本多 正明 院長の独自取材記事
本多歯科医院
(東大阪市/河内小阪駅)
最終更新日:2025/05/20

「本多歯科医院」は、近鉄奈良線の河内小阪駅から南へ徒歩約3分。建物の階段を上がると、本多正明院長がデザインしたという木製のドアが。ドア開けると、木材をふんだんに使った落ち着いた待合室が広がっている。本多院長は包括的治療計画とその実践をしているスタディーグループのファウンダーの一人で、今も後進の育成に情熱を注いでいる。診療においては、豊富な経験と知識、専門的な領域に強い歯科医師とのネットワークを生かし、患者に寄り添った診療を実践。口腔と全身の健康の関わりに注目しているのだとか。地域の患者に対する思い、診療スタンス、若手歯科医師へつなげたい理念など、話を聞かせてもらった。
(取材日2018年7月10日)
米国の歯科医師から近代歯科を学ぶ
お父さまも歯科医師だったそうですね。

父は長崎県島原出身で、祖父と父の兄が医師だったことから医師をめざして大阪に出てきたのですが、手先が器用だったので歯科医になるのを勧められたと聞いています。河内小阪の駅前で開業していたのですが、空襲で診療所が焼けてしまい、郷里に戻ろうと診療所の後片づけをしていると、患者さんに「私たちは誰に診てもらえばいいのですか?」と声をかけられたそうです。まだ歯科医院が少ない時代だったので、父はその一言で小阪にとどまる決心したそうです。また、患者さんに診療できる場所を提供してもらうなど、多くの方々に支援してもらったおかげで、診療を続けられたと父は話していました。
先生も子どもの頃から歯科医師を志していたのですか?
私はスポーツが好きで、幼稚園の頃から原っぱで野球や走りっこ、相撲をしてよく遊んでいました。小中高校時代は野球に熱中し、また小学校の頃からデザイン的なものに興味を持っていました。当初は歯科医師になる気持ちでいたわけではなかったのですが、上の兄弟が病気で亡くなってしまい、末っ子の私が父の後を継がなければならなくなったというのが実情です。でも、今では歯科医師になって良かったと思います。形の美しさや空間デザインなど自分が好きだったデザイン感覚が、専門的にやっている補綴治療で役立っていることも多いのです。
開業前は東京で診療されていたそうですね。

当時の近代歯科治療を学ぶために、霞が関にあった臨床医の卒後教育のコースを受講しました。その後、このコースのインストラクターであった田北敏行・寺川國秀両先生が新たに開設された卒後教育を行う日本歯学センターに弟子入りし、アシスタントを務めるようになりました。その時に出会ったのが山崎長郎・内藤正裕先生、そして恩師である南カリフォルニア大学のレイモンド・キム先生です。当時は、患者さんを抱えていたので留学はできず、日米間を行ったり来たりして勉強しました。たった1週間の短期滞在の時もありました。キム先生には「小さなケースから臨床の症例を積み上げなさい」と教えられました。私たちの前の世代の先生方は、海外から近代歯科を紹介することに尽力されたので、私たちはそれを実践することが使命だったのです。私の診療所には今もたくさんの症例のデータが蓄積されています。
患者に寄り添う姿勢を大切に
東大阪に戻って来られたのはなぜでしょう?

