大迫 政智 院長の独自取材記事
メンタルヘルスかごしま中央クリニック
(鹿児島市/天文館通駅)
最終更新日:2022/02/18
天文館通駅から徒歩1分の場所にある「メンタルヘルスかごしま中央クリニック」は、1999年に院長である大迫政智先生が開業した。精神科の疾患は、眠りの不調や憂うつ感といった初期症状の段階での治療がポイントであることから、アクセスしやすい場所を選んだという。現在は学生から働き盛りの会社員、主婦まで幅広い人々が同院を訪れている。「症状とその原因は人それぞれ。患者さんに対しては、二人三脚で作戦を立て、実行していきましょうと、なるべくわかりやすくお話ししています」と穏やかに語る院長。また意識を外に向けるためにヨガやフラワーアレンジメントなどのプログラムも実施している。「患者さんが元気になっていくことが一番のやりがいです」と語る院長に、医師をめざしたきっかけや診療スタンスなど、幅広い話を聞いた。
(取材日2021年11月18日)
眠りが浅いといった軽い症状。だからこそ来てほしい
先生が医師をめざしたきっかけからお聞かせください。
私が小学生の頃、学年で1〜5番目くらいの生徒は、私立中学に行く、という流れがあり、私もそれに倣ってラ・サール中学校に進学しました。しかし小学校では学年1位だったのに、いきなり百何番などになってしまって。頭の良い子は自己主張も強いですし、県外の生徒もいていろんな方言も飛び交う。そんな環境に最初はとても戸惑いました。そうすると人と人の信頼とはどういうものか、心と心の架け橋とはどういうことなのか、と考え始めるんですね。そしてその頃出会ったのが、統合失調症の少女の回復過程を記した本でした。詩や小説とはアプローチがまったく違って、こんな考え方もあるのか、と、大きなカルチャーショックを受けました。だから心理学者になろうと考えたんです。しかしそれを先生に言うと、「君がやりたいことは、精神科の医師じゃないとできないよ」とアドバイスされ、医師の道をめざしたのです。
クリニックの開業という形を取られたのはなぜでしょう?
しばらく勤務医を経験し、開業したのは1999年、今から20年ほど前のことです。その頃はまだ精神科のクリニックは少なく、眠れない、気分が落ち込んでいるといった時に、相談に行く場所が求められていたんです。精神病院であれば、すでに入院の必要があるような、重めの症状の方が多かったこともあります。そうなる前の軽い症状、例えば、頭痛や腹痛があり、内科をいくつも回っても原因がはっきりしないと困っている方、眠りが浅い、気が重いと悩んでおられる方たちが足を運ぶ場所があれば、うつ病などにまで進行する前に食い止められるのではないかと考えたんです。バスや電車、車でもアクセスできる場所を選んだのも、通いやすさを考えたからでした。
実際にどのような患者さんが来ていますか?
とある年齢層が突出しているというわけではないですが、20代から50代の方、男女比ではやや女性が多いですね。「眠れない」「職場でうまくいかないことがある」といった相談が多いと感じています。精神科の疾患は先ほども申し上げたように、寝つきが悪い・落ち込みがあるといった初期症状をキャッチし、うまく治療できれば、重い症状になることを防いでいけます。そういう点でも早めに来てくださるのはありがたいですね。今では学校帰りの制服姿のお子さんや、仕事帰りのサラリーマンの方などが来てくださるようになってきました。加えてテレビドラマなどでも取り上げられていることもあってか、精神科に対する心理的なハードルが下がってきたように思えます。
患者と二人三脚で「症状に対する作戦を立て実行する」
実際にどのような診察や治療を行うのでしょうか?
患者さんの状況をすべて把握しなければならないため、初診では診察前にカウンセラーが30分ほどお話を聞き、さらに私が診察をします。こちらも初診では30分ほど時間をかけます。家族の状況、職場環境、症状はいつ頃からなのか、症状に変化はあったのかなど細かにお尋ねしていくので、そのくらいの時間が必要なのです。精神科の疾患では、患者さん本人が“自分は何に困っているのかに気づく”ことが大切なのです。なので患者さんには「こういう症状なので、それに対する作戦を立て、実行していきましょう」とお伝えします。こうすることで、ゲームなどに置き換えて考えやすく、治療までの道筋を理解しやすくなるものなのです。
どのように治療していくのでしょう?
