歯科衛生士が職場に求めるものは、専門職としてのスキルを発揮できるやりがいや風通しの良いコミュニケーションなどさまざま。その中でも、多くの人が共通して注目するポイントの一つが「給与」ではないでしょうか。
しかし、お金の話題はタブー視されがちで、「給料はいくらなのか」「どんな方法で昇給したのか」といった情報を周りの歯科衛生士に聞きにくい人も多いと思います。そこで本記事では、2023年(令和5年)の厚生労働省の調査をもとに、歯科衛生士の給料事情をリサーチしました。歯科衛生士の給料アップ方法も取り上げますので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 歯科衛生士の平均給与額は?
この項目では、歯科衛生士の平均月収・年収(※)などをご紹介。女性の歯科衛生士の平均給料額や歯科衛生士の給料の過去5年の推移も取り上げます。
(※)本記事内の平均給料額は厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』規模10人以上の企業(医療機関を含む)のデータに基づきます。
(※)本記事内の平均給料額は正社員、契約社員、パート、アルバイトなどを含むフルタイム労働者(1日8時間/週5日)の給料の平均額です。
●歯科衛生士の平均月収は?

歯科衛生士の平均月収は29.62万円です。
月収とは、基本給に通勤手当(交通費)、住宅手当、時間外手当(残業手当)などの各種手当が加算された合計額です。月収は額面月収とも呼ばれ、実際に受け取れる手取り額とは異なります。
●歯科衛生士の平均年収は?

歯科衛生士の平均年収は404.32万円です。
年収とは、12ヵ月分の月収にボーナスなどの特別収入を加算した金額のことです。年収は額面年収とも呼ばれ、実際に労働者が受け取る手取り額とは異なります。
●他業種の女性全体の給料と、歯科衛生士全体の給与を比較
歯科衛生士の約99%である女性の歯科衛生士全体の平均給与額と、他業種の女性全体の平均給与額を比較します。
女性の歯科衛生士全体の平均給与額は、平均月収29.59万円、平均年収404.44万円。対して、他業種の女性全体の平均給料額は、平均月収28.06万円、平均年収401.13万円です。歯科衛生士の給与は低いといわれることがありますが、歯科衛生士の給料は、他業種の女性と比べて遜色ないことがわかります。
●歯科衛生士の給料は令和時代も安定
歯科衛生士の平均年収は、新型コロナウイルスの流行が始まった2019年からの5年間を見ても安定傾向にあります。また予防医療への関心が高まる中、歯科衛生士の口腔ケアに改めて注目が集まっています。
超高齢化が進む日本では誤嚥性肺炎予防などにつながる高齢者の口腔ケアなど、ますます歯科衛生士の活躍する機会は増えていくでしょう。そのため歯科衛生士の給料が今後低下するとは考えにくいです。むしろ、需要の高まりから、将来的に現在より高水準になることが見込まれます。
2. 歯科衛生士の都道府県別の平均給与額は?
都道府県別に平均月収・年収を図表化しました。ご自分が働く都道府県の歯科衛生士がどのくらいの給料をもらっているかの目安をチェックしてみてください。
●地域別平均給与
地方別にみると、関東では全体的に平均給与額が高いことがわかります。
全国の歯科衛生士の平均月収は29.62万円のところ、関東地域のうち、東京、茨城、埼玉、栃木、群馬の5都県の歯科衛生士の平均月収は30万円を上回っています。また、首都圏のうち東京、神奈川、茨城、埼玉、栃木、群馬の6都県で、全国の歯科衛生士の平均年収404.32万円を上回っています。
また、関東だけでなく、京都、大阪、岩手、岐阜、愛知、富山、新潟、山口、福岡、大分の10府県では、歯科衛生士の平均月収が30万円を上回っています。
3. 歯科衛生士の年代別の平均給料額
歯科衛生士の年代別の平均的な給料額をグラフでご紹介します。自分と同世代の歯科衛生士がどのくらいの給料をもらっているか、将来的にどのくらいの給料を得ることができるのかの目安にしてみてください。
●歯科衛生士の平均給与額が高い年代
一般的に定年となる65歳未満に対象を絞ると、歯科衛生士の平均給料額が最も高くなる年代は45~49歳で、平均月収は36.13万円、平均年収は523.34万円です。
勤務先が管理職制度を導入している場合、経験の長い45~49歳の年代の歯科衛生士は管理職の立場にいることも少なくありません。管理職の歯科衛生士には役職手当などがつくことがあり、その影響もあって平均給料額が上がっていると考えられます。
●歯科衛生士の給与は勤続年数とともに上がる傾向に
歯科衛生士の給料は勤続年数が長くなるにつれて高くなる傾向にあります。
一方、35~44歳の年代では、給料の上昇がいったん止まっていることがわかります。結婚・出産・育児などのライフイベントを機に退職した人が、ブランクを経て復職し、キャリアをリスタートするのが35歳~44歳の周辺であることが一因でしょう。
歯科衛生士は、求職者より雇用したい歯科医院や施設の数が圧倒的に多いため、ブランクがあっても復職しやすいといえます。
●歯科衛生士は年齢を重ねてからも安定した給与を得られる
歯科衛生士の給与は50歳以降も大きく下がることはありません。むしろ、60歳以降で平均年収が再度上がっていることから、経験を生かして長期的に働く歯科衛生士であれば、年齢を重ねてからも十分安定した給与を得ることができるとわかります。
4. 歯科衛生士の平均手取り額は?
