大内 高明 院長の独自取材記事
大内歯科医院
(今治市/今治駅)
最終更新日:2021/10/12
今治市内中心部にある「大内歯科医院」は1977年に開院。日本歯科大学を卒業し、40年以上のキャリアを持つベテラン歯科医師の大内高明院長は、障害者歯科の分野に詳しく、障害者だけでなく、摂食・嚥下機能が低下している高齢者の治療にも造詣が深い。また、地域の学校の学校歯科医を長年にわたって務めるなど子どもたちの歯の健康を守ってきた。地域に住むさまざまな人たちに密着して歯科医療を提供してきた大内院長に、歯科医師としての心構えや日常の診療について、たっぷりと語ってもらった。
(取材日2020年5月8日)
先端の医療現場を経験し、今治に帰郷
まず、先生が歯科医師をめざされたきっかけを教えてください。
歯科医師をめざしたのは、父親の影響が大きかったと思います。私の父も歯科医師だったんですよ。大正時代に旧制中学校の英語教師をしていたのですが、思うような教育ができなくなったから、と教師を辞めて、そこから日本歯科医学専門学校に入り直して、歯科医師免許を取ったんです。それから、戦前の1934年に今の旭町に歯科医院を開業したそうですが、戦争中に焼失したりなどいろいろあって、最終的には診療所を7回も建て替えてました。私の父はいろんな意味でとても根性のある人でしたね(笑)。
大学卒業後、お父さまの後をすぐに継がれたのですか?
大学を卒業してすぐは、東京と千葉のクリニックで勤務医をしていたんです。入院施設もあるような大きなクリニックで、全身麻酔もするし、大がかりな外科手術もやるようなところでした。ドイツに留学経験のある先生のもとで、先進の技術や治療方法を学ばせていただきました。本当はもっとそこでいろいろと学びたいと思っていたんですが、父親がもう70歳を超えていて、体調もすぐれないということで、帰って来てほしいと頼まれ今治に戻りました。
勤務医時代の経験はどのように生かされましたか?
その当時の今治では珍しかったと思いますが、静脈内鎮静法や笑気麻酔鎮静法を導入しました。そのため、設備の関係で父がやっていたクリニックをそのまま継がず、別に新しくここで開院したんです。勤務医時代に鎮静が必要な患者さんの症例を数多く経験させてもらっていたので、どうしてもそこは取り入れたかったんです。歯科恐怖症の方や障害のある患者さんの治療には、鎮静はとても有意義なものですので。あと、その東京のクリニックにはさまざまな方たちが定期的にメンテナンスに通ってきていたんです。歯科医院は虫歯になってから治療に来るというのが当たり前だと思っていたので、口腔内のケアをするために虫歯がなくても定期的に通ってくるんだ、と感心しました。予防歯科の必要性を学ばせてもらったと思います。今でこそ定期的なメンテナンスの必要性は浸透していますが、その当時は目からうろこでしたよ。
差別のない、共生できる地域医療をめざして
障害者の歯科治療に関心を持ったきっかけは何だったのでしょう?
鎮静法を取り入れていたこともあり、障害のある患者さんが来られるようになり、そういった患者さんの対応をより的確に行うためには、きちんと勉強しようと思ったわけです。というのも、障害のある方は、その程度にもよりますが治療が難しいケースが多いんです。知的な遅れや自閉症などのために、本人が痛みを訴えられないとか、治療がなぜ必要なのかを理解できず、歯科診療に極度の恐怖感を抱いている方もいらっしゃいます。てんかんや高血圧症などの病気があって特に安全に配慮が必要な方、食べ物を口から食べて飲み込むことが困難な、摂食・嚥下障害の方もおられます。まずは診療室に入ること、スタッフに慣れてもらうことから始めて、治療中も体が不意に動かないようにコントロールをしないといけないこともあります。障害のかたちは一人ひとり異なりますから、対応の仕方も人それぞれ。勉強しないといけないことはとても多く、今でも学び続けています。
印象に残っているエピソードはありますか?