当初は南青山で開業することも考えたのですが、父の後を継ぐのは私しかおらず、年を取った両親のためにも大阪に戻って開業することにしました。東京の中心部で歯科に対する意識が高い患者さんばかりを診ていた私にとって、東大阪の患者さんの口の健康意識は本当にショックでした。最初から東京で実践してきたような診療をするのではなく、まずは患者さんの意識を高めることから始めました。
どんな取り組みをされたのですか。
当初は父がこれまでやってきたような一般的な歯科診療を行いながら、一週間のうち半日だけ、噛み合わせや歯並びなど一口腔一単位で総合的に診ていく、東京の時と同じような診療を実践しようとしました。最初は自分が行おうとした診療の予約がなかなか埋まらず、どうすれば多くの方に理解してもらえるのか悩みました。そこでまずやってみたのが、診療所のレイアウトを工夫することでした。患者さんには最初に直接診療台に座ってもらうのではなく、普通の部屋に入ってもらって患者さんの話を聞き、そこで時間をかけて丁寧に診療方針や治療内容を説明しました。治療では唇や頬への触れ方にも細心の注意を払い、極力痛みが出ない処置を心がけました。「今までの歯科医院とは何か違う」と、実感してもらえるよう努力した結果、次第に診療方針を理解してくれる患者さんが増え、悪いところを治すだけでなく総合的な歯科診療を望む方が増えていきました。
現在はどんな患者さんが多いのですか?
患者さんに寄り添う姿勢で丁寧にカウンセリングを行うというスタイルが定着し、患者さんの歯科に対する意識も向上したと思います。他院からの紹介では、難しい外科治療などでトラブルが再発した難しいケースが多いです。治療計画について丁寧に説明し、その上で当院での治療を希望される方には、ワンステップずつ慎重に治療を進めていきます。
診療の際に大切にしておられることを教えてください。

歯科に対して不信感を持っている患者さんもおられるので、スタッフ全員が患者さんに「対峙」するのではなく「寄り添う」姿勢を大切にしています。患者さんは、そういう思いを感じ取られるんですね。また、特に年配の患者さんにはしっかり説明することが逆にきつい印象を与えることがあるので、話し方や表情にも気をつけています。もちろん、患者さんの頑張りが必要な時には、スタッフ全員で患者さんをフォローするように心がけています。私は60代になって胃がんを経験し、初めて患者さんの精神的な苦しみやつらさがよくわかるようになりました。だからこそ、口腔内の状態を診るとともに嚥下障害、睡眠時無呼吸症候群などの全身の健康とのつながりを意識するようになり、また、講演や講義の内容も変わりました。
フレンドリーライバルとスタディーグループを設立
スタディーグループでの活動についてお聞かせください。

歯を一本ずつ診るのではなく、口腔内全体を一つの単位として捉え、機能性と審美性を兼ね備えた補綴治療など、トータルに治療をすることは、口腔内だけでなく全身の健康にも寄与します。キム先生の理念である、総合的な治療を実践するために、スタディーグループが誕生しました。共同創設者である山崎長郎先生は、出会った時は郷里に帰って開業する予定をしていましたが、彼も日本歯学センターに弟子入りするようになり、その後1981年に東京、大阪の2拠点からスタートしました。当初は30人足らずのグループでしたが、恩師の教えを伝えることを目的に、次世代のリーダーたちとともに活動しながら、地域医療への貢献を重ね、今では全国2000人規模にまで成長しました。これからも新しい技術や考え方を若い歯科医師に伝えていきながら、日本の歯科治療のレベルアップを図るつもりです。
今後の本多歯科医院についても教えてください。
クリニックの今後については、年齢のこともあり現在検討中です。来院いただける患者さんには今後も責任を持ってできる限りの治療をしていきたいと思っています。また、歯のことでお困りの方がいらっしゃれば、私の教え子や一緒に切磋琢磨した歯科医師の先生が近隣はもちろん全国各地にいますし、息子も大阪市内で開業をしており、患者さんの希望に適した歯科医院をご紹介することもできますので、気軽にご相談いただければと思っています。
読者や後進の先生へのメッセージをお願いします。

自然のままの歯を長く残すには、問題が起きてから治療をするのではなく、定期的な検診やケアを続けて、早期発見・治療することが重要です。そのためにも信頼できる歯科医師との出会いが大切で、患者さんのことを親身に思って治療に取り組み、何かトラブルが起きた際にも真摯に対応してくれる、かかりつけの歯科を持ってほしいと思います。今後も歯科医師の育成に向けた、セミナーや勉強会を積極的に開催していくつもりです。私たちはセミナーを開催する際、決して上から目線で教えるのではなく、受講生に寄り添う姿勢を大事にしています。受講生だけでなく教える側にもプラスになることが多いので、情報共有しながらお互いがレベルアップできる場にしていきたいと思っています。