奥村 崇 院長の独自取材記事
奥村歯科医院
(岸和田市/岸和田駅)
最終更新日:2023/04/19
南海本線岸和田駅より徒歩1分にある「奥村歯科医院」は、地域に根差し長きにわたり人々の口腔内を守ってきた老舗の歯科クリニックだ。3代目院長を務める奥村崇先生は、口腔外科出身という経歴の持ち主。診療では「患者の納得度を重視したわかりやすい説明」を大切にし、その場で口腔内の様子を図に書きながら、一つ一つ丁寧に言葉を紡ぐ様子が見受けられる。また、自らの経験から口腔内を通して全身を見ることを重視しており、有病者歯科や高齢者歯科といった歯科の中でも健康との関わりが深い分野をしっかりカバー。高齢者施設や歯科医師不在の総合病院への往診も積極的に行い、ハンデがあっても歯科治療を諦めないでほしいとエールを送る。患者に寄り添い続ける奥村先生に、歯科医師としての想いを聞いてみた。
(取材日2023年3月23日)
口腔外科の医師から街のかかりつけ医へ
歯科医師としてのこれまでの歩みを教えてください。
実は「奥村歯科医院」は僕の祖父が立ち上げた歯科クリニックなんです。その後は父が後を継ぎ、僕で3代目になります。歯科医師家系だったこともあり僕も自然とこの道へ進んだのですが、大阪歯科大学在学中から強い興味を抱いたのは口腔外科分野。スポーツをやっていたこともあり、全身から口腔を俯瞰する口腔外科学の在り方は共感できるものでした。卒業後も同大学の口腔外科学第二講座へ在籍しキャリアを重ねていたのですが、急に先代である父が亡くなったんです。この時感じたのは父の患者さんへの強い責任感。僕もいち歯科医師として、祖父・父が大切にしてきた地域の皆さんに恩返しをしなければと思いました。こうして2011年に院長を引き継ぎ、今年で12年目を迎えます。
口腔外科の医師から街のかかりつけ医としてのキャリアチェンジに戸惑いはなかったのでしょうか。
急なことだったので戸惑いはありましたね。でも、当初は歯科医師としての責任感に駆られて継いだかたちでしたが、いざやってみるとたいへん有意義な仕事でした。もちろん研究で医学界に貢献したり、珍しい治療を提供したりというのも歯科医師のキャリアとしては魅力的でしょう。ですが、手の届く範囲の人々を健康にするという街のかかりつけ医としての在り方は、生きた歯科治療をしているという確かな手応えが感じられるんです。「患者」ではなく生身の人間を助けられているという実感が、現在の僕の原動力ですね。近年は往診にも力を入れ、助けられる患者さんの範囲も少しずつ広げているところです。
往診ではどんなことをされるのかお聞かせください。
毎週木曜日の午前中は往診を設定し、僕と非常勤医師2人が担当しています。伺うのは足が悪い患者さんの自宅や、高齢者施設、歯科のない病院の入院患者さんの病室など、ニーズは高いと感じています。口腔内の状態チェックだけでなく、虫歯治療や神経の治療も行うことができますから、すでにトラブルを抱えている方もご相談ください。他に疾患を抱えていたり、体の不調があったりすると歯科治療はどうしても優先順位が低くなりがちですが、口腔内の状態はQOL(生活の質)に直結しますから、諦めないでほしいですね。ただ寝たきりで体勢が変えられない方だとできる治療が限られる場合もあるので、事前にご相談いただくと安心です。
術後の負担を最低限にするための親知らず抜歯
診療方針を教えてください。
患者さんの納得感を重視したわかりやすい治療説明を大切にしています。口腔内を写真で見せたり、鏡を使って見せたりもしますが、もっとシンプルに図に書いて説明することが多いですね。わからないことがあれば何でも聞いていただきたいのですが、患者さんから質問するのって難しいと思うんです。だから、こちらが一方的に話すだけではなく、患者さんの様子をよく見て、話について来れているかを考えながら言葉を選んでいます。あと、個人的なことだと患者さんに威圧感を感じさせないように、というのはいつも考えていることです。明るく優しく接していれば、きっと患者さんも不安を打ち明けやすくなるでしょう。それが患者さんの納得できる治療にもつながってくると思っています。
口腔外科出身ということで、先生は親知らずの治療などにも対応されるのでしょうか。
