尾崎 貴視 院長の独自取材記事
おざきこどもクリニック
(観音寺市/観音寺駅)
最終更新日:2025/01/23

JR予讃線・観音寺駅から自動車で約5分。明るい緑色の屋根を冠したレンガ調の建物が、「おざきこどもクリニック」だ。スーパーマーケットの真正面という立地で、約40台分の広大な駐車場も備えている。同院は2001年の開業以来、西讃地区の小児科医療を力強く支えてきた。「赤ちゃんが好きだから小児科に進んだ」と話す尾崎貴視院長は、温かい笑顔が印象に残る医師。かかりつけ医としての日常的な診療だけでなく、小児期のBMIの変化を記録・管理する「Myカルテ」の普及活動にも取り組んでいる。「子どもたちに、もっと自分の健康状態を知ってほしい」と言葉を尽くして語る尾崎院長に、開業までの道のりや子どもたちの健康を守る活動について、詳しく話を聞いた。
(取材日2024年12月18日)
子どもたちの持つ力を、最大限に生かす手助けがしたい
小児科に進まれた理由やきっかけはありますか?

小さい頃から赤ちゃんが好きで、小児科に進んだようなものですね。今でも赤ちゃんが診察に来ると、かわいくてずっとお話ししたくなります(笑)。小児科の医師の仕事を通して、子どもたちにずっと寄り添っていきたい。彼らが困っていれば、手助けをしたいという気持ちで診療を続けています。子どもはどんどん成長して大きくなって、未来の社会をつくっていく力の根源のような存在です。中には生まれつき障害のある子や、大きな病気をする子もいますが、すべての子どもたちが本来持つ力を最大限発揮できるよう、サポートすることが小児科の医師の役割だと思っています。
開業までの道のりを教えてください。
私が中学生の頃に香川医科大学(現・香川大学医学部)が開学し、NICU(新生児集中治療室)も開設されたと耳にして、地元香川県からの進学を決めました。大学の小児科学講座で初代教授を務めていた恩師は、今も私の目標です。子どもたちには愛情深く、子どもの病気には真摯に向き合い、さらには新生児学の発展にも全力を注がれる方でした。1993年に大学を卒業した後は、大学の附属病院や愛媛県の中核病院などを経て、再び大学へ。敬愛する恩師の退官と同時期に、故郷・観音寺市で開業しました。クリニックの設計を依頼したのは、岡山県の中核病院で小児科病棟を設計した建築士さんです。開業から20年以上たちますが、さすがはプロの仕事で、使いやすくきれいな状態が続いています。
クリニックの設計についてもお聞かせください。

受付カウンターを囲むように、待合室から診察室、処置室まで進める回遊式の造りになっています。独立した第2診察室と待合室は、近年の感染症対策としても有用です。院内の床材は、子どもが転んでも痛みを感じにくい、クッション性のあるものを採用。キッズスペースのマットは年に1〜2回交換して清潔感を維持しつつ、デザインもその都度、変更していますね。清潔感は重要ですから、私は毎朝5時に起きてコンピューターの電源を入れたら、玄関周りと駐車場の掃除を行うことで、皆さんが気持ち良く来院できるよう取り計らっています。
健康状態を記録・管理する独自の手帳を発案
クリニックとして、力を入れていることはありますか?

観音寺市は、小児科専門の開業医が非常に少ない地域です。乳幼児健診や予防接種、また身近な風邪やインフルエンザなどの外来診療に幅広く対応しながら、地域医療への貢献に力を注いでいます。同時に、私自身がライフワークとしているのは、「Myカルテ」という健康手帳の普及活動です。私が中心となって企画・発案し、2014年から西讃地区限定で活用されています。主には、生後3ヵ月から18歳になるまでのBMIの変化を記録するもので、最初はB5サイズのバインダー形式でしたが、今は持ち運びやすいようにと、母子手帳の中に組み込まれました。西讃地区では、乳幼児健診の際に保健師さんが「Myカルテ」の使い方をお母さんに説明し、健診のたびに子どものBMIをチェックします。標準的でない体格は、見た目だけで判断できるものではありません。BMIの変化を見ながら、その時々の子どもの健康状態を正しく知ることが大切です。
BMIの記録を続けると、どんなメリットがありますか?
香川県では、小学校4年生の時に小児生活習慣病予防健診が行われます。健診で肥満と判定された場合も、「Myカルテ」に蓄積されたデータを見れば、BMIの推移を同時に確かめられるでしょう。4年生なら自分の身長・体重からBMIを計算して、グラフに表すこともできるでしょうから、その年齢になったら自分で「Myカルテ」を記入して、自分の健康状態を認識、把握してほしいと思います。肥満を防ぎ、生活習慣病を防ぐことができれば、その子の人生が変わりますから。中には、「Myカルテ」の利用を通じて高度肥満を自覚し、食事を改善して標準的な体格を取り戻した子どももいました。将来的には教育現場にも「Myカルテ」を導入していただき、養護教諭や校医の先生、地域の保健師さんとも一緒に健康教育に取り組んでいきたいです。
「Myカルテ」を発案したきっかけはありますか?

