看護師が働く場には、大規模病院やまちのクリニック、リハビリテーション施設などさまざまなところがあります。中でも注目したいのが、「地域包括ケア病棟」。高齢化が進む近年、国を挙げて推進されている地域包括ケアの仕組みを支える施設です。
この記事では、地域包括ケア病棟にフォーカスをあてて、病棟看護師の仕事内容や魅力、やりがいなどを紹介。地域包括ケア病棟で働くことに興味がある人はもちろん、地域包括ケア病棟での看護師の仕事について知らなかったという人にとっても、選択肢の幅を広げるヒントになるでしょう。
<目次>
1 地域包括ケア病棟とはどのような施設?
地域包括ケア病棟とは、2014年度の診療報酬改定によって新設された、病状が安定した患者が安心して自宅や施設に帰れるように支援する病棟です。主な役割は、急性期治療を終えたものの自宅や施設に戻ることに不安を抱えている患者の受け入れ、自宅や介護施設などで療養中の患者が緊急入院を要する際の受け入れ、在宅・生活復帰支援の3つ。
●回復期リハビリテーション病棟との違い
急性期病棟で治療を終えた患者を受け入れる役割を担うという点を捉えると、回復期リハビリテーション病棟をイメージするかもしれません。そこでまずは、混同しやすい回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟の違いを見ていきましょう。
地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟の違い
発症以前の状態への回復をめざしてリハビリテーションを行う回復期リハビリテーション病棟とは異なり、地域包括ケア病棟で提供するサポートは、在宅復帰をするためのリハビリテーションをはじめ、疾患に対する治療、自分らしい生活ができるための介護サービスの提案など広範囲に及びます。
なお、急性期病棟での治療を終えた患者が、回復期リハビリテーション病棟に転院・転棟するまでの待機期間中に地域包括ケア病棟へ入院することもあります。
●レスパイト入院の受け入れ
地域包括ケア病棟の役割として、患者を支える家族の負担軽減、サポートを実現するために「レスパイト入院」を受け入れるケースもあります。
レスパイトは休息、息抜き、一時中断といった意味合いを持つ言葉であり、レスパイト入院とは、家族の休息やさまざまな事情に合わせ、一時的に病院が患者を受け入れることです。例えば冠婚葬祭への出席、旅行などの理由で家族が不在にするときや、在宅での受け入れ環境を整えるためのバリアフリーリフォームやベッドの搬入時など個別の事情に合わせて相談できます。
主にレスパイト入院は、介護保険におけるショートステイなどでは対応が困難な、医療的処置や管理が必要な患者が対象となります。
2 地域包括ケア病棟の看護師の役割・仕事内容
地域包括ケア病棟の看護師が担う主な役割や仕事内容、求められるスキルについて紹介します。ただし、対応疾患などによって役割や仕事内容は異なります。
・入院の受け入れ対応
入院する患者に施設や入院生活の説明をしたり、病室でのケアをしたりと入院時の対応を行います。また患者や家族と入院の目的やゴールに対する意思を共有して退院までのステップをイメージしてもらいます。
地域包括ケア病棟に入院する患者は、急性期病棟で治療を終えて転院・転棟してくる人、自宅・施設で療養していたものの病状が悪化して緊急入院が必要になった人など、状態や状況は患者一人ひとりで大きく違うため、知識や技術はもちろん、ホスピタリティが求められる仕事です。また在宅介護・看護をしている家族の身体的・精神的な負担を軽減するために、医療管理が必要な患者を受け入れるケースも。
地域包括ケア病棟は患者の入れ替わりが頻繁にあり、看護師としての日々の業務において、入院患者の対応は比重の大きい仕事です。
・身体管理・ケア
バイタルサイン測定、点滴、採血などの診察補助や健康管理、排せつ・入浴の補助といった体の清潔ケアなど、入院病棟で必要となる一般的な身体管理を行います。病棟の環境整備や、療養環境を清潔に保つことも看護師の重要な仕事です。加えて地域包括ケア病棟の看護師は、在宅復帰をめざせるよう残された身体機能の維持が求められるため、患者自身ができることに対して進んで取り組むよう促した上で安全確保するなど、退院後の生活を見据えたケアやサポートを行います。
