渡辺 和志 院長の独自取材記事
渡辺歯科医院
(加須市/加須駅)
最終更新日:2025/04/08

東武伊勢崎線の加須駅から車で約10分、都会の喧噪を離れた閑静なエリアにある「渡辺歯科医院」。2001年に同院を開院したのは、日本歯周病学会歯周病専門医の渡辺和志院長。気さくで温かい人柄で、クリニックとスタッフ、そして患者への熱意にあふれる人物だ。長年専門としてきた歯周病治療や今後の展望などについて、広く話を聞いた。
(取材日2019年12月2日/更新日2023年8月16日)
あらゆる治療の礎となる、歯周病治療の専門性が強み
歯科医師をめざしたきっかけをお聞かせください。

私は少し小さく生まれたのもあって、病気がちでした。そのたびに父の知り合いのお医者さんが診てくれて、とてもお世話になったことが影響していると思います。自分も同じように人の役に立つ仕事がしたいなと、おぼろげに思うようになりました。ところが高校生の時、中学時代の同級生が病気で亡くなってしまって。医師は人の死を避けては通れない。そのことについて私なりに思うところがあり、一時は理学部をめざしました。でも高校3年の秋頃に、やっぱり何らかの形で医療に携わりたいという気持ちが強くなり、歯科の道へ進むことに決めました。今思えば、当時の自分は浅はかだったかもしれません。医科も歯科も、領域は違えど患者さんへの責任の重さは変わらない。今はそのことを痛感する日々です。
いろいろな思いがあって、歯科医師の道に進まれたのですね。
ええ。ただうちはサラリーマン家庭でしたから、学費の面で両親に負担をかけられないな、という想いがあって。ちょうど進路を考えている時、城西歯科大学には合格すると6年間の学費を融資してくれるシステムがあることを知りました。そのシステムを利用できたおかげで、今こうして歯科医師になることができています。
ご専門は歯周病だそうですが、なぜこの分野を選んだのですか?

いろいろな分野を検討する中で、歯周病の専門性を磨けば、歯科をオールマイティーに診られるという気づきがあったのです。一般的に歯周病といえば、歯石を取って口腔内を清掃するものという印象があるかもしれません。しかし実際は、歯周病には3つのアプローチが必要です。1つは、歯周病菌の感染予防。歯石除去などがこれにあたります。2つ目が、力のバランスを整えること。例えば地面に1本のくいを打って、毎日揺さぶっているとどうなるか。地盤が緩んでくいがぐらぐら揺れてきますよね。まさに歯も同じ。バランスを整えてあげないと、噛み合わせが原因で歯が揺れてくることがあるんです。そして3つ目が、生活習慣への取り組みです。どんなに優れた補綴装置を入れても、歯周組織が良くなければ歯を長持ちさせるのは難しい。そういう意味でも、歯周病の予防・治療はすべての歯科治療のベースにあると考えています。
患者一人ひとりの思いを尊重することを重視
患者さんからどのようなご相談が多いですか?

やはり歯周病のご相談は少なくありません。特に多いのが、歯周病によって歯を抜かなくてはならないと他院で言われた方が、何とか残せないかと相談に来られる、いわゆるセカンドオピニオンですね。歯周病の治療は、大きく分けると「リスクのあるご自身の歯を残し、ケアを継続的に行う治療」と「リスク因子を排除し、予知性を高めるための治療」に大別されます。前者はご自身の歯を残すための時間や努力が必要であるとともに、体調などの影響を受けやすいという欠点があります。対して後者は、治療期間の短縮や良好な予後を見込むことができますが、結果として抜歯を余儀なくされることがあります。どちらにしても歯周病の完治は難しいので、悪くなった原因を改善することと、継続的な管理を行うことが重要です。
リスクのある歯でも残せるのですか?
当然、抜かないならその分の努力が必要です。今までの生活習慣で悪化したのですから原因の改善を行うとともに、適切なケアを継続的に行わなければ再発するというデメリットもしっかりご説明し、患者さんが納得した上で選べるようにしています。つまり、歯を残すのか、抜いて補綴装置を入れるのか、どちらが正しいというのではなく、患者さんがどうしていきたいのかが大切なんです。虫歯も同じで、初期段階であれば治療をせず、口腔環境を整えて再石灰化を促すことで修復を待つことがあります。これには歯科衛生士の存在が不可欠。みんな熱心に患者さんと向き合って、ケアをしてくれているのでありがたいですね。
治療時の麻酔にも工夫があるそうですね。

