新井 慎一 院長の独自取材記事
尾山台すくすくクリニック
(世田谷区/尾山台駅)
最終更新日:2025/09/12

東急大井町線・尾山台から徒歩4分。商店街の一画にある「尾山台すくすくクリニック」は児童精神科を専門とし、2006年に開業して以来20年近く地域の子育て家庭を支え続けている。新井慎一院長は東京都立梅ヶ丘病院(現・都立小児総合医療センター)の児童・思春期精神科で経験を積んだベテラン医師。抑うつなどの精神疾患から発達相談まで、児童精神科に関する悩みに幅広く対応する。ポジティブな声かけと自立を促す環境づくりで、現在だけでなく将来を見据えた診療をめざしている。「患者さんやそのご家族と信頼関係を築きながら、これからの人生を前向きに歩んでいくための支援をしたい」と穏やかに語る新井院長に、クリニックの理念や今後の展望についてじっくり聞かせてもらった。
(取材日2025年7月17日)
高校生時代に見た映画の中のクールな精神科医に憧れて
子どもも大人も心をくすぐられる待合室ですね。秘密基地のような小部屋が印象的です。

院内は、患者さんや保護者の方にリラックスして過ごしていただけるよう、樹木を意識したナチュラルな内装を意識しています。受付や待合室のある下階には木目調の壁と暖色の照明を設置し、ぬくもりを感じる空間にしました。公認心理師のカウンセリングを行っている上階は、鮮やかなグリーンと明るい日差しで爽やかな雰囲気を演出しました。待合室の奥にはアルコーブと呼ばれる小部屋を設置し、子どもたちがこもって自由な姿勢で本を読んだり遊んだりできるようにしました。
児童精神科医をめざした理由や経緯を教えてください。
高校3年生の時に見たアメリカ映画に感銘を受けたのがきっかけです。その映画では、精神を病んで病院に入院した男子高校生が退院するところから始まるのですが、出てきた精神科医の男性がかっこ良かったんです。高校生に接する態度がクールだけど優しくて、こういう精神科医になれたら良いなと思いました。児童精神科を選んだのは映画の影響もありますが、児童精神科医の仕事は非常にやりがいがあると感じたからです。子どもは、大人と比べて治療後も人生が長く続きます。これからの人格形成にも大きく関わってきます。患者さんの長い人生を、少しでも良い方向に変えられるお手伝いがしたかったんです。
開業して20年近く経過しますが、患者層や相談内容に変化はありますか?

開業当初は0歳児から高校生まで対応していました。患者さんが多くて初診の予約を取るのも3ヵ月待ち状態になってしまったので、現在は中学3年生までの方を対象にしています。近年は各自治体で療育施設などが充実してきたこともあり、発達障害の診断はすでに済んでいる方が多い印象です。発達障害にプラスして不登校や強迫性障害、学校で暴れてしまうなど問題が複雑なケースが増えています。一方ここ数ヵ月は、軽い症状で来院される方も多いですね。僕が精神科医を始めた頃よりも精神科への偏見が少なくなり、受診のハードルが低くなったのかなと感じます。保護者が子どもの健康状態を心配して来院されるだけでなく、スクールカウンセラーやかかりつけの小児科医、子ども家庭支援センターからの紹介など、クリニックを受診するきっかけもさまざまです。
医師や薬物に頼りすぎない治療で前向きな自立を促す
クリニックの理念を教えてください。

