成田 敦 院長の独自取材記事
永覚Kidsクリニック
(豊田市/末野原駅)
最終更新日:2025/12/08
豊田市の住宅街にある「永覚Kidsクリニック」。院長の成田敦先生は、名古屋大学医学部附属病院で10年以上にわたり小児がん治療に携わってきた小児血液腫瘍の専門家だ。「子どもたちには常に敬意を持って接したい」という言葉どおり、一人の人間として子どもと向き合う姿勢を何より大切にしている。豊田市で生まれ育った成田院長は、「いつか地元に恩返しを」という思いを胸に、2025年4月に前院長の梶田智子先生からクリニックを継承。地域の基幹病院や大学病院で数多くの患者と家族に寄り添ってきた日々を胸に、今は地域の子どもたちの診療に力を注いでいる。これまでの学びを礎に新たな一歩を踏み出した成田院長に、地域医療への思いと診療の道しるべについて聞いた。
(取材日2025年10月15日)
地元への恩返しと恩師への感謝を胸に開業
2025年4月に開業されたばかりですが、経緯を教えてください。

私の地元は豊田市で、クリニックは生まれ育った場所から車で10分ほどの所にあります。高校まで豊田市で過ごし、その後は県外の大学へ進学しましたが、医師になってからは主に名古屋市内で勤務医として経験を積んできました。「いつか地域に貢献できる機会があれば」と思っていた時期に、クリニック継承のお話をいただき、地元に戻る決意をしました。前院長の梶田先生が長年大切にしてこられた思いを尊重し、クリニックの名前や内装はそのまま引き継いでいます。長く勤めてくださったスタッフも変わらず支えてくれており、地域医療を守る上で本当に心強い存在です。
先生のご経歴と専門分野について伺います。
筑波大学を2005年に卒業後、江南厚生病院で研修を受け、感染症やアレルギーなど幅広い疾患に向き合いながら、小児科医としての基礎を築きました。その後、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院を経て名古屋大学医学部附属病院へと勤務先を移し、2010年から2025年3月まで、小児がんの診療に専念してきました。名古屋大学医学部附属病院は、小児がん拠点病院として日本全国から難治の小児がん患者さんが紹介される施設です。臨床に加え、大学教員として研究・教育にも携わり、先端の医療にふれながら多くを学ぶことができました。名古屋で血液腫瘍の診療に携われたことは、私にとって大きな財産であり、ご指導いただいた恩師や支えてくれた仲間への感謝は尽きません。
診療体制で工夫されている点はありますか?

感染症対策として、発熱のある患者さんと一般診療の患者さんの動線を分けています。発熱のある患者さんは専用入り口からご案内することで、院内での接触を防ぐよう配慮しています。また、ウェブ予約システムを導入し、待ち時間の短縮や院内の混雑緩和にも取り組んでいます。今後も患者さんとご家族の負担が少しでも減るよう、環境づくりを進めていきたいと考えています。内装は前院長が大切にされていたスタイルをそのまま受け継ぎ、子どもが落ち着いて過ごせる温かい雰囲気を大切にしています。キッズスペースも好評で、大学病院で勤務していた頃にお世話になったチャイルドライフスペシャリストという、小児医療の心理社会的支援を行う専門家に絵本を選んでいただきました。
大学病院レベルの専門性を地域医療に
力を入れている診療について教えてください。