精神科に来る方は、お一人で頑張ってこられたんです。自身でどうにかしようと努力して、パワーを使い果たしておられる、本当に頑張ってこられた方なんです。だからこそパワーをまたつけるためにはどうするのかという点を、ごくシンプルに伝えるようにしています。患者さんの置かれている状況も「旦那さんに暴力を振るわれている」「職場でリストラが多くなり不安だ」などさまざま。だから作戦の立て方も人それぞれです。お薬が必要なのか、精神療法が適しているのかなどを見極めながら、患者さんと相談しつつ治療を進めていきます。もちろん薬を飲みたくないという方もおられますので、そこも患者さんの意思を尊重します。病気は結局、患者さん自身が治していくものなのです。何をどう治していくのか、それは私だけではなく患者さんも一緒に考えていくことになります。
診察時に心がけている点は何でしょうか?
時間の許す限り患者さんのお話を聞くことですね。患者さんが訴えている点とは別に重要な部分が隠れていることもあります。頭痛などの自覚症状はもちろん、顔色、歩き方などこちらから見てわかる他覚的症状の両面から考えなければなりません。枝葉の部分までしっかりアンテナを張り巡らす必要がありますね。カウンセラーや看護師などのスタッフにも「患者さんの言うことはまず受け止め、目配り、気配りを欠かさないようにしましょう」と伝えています。私一人ですべてをカバーすることはできなくても、スタッフ全員がやれる範囲で目配り・気配りをするのも、治療の一貫だと考えています。
「外に向かう神経」を意識し、体を動かすプログラムも
新型コロナウイルスの流行による変化などは感じておられますか?
「外出できないのでストレス解消の手段がない」「会社の人員削減が続き、気分が沈む」といった声はよく聞かれます。一方で視線恐怖症や対人恐怖症の方からは「マスクがあるので外出しやすくなった」「リモートワーク・オンライン授業になって気が楽になった」という声もありますから、悪いほうだけに向かったとは言い切れないかもしれませんね。脳の神経細胞は大きく3つに分けられます。1つ目は考え、計算する、自己完結するもの。2つ目は目や鼻から刺激を受け取るもの。3つ目は外に向かう神経、つまり運動神経です。だから体を動かすのは脳神経の働きのバランスを整えることにも寄与しているのではないかと考えます。
だからフラワーアレンジメントやヨガなどのプログラムも取り入れておられるのですね。
うつ状態が改善されれば自然と体は動くようになりますし、逆に散歩をしたりストレッチをしたりすることで気分が良くなることもありますよね。先ほどの3つの神経のうち、3番目の外に向かう神経をもっと使うことができれば、と考えたのです。開業した頃から、学校に行けなくとも、家の中だけでは物足りなく感じる思春期の子どもたちの居場所をつくりたいと考えていました。子どもの場合は心の発達も考えなければなりません。低学年の子は特にそうですが、自分で説明するのではなく、親御さんなどが代わって説明することも多いですよね。大人になっても言葉にしにくい人はいるもので、とあるストレスがかかると急にじんましんが出たりすることもあります。症状と、その症状が表す意味を考えることが大事なのです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
今は学生が制服のまま、働いている方もお仕事帰りなどに気軽に来てくださるようになりました。私が企業での講演会などを行っているのは、早期治療が大事なことや、特別な疾患ではないということが広まってほしいという思いからです。やりがいを感じるのは、患者さんがこのクリニックを卒業していく時。また中学生から通っていた子が大学生になり、結婚し、お子さんを連れてきてくれたりすると本当にうれしいですね。今後も今までのように、自分の手の届く範囲のことを精一杯やりつつ、変わっていく部分にも柔軟に対応していくのだと思います。人知れず悩んでおられる方でもどうぞ気軽に、まずは相談にいらしてくださいね。