この項目では、給与に関わる用語である、「額面」と「手取り額」の違いから確認。歯科衛生士の平均手取り額や、手取り額の目安を把握する方法もお伝えします。
●額面と手取り額の違い
額面……雇用主から労働者に支払われる総額のことで、月収、年収というときには額面のことを指すのが一般的です。月収の額面は、基本給に、通勤手当(交通費)、住宅手当、時間外手当(残業手当)などの各種手当が加算された合計額。給料明細の「総支給金額」の欄に記載されていることが多いです。
手取り額……実際に雇用主から労働者自身が受け取ることができる金額のことです。手取り額は額面から所得税や住民税(市県民税)、社会保険料などを天引きした金額となります。手取り額は給料明細の「差引給与額」の欄に記載されていることが多いです。
●手取り額は額面の何%?
手取り額は額面の75~85%といわれます。割合に幅があるのは、額面の金額により所得税の税率も変わるため、また、社会保険料や扶養家族の有無などによっても差し引かれる金額が変動するためです。
●歯科衛生士の平均手取り額
歯科衛生士の平均手取り額の目安はおよそ月24万円、年320万円です。これは歯科衛生士の平均給料額(額面)である、平均月収29.62万円、平均年収404.32万円の8割程度にあたります。
●求人票に書いてあるのは手取り額?額面?
求人票などに書かれている総支給額は、手取り額ではなく額面です。実際に自分が受け取ることができる手取り額の目安を知りたい場合は、求人応募に記載されている総支給額の8割程度が手取り額になる、とイメージしてみてください。
5. 歯科衛生士の平均ボーナス額
ボーナス(賞与)とは毎月の給料とは別に支払われる給与のことです。ここでは歯科衛生士の平均ボーナス額や、ボーナスは必ず支給されるのかといった内容を取り上げます。
●歯科衛生士の平均ボーナス額
歯科衛生士の年間の平均ボーナス額は48.88万円です。実際に受け取ることができる手取り額は、ここから社会保険料と所得税を差し引いた額となります。ボーナスの手取り額の目安を知りたいときは、求人票に書かれた支給額の8割程度とイメージしてみてください。
●ボーナスは必ずもらえるもの?
ボーナスは福利厚生制度の一つなので、ボーナスのない職場は珍しくありません。一般的にボーナスは年に2回、夏と冬に支給されますが、支給の回数や時期、支給額についても雇用主が自由に決めることができます。また、支給額は職場の経営状況に左右されるケースがほとんどで、毎年同額が支給されると約束されるものではありません。
6. 歯科衛生士が給料を上げる方法 6選
歯科衛生士の給与周りの事情を知り、自分の給与を上げたいと思った人もいるでしょう。ここでは、歯科衛生士が給料を上げるために押さえておきたい6つの方法を紹介します。給料アップを実現するために、自分に合う方法はどれか考えながらチェックしてみてください。
●現在の職場に給料交渉する
院長など職場の責任者と交渉するのは、給料を上げるために歯科衛生士が取れる方法の一つです。ただその際、「給料に不満があるから昇給してほしい」と要望だけ伝えるのは避けましょう。自分の給料を上げたい根拠をきちんと伝えることが重要です。自分の今の給料に関する不満や自分の事情をぶつけるのではなく、根拠に基づいた交渉をしましょう。
例えば、「長く勤める中で身につけた業務スキルで、職場に貢献できているため」「昇給制度があると聞いていたのに、入職してから長期間給料が据え置きのため」など、なぜ自分の給料が上がるべきなのかの根拠を持って交渉に臨むようにしてください。
●現在の職場で勤続年数を重ねる
歯科衛生士の給料は勤続年数に重ねることで上がる傾向にあります。現在の給与に不満があるけれど、ほかの面では満足していて、交渉には二の足を踏むという場合は、今の職場に長く勤務し、長い目で昇給をめざすことを視野に入れてもいいでしょう。ただし、勤続年数が給料に反映されない職場もあるので、今いる職場の昇給制度や評価制度の確認を忘れずに。