当院では、患者さんがこれからの長い人生を自立して生きていけるように、できるだけ早くクリニックを卒業できるような支援体制を心がけています。医師が手をかけすぎてしまうと、患者さんは自分の足で立てなくなってしまうので。医師が主体の治療ではなく、患者さん自身が自分を治療するのを僕たちがお手伝いする、というのが当院のスタンスです。また、保護者の方が子育てに不安や悩みを抱えているときは「私の子育てで良いんだ」と自信を持って思えるようにサポートします。クリニックに頼らなくても、患者さんが自立して前向きに生きていけるように支援するのが当院の理念です。
患者さんやご家族と信頼関係を築くために、初診で大切にしていることはありますか?
まずはしっかりあいさつをします。「初めまして、新井といいます」と。その後問診を始めますが、患者さん自身よりも保護者の方のほうがお話しする気満々ということが多いです。でも僕は、事前に記載いただいた問診票で主訴をある程度把握しているので、先にご本人の話を聞きたいんです。そこで、保護者の方の前で患者さんと軽く話した後、保護者の方には別室で待機してもらい、患者さんと2人でじっくり話をします。そうすると保護者の方に連れて来られるがままだった患者さんも、自分が主役の場だと理解できるし、人前では話しにくいことも話せると思うんです。その後保護者の方と交代し、話を思う存分聞かせてもらいます。それぞれの時間をしっかり設けることで、患者さん・保護者の方と信頼関係を築いていきます。また、初診時にある程度の診断内容や治療方針をお伝えし、今後の見通しを立てることで、より信頼性や安心感を高められるよう努めています。
薬物療法についてのスタンスや、リスク管理についてお聞かせください。

基本的には「薬なしでできることまで進めてみましょう」というスタンスです。ADHD(注意欠如多動症)などの発達障害は治療薬もありますが、積極的にお勧めしていません。薬なしだと授業中に席に座っていられない、忘れ物やなくしものが多いなど、本人がやる気や自信を失ってしまっているケースでは、自尊心を回復するために処方する場合もあります。また、うつ病や不安症の方に薬を処方することもありますが、なるべく必要最低限の量になるよう配慮しています。薬の副作用チェックとして、血中の薬物濃度を測る血液検査を実施することもあります。患者さんのご希望に応じて漢方薬を提案するなど、リスクが少ない方法を試みるようにしています。サプリメントの相談も受けつけています。
多くの人に児童精神科の情報を提供するため動画を配信
児童精神科医として、うれしかったエピソードや、やりがいを感じる瞬間を教えてください。

小中学生の頃通っていた患者さんが、10年後に「今は仕事をしていて、このあたりを営業で回っています」と報告に来てくれたときは、とても感慨深かったです。昔の患者さんとこうしてまたお会いできるのが一番うれしいですね。先ほど話したとおり、僕の目標は「患者さんがクリニックを卒業すること」ですが、患者さんが卒業したら、その後の人生まで見届けられないことが少し残念だったんです。治療を終えた患者さんに会うことはなかなか難しいものです。クリニックは体調が悪いときに訪れる場所ですし、当院で治療しても、また具合が悪くなって他のクリニックに通う方もいるでしょう。患者さんが現在幸せな人生を送れているのか気になりますし、もし元気な姿で近況報告をしてくれたら本当にうれしいですね。
お忙しい毎日だと思いますが、趣味やリフレッシュ方法はありますか?
最近はお気に入りの作家がいて、その作家の小説を読んだり、ドラマを見たりして楽しんでいます。銀行や町工場など、僕が知らない世界を舞台に繰り広げられる人間ドラマがとても面白いなと。特に、正義が勝つシーンを見ると気持ち良いですね。現実はなかなか思うようにいかないものなので、ドラマの中ではスカッとしたいんです。後は精神病理学という、精神疾患の方の心理を研究する学問を勉強しています。診療する中で僕が得た知識や経験を、他の方にも伝えられるようになりたいと思い、学び始めました。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

現在、当院のスタッフがゲームに依存してしまっているお子さんやご家族向けの親子教室を企画しているので、それを実現させたいですね。最近は、子どもの心のトラブルや発達についての情報を動画で発信しています。近年は少子化にもかかわらず、不登校もいじめも増加しているのが非常に気になっています。僕が診療できる患者さんの数は、どう頑張っても限りがあります。そこで、クリニックに来ることが難しい方の力になれるよう、動画での発信を始めました。僕の話がどれくらい役に立つかわかりませんが、今困っている方の不安を和らげたり、ご自身と向き合うきっかけになったりしたらうれしいです。当院は中学3年生以下のお子さんなら誰でも受診できるので、気軽に相談してほしいです。来院が難しい方も、動画を見てご自身やご家族の今後を前向きに考えてほしいと願っています。