・退院に向けての意思決定のサポートや退院後の療養に関する不安の解消
退院に向けたサポートを行います。まずは、退院後に自宅や施設でどのような暮らしをしたいか、家族はどのように関わっていくかなど、意思確認を行います。患者本人と家族の意見が食い違う場合には、看護師が間に入って互いが納得できる方法を模索し、提案するというケースも。意思の疎通が図れたら、自宅や施設に帰った後の実際の生活をイメージしながら、退院に向けてのサポートを計画的に進めます。
そのほか、退院に向けて患者の不安を払拭するために、外出や外泊のプランを立てるなど、病棟から在宅へスムーズに移行するための施策を練ることも看護師の仕事。退院日には、通院スケジュールや服薬に関する説明も行います。
・患者の家族の支援
患者自身はもちろん、患者の家族へのサポートも重要です。患者の病状、退院後の生活に合わせてどのような介護が必要かを確認しながら、活用できる介護サービス、生活環境の整備などに関する相談に応えます。
自宅で喀痰吸引や経管栄養を必要とする場合には、患者本人のみならず、必要に応じて家族にもやり方や注意点、トラブル時の対処法などを指導。また、在宅療養中に状態が悪化した際の受け入れ先、相談窓口などについても伝えます。
・他職種との連携を深めるためのコミュニケーション
ケア内容が多岐にわたる地域包括ケア病棟では、他職種との連携も不可欠となるため、スタッフと患者、あるいはスタッフ間の橋渡し役を担うことが求められます。
リハビリテーションに関しては理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などと連携。また、医師や薬剤師との情報共有も行き届いたケアの肝となります。さらに退院後の生活支援を想定し、セラピストやソーシャルワーカー、栄養士、介護スタッフ、退院先が施設である場合には施設スタッフとの連携も肝要です。
患者がより良い状態で安心して退院し、かつ平穏な療養生活を送れるよう、病棟カンファレンスや退院カンファレンスを通じ、チーム医療の要として各分野のプロフェッショナルたちとコミュニケーションを深めます。
患者との日々のコミュニケーションを通じて、患者の悩みや相談に耳を傾けながら、専門スタッフに情報共有していきます。そういったことが治療やリハビリテーションに生かされるのです。
3 地域包括ケア病棟で働く看護師の一日の流れ
地域包括ケア病棟で働く看護師は、どのような日常を過ごしているのでしょうか。一例として、一般的な一日のタイムスケジュール例を紹介します。
地域包括ケア病棟では、他の病棟看護師同様、二交代制や三交代制など、シフトのスタイルは職場によってさまざまです。ここでは、二交代制の日勤のケースを想定し、一日の流れを見ていきましょう。
4 地域包括ケア病棟の看護師のやりがい・魅力
仕事自体に関するやりがいや、患者・家族と接することでの充足感、働く環境などから、地域包括ケア病棟の看護師のやりがいや魅力を見ていきましょう。もちろん、やりがいや魅力は人それぞれ異なりますが、「地域包括ケア病棟の看護師ならでは」のやりがい・魅力をチェックすることで、職場選びのヒントにしてください。
・患者や家族からの感謝や笑顔が直接見聞きできる
地域包括ケア病棟の看護師は、退院に立ち会うため、患者や家族から直接感謝の言葉をかけられることも少なくありません。そのことが看護師としての充足感につながるという人が多いようです。症状が良くなり、退院していく患者や家族の笑顔から元気をもらうことも多いはずです。
・裁量を持って働ける
入院中のケアにおいては、看護師自身の裁量が多いという点も魅力に。もちろん医師や、先輩、上司に指示を受けることは多くありますが、患者と接する時間が長い看護師は、その時々で変化する状況に自分で考えて対応していくことも求められます。裁量と責任感を持って患者に関われるということは、地域包括ケア病棟の看護師のやりがいの一つといえるでしょう。
・患者にじっくり向かい合える