親知らず治療は口腔外科にまつわるご相談で一番多いですね。一般的に難しいとされているのが、歯肉の中で真横に生えてしまった親知らずの抜歯。歯茎切開が必要になるのでクリニックによっては大学病院を紹介するケースも多いようですが、当院では抜歯が可能です。ただ、抜歯は患者さんの安心できる環境であることも大切だと思うので、大きな病院でやりたいと望めば提携先をご紹介しています。お気軽にご相談ください。当クリニックでは歯肉の炎症を落ち着かせるために事前に投薬し、口腔内を適切な状態に整えてからの抜歯を提案するようにしています。痛いからすぐ抜いてほしいという患者さんの気持ちもわかるのですが、腫れがある状態で抜くと術後の痛みが強く出ることが多いんです。抜歯はその場の痛みだけでなく、家に帰った後も負担が軽くなるよう考えていますね。
高齢の患者さんが多いと伺っていますが。
ええ、当クリニックは若い患者さんもいらっしゃいますが、特に年齢層の高い方の治療に積極的なほうだと思います。現在いらっしゃる最高齢の患者さんは90歳を超えています。かつて歯科医学ではエンドポイントと呼ばれる治療の年齢制限が定説としてありましたが、今は実年齢よりも口腔内・全身の状態そのものを重視すべきとされています。健康なら高齢の方でも積極的に治療ができるし、反対に若い方でも口腔内の状態によっては治療をしないという考え方です。当クリニックでもその説に則り、口腔外科の知見を生かし、全身を通して口腔内を見ることで、年齢にとらわれない治療プランを作成しています。年齢を理由に歯の不調を諦めていた方でもお力になれることがあるかもしれません。
平均寿命向上のためにレベルの高い口腔ケアが課題
先生が現在注力している治療についてお聞かせください。
歯周病治療と入れ歯です。歯周病はいわば体内に炎症を抱えて生きている状態なので他の疾患も抱えていることが多いです。論点となっているのは他の病気に罹患し免疫力が低下したから歯周病になったのか、歯周病になったから他の病気を併発したのかという部分。卵が先がニワトリが先かという話ですね。近年歯周病と他疾患の相互作用については歯科医学界でも研究が進められており、個人的にも勉強している分野です。入れ歯については、口腔内を通して全身を適切な状態に導くという責任感を持ってお作りしています。というのも、ちょっと歩き方がおかしいな、と感じた患者さんの口腔内は、不適合な入れ歯をつけているというケースが結構あるんです。噛み合わせがもたらす影響は本当に大きいな、と実感しますね。
先生は乳幼児健診もされているそうですね。お子さんの口腔ケアについて何かアドバイスはありますか。
歯科医師としては幼少期からの通院をお勧めしたいのですが、無理にする必要はないと思います。暴れるお子さんをユニットにあげるのは危険ですし、その後の恐怖心にもつながります。一般的に乳幼児健診で3歳までは定期的に口腔内を診てもらえますよね。幼稚園や保育園でも健康診断があったり、就学前健診があったりと、日本では幼少期より歯を守るための制度はある程度確立されています。それを積極的に活用してください。ただ、自覚症状なく進行する歯科疾患があるのも事実です。まずは親御さんがクリニックで適切な知識を身につけ、適切なホームケアを覚えましょう。その上で一般的に小学校4年生までといわれている仕上げ磨きも、僕個人としては6年生くらいまでやってあげてほしいですね。
最後に読者へメッセージをお願いします。
医学の発展により日本人の平均寿命は右肩上がりで推移しています。でも、人間の歯そのものは変わっていないんです。今までどおりのケアをしていては、寿命が尽きる前に歯が駄目になってしまう可能性が出てきました。そもそも歯は消耗品で、日々使う度に少しずつすり減るものです。そこに虫歯治療や不適切な噛み合わせでのダメージが加わると消耗速度は一気に上がりますから、これからの時代は一人ひとりが歯を守っていくという強い意思を持つことが大切ですね。当クリニックが年齢や持病を理由に治療を諦めさせないのもこの考えがあってのことです。おいしくご飯を食べるという行為は生きている限り続く人間的な活動であり、最後まで残る楽しみですから。諦めず一緒に頑張りましょう。