横川 智代 院長の独自取材記事
ふるかわ小児歯科
(京都市左京区/神宮丸太町駅)
最終更新日:2025/06/13

京阪鴨東線・神宮丸太町駅から徒歩13分、近衛通(このえどおり)バス停からは徒歩3分の場所にある「ふるかわ小児歯科」が開業したのは、1976年10月。現院長・横川智代先生の父でもある前院長が開いた、歴史のある小児歯科医院だ。院内には絵本やおもちゃ、折り紙などが並び、子どもがリラックスして過ごせる温かい雰囲気。また、完全予約制を採用しており、待合室で他の患者と重ならないよう配慮されている。待ち時間も子どもとリラックスして過ごすため、保護者にとっても気が楽だ。子どもが好きで小児歯科医を志したという横川院長に、小児歯科医療への思いや診療で大切にしていること、今後の展望などについて話を聞いた。
(取材日2025年5月22日)
「子どもに関わる仕事がしたい」と小児歯科の道へ
先生が歯科医師を志したきっかけを聞かせてください。

子どもと関わるのが大好きで、小児に関わる仕事がしたいという思いがずっと根底にありました。高校時代は、もともと文系だったこともあり、幼稚園の先生や学校教員、さらにはライターや編集の仕事にも興味がありましたが、周囲の勧めもあって歯学部へ進学しました。学生時代には歯科医院以外でのアルバイトも経験し、さまざまな分野で働いてみた結果、やはり自分は子どもが好きだと改めて実感し、小児歯科医を志すことにしたのです。卒業後は、すぐには臨床に進まず、大学院に残って「細菌学」を学びました。細菌という観点から基礎を学び直すことで、歯科医療そのものを見直すことができました。
現在までのご経歴を教えてください。
大学院修了後は3年間、大学で教員として勤務し、その後、他の歯科医院で3〜4年経験を積みました。そこは一般歯科と小児歯科のどちらもやっているクリニックで、私自身も両方に携わりましたが、次第に「小児歯科に専念したい」という思いが強くなっていったのです。そのような中、父が院長を務めていた現在の歯科クリニックに自分が戻ったら何ができるかを考えるようになり、父と一緒に診療を始めました。徐々に私がメインで診療するようになり、さらに新型コロナウイルス感染症の流行でオンライン対応が増えたり、父も高齢になってきたりといった理由から、院長を引き継ぐこととなりました。2020年12月のことです。
初診に1時間くらいかけていると伺いました。

お子さんとご家族の生活背景や性格などをじっくり伺い、治療方針を一緒に考えるため、1時間ほどいただいています。初診の問診票では、歯のことだけでなく、出生時の体重や兄弟の有無、お迎えの時間・夕食の時間、仕上げ磨きの有無など、生活リズムや食習慣に関する項目を多く設けており、さらに、ご記入いただいている間もお子さんの様子を観察し、人見知りがあるか、物怖じしない性格かなどを見るようにしていますよ。歯磨き洗面台では、歯ブラシを実際に使ってもらいアドバイスなどを伝えながら、歯磨きにかかる時間やお子さんの反応を確認します。治療台に座るのにも時間をかけますし、泣いたときの様子や、親御さんの対応も重要な情報です。こうした細かい観察と対話を通じて、そのお子さんに合った診療を進めていくようにしています。
子どもたちの成長が大きなやりがい
お子さんだけを診るわけではないのですね。

