者さんの治療の過程を最後まで見届けることができないこともあり、そのたびに歯がゆさのようなものを感じることがありました。そんな時に「宇品神田クリニック」を経営していた先代の院長が高齢のために引退するという話を聞き、開業すれば不安を抱えて診療に訪れた患者さんの治療を末永く見守ることができると思いました。自分自身が学生時代からお世話になってきた南区ということもあり、地域に根差した切れ目のない医療を提供することをめざして、開業に踏みきりました。
精神科の治療はどのように行われるのでしょうか?

患者さんの主訴はさまざまですので、同じ治療ができるわけではありません。当院では患者さんから話を聞いて、行動の工夫や呼吸方法なども提案しながら一緒に考える「精神療法」、薬を用いて症状の改善をめざす「薬物療法」、生活リズムを整えたり人間関係を整理したりして過ごしやすさを見つけていく「環境調整」の3つの方法をメインに、治療方針を組み立てます。薬物療法においては薬に対して不安がある方も多いので、副作用やリスクも丁寧に説明し、ホームページには使用薬物の一覧も掲載しています。副作用が比較的少ない漢方を処方することもありますね。また、週に2回勤務している公認心理師による心理検査やカウンセリングなども行っています。「うまくいかないことが多くて、それは自分の考え方や特性に問題があるのかもしれない」と悩む方には検査を勧めることもあり、ご本人の同意があれば予約して受けていただいています。
共感と受容を大切にした診療がモットー
先生が精神科の医師を志した理由を教えてください。

医師をめざそうと思ったのは、学生時代に親族が病気になったことがきっかけです。人体の不思議を解明したいと興味を持ち、医療の道を志すようになりました。医学部で学ぶようになり、外科や内科、耳鼻咽喉科などさまざまな診療科を回りましたが、精神と脳の関係が特に面白いと思ったのと、数値で測れないところも興味深いと感じて精神科を専門に選びました。実は、外科に進みたい気持ちもあったのですが、手袋にかぶれてしまうという体質的な問題があり、諦めたというバックストーリーもあるんです。
研修医時代の印象深いできごとはありますか?
実際に医師として現場に出ると、心の悩みを抱える人は好奇や偏見の目にさらされることも多く、傷つきやすいシーンが多いことに気づきました。治療がつつがなく進む患者さんもいれば、なかなか回復が見込めず苦しい思いをしている患者さんもいます。また、一進一退を繰り返す方もいます。それぞれの患者さんに寄り添うことで、いつか笑顔を取り戻したいと思いながら、さまざまな経験を積む日々でした。そんな中で、妄想や激しい思い込みから極端な行動を取っていた患者さんが治療を経て、治療前の様子を思い出話として語られる様子を目にした時は、感慨もひとしおでした。また、そういう瞬間に立ち会うことが、一番のやりがいにつながっていました。
診療の際に、心がけていることを教えてください。

診察時には共感と受容を大事にし、患者さんの背景にあるものを探ります。普段の家庭環境や仕事の内容、食生活や暮らし方など、どこに治療への糸口があるかわからないため、なるべく多角的に話を聞くようにしています。これまでどんな人生を歩んできたかもヒントにつながることがあります。生きているといろいろなことがありますし、まったく不安を感じない人はいません。私たちは患者さんが何に困っているのかを聞き取って、実生活への影響を少なくするためにどうするかを考えます。診察には時間の限りもあるので、事前に問診票に状況や症状を書いてもらうなどの工夫もしています。
幅広い経験と知識で一人ひとりに合った治療方法を提案
クリニックとしての強みを教えてください。

あえていうなら「バランスの良さ」でしょうか。私自身が大学病院や地域の基幹病院での勤務が長いので、さまざまな症例の患者さんと向き合い、幅広い経験を積んできました。薬についてもごくまれなケースを除いて、必要な患者さんに適切なご提案をすることができます。そのため、もし困り事がある場合はまず来院いただければ、一通りの診療をすることができます。また、アルコール依存など専門機関の力が必要な心の病気などは、提携病院に紹介することもできます。最近多いのは、「自分は発達障害かもしれない」という不安のご相談です。当院は地域のクリニックですので、まずお電話などでご相談いただければ、あまりお待たせすることなく初診の予約を取ることができますよ。
薬が苦手という患者さんには、どのような治療方法がありますか?
薬が苦手とおっしゃる方はわりと多いようです。薬を服用するたびに「ああ、私は今病を患っているんだ」という現実が押し寄せ、つらい気持ちになって落ち込んでしまう人もいるのではないでしょうか。そういった患者さんで、統合失調症やそううつ病を患う方には、クリニックで注射をすることもできます。注射は内服と違って毎日行うものではなく、月に1回、種類によっては3ヵ月に1回注射するだけですので、「病気なんだなと」感じる頻度を減らせるかもしれません。なお、注射の効果や副作用については、毎日薬を内服したものと同じ状態が期待されます。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

精神科や心療内科というとハードルが高いイメージがあるかもしれませんが、心の病は性差を問わずどの年齢の方でもなり得る病気です。まずはお問い合わせいただき、何がつらいか、それによって生活にどんな影響が出ているのかなどをお話しください。お話を聞いた後、ライフスタイルや仕事環境、患者さんご本人の思いを尊重しながら、適切な治療のご提案をいたします。もちろん納得していただいてから治療を始めますので、薬や検査についてもどうぞお気軽にお尋ねくださいね。初診の場合はおおよそ1週間以内には予約が取れますので、普段の生活で不安や心配がありましたら、ぜひ一度ご相談ください。