藤田 和義 院長の独自取材記事
藤田クリニック
(豊中市/桃山台駅)
最終更新日:2025/04/07

景観の美しい住宅街にあるビルの3階に位置する「藤田クリニック」。幅広い年代が訪れる待合室にはおもちゃや漫画、書籍が置かれ、自宅のリビングにいるような居心地の良さが感じられる。藤田和義院長は、大学卒業後すぐに精神科医療に携わり、成人や高齢者に加え、児童精神科や発達障害にも目を向けてきた。患者のそばで診療をしたいとの思いで開業し、25年間この地で多くの患者の心の健康に向き合っている。質問へのリアクションが豊かでありながら、安心感も伝わるやわらかな語り口が印象的な藤田院長。患者が思い立った時に受診ができるようにと診療は予約制にしていない。行動や言葉の一つ一つに患者を思う温かさが感じられる藤田院長に、精神科医療への思いを聞いた。
(取材日2025年2月28日)
開業25年、患者の思いを第一に地域に根差す精神医療
開業から25年なのですね。この地域で開業された経緯を教えてください。

徳島大学卒業後、大阪精神医療センターや兵庫医科大学で精神科を専門に診療に携わってきました。今でこそ、駅周辺の精神科クリニックも増えましたが、当時は受診のハードルが高い診療科だったこともあり、町の精神科クリニックは少なかったです。しかし、私は患者さんのそばで直接支援をしたいという思いが強く、勤務医として働きながら開業を考えていました。以前使っていた古いビルを新しく建て替えるのに時間がかかり、開業は当初の予定より2年遅れてしまいましたが、それでも無事にクリニックを開設することができ、今に至っています。
主にどのような患者さんが来院されていますか?
小児から高齢者まで幅広い世代が来院されています。地域で診療をしていくにあたり、幅広い世代への診療スキルの必要性を感じていました。研修時から認知症を深く学び、そこからさらに小児・思春期の分野についても研鑽を重ねてきたことで、開業後は小児から高齢者まで年齢制限なく対応しています。精神科は「成人の精神科」と「児童精神科」に分かれており、児童精神科の分野は成人とは別に講習を受ける必要があります。18歳未満の診療に対応していないクリニックがあるのはそのためです。依存症など専門的な治療が必要な場合は、専門病院を紹介するケースもありますが、まずは来院された方の状態を確認し、適切な対処に努めています。
診察は予約制ではないと伺いました。

はい、当院は予約制ではありません。精神科の初診は数ヵ月待ちの所も多いのですが、体調が悪いのに2、3ヵ月先まで待つのは患者さんにとって非常に負担が大きいことです。例えば、内科の場合、具合が悪いのに2ヵ月待ちなんて考えられませんよね。国レベルでも精神科における初診の待ち時間は問題視され始めていますが、私の場合は、初診の方も含めその日に来た方を順番に診るというスタンスで診療をしています。患者さん側は「予約が当たり前」と思われているため、来院前に電話で問い合わせをいただくことも多いですし、あちこちに電話をかけて、予約ができたと思ったら2、3ヵ月後と言われたため当院にいらっしゃったという方も多くいます。当院ではその日のうちに診察ができますので、内科と同じように気になる症状があったらすぐに来ていただけたらと思っています。
自己受容を大切に、不登校や発達障害に寄り添う診療
児童や思春期のお子さんはどのような悩みで来院されることが多いですか?