麻酔剤が冷えていると注入した際の痛みにつながるので、事前に体温と同じくらいに温めておくんです。針を刺す際はまず表面麻酔をし、電動注射器を使ってゆっくり注入していきます。余計な圧力がかかるのも、痛みにつながるとされているからです。当院では大人にも小児用の細い針を使うんですよ。なぜここまでするのかというと、私自身が痛みに弱いから。基本的に治療は自分が耐えられるかどうかを意識して行っています。
印象に残っている患者さんはいますか?
大学に入ってすぐに担当した方です。どこに行っても歯を抜くしかないと言われ、それでも諦めきれずに相談に来られました。半年ほど治療を続けて何とか痛みのない状態を維持していたのですが、歯が揺れて噛めないとおっしゃって。入れ歯のメリットをご説明したら、大粒の涙をこぼされて。力が及ばず申し訳ないという私の言葉に顔を上げ、「そこまで考えてくれたのがうれしい。もう抜いてください」と抜歯を決意してくださいました。その後も定期検診に来てくれていたのですが、ある時からパタリと足が途絶えたんです。半年後に来られた時、痩せ細った姿で「一時退院中だから、最後に掃除をしてほしい」と。末期がんでした。「ずっと待っているからまた来てくださいね」と送り出したきり、もう20年以上になります。私たち歯科医師にとっては毎日見ている歯でも、患者さんにとっては大事な1本。安易に抜くと言っていいはずがないんですよね。
原因を追究し、「治す治療から守る治療」へ
患者さんと接する上で心がけていることはありますか?

カルテとは別にサブカルテを作って、担当の歯科衛生士に患者さんと話した内容を書いてもらっています。例えば「お孫さんが来て一緒に遊び疲れたそうです」といったメモは、一見すると歯科とは無関係。ですが、実は疲労が歯茎の腫れの原因ということもあるんですよ。特に、歯周病をコントロールしながら歯を維持している場合、疲労などによって、普段どおりに歯磨きをしていても腫れることがあります。そのヒントになるのがサブカルテなんです。同時に、患者さんのちょっとした変化にも気づき、共有してくれる歯科衛生士の存在はとても重要ですね。
モットーにされていることを教えてください。
仕事にやりがいと責任を持つこと、自ら考えて行動すること、仕事を通じて人として成長すること、そしてよく遊びよく学ぶことを、私もスタッフも大切にしています。歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、それぞれが目標に向かって互いを尊重し、対等に話ができる環境をつくりたいと思っています。以前、当院の歯科衛生士が出産のため一時退職することになったのですが、担当患者さんから花束や記念品を頂いていたんです。復帰時には患者さんから「お帰り。待っていたよ」と声をかけていただきました。そんなスタッフのことを誇りに思います。
近年、渡辺先生が注目されているものはございますか?

スポーツ時の外傷の予防のために活用される、スポーツマウスガードに注目しています。2023年には埼玉県歯科医師会と埼玉県スポーツ協会との間に連携協定が結ばれましたが、県内でスポーツと歯科の関係がより強化されると思うとうれしい限りです。私も歯科医師の一人として、スポーツマウスガードなどを通じてスポーツに携わる人たちの助けになりたいと考えています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
自分を必要としてくれる人がいる限り、その想いに応えていきたいですね。歯科医院へ好きで通うという方は少ないと思います。むしろ、虫歯が悪化して痛むから、詰め物が取れたから、などやむを得ず受診することが多いですよね。それでも構いません。まずは来院していただき、なぜそうなったかを一緒に考えて「治す治療から守る治療」を提供していきたいと思っています。