ひと口に歯科衛生士といっても、一般歯科や矯正歯科、小児歯科、審美歯科といった診療科ごとに、または外来や地域包括ケア病棟といった勤務先によって、その仕事内容はさまざま。転職先を考える上で、ほかの診療科などでの歯科衛生士の仕事内容を知りたい人も多いでしょう。この「歯科衛生士の仕事」シリーズでは、そんな人たちのために、診療科や勤務先ごとでの歯科衛生士の仕事をピックアップして紹介します。
今回取り上げるのは「小児歯科」です。一般歯科医院でも小児歯科を標榜して治療を行っているところはありますが、この記事では小児の歯科治療を専門としている歯科医院(小児専門歯科医院)での、歯科衛生士の仕事内容、やりがい・魅力、向いているタイプ、職場の探し方などを解説。
小児歯科に関する専門性の高いスキルや知識を身につけたいと考えている人はもちろん、どんな働き方ができるのか気になった人もぜひチェックしてみてください。
<目次>
1 小児歯科専門の歯科医院(小児専門歯科医院)とは?
小児専門歯科医院とは名前のとおり、小児(子ども)に対して歯科診療を行う歯科医院のことです。小児歯科治療の臨床実績が多い経験豊富な歯科医師が常勤し、子どもならではの歯の特性や成長に寄り添った診療を提供しています。
●小児専門歯科医院の特徴
治療内容自体は一般歯科と大きく違うわけではありませんが、患者が子どもに限られるため、乳歯の生え替わりや顎の発達、永久歯の歯並びなど、患者の成長への考慮が常に求められます。
またフッ素塗布やシーラント処置、適切な歯磨き習慣の定着といった虫歯予防に力を入れている歯科医院が多いことも特徴。将来的な口腔内の問題を未然に防ぎ、生涯にわたって歯の健康を守って行けるような歯科診療を提供しています。
ほかに、おもちゃを備えたキッズルームの併設や、なじみのあるキャラクターグッズの設置で安心感を持たせる、診療中にアニメを流すといった工夫を凝らしているところも。加えて、歯科医師や歯科衛生士が恐怖心を和らげるための声かけや子どもが理解しやすいようにかみ砕いた説明を行うなど、居心地の良い環境づくりやコミュニケーションを重視している歯科医院が多いことも特徴の一つといえます。
●患者の特徴
子どもの成長過程には個人差があるため、小児専門歯科医院では明確な対象年齢を定めていないところが大半。しかし、口腔内の成長を見据えて治療を行う小児歯科の特性上、一般的に乳歯が生え始める生後半年くらいから、永久歯が生えそろう中学生くらいまでを対象としているところが多いようです。
「令和3年(2021年)度学校保健統計調査」(文部科学省)によると、2021年度の幼稚園児の約3割、小学生の約4割が虫歯に罹患したことがあるという結果が出ており、虫歯のある子どもたちは少なくありません。
一方、調査結果からは虫歯の罹患率が年々減少しており、子どもの虫歯予防に取り組む保護者たちが増えていることがうかがえます。このような予防歯科への意識の向上を踏まえると、小児歯科のニーズは今後もますます高まっていくことが予想されるでしょう。
2 小児歯科の歯科衛生士の役割と仕事内容
小児専門歯科医院の歯科衛生士には、診療補助や保健指導といった通常の業務に加えて、歯科医師と子どもたちとの間を取り持つという重要な役割があります。例えば治療を怖がっている子どもに優しい言葉をかけたりおもちゃを持たせてあげたりするなど、安心して治療に臨めるような雰囲気づくりをすることで、歯科医師のスムーズな診療・治療をサポートしていくのです。
小児専門歯科医院でどのような業務を行うのか、代表的な仕事内容を以下に詳しく紹介します。併せて、求められるスキルについても解説しますので、一つずつ確認していきましょう。
●主な仕事内容
・歯科診療の補助
主にカルテの記録や歯科医師の処置前の口内清掃、バキューム操作、補助器具の消毒や管理などを行います。また小児歯科矯正のために歯科医師の指示に沿って患者の歯型を採ったり、矯正ワイヤーの調整を行ったりすることも。
・歯科予防処置
患者の歯石やプラークの除去、フッ素塗布やシーラント処置などを施し、虫歯や歯周疾患といった歯や歯茎の病気の予防処置を行います。
・口腔ケアに関する保健指導
患者本人や保護者に対して、正しい歯磨きの方法、食事やおやつの適切な取り方、咀嚼の仕方を教えるなど、歯の健康維持やQOLの向上につながる保健指導を行います。
・院外での検診や啓発活動
歯科医師と一緒に保育園や幼稚園などの施設に出向き、歯科検診の補佐を行うこともあります。また歯磨き教室や子ども向けの歯科講話といった口腔ケアに関する院外での啓発活動を行う場合も。
●求められるスキル
小児専門歯科医院で働くための必須資格は、基本的には歯科衛生士の国家資格のみです。小児歯科への興味や熱意、患者の口腔の成長過程を見守りサポートする気持ち、それから次の3つのスキルが業務において必要となる場面が多いでしょう。
・子どもの患者に対するこまやかなコミュニケーション力
小児専門歯科医院には、まだ意思疎通ができない、長時間座っていられない、怖くて泣いてしまうといった、さまざまな子どもの患者が来院します。子どもの目線に合わせた言葉遣いや、恐怖心を取り除いて場を和ませる雰囲気づくりなど、大人の患者とは異なるコミュニケーションが求められます。