毎回全身麻酔をかけないと治療できない自閉症のお子さんが、急に痛みがひどくなり、いつものクリニックで診てもらえなくて困っていた時、お母さんが当院のことを見つけて連れて来られたんです。普段の様子を丁寧にヒアリングし、その子は全身麻酔をしなくても大丈夫と判断して、治療を進めることができました。お母さんもたいへん喜んで感謝してくださいました。障害者歯科に関しては、岡山大学で研修しました。県外で開催される摂食・嚥下障害の勉強会にもずっと通っていました。大変なことも多いですが、患者さんの対応がうまくいくとうれしいですね。
先生が診療で大切にしていること、モットーを教えてください。
勤務医時代の恩師から言われたことを今でも教訓にしています。「どんなに感じが悪い人であっても、患者さんの悪口だけは絶対に言わないように」ということなんです。自分では最善を尽くしてやっているつもりでも、受け取り方は人それぞれ。良かれと思ってやったことが、相手には伝わらないこともあるでしょう。人間だから相性もありますし。だけどどんな場合でも、患者さんによって区別をしないということをモットーにしています。そして、いかなる場合でも手を抜かない、自分の都合で断らない、といったところでしょうか。その考えでずっとやっていますね。
患者との接し方、人との関わりをどう持つかが大切
なぜ日曜も診療をされていらっしゃるのですか?
開院した当初は、歯学博士を持つ矯正専門の先生を東京からわざわざ招いていたんですよ。地方であっても、高度な治療が受けられる環境をできるだけつくろうと思っていて。その先生の都合上、矯正の予約を日曜に取っていたんです。そうすると、急に痛くなったので診てほしいとか、腫れてしまったという患者さんが来られるようになったんです。痛いと言われているのを放っておけないでしょう? 断れないんですよ、性格的に(笑)。そうこうしているうちに、お仕事の関係で日曜でないと通院できないという人も多くいらっしゃるようになってきて。だから、そういう方のために、日曜は診療すると決めたんです。今治市内だけでなく、西条市や新居浜市などからいらっしゃっている患者さんもいますよ。
先生にとって、やりがいを感じる時はどんな時でしょうか?
私は、やりがいは求めないようにしています。歯科医師としての仕事は修行だと思ってやってるんですよ。唐突ですが「乞食(こつじき)」という言葉をご存じですか? 僧侶が人家の門前に立ち、食を求めながら行脚して修行することを乞食というんです。施しをもらえる時もありますが、罵倒されたり、悲しい思いしたりすることもある。その苦行を一つ一つ乗り越えることこそ修行なんです。例えば善意でやったことでも、悪意にとられてしまうことってありますよね。世の中、理不尽なこともある。世のため、人のためと思って医療の道に進んでも、そうはなっていないこともある。どれだけ経験を重ねようが、私自身できていないことも多い。だから、やりがいは求めず、自分に戒めと思って常に新しいことを吸収し、キャッチアップしていきたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
80歳ぐらいまでは現役で頑張るつもりです。障害者歯科の勉強は続けていきますが、いくら勉強を続けても、必ずしも最善の治療ができるわけではないということを肝に銘じてね。知識・技量・経験は、数が多ければいい、幅が広ければいいというものではなく、深さも必要なんですよ。極端な話ですが、俳句を嗜むとか、人としての教養も必要だと思っています。そして、障害者や高齢者は特に歯科治療に対して不安やストレスを感じるので、それを軽減するような努力を今後も続けたいと思っています。患者さんはどんな方でも受け入れること、自分の都合で患者さんを断らないようにしたいと思っています。可能な限りで、たとえ診療時間外であっても急患で困っている人がいれば対応するよう、これからも続けていきたいと思っています。
自由診療費用の目安
自由診療とは歯列矯正/小児:30万円~、大人:75万円~