吉良 公仁 院長の独自取材記事
吉良歯科医院
(松山市/木屋町駅)
最終更新日:2021/10/12

昭和の面影を残すたたずまいの「吉良歯科医院」。院長を務める吉良公仁先生は、祖父から続く歯科医師のバトンを母親から受け継ぎ、3代目として40年以上にわたり診療を行っている。ノスタルジックな雰囲気の院内へ足を踏み入れると、穏やかな表情で迎えてくれる吉良院長と歯科助手の女性スタッフ。患者一人ひとりに寄り添う姿勢が、地域の人々から長年愛されている所以だろう。「笑顔で帰っていただけるよう、的確な治療はもちろんリラックスできる空間づくりを大切にしたい」と語る吉良院長に、長年地域に根差した歯科診療を行っていることへの想いや、診療面で心がけていることなどを聞いた。
(取材日2020年4月11日)
3代にわたり続く、地域密着の歯科診療
クリニックの成り立ちやご経歴について教えてください。

もともと、祖父と母が三瓶町で歯科医師をしておりました。私も三瓶町で生まれ幼少期を過ごしましたが、中学1年生の時に家族で松山に移り、母が現在の場所で歯科医院を開いたのが半世紀ほど前のことです。私は東京歯科大学を卒業してから都内で2年ほど勤務医として経験を積み、40年ほど前に帰ってきました。それから母と一緒に診療にあたっていましたが、しばらくして私中心の診療体制になりました。
患者さんの年齢層や受診のきっかけはどのようなものがありますか?
高齢の方が多いですね。年を重ねるごとに、患者さんも高齢の方が増えてきたように思います。若い先生よりも話しやすいということがあるのかもしれませんね。受診のきっかけとしては、虫歯や入れ歯などの治療だけではなくて、高齢の方もご自分で口の中を心配して、定期的に通ってくださっています。こちらから定期メンテナンスのハガキをお出ししたりお電話したりするのですが、患者さんからも「忘れないように連絡してね」と言っていただくこともあります。
小児歯科も標榜されていますが、お子さんの口腔内の傾向はいかがでしょうか?

近年はお子さんの虫歯が本当に減っています。健診がしっかりしている上に、お母さんたちの歯科意識も上がっているので、それらの成果がお子さんの口腔内にはっきりと現れています。お母さんたちが子どもの時代からすでに衛生観念が良くなってきていますからね。もちろん受診理由として虫歯のお子さんはいらっしゃいますが、圧倒的に少ないですね。ただ、最近は家庭環境によって二極化しています。ネグレクトなど、親御さんが歯科への関心を示さない家庭で育ったお子さんは虫歯が多いという現状があります。ですから、診療の際には背景まで診る必要があると感じています。また、最近はお母さんたちから矯正のご相談も増えていますが、矯正に関しては信頼している矯正専門の先生を紹介しています。まずはかかりつけ医として、矯正をしたほうが良いか、タイミングなどの見極めについて適切なご提案ができるようにと思っています。
特別支援学校での健診も行っているそうですね。
母の代からのお付き合いを引き継ぎ、学校歯科医として県立特別支援学校の松山盲学校や松山聾学校、みなら特別支援学校松山城北分校での歯科健診を担当しています。障害者だからといって、特にわけて考えることはしていません。健常者も障害者も基本は一緒ですから、普通に接していれば何ら問題はないですね。ただ、特別支援学校の高等部の生徒さんは年齢層が幅広いので、若い頃は私より年上の生徒さんもいました。虫歯や歯周病だけでなく入れ歯の方もいますので、より多くの臨床経験を積むことができています。
患者の不安を和らげるため、雰囲気づくりを大切に
診療の際に心がけていることはどんなことでしょうか。

