全身の虚弱にもつながる
オーラルフレイルへの対処法
大河歯科医院
(京都市北区/北野白梅町駅)
最終更新日:2022/07/29


近年、医療・介護の世界でよく耳にするフレイル(虚弱)という言葉。中でもオーラルフレイルと呼ばれる口腔機能の衰えが、さまざまな健康を害する負の連鎖の入り口として注目されている。そうしたリスクに早くから着目し、地域の中で積極的な対策に努める一人が「大河歯科医院」の大河貴久院長。オーラルフレイルとはどのような状態か、放置しているとどのように進展するのか。リスク提起や対策から、関連性の深い訪問歯科まで、摂食嚥下の支援に専門的に取り組む歯学博士ならではの詳しい解説を聞いてみた。
(取材日2022年7月11日)
目次
口腔機能から全身の健康まで。オーラルフレイル対策で人生をいっそう豊かにすることをめざす
- Qオーラルフレイルとは、どのような状態を指すのですか?
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A
▲オーラルフレイルについて話す大河院長
フレイルとは全身の虚弱や体の衰えを意味し、健康と要介護の中間に位置する状態のこと。その前段階となるプレフレイルと呼ばれる状態の中で、特に口腔機能の衰えをオーラルフレイルと呼んでいます。一般的には老化のサインともいわれ、食事でむせる、以前より噛みにくい、飲みにくいといった些細な現象から、口腔機能低下症や摂食嚥下障害などの症状まで含みます。オーラルフレイルは加齢のせいだけでなく、歯周疾患や虫歯、歯の欠損を放置していたこと以外にも社会参加が減ることが原因となるケースも多いです。早いうちから口腔内を健康に保ち、社会とのつながりを維持することが全身のフレイルから身を守る最初の防波堤になると考えられます。
- Q放置していると、どのような問題が懸念されますか?
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A
▲オーラルフレイルのレベルを数値的に診断
最初は軽微な症状からスタートするオーラルフレイルですが、年齢のせいだと思って放置していると口腔機能がさらに低下し、摂食障害や嚥下障害、それに伴う誤嚥性肺炎などのリスクが上昇してしまいます。また、「おいしく食べる」という感覚的な喜びを失うことも人生の損失となります。オーラルフレイルと認められた高齢者は全身の衰えという面でもさまざまな懸念が生まれやすく、もはや口の中だけの問題ではなく、心身の健康や生命にも大きく関わっているわけですね。また、他人との交流や会食の機会が減ると、皆さん、自分の口元をあまり気にしなくなります。そうした社会的フレイルを見逃さないことも、今後の重要な課題といえるでしょう。
- Qクリニックでは、どのようなアプローチを行っていきますか?
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A
▲検査は咬合力や舌圧、咀嚼・嚥下機能などすべてで7項目を行う
まずは咬合力や舌圧、咀嚼・嚥下機能など7項目の検査を行い、オーラルフレイルのレベルを数値的に診断します。その結果に従って適切なアドバイスや口腔トレーニングなどを行っていくわけですが、たった一つの方法で解決することはまずありません。食べる、飲み込むという機能には全身の筋力も関係していますから、より広い視野で捉えたリハビリテーションのようなアプローチが必要となります。ちなみに当院には管理栄養士が在籍し、食事指導や食に関するアドバイスを積極的に行っています。「制限ばかりでおいしいものが食べれらない」という方にもきっとご提案できることがあると思いますので、受診の際にはぜひ気軽にご相談ください。
- Q対策や予防として、患者さん自身が取り組める方法はありますか?
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A
▲歯科医院だけではなく自宅でも行えるトレーニングがあるとのこと
オーラルフレイル対策の中には自宅で簡単にできるトレーニングもありますから、それを皆さんに積極的にお伝えするようにしています。代表的なのはブクブクうがいですね。左右のほっぺたで5回ずつ、しっかり膨らませてから吐き出すことで口の周辺のさまざまな筋肉を使うことになります。また、おでこを手のひらで押さえながらおへそのあたりをのぞき込む「嚥下おでこ体操」は、顎の下の筋肉のトレーニングになって嚥下機能の回復に有用です。ほかにも数えきれないほどのトレーニング法がありますが、いずれにしても日常生活のちょっとした時間にできる簡単な方法をご提案し、飽きずに長く続けていただくことが大切ですね。
- Qこちらは訪問歯科診療にも力を入れているそうですね。
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A
▲訪問看護師やリハビリの先生とも連携して訪問歯科診療を行う
当院では先代から20〜30年ほど訪問歯科診療を続けていますが、患者さんの中にはフレイルやオーラルフレイルと判断される方が大勢おられます。その中で私が大切にしているのは、患者さん自身がどうされたいかという意志や生活背景です。医療的に正しいことが、必ずしもいいとは限りません。ご本人やご家族の思いもありますから、それを常に見極めながら医療介入するかどうかを考えていく必要があります。また、オーラルフレイル対策には歯科以外の領域も含まれていますから、主治医や訪問看護師、リハビリの先生、さらには介護士さんなど、さまざまな専門家の皆さんと連携し、地域包括ケアの一環で行っていくことが望ましいと考えています。