矢田 進 院長、矢田 二三代 さんの独自取材記事
矢田歯科医院
(大阪市東住吉区/東部市場前駅)
最終更新日:2025/08/12

大阪市東住吉区杭全(くまた)、平野区と接する住宅街にある「矢田歯科医院」。1985年の開業から30年以上にわたり、矢田進院長と妻で歯科衛生士の二三代(ふみよ)氏が、二人三脚で地域の歯科診療を支えてきた。「食べる喜び最期まで」の理念のもと、通常の外来診療に加え、1999年という早い時期から訪問歯科診療に手探りで取り組んできた。また高齢者の摂食嚥下障害に注目し、医師、歯科衛生士それぞれの立場で内科的知識や先端の技術を習得。今日では、訪問先でも全身状態やQOLの改善に寄与するトータルな口腔衛生を提供している。2014年に建て替えたバリアフリーの院内は、隅々まで清掃が行き届き明るく心地良い。夫唱婦随で歩んできた2人から、日々の診療に込められた思いを聞いた。
(取材日2017年7月27日/情報更新日2023年5月1日)
「保険診療の中で最良の治療」がモットー
診療方針を教えてください。

【進院長】私が大阪大学歯学部に入学した当時、歯科診療は自費での負担が大きく、お金がかかる医療だとのイメージがありました。そのため父親は私に「国立大学に入って、国のお金で歯科医師になったのだから、保険の範囲で良心的な医療をしなさい」と話したのです。私も保険診療の中で最良の治療をしたいと考え、工夫して取り組んできました。実際、入れ歯でも技術のある技工所と協力して製作すれば、自由診療で作ったものと遜色ないできに仕上がると私は考えています。患者さんからの希望がなければ、基本的には保険診療の範囲内で行います。もう1つ大事にしているのが、予防を重視した診療です。生まれつきの歯は、治療すればするほど減ってしまうので、できれば削りたくありません。当院には熟練の歯科衛生士が集まっていますので、最終的には予防中心の、歯科衛生士がメインとなるような診療ができれば理想的ですね。
予防の大切さについて、患者さんにどのように伝えていますか?
【進院長】虫歯の治療であれば、初診時にはまず私が診察をしたのちに、歯科衛生士が歯石を取りブラッシング指導をして、また治療に戻る、といった具合に、治療と指導を同時に進めるようにしています。「今後、治療を受けないようにするためには、日頃からのケアが大事だ」ということを実感していただく、つまりケアの動機づけが重要になると考えているからです。
【二三代さん】せっかく治療を受けても、後々ご自分でケアができないと意味がありません。特にご高齢になると、通院や、ご自身でのメンテナンスが難しくなりがちです。最初に受ける治療が、ケアのしやすい治療であるかどうかは非常に重要ですね。日頃から正しいセルフケアをして、定期的にプロのケアも受けて、再発や歯周病の進行を防ぐように繰り返しお伝えしています。
患者さんと接する際に、心がけていることを教えてください。

【進院長】自分が治療を受ける側だったらどうしてほしいか、常に自問自答するようにしています。ですから時には、審美目的で歯を削りたいとおっしゃる方に、「歯は削ってしまえば元に戻らないので、今のままでも良いのではないですか」とアドバイスすることもあるんですよ。
【二三代さん】私も同じですね。また親しくなった患者さんから相談を受けたときには、「私ならこうします」と具体的にお話しすることもあります。やはり、生まれ持った歯を大事にしてほしいという観点でお話しすることが多くなります。
通院したくてもできない患者のために
訪問歯科診療にも、早い時期から取り組んできたそうですね。