笑顔で帰っていただくこと。これに尽きます。強い痛みを訴えて来られた方には治療によって少しでも痛みを和らげて差し上げたいですし、定期的に来てくださっている方には、メンテナンスで気持ち良さを感じていただきたい。そのために、患者さんの訴えにはしっかりと耳を傾け、適切な治療につなげていくことを大切にしています。また、患者さんにリラックスして治療に臨んでいただくために大活躍してくれているのが、歯科助手の女性スタッフです。彼女はたいへん包容力があり、受付から診察室に入るまでに患者さんの気持ちをほぐしてくれるのです。治療へ向けてアプローチしやすい環境を整えてくれて本当に助かっています。
患者さんと世間話で盛り上がることが多いそうですね。
特に高齢の患者さんは、ご自分から結構話してくださいます。何もなくても「話しに来たよ」と来てくださる方もいますね(笑)。診るというより話すほうが多いかもしれません。一応全体を診て、それから患者さんの近況報告を伺います。それも歯にはほとんど関係なくて、どこそこに行ったとか、息子さんがどうとか。でも、それでいいのですよ。町の歯科医院として、それも一つの存在意義だと思いますから。例の女性スタッフなんか、気づけば30分でも平気で話していますよ。
先生が力を入れている治療とは?

高齢の方が多いので、やはり義歯や補綴など、失った歯を補う治療が中心になります。特に入れ歯の治療は多いですね。近年はインプラント治療が注目されていますが、入れ歯でも安定すればしっかり噛むことができるはずです。しかし、異物ですから、初めて入れ歯を入れるときには違和感や痛みは避けて通れない部分があります。だから最初の1ヵ月はリハビリテーションと思って続けていただけたら。そして、装着した際の違和感や痛みは、ちょっとしたことでも遠慮なく伝えていただきたいのです。同じことをしても痛い人と痛くない人がいるように、感じ方は人それぞれ。私たちは、患者さん一人ひとりの感覚に合わせる必要があります。微調整は手作業の強みですから、しっかりと患者さんを見て、話を聞いて、試行錯誤の上で調整できたらと考えています。
確かに、痛みを感じてもなかなか主張はしづらいですよね。
そうですね。結構皆さん我慢されるので、「痛かったら左手を挙げてくださいね」とお伝えしても、なかなか挙げる方はいません。だからこそ、こちらから気づいて、「ちょっとうがいしましょうか」とワンクッション置くようにしています。痛いときって、つま先にあらわれることが多いので、治療中にちらっとつま先を確認して、ちょっと上を向いているとか反っているとか、そういう反応は気にして見ていますね。スタッフもよく見てくれていて、私が気づかないときはしっかりフォローしてくれています。
気楽に立ち寄れる歯科医院をめざして
お忙しい日々だと思いますが、ご趣味などはありますか?

実は、神社検定を受けようと思って勉強しています。もともと歴史は大好きだったので、ある程度の流れはわかるのですが、やはり神世の昔の人物の名前などはとても難しいですね。最近は患者さんの名前も覚えるのが大変なのに(笑)、と苦戦していますが、頭の運動にはなっています。また、車を走らせるのが好きで、四国八十八ヶ所も何回かに分けて回っています。四国の道を気持ち良く走りながら、各地のグルメや名所を巡るのも楽しみなんです。参拝については、特に薬師如来は職業柄しっかりお参りしています(笑)。
今後の展望を教えてください。
あと何年できるかわかりませんが、なじみの患者さんからは「80歳も過ぎて、手が震えてまで仕事されるのは嫌だからね」なんて冗談で言われています(笑)。でも、当院は本当に高齢でも元気に通ってくださる患者さんが多くて、80代はもちろん90代でもご自分で定期的に来てくださる方がいらっしゃいます。きっと、ご自身の歯が残っていたり、入れ歯でもちゃんと噛めていたりするので元気なんですよね。やはり口が全身に与える影響は大きいなと改めて感じますし、そういう方と接していると、先に旅立ってはいけないなと身が引き締まります。その方々を最期まで診させていただくためにも、自分自身が健康でいなくてはいけませんね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

正直、当院は古いタイプの歯科医院ですから、最先端の機械もありませんし、物足りなさを感じる方もいるかもしれません。でも、気楽に来ていただける雰囲気は持ち合わせていると思うのです。痛いと思ったら遠慮なく来ていただけたら、私とスタッフが親身に対応させていただきます。実際に、何も痛くない方も来られますからね。「久しぶり」なんて会話が始まって、コミュニケーションの輪が広がっていく。そんなふうに、地域の人々が気楽に立ち寄ることができる場所になれたらうれしいです。