一色 正樹 理事長の独自取材記事
おおひら歯科
(寝屋川市/寝屋川市駅)
最終更新日:2025/04/11

京阪本線寝屋川市駅から、バスに揺られて約5分、バス停から歩いて2分。昔ながらの自転車店や飲食店もある住宅地の中に、鮮やかな緑色の看板とテント屋根のマンションが見えてくる。マンションの1階にある「おおひら歯科」は開業して30年以上も地域の医療を支えてきた歯科医院だ。2018年にもドクターズファイルで取材をした一色正樹理事長は、ユーモアの感じられる優しい語り口の先生。歯を治すためには、全身を診る必要があるという一色理事長の話には、なるほどとうならされる。今回は改めて一色理事長の人となりや考えについて、深く話を聞いた。
(取材日2025年2月26日)
歯を診るのは、まず足から
歯科医師になろうと思った動機や歯科医師としてのキャリアはどのようなものですか?

実は、歯科医師になるつもりはありませんでした。卒業して百貨店内にある歯科で5年間勤務しました。当時としては珍しく大きな歯科医院でした。教育システムもしっかりしていて勉強になりました。しかし、医療の世界は日進月歩です。新しいことがどんどん出てくるので、開業後は学んだ以上のことが必要になりました。それからはいろんな講習会に出て勉強しました。志とは違いましたが患者さんがいる限りは勉強しないと。
そうして多くを学ばれた中で、先生が得意とされている技術はなんでしょうか?
若い頃はなんでも自分でやろうとしていましたけど、いろんな先生の専門性を生かすことも必要だと考えるようになりました。例えばインプラント治療では、骨の状態によってはとても難しい手術になります。熱心に取り組んでいる先生にお願いしたほうが良いと思って、そちらを紹介するようにしています。逆に私が一番取り組んできたのは顎関節症です。それは顎だけで解決することはなくて、全身のずれと関係していることがあると考えています。例えば、左足を骨折した人の場合、身体が傾いたその状態が全身に及ぼす影響も考えて、判断をしていますね。そのためにいろいろと学んできましたよ。
どういう症状が出たら顎関節症と考え、受診すればいいのでしょうか?

私が診療時に、「口は開きますか?」「痛くないですか?」「音はしませんか?」と聞くようにしています。また、両耳の前に指を当ててもらって、口を開閉すると顎の骨が動くのを感じ取れるので、それが左右一緒かどうか、左右にずれがないかなど、自分で確かめてみることもできます。私は診察台に患者さんが乗った時には、最初に足元を見ます。足元がそろっているか、右にねじれているか、左にねじれているかなどですね。全身のつながりがあると考えて、見るようにしています。このように細かく確認することが大事なことだと考えています。根本的なところから治療に取り組みたいとは思っているんですけれど、治療が長引いてしまう要因にもなってしまうので、そこの案配が難しいんですよね。
若い歯科医師の育成にも尽力する
どのような理念で長年医療に取り組んでこられたのですか?

医療の仕事というのは、一つの小企業ですから、営利目的の面はあると思っています。私は、昔から従業員によく言っていることなのですが、営利目的が半分、もう半分はボランティアだと。営利第一主義に走ってもやっていけるでしょうけれど、この仕事をしている限りはボランティアの精神を持って、地域に貢献するというのがなくては駄目だと昔から言っていましたし、今もそれは変わっていません。私は開業する時に、家と診療所は絶対別にすると決めていたんです。というのは診療所の上に家を建てたら、私はずっと仕事をしてしまうと自分でわかっていたので。その代わり、来てくれた患者さんは、どれだけ遅くなっても必ず診る。私も3回体を壊し入院しているので、痛い時、苦しい時はやっぱり助けてほしいという気持ちになるというのがわかりますからね。
そうした地域貢献という気持ちがあってでしょうか。先生は若い医療人の育成にも熱心とお聞きしました。
育てたいという気持ちはありますね。最近の傾向と私たちの世代との違いとして、若い世代にはマニュアル重視の傾向を感じます。しかし基本的な手技で終わる治療は少ないと思っています。昔の徒弟制度ではないですが、経験を積んでいる先生から見て学ぶ。それで、わかるようになることも多いのではないでしょうか。当院で学ぶ若い歯科医師には、「私が成功しているところはあまり見なくていいから、うまくいかなくて、苦労しているところを見てください」と伝えていますね。人は成功体験ってあまり記憶に残らないけれど、失敗したことは絶対に記憶に残ると思いませんか。だから、「まずは私のやり方を見て、そこから講習会に行ってください」と言っています。自分の基準ができあがる前に講習会に行っても、良いか悪いか判断できない。私のやり方を見て基準ができたら、そこからは自由に講習会に行って自分がいいと思ったものを取り入れていけばいいですからね。
先生が育てた歯科医師はみんな開業医になられたのですか?

そうですね。5~6人はここで働いて全員開業していますね。彼らがいてくれて私も良かったですよ。一人でやっていると、どうしても視野が狭くなってしまいますからね。若い先生の前で、いい加減なことをしてしまったら、あれでいいのだと思われてしまいますから、下手なことはできません。今はみんな開業して、結婚して、子どももできて幸せにやっているみたいです。私もたまに歯が悪くなる時があるのですが、彼らになら安心して任せられるなと思っています。
人情あふれる町で長年の貢献
先生は幼稚園や小学校の校医も長年されてきたのですよね?

それは順番に回ってくるのですが、昔とは随分変わったなと思います。30年前は中学校なんて1クラス40人で10クラスもあったので、時間も、朝9時から15時くらいまでと長かったです。今はそれが、4クラスとなり1クラスの人数も少ないです。虫歯がある児童の数はとても少なく、昔に比べて歯に対する意識も上がってきたなと思いますね。
そのような活動を通して、地域に貢献してきた手応えはありますか?
市内の駅前と当院のように駅から離れた住宅地の歯科医院はではいろいろ違うところもあります。この辺りは個人商店も多く、人情もある方が多くいるエリアだなと感じています。なので、人と人とのふれあいがあります。開業当初から来てくれる患者さんも結構いて、本当にうれしいですね。小学校の時から通っていた子が大きくなって、結婚して、子どもを連れて来てくれたりしますから。そうやって通い続けてくれることが、ありがたいことだなと思います。そして、近所の方だけでなく、遠く神戸や滋賀から、2時間もかけて車で来てくれる方もいるのですよ。
趣味などはありますか? また、今後の医院についてはどのようにお考えか教えてください。

最近は個人的にはボランティアに力を入れています。人の相談に乗るボランティアなんですよ。あとは、趣味でマラソンにも参加していますね。当院については、私もいい年齢になっていますので、理念も含めてこの歯科医院を継いでくれる若い先生に来ていただけたらと思っています。古くなっている機械なども変えて、私の持っている技術を伝えられたらいいですね。
最後にメッセージをお願いします。
人生って一回しかないので、いろんな経験をしたほうが人間として大きくなれるのかなと思います。良い事ばかりではないし、悪い事もあっていいんだなと。治療での失敗はあってはならないことですが、いろんな意味で失敗は経験したほうが人生は楽しいんじゃないかなと思っています。もう65歳になってやりたいと思ったことはできるだけやってみようと考え始めていますね。