中平 英二 院長の独自取材記事
菊間歯科医院
(今治市/菊間駅)
最終更新日:2021/10/12

今治市菊間町にある「菊間歯科医院」。院長の中平英二(なかひら・えいじ)先生は、神奈川歯科大学を卒業後、横浜市内の歯科医院で勤務医として研鑽を積んだ後、1984年に開業。地域の人々の健康をサポートする歯科医院として、虫歯治療や義歯などの補綴治療、歯周病治療など、患者の幅広いニーズに応えている。入れ歯に名前を入れて渡すなど、患者の希望にこまやかに対応している。また訪問歯科診療にも精力的に取り組み、個人宅や今治市内の高齢者施設や病院での診療も実施。「患者さんの現在置かれている状況や生活環境、ご希望に添って診療に臨み、QOL向上の一助になれば幸いです」。そう優しいまなざしを見せる中平院長に、地域の歯科医療を支える存在としての想いをじっくりと聞かせてもらった。
(取材日2020年12月24日)
地域の歯科医療を守るために開業し30余年
この地に開業された経緯を教えてください。

私は今治市の出身なのですが、大学進学で県外へ出て、そのまま横浜市内の歯科医院で勤務医として働いていました。こちらへ戻ってきたのは、菊間町の町長さんから、ぜひ歯科医師として来てほしいと誘致を受けたことがきっかけです。当時菊間町では歯科医師不足が問題となっており、歯科医療が行き届いていない地域となっていました。歯科医院を受診するには今治市内や北条市まで足を延ばす必要があり、特に地域の高齢者の方々が通院できず困っているということを知り、町長さんの想いに応えるかたちで開業を決めました。
患者さんの年齢層や受診理由はいかがですか?
横浜時代はオフィス街にある歯科医院に勤務していたので、近隣の会社に勤める方やファミリー層が中心でしたが、この地域は私が開業した30数年前からすでに高齢化が進んでいましたから、今も年齢層はとても高いですね。なので入れ歯や義歯の治療などが中心です。横浜時代とはまったく違う患者さんの層や主訴ということもあり、日々患者さんを診させていただくことで自分が成長し、学ばせていただいている実感がありました。都会から田舎に移ってみて、あらためて地域に根差した医療を提供することが開業医の使命だと感じましたし、患者さんのニーズにお応えしていくことが大切なんだと気づかされました。
それで先生は訪問診療にも力を入れているのですね。

そうですね。開業してからもどんどん過疎化は進み、若い人は外へ出ていってしまうため、自動車の運転ができない高齢者の方々は、通院する手段がないんです。また、お体が不自由になって通えなくなったという方もいらっしゃる。そんな状況下で、患者さんからのニーズを受けて訪問診療に取り組まないといけないと思い、20年ほど前から始めました。最初は、もともと当院の患者さんで通えなくなった方が中心でしたが、その患者さんたちが病院や高齢者施設へ入られた場合も診療を継続していきたいということで、現在は範囲を広げて菊間町だけでなく今治市内の病院や高齢者施設での訪問診療も行っています。
高齢者のニーズに応え、日々訪問診療に走る
訪問診療ではどのような治療を行うのですか?

専用の歯科機材を運んで治療を行いますから、虫歯の治療や入れ歯の作製、口腔ケアなど、外来で行うだいたいのことは可能です。エックス線写真を撮影することもできますよ。「歯医者さんが来てくれるなんて知らなかった」と驚かれる方が結構多くて、まだまだ認知されていないなと痛感することも……。必要とする方のところへ情報が届けばいいなと思い、訪問歯科診療の情報発信にも努めているところです。訪問診療はだいたい午後から行っており、ご予約をいただいた上でスケジュールを組んでいます。基本的には夕方までですが、在宅でもう少し遅めの時間をご希望される場合でもご対応できますので、まずは一度お気軽にご相談いただけたらと思います。
先生が訪問診療を行う上で大切にしていることを教えてください。
お体が不自由になられて歯科医院に通えなくなってしまった方にも、これまでと変わらぬ治療をご提供すること、それが一番です。お口の健康は全身の健康に大きく関わることですし、健康寿命も左右します。口腔ケアがきちんとできていなかったり、入れ歯がなくて噛むことが十分にできていなかったりすると、お口から食事をすることが困難になり、ますます体が弱ってしまいます。お口は健康の入り口ともいえる場所ですから、できるだけいい環境を維持できるように、私たち歯科医師と歯科衛生士が協力体制でサポートしていけたらと考えています。
お口の介護、リハビリテーションとしての取り組みにも注力されているそうですね。