・歯科医師が治療に集中できるようにするサポート力
診療をスムーズに進めるため、歯科衛生士には歯科医師が次に行う処置を先読みし、適切にアシストすることが求められます。それには、治療内容への深い理解や技術からなる処置のアシストはもちろんのこと、不安や緊張が強い患者に声をかけるなど、治療に集中している歯科医師が気づかないような細かいところをフォローするサポート力は重宝されます。
・小児歯科治療への探求力
小児歯科治療は乳歯の生え始め、顎の発達、永久歯への生え替わりといった、子どもの成長過程と密接に関わる独自性の高い領域。患者の成長を見据えた小児歯科ならではの歯科治療の知識や技術を身につけたいという意欲は、仕事をする上で不可欠です。
小児を対象にした歯科医院での経験があっても、常に新しい知識や技術を身につける意識を持ち、自らをアップデートしていくことが求められます。未経験で入職した場合には仕事を通じて学んでいきますが、その際は受け身の姿勢ではなく、積極的に習得に取り組む姿勢を持ち続けることが大切です。
3 小児歯科の歯科衛生士のやりがい・魅力
ここからは、小児専門歯科医院での歯科衛生士のやりがいや魅力について見ていきましょう。
・小児歯科治療の幅広い臨床経験や専門的な知識が学べる
虫歯や歯周病など歯科疾患の代表的な症状の診療に関われるので、歯科衛生士としての基本的かつ幅広い臨床経験を積むことができます。診療中、目の前にある疾患や状態だけでなく、将来生えてくる歯や顎の発達といった、子どもの成長に配慮した治療について専門的な知識も身につくでしょう。
・予防や啓発で将来の歯の健康に貢献できる
子どもたちの歯の健康について予防や指導、啓発といった多方面での取り組みに関わることができます。子どもの将来の健康への基礎を築き、より良い未来をつくるサポートができていると実感できる場面もありそうです。
・患者の成長過程を見守ることができる
定期的にメンテナンスや検診を行いながら歯科疾患の予防や治療にあたるため、患者と長年関われるのも小児専門歯科医院の特徴。小さな子どもの患者も多いので、歯科医療に関わることだけでなく、家で楽しかったことや、保育園・幼稚園、学校での出来事を聞くなど、画一的ではないコミュニケーションを取る機会が多くあります。
何度も顔を合わせる中で少しずつ関係性が深まったり、教えた歯磨きが上手にできるようになってきたりと、一人ひとりの成長過程をそばで見守ることができ、喜びが得られるでしょう。
・保護者からの感謝が充実感につながる
小児専門歯科医院では、患者だけでなくその保護者と関わる機会も多くあります。子どもの口腔内の悩みが解消されていくことは、おのずと保護者の不安や悩みを取り除くということにつながります。保護者からの感謝の声が大きな充実感となっているという歯科衛生士も数多くいます。
4 小児歯科の歯科衛生士に向いているタイプ
次に、どんなタイプの人が小児専門歯科医院の歯科衛生士に向いているのか見ていきましょう。
・子どもと関わることが好きな人
子どもと接することが好きで、子どもとの関わりが深い環境で働きたいと考える人にとっては、小児専門歯科医院は理想的といえるでしょう。
・小児歯科治療に関して興味がある人
子どもの虫歯治療や予防歯科に携わりたい、また歯の成長について専門的に学びたい、知識や技術を身につけたいという人にはまさにぴったりでしょう。
・気配りやサポートに自信のある人
歯科医師の診療補助や治療、予防に関する業務だけでなく、歯磨き指導や院外での啓発活動などその仕事内容は多岐にわたります。 時にはスタッフのフォローに回り、受付や事務作業が発生する場面もあるでしょう。広い視野を持ち気配り上手で、臨機応変にいろいろとサポートしたり、対応したりすることを好む人はやりがいを感じやすいです。
・長期的な診療に寄り添い、患者を見守っていきたい人
歯が生え始めたばかりの赤ちゃんの患者も来院するため、年単位での長期的な関わりを持つことが多い小児専門歯科医院。現在だけでなく将来的な健康にも思いをはせて、その成長を見守っていきたいという思いのある人が向いていそうです。
5 小児歯科の歯科衛生士への転職に役立つ志望動機
志望動機は採用担当者にやる気や熱意を伝えるための大切なアピールポイントです。以下に例文を用いて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
〈ここがポイント〉
応募する歯科医院のどんな点に共感したのかを示せると、志望理由に説得力が生まれます。共感したポイントを踏まえて、自身がどんな歯科衛生士をめざしていきたいかを述べ、ミスマッチが少ないことをアピールしましょう。
6 小児歯科の歯科衛生士の求人を探すには
小児歯科の歯科衛生士の求人は、求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで扱われているのが一般的です。仕事内容に少しでも興味が湧いた、自分にマッチしていそうと感じた人は、希望する勤務地や条件面などに合わせてリサーチしてみましょう。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」では、小児歯科の歯科衛生士の求人を多数掲載しています。
エリアや駅