不登校に関するお悩みが多いですね。不登校の背景の一つにはうつ病があると考えられており、その場合、治療によって学校に行けるまでの健康状態へとつなげられる可能性もあります。ただ、治療をしてもなかなか学校に行けない子もいます。昔は「学校に行かなければならない」という風潮があり、それは子どもにとってつらいことですよね。このように学校生活に苦痛を感じてしまう要因の一つとしてADHD(注意欠如・多動症)が挙げられます。整理整頓の苦手さや多動など、ADHD自体はその子の持つ素質に過ぎないのですが、一定のルールがある学校生活の中で「自分は周りより劣っているのではないか」という悩みが積み重なり、自己肯定感が下がってしまう原因にもなることも考えられます。
不登校で悩むお子さんやご家族へのアプローチはどのようにされていますか?
不登校の背景には、うつ病とADHDなどの素質が同時に関係している場合があります。そのため、うつ病の治療とADHDのサポートの2つの面からの改善を図る必要があります。ADHDやうつ病といった精神的な症状には素因が存在します。それは決して「劣っている」という意味ではありません。糖尿病になりやすい体質だからといってそれが「劣っている」ことにはならないのと一緒です。「あなたは素因があるからだめ」とは言わないと思います。精神科の病気もご本人のせいではなく、もともとの素因と環境などによって起こります。ご本人の素質や学校に行けない背景、環境などもお聞きしながら親御さんへのアドバイスをしますよ。
診断や治療において検査やカウンセリングは必要でしょうか?

心理検査は専門的な技術がいるため、必要に応じて外部に依頼をしています。また、カウンセリングはすべてを解決するものではなく、実は患者さんによって負荷が大きくなる場合もあるので注意が必要です。薬物治療で副作用が出た場合は手当てにより対処できますが、カウンセリングによる副作用は「心の傷」になるため、回復を図るのは薬物療法よりも容易ではありません。医師と相談した上で適切なタイミングで行うことが大切です。カウンセリングにも副作用のような側面があるということを知っていただきたいですね。
診療で大切にしていることを教えてください。
今の状態に対してなるべく早く目鼻をつけ、患者さんやご家族に伝えることを心がけています。患者さんにとって苦しいのは見通しが立たないことだと思います。また、薬物療法にあたっては、症状に合わせて必要最小限で処方するよう心がけています。精神科疾患は脳の変調ですので、しっかりと病気と捉えて治療することが可能です。とはいえ、医師は万能ではありません。医師の処方で最も大切なのは「希望を処方すること」と言われているのですが、まずは患者さんに前向きになっていただけるような診療が重要だと考えています。
責めない心のケアで、迷わず受診できる精神科に
患者さんと接する際に心がけていることを教えてください。

特別なことをしている意識はないですが、自然でやわらかく、オープンに話していただけるような雰囲気づくりを心がけています。以前、自閉スペクトラム症のお子さんが来院されたのですが、これまでは医療機関に来た途端に嫌がってしまうことが多かったそうです。けれど、当院ではとても落ち着いて過ごせており、付き添いのお父さんから「今までこんなに落ち着いていることはなかったです」と驚かれたことがありました。行動に対して否定や制限をかけるのではなく「あなたはそのままでいい、大丈夫」と伝わるような姿勢が大切なのだと思います。
精神科はどのような時に受診したら良いのでしょうか?
発達障害などの場合、ご本人に自覚がなくても将来社会生活をする上で周囲のサポートが必要なケースもあります。お子さんの病気について一生懸命勉強される親御さんも多いのですが、親御さんだけですべてを抱えこむ必要はなく、助けを求められるネットワークをつくるという意味でも気になることがあれば相談してほしいです。受診をためらう方もいらっしゃるかもしれませんが、精神の病気と診断されたからといって恥じる必要もありませんし、専門的な目で見れば、目鼻がついて具体的な対処法もわかります。ADHDであれば投薬治療で改善が図れることもありますし、自閉スペクトラム症に対しては周辺症状に対するお薬もあるので、気軽に相談していただければと思います。
読者へのメッセージをお願いします。

私はどんな病気も「自己責任ではない」と思っています。例えば、糖尿病や高血圧症など生活習慣が原因の一つとされる病気であっても、不摂生をしていても発症しない人もいますよね。精神的な病気も本人の責任と捉えられがちですが、決してそうではありません。体の病気と同じく、素因や環境などさまざまな要因が重なって起こるものです。きちんと治療すれば良くなる可能性もありますし、薬でコントロールを図れる場合もあります。まずは「何かおかしい」と思った時点で相談してほしいです。当院は予約制ではないので、来院したその日から治療が可能です。ご自分を責めたり恥じたりすることなく、気軽にご来院ください。