【進院長】自分の歯で食べる喜びは格別ですから、歯科医師としては最期まで食べることを支援したい。しかし高齢者が増加し、通院が難しい方が増えています。当院も、かかりつけにしてくれている患者さんからの依頼がきっかけになって、1999年から往診や訪問歯科診療を始めました。また高齢者では、歯の治療以上にお口の中の衛生状態、つまり口腔環境の悪化が問題になります。そこで訪問診療では入れ歯のケアをしたり、舌や頬などの軟組織にアプローチしたり、あるいは唾液がきちんと出るように唾液腺のマッサージなどもするようになりました。また、高齢者でもう1つ問題になるのが、食事が取りにくい、飲み込みにくいといった摂食嚥下障害です。私が学生の頃はこれらについて学ぶ機会がなく、嚥下障害の患者さんが初めて受診されたときには、何をしたら良いのかわからず、そこから勉強を重ねてきました。
先進的な取り組みだと思いますが、ご苦労も多かったのではないでしょうか?
【二三代さん】訪問するときに何を持っていけば良いのか、それすらわからない状態からのスタートでした。もちろん個人のお宅に診察台はないので、最初は診察のために患者さんの体勢を整え、不要な嚥下が起きないように頭を固定することが一苦労でした。布団やバスタオルを使って、麻痺のある患者さんではその部位も意識しながら、試行錯誤を重ねたものです。また院長がお話ししたように、治療以外のケアも重要ですので、嚥下に関するトレーニングを受けて専門的に学びました。当初は個人のお宅への訪問が中心でしたが、ケアは介護老人保健施設やその施設の関連病院でも実施しています。
「がん診療連携登録歯科医」でもあるそうですね。

【進院長】入院患者が週1回でも専門的な口腔衛生のケアを受けると、口腔環境の改善が望め、発熱しにくくなったり抗菌薬が減少したりといったことにもつながります。また高齢者に多い死因で誤嚥性肺炎がありますが、口腔内を清潔にすることで予防につながるというエビデンスが蓄積されています。口の中が清潔であれば、誤嚥しても肺炎にはなりにくいですし、全身の抵抗力自体も、口の中の衛生環境が大きく影響しているのです。がんの患者さんも同様で、口腔衛生によって術後の入院日数の短縮につながるというエビデンスがありますし、化学療法の副作用として起こる口内炎の軽減にもつながります。そこで、がん治療前の口腔衛生が推奨されるようになり、開業の歯科医院でもこの動きをサポートすべく、取り組みが始まったところです。
信頼できるパートナーとともに歩む
ご開業から38年目、9年前には医院を建て替えたそうですね。

【進院長】開業当初から16坪の狭いスペースで診察してきましたので、広々とした院内にしたいと思っていました。念願かなって2014年に建て替えを行い、駐車場を設けましたし、バリアフリー化したので車いすで診察室まで移動できるようになりました。
【二三代さん】恩師から、「診療は掃除に始まり掃除に終わる」と教えていただき、開業当初から掃除を大切にしています。物を置くと掃除がしにくいですよね。ですから建て替えに際しても、シンプルな院内になるように、すべての場所に手が届くように設計してもらいました。現在も、始業前は毎朝30分かけて掃除をしますし、終業後は歯科医院の回り、溝の掃除までします。また、週ごとに重点的に掃除する部分を決め、ローテーションしています。掃除は、口腔衛生と通じる部分だと思います。
お互いの尊敬できる部分はどんなところですか?
【進院長】朝から晩までずっと一緒、休みもずっと一緒ですがそれが苦でなく、どんなことも安心して任せられます。仕事で忙しい日々でしたが、子育ても頑張ってくれて、立派に育ててくれました。時には仕事の面で厳しいことも言われるが、彼女に任せていれば大丈夫だという安心感がありますね。
【二三代さん】とても几帳面な仕事をする人で、歯科衛生士の目で見ても、治療が非常に上手だと感じています。また、普段は仕事ばかりですが、家庭内でも節目の重要な判断は決めてくれて、間違いがありません。開業から今日まで、病気やけがで1回も休んだことがない、本当に患者さん思いの真面目な歯科医師だと思います。
今後の展望をお聞かせください。

【進院長】高齢化が一層進む時代ですし、今後は施設に入らず自宅で最期まで過ごす方も増えていくと思います。そんな中で、歯科医師が社会で果たせる役割も、より高まっていきます。歯の治療だけでなく、飲み込むまでが歯科医師の責任だと考えていますので、場を問わず質の高い口腔衛生の提供に努めていきたいですね。
【二三代さん】ケアという面で、歯科衛生士のできることは非常に多くなっています。新しい技術や知識を日々習得することは楽ではありませんが、患者さんの立場になって、また院長の思いを実現するために、努力していきたいと思います。