香川県は、糖尿病の受療率が群を抜いて高い県です。小児科でも何かできないかと調べていた際に、東京のある大学教授が「DOHaD(ドーハッド)」という概念について講演された記録を発見しました。開業から9年目を迎えて、三豊・観音寺市医師会の理事にも就任した2010年のことです。「胎児期の栄養不良が、生活習慣病などの発症リスクに影響する」という講演内容に大きな衝撃を受けた私は、一切面識のなかったその先生に、香川県での講演を依頼。なるべく早い段階から、子どもの健康管理に介入する必要性を実感し、先生にもご指導いただきながら「Myカルテ」の作成を開始しました。既に同様の取り組みが始まっていた、長野県飯田市への取材旅行も実施しましたね。作成にあたっては、当時の医師会の会長も「私が責任を取る」と発言してくださって、実用化することができました。「Myカルテ」は、本当に多くの方々のご協力あってのものなんです。
自分の健康状態を知ることで、次の世代の健康も守る
「DOHaD(ドーハッド)」という概念について、もう少し詳しく知りたいです。

例えば痩せ願望を持つお母さんが、妊娠中に十分な栄養を取らないと、おなかの中の胎児は飢餓状態になります。胎児は一部の器官を犠牲にしてでも、脳に栄養を送り込もうとしますので、生まれる前から膵臓や腎臓などの機能に影響が生じてしまうのです。そして、生まれた後は普通に過ごしていても体が音を上げて、糖尿病や高血圧症などを発症しやすくなります。私は小児科の医師ですから、母体の栄養不足が胎児に影響するという事実をより広く周知して、これから生まれてくる子どもたちの健康サポートにつなげていきたいと、いつも考えています。
そのためには、いずれ親になる子どもたちへのアプローチも必要になりますね。
そのとおりです。子どもたちが思春期を迎えたタイミングで、栄養バランスの良い食事と適度な運動、良質な睡眠を意識する必要性を説き、その思考と生活習慣をさらに次の世代へと継承させることが重要です。小学校4年生で行われる小児生活習慣病予防健診は、ちょうどその意識改革につながると思っています。「家族性高コレステロール血症(FH)」という病気をご存じでしょうか。これは遺伝的にLDLコレステロール値が高くなる病気で、日本ではほとんど知られていませんが、その発症率は約300人に1人といわれています。放置すれば、家庭でも社会でも責任が増す50歳前後で、心筋梗塞を起こす可能性が高くなります。小児生活習慣病予防健診で血液検査を実施し、FHを早期に発見できれば、10歳から治療を始めることが可能です。子どもがFHと診断されれば、その両親の早期治療にもつながり、家族全員が救われる思いをするでしょう。
さまざまなお話をありがとうございました。最後に、読者へのアドバイスやメッセージをお願いします。

子どもも親も、自分の健康を自分で知ることを心がけましょう。「Myカルテ」や小児生活習慣病予防健診は、そのきっかけとなり得るものです。十分に活用し、自分の健康状態を正しく知ることができれば、次は「何をすれば良いか」を考えられるようになります。特に、これから子どもを産むお母さんは次世代に悪影響を残さないためにも、日々の生活習慣を見直すようにしてください。過度なダイエットは禁物です。自分の健康は、子々孫々の健康にも影響するということを理解して、規則正しい生活を送っていただきたいと思います。