感染症に加え、アレルギー疾患の診療にも力を入れています。喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など、身近なアレルギー疾患に対応しています。特に、血液1滴で多項目のアレルギー検査ができる機器を導入したことで、小さなお子さんでも負担を抑えて検査が可能になりました。お子さんだけでなく、親御さんご自身の検査をご希望いただくこともあります。また、5歳以上のアレルギー性鼻炎には、根治をめざす舌下免疫療法にも積極的に取り組んでいます。長期的に症状を改善し、生活の質を高めることを目標に、患者さんに寄り添いながら治療を進めています。当院は乳幼児の患者さんだけでなく、中高生まで幅広い年齢層を診ています。継承クリニックであるため、かつて通院されていた方が親となり、お子さんを連れて来てくださることもあり、地域に根差した診療の積み重ねを実感しています。
血液腫瘍の専門知識はどのように生かしていますか?
大学病院で小児がんの重症例を数多く診療してきた経験は、現在の一般小児診療にも大きく生かされています。例えば、骨髄移植を受けた患者さんでは重い感染症や免疫異常が全身に及ぶことがあり、その複雑な病態を理解するためには、感染症や免疫について深く学ぶ必要があります。こうして得た知識と経験が、日々の診療で一つ一つの症状を丁寧に見極め、重症化の兆候を逃さない姿勢につながっています。クリニックでの小児科診療の多くは軽症ですが、その中に重症化のリスクを持つお子さんが紛れていることもあります。そうした方を早期に発見し、適切な医療機関へつなぐことこそ、地域の小児科医として重要な役割だと考えています。大学病院で培った経験を地域医療に還元し、子どもたちに最適な医療を届ける“入り口”でありたいと思っています。今でも、かつてご指導いただいた恩師の視線を感じながら、日々の診療に向き合っています。
診療で大切にしていることは何ですか?

子どもには敬意を持って接するようにしています。子どもが話す言葉や仕草には、大人とは異なる感性や捉え方が表れており、小児科医として学ばされる場面が日々あります。そのため診察では、子どもが発する変化を丁寧に受け止め、誠実に向き合うことを心がけています。小さな変化に気づくためには、元気なときの姿を知っておくことも大切です。「こんなことで来てすみません」と言われることがありますが、そうした相談こそお子さんを理解する大切な手がかりになりますので、気にせず受診していただければと思っています。親御さんには、どんな小さな心配でも気兼ねなく相談していただけるよう、話しやすい雰囲気づくりと、わかりやすい説明を心がけています。
恩師への感謝と地域への思い
勤務医時代を振り返って思うことは?

江南厚生病院では、小児科医としての“いろは”を一から教えていただきました。一般小児科診療の基本はもちろん、「プロフェッショナルとは何か」という姿勢そのものを学んだ場所です。日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院では、血液学の基礎を徹底的に鍛えられました。また、病気だけでなく、患者さんの家族背景や価値観に寄り添う医療の大切さを教わりました。名古屋大学医学部附属病院では、より難治の患者さんが多く、先端の医療に日常的にふれながら診療を重ねてきました。教科書には載っていない課題に向き合い続ける中で、「どのように問題を捉え、どのように解決策を構築するか」という医師としての思考力を鍛えていただいた場所です。今の自分があるのは、これら3つの病院で出会った恩師や仲間のおかげです。いただいた学びへの感謝を忘れず、地域の子どもたちに還元していくことが、これからの自分の役割だと考えています。
これまで印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
患者さんの中には、残念ながら治療が思うように進まず、不幸な転帰をたどる方もいらっしゃいました。治療の途中で亡くなる方もいれば、治療後に再発や合併症で亡くなられる方もいます。そうした場面でご家族から「ここまで頑張れたのは先生のおかげです」と声をかけていただくことがあります。その言葉にふれる度、胸が締めつけられる思いになります。医師として「この仕事を選んで良かった」と感じる瞬間と、「もっとできることはなかっただろうか」という自問は、常に隣り合わせです。だからこそ、一人ひとりのお子さんに丁寧に向き合い、小さな変化を見逃さない診療を大切にしています。命に関わる仕事である以上、気を抜かずに取り組むという思いは、クリニックで診療している今も変わりません。
患者さんや読者へのメッセージをお願いします。

日本では少子化が進む一方で、子育てに不安や悩みを抱えるご家庭は少なくありません。病気のことに限らず、子育てで迷ったときに「ここなら相談できる」と思っていただける場所でありたいと考えています。これからも地域に寄り添い、ご家族とともにお子さんの健やかな成長を見守り、支えてまいります。また、自分が受けてきた学びを次の世代に伝えることも、小児科医としての使命だと考えています。小児科を志す医学生や若手医師には、ぜひ名古屋大学での研修を強くお勧めしたいと思います。