長年勤務しながら新人教育などにも対応するうち、管理職の立場にキャリアアップできる可能性もあります。管理職に対して役職手当を支給する職場もあり、管理職の歯科衛生士になれば収入アップにつながります。
●対応できる業務の幅を広げる
対応できる業務の幅を広げることは、歯科衛生士が給料を上げるのに有効です。歯科衛生士の3大業務である「歯科予防処置」「歯科診療の補助」「歯科保健指導」に習熟し、対応できる業務の幅を広げていけば、働きが評価されて給料アップが期待できます。
例えば、最近は審美歯科や予防歯科に患者の関心が集まっているため、ホワイトニングやスケーリングやPMTCのようなクリーニングのスキルが高い歯科衛生士は、職場で重宝され、活躍の機会が増えていくでしょう。
ただし、昇給の仕組みや評価の基準などはクリニックによって異なります。今の職場の評価システムなどを確認しておくことが肝要です。
また、インプラント治療などの自費診療を担当すると、歯科衛生士に対してインセンティブを支給する制度を採用するクリニックもあります。インセンティブとは「職員の成果に応じて支給される給料以外の報奨金」のことです。
●学会認定資格を持つ歯科衛生士になる
学会認定資格を取得することも歯科衛生士の給料を上げるための方法です。学会認定資格を持っていると、歯科衛生士としての専門性やスキルをわかりやすく示せます。キャリアアップにつながるだけでなく、職場に給料を検討してもらう際のプラス材料になるでしょう。
学会認定資格を持つ歯科衛生士に、資格手当を支給するクリニックもあります。
学会認定資格の一例は、「日本歯周病学会認定歯科衛生士」「日本口腔インプラント学会認定インプラント専門歯科衛生士」「日本審美歯科学会ホワイトニングコーディネーター」など。自分の関心や勤務先が力を入れている分野と照らし合わせて、取得する資格を選ぶのがお勧めです。
●フリーランスの歯科衛生士になる
培ってきた経験やスキルを生かし、フリーランスになるのは、歯科衛生士が収入を上げるための選択肢です。フリーランスの歯科衛生士は、病院やクリニックなどに所属しない「個人事業主」。スケジュールや働き方の管理が自分で行えます。
フリーランスの歯科衛生士は仕事を掛け持ちできるため、高単価の仕事を複数受け持てば、給料アップが期待できるでしょう。ただ、フリーランスには「決まった給料がなくなるため金銭的に不安定になりやすい」「自分で働く場所を開拓する必要がある」といった側面もあります。
●転職する
給与面をはじめ、待遇や環境が自分にマッチしていないと感じたら、転職するのも一つの手です。給料を上げるために転職先を探す場合は、月収や年収の額以外に、給料に関わる項目をしっかり確認しましょう。
月収や年収の額のほかでは、「昇給制度やボーナス(賞与)支給制度が整っているか」「学会認定資格があると資格手当が支給されるか」「住宅手当や家族手当などの福利厚生が充実しているか」といった点が、給与に関わる注目ポイントです。
ただし、転職を検討する際は、給与面だけ見ると入職してから「こんなはずではなかった」となる可能性があります。
職場とのミスマッチを防ぐために、勤務形態のような働き方に関わる項目や、注力している診療内容を確認することも大切。歯科衛生士はクリニックを中心に、病院や介護保険施設などさまざまな場所で求められています。理想とする給料や働き方、歯科衛生士像に照らして、どこでキャリアを築くのがベストかをじっくり検討してみてください。
◇ ◇ ◇
現在、歯科クリニックは日本全国に6万7000軒以上。コンビニの店舗数を上回るほどですが、それに対して就業中の歯科衛生士の数は慢性的に不足しています。
歯科衛生士の売り手市場は全国的に今後も続いていくと考えられるため、「ベースとなる給料が今より高いクリニックに転職したい」、「働きやすい職場に転職・長期間勤務して給与を上げたい」といった希望を叶えることも十分に可能でしょう。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」でも、歯科衛生士の転職先を多数掲載していますので、納得できる待遇で働ける職場を見つけるためにぜひご活用ください。(ドクターズ・ファイル編集部)