そうなんです。訪問診療の患者さんは身体の運動機能が落ちている方が多いので、体のリハビリと同じようにお口に関してもリハビリというイメージで、口腔機能改善に向けた取り組みを実践しています。例えば、当院ではデンタルニュースやトピックスをまとめた資料を月に一度作成しており、訪問診療の患者さんや高齢者施設、病院にお配りしているんです。「むせることは老化のサイン」というテーマの時は、むせやすかったり、喉に詰まりやすかったりする注意が必要な食べ物を具体的に紹介して、食事の際の環境づくりを促す内容にしました。これが好評だったようで、施設や病院でも患者さんの目につくところに掲示していただいています。
口腔機能が向上すると、患者さんにも変化が見られるものですか?
それは大いにあるでしょうね。例えば今まで入れ歯が入っていなかったために歩行機能が落ちていた方が、入れ歯を装着することにより、立ったり歩いたりするときにしっかり踏ん張れるようになることが期待できるんですね。噛むことが踏ん張る力になり、身体機能の向上につながっていくんです。だから全身のリハビリと同時に口腔機能のリハビリを行うことが大切なんです。超高齢社会を迎えている今だからこそ、まだまだ現役世代の50代、60代の方も今のうちから老後を見据えてちょっと気をつけていただき、QOLの維持、向上を考えていただきたいですね。
健康寿命の鍵を握る、口腔機能に注力
患者さんと接する際に心がけているのはどんなことですか?

まずは患者さんの立場に立って、自分が患者さんだったらどういうふうに治療してほしいか。それを考えて治療に臨むようにしています。ただ症状を診るだけではなく、地域の患者さん一人ひとりの現在の家庭環境や生活状況も鑑みた上で、できる限りご希望に添えるかたちで進めていきたいと思っています。それから大切なのは、無理はしないこと。歯磨きなどのセルフメンテナンスについても、とにかくご自分のできる範囲から始めます。いきなり理想が高すぎるとプレッシャーに感じてしまいますから、しっかりとお話をして、その方のお体の具合などに応じて、できることから少しずつ、口腔機能の向上のために一緒に取り組んでいきたいと思います。
お忙しい日々だと思いますが、ご趣味などはありますか?
このご時世ですので今年はほとんど行けていませんが、まとまった休みには夫婦で旅行やドライブなどによく出かけていました。私たち夫婦は音楽が共通の趣味で、東京や大阪にはコンサートを目的として訪れることが多いんです。邦楽では80年代のアーティストが好きですね。洋楽も好きで、以前大好きなイギリスのミュージシャンが来日した際には、東京、大阪、福岡と追っかけてコンサートを見に行きましたよ(笑)。でも最近はもっぱらステイホームです。訪問診療で外に出ることが多いので、休みの日は逆におうちでゆっくり過ごし、おいしいものをテイクアウトして楽しんでいます。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

「訪問診療はお金が余計にかかるんじゃないか」と不安に思ってらっしゃる方もおられるかもしれませんが、基本的には外来の歯科診療と同じ保険診療ですし、介護保険も適用されますから、ご安心ください。また、「何を用意しておけばいいですか?」と聞かれることもありますが、普段どおりでよくて、特にご準備いただくものはありません。ゴミ箱も持参し、ゴミ一つ残さないようにしています。寝たきりの状態の方、障がいのある方の治療も可能ですので、まずは一度お気軽にご相談ください。患者さんのお口の健康をサポートすることはもちろん、在宅介護をされているご家族の方々の一助にもなれたら幸いです。