退院後の生活を患者とともに考えたり、相談に乗ったりと、入院中のケアをするだけではなく患者の生活に心から向き合うのが地域包括ケア病棟の看護師の仕事。患者と心を通わせてじっくり向き合うことができるという点では、看護師という仕事の醍醐味を味わえる職場といえます。
・プロフェッショナルと一緒に仕事ができる
担当医師のみならず、自院のリハビリテーションスタッフなどのほか、介護施設や地域包括ケアセンターなど、さまざまなプロフェッショナルと仕事ができるということ自体が、自身の成長や自信、やりがいにつながります。
・患者の退院後の生活の質に関われる
退院後の患者の暮らしぶりや様子をイメージしながら、どのようなケアが必要かを考えて計画を立てる、さまざまなケアや情報提供、提案をするなど看護師の工夫の余地は広く、退院後の患者の生活の質の向上に関わることができます。
・社会への貢献を実感できる
今後、在宅療養をする高齢者がますます増えることが予測される日本において、社会、地域全体で高齢者を守る地域包括ケアの仕組みの核を担っているという実感を得られることも、大きなやりがいの一つにつながるのではないでしょうか。
・ライフステージに合わせて働きやすい
働く環境の面を見ると、急性期病棟と比較して、不規則な勤務や急な呼び出しに応じなければならない可能性が低いため、時間に追われる慌ただしさ、残業が続くといった体力面でのつらさは抑えられるでしょう。勤務時間帯の調整をしやすい病院が多く、ライフステージの変化に合わせた働き方を選びたいという人には、メリットの多い職場です。
5 地域包括ケア病棟の看護師に向いているタイプ
性格や能力、興味、考えなどから、どんな人が地域包括ケア病棟の看護師として活躍できるのか、向いているとされるタイプを解説します。
・一人ひとりの患者や家族をしっかりと支えたい人
患者や家族一人ひとり、そして「退院後の生活」に寄り添ったケアやサポートを行う地域包括ケア病棟では、一人ひとりの患者に深く関わりたい人や、看護師として人を支えることに意欲を感じる人にとって適した職場でしょう。また、命に関わる重篤な状態の患者のケアや治療補助は発生しにくい環境なので、治療補助の経験に不安のある看護師が順応しやすい環境とされます。
・介護経験者や在宅医療に興味がある人
介護関係での経験がある人や、将来的に在宅医療の道を検討したいと考えている人にとっては、在宅ケアに関する知識や経験を蓄積し、ネットワークを構築しやすいので、地域包括ケア病棟の看護師を経験することは大きなメリットになる可能性があります。地域連携の一員として頼りにされ、地域貢献したいという思いが強い人にとっては、看護師冥利に尽きる仕事です。
・チーム医療の調整役として働きたい人
診療補助や入院中の補助といった、患者対応を担うだけでなく、チーム医療の輪を保ち、より良いケアを実現するためのキーパーソンとなる地域包括ケア病棟の看護師。患者や家族だけではなく、医療従事者同士としてや、介護関係者との接点も多くあります。コミュニケーション能力に自信がある人や、さまざまな立場の人たちの潤滑剤となるような調整役をやりたいという人は向いているといえそうです。
・他職種のプロフェッショナルと働いてみたい人
医療のみならず介護やリハビリテーション、管理栄養など、それぞれの分野のプロフェッショナルと接する機会も多いことから、各専門分野に対する高い見識と意欲を持って働く人から刺激を受けられるというのも地域包括ケア病棟の看護師のメリットです。向上心を持って仕事に取り組みたい人、広い視野を持って仕事に臨みたいという人は、活躍の場を広げることができるでしょう。
6 地域包括ケア病棟の看護師への転職に役立つ志望動機
志望動機は採用担当者にやる気や熱意を伝えるための大切なアピールポイントです。以下に例文を用いて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
〈志望動機 例文〉
病院勤務を通じ、患者さまが心から安心して治療に取り組めるよう、看護師として何ができるかを考えてきました。考えを巡らす中で、深く学びたいと思ったのが、「地域連携」です。
特に患者さまとじっくり向き合いたい思いもありましたので、在宅復帰や退院に向けた支援において、患者さまとそのご家族、さまざまな専門職との連携によって、多角的に患者さまを支えることができるのではないかと思いました。