そうですね。お子さんだけでなく、親御さんとの対話も診療の大切な一部と考えています。最初に付き添いで来られたお母さんやお父さんとしっかりお話しし、その後にお子さんの治療に入ります。治療中も、今どのような処置をしていて、なぜそれが必要なのかを親御さんに説明しながら進めます。もし怖い場合は、親御さんと手をつなぎながら治療することも可能ですので、ご相談ください。痛みがなくても虫歯が進行しているケースや、虫歯が小さく見えて中で広がっている場合もあるので、そうした時には実際にお口の中を見ていただき、理解と納得につなげていくようにしています。治療中にお子さんが泣いてしまった場合には、途中でやめてしまうと本人が混乱し、かえって怖さが残ることがあるため、できるだけ最後までやりきることを重視し、終わった後に「たくさん褒めてあげてください」とお伝えするようにしています。
なぜ「小児歯科」専門で続けているのですか?
一番の理由は「子どもたちの成長を間近で見られるのが楽しいから」ですね。初めは泣いていたお子さんが、次第に診療台に座れるようになり、次第に笑顔で通えるようになっていくようになれたら、と思いながら診療にあたっています。最初は嫌がっていても、時間をかけて向き合っていくにつれて歯科治療に対する苦手意識がなくなっていくこともあると思います。私は、子どものうちに「歯医者は怖くない」と感じてもらうことがとても大切だと考えています。その経験が、大人になっても自分の歯を大切にし、健康を守る意識・習慣につながっていくと思うからです。
子どもの虫歯が減っているというのは本当ですか?

確かに子どもの虫歯は以前に比べて減ってきています。ただ一方で、噛み合わせや食べ方に課題を抱える子は増えてきている印象です。例えば、食べるのに時間がかかる、逆に速すぎてよく噛めていない、口を閉じにくい、口を開けるのが苦手、などです。運動不足や顎の発達不足も背景にあり、全身の使い方が不器用になっている子も少なくありません。だからこそ、日常の中でお口をしっかり使う習慣づけが大切です。そういった問題を解消するための体操などもありますが、それよりも「変顔で遊んでみたら?」とか「お風呂で、親子一緒に大きな声を出してみては?」など、遊び感覚でできることをアドバイスしています。負担にならず、楽しみながら続けられるのが何より大事ですね。
子どもたちの、将来の歯の健康を守りたい
診療の際、意識していることを教えてください。

一番は、歯の治療を通してその方の健康を守ること、そして歯科への苦手意識を持たせないようサポートすることです。特に小さなお子さんにとって、歯科は緊張や不安の大きい場所。1~2歳で泣くのは当然のことですし「泣くのも大切な表現」として受け止めています。3歳半頃になると少しずつ話を聞けるようになり「泣かないほうが早く終わる」と理解できるようにもなります。当院はスタッフが少人数なので、お子さん一人ひとりの性格に合わせた対応ができます。強い子、繊細な子、さまざまなタイプに合わせて、じっくり向き合うようにしています。最近は「いい子」が多い分、我慢していた気持ちが爆発することもありますが、「我慢してくれていたんだね」「頑張ったね」と声をかけることで、心を開いてくれることも多いのですよ。
今後の展望を聞かせてください。
現在、訪問での小児歯科治療のニーズが高まっており、当院としてもその分野に積極的に取り組んでいきたいと考えています。すでに実施している先生方のもとを訪れて現場を見学させてもらったり、お話を伺ったりしながら準備を進めている段階です。今すぐに、というのは難しいかもしれませんが、2026年には体制が整い、地域の中で定着している状態をめざしています。また、訪問診療を必要とする患者さんの中には、障害のあるお子さんも多くいらっしゃいます。そのため、より良い治療や関わり方を実現するために、疾患や障害特性に関する理解を深めていくことが重要です。私自身はもちろんのこと、スタッフも一緒に、学びを深めていきたいと考えています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

お子さんの歯を守るには、歯科医院でのケアや治療だけでは限界があり、ご家庭でのケアがとても重要です。そのために、私たちが持っている知識やコツなどを、できる限りお伝えしていきたいと思っています。治療では、どうしても怖い思いをしてしまうことがあるかもしれません。特に夕方の受診だと、その気持ちをひきずったまま眠ることにもなりかねません。そうならないよう、可能であれば午前中の受診をお勧めしています。午前に治療を受けて、お昼を食べて、午後にはいつものように遊んで過ごすことで、心の負担もずいぶん変わってくると思うのです。お子さんの口の中は、成長や生活習慣によって常に変化していきます。だからこそ、定期的な受診を通して状態を確認し、お口の成長を一緒に見守っていけたらと思います。お子さんが将来も健康な歯で過ごせるよう「子どもの歯医者さん」をぜひ気軽にご活用ください。