この考えに至った際、チーム医療を通じて地域の患者さまに寄り添うことを理念とし、病診連携など地域連携にも力を注ぐ貴院に共感し、志望させていただきました。
これまでの経験を生かすとともに、新たな知見を積み重ねて貴院に貢献したいと考えております。
〈ここがポイント〉
「看護師としてどうありたいか」といった自身の考えを示すことが重要です。また、共感した理念や医療体制についてふれることで、「地域包括ケア病棟への理解を深めているので、ミスマッチは起こりにくい」とアピールできます。 自身の考えや関心事に対して述べる際は、どうして関心を持つようになったのか、思考のプロセスを添えることで、読み手により納得感を与えられます。
7 地域包括ケア病棟の看護師の求人を探すには
今後も高齢化の進行が見込まれる中、自宅療養や自宅介護を要する方はますます増加することでしょう。医療体制の逼迫が懸念される中、地域の互助による地域包括ケアの推進は社会的なニーズなのです。
そういった社会的な役割を担う地域包括ケア病棟で働く看護師への需要は高まり、将来性のある仕事としての認知が広がることも考えられます。
地域包括ケア病棟での仕事は、入院施設のある比較的大規模な病院などが主な勤務先に挙がります。求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで求人が出ていることが一般的です。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」では、地域包括ケア病棟の看護師の求人を多数掲載しています。
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◇ ◇ ◇
今回は、地域包括ケア病棟における看護師の仕事内容や働く環境、やりがいなどについてご紹介しました。今後、少子高齢化がますます加速する社会の中で、医療、介護などさまざまな分野のプロフェッショナルと連携しながら、患者が自宅や施設で安心して療養できるように提案やアドバイス、ケアを行う地域包括ケア病棟の仕事は、看護師としての本質を見つめ直す絶好の職場ともいえます。
看護師としてのキャリアアップをめざしている人、充足感や達成感のある仕事を求めている人は、ぜひ本サイトで紹介している求人を参考に検討してみてください。
地域包括ケア病棟で働く看護師の一日の流れ
【8:30】朝礼/夜勤担当者からの引き継ぎ
夜勤担当者に患者の状態や看護内容などをヒアリングし、業務を引き継ぎます。その後、カルテのチェックや担当患者の情報収集、医師からの指示の確認などを行います。
【9:00】カンファレンス
インシデントの振り返りや、担当患者に関する医療ケア内容について、リハビリスタッフらと相談・検討。
【9:30】入院患者の受け入れ対応
入院患者のバイタルチェック、病棟内のオリエンテーション、薬の確認などを実施。
【10:30】午前の病室ラウンド
担当患者の病室を見回り、患者にあいさつ。療養環境の確認をしながら、検温やバイタルチェックを実施。担当患者一人ひとりに適したケアを行います。
【11:30】昼食準備、片付け、口腔ケア
配膳、下膳、食事介助などの患者の昼食をサポート。歯磨きをするように声かけをし、自分でできる患者にはサポートをしながらケアを行います。
【12:30】休憩
昼食を取ります。担当患者の昼食の介助を踏まえて、スタッフは時間をずらして交代で休憩を取るようにしている職場が多いです。
【13:30】午後の病室ラウンド
午前中に回りきれなかった患者のラウンド。また、午前中に特別な処置を行った場合はしっかりと経過観察を行います。
【15:00】他職種とのチームカンファレンス
各分野の専門スタッフと患者の情報を共有し、看護記録を作成。患者の状態を踏まえ、必要に応じて看護計画の見直しなどを行います。
【16:30】夕礼、夜勤担当者へ患者に関する情報を共有
夜勤担当者に患者の状況を申し送りします。
【17:00】患者へ交代のあいさつ
担当患者の病室を回り、夜勤の担当者に交代することを伝えます。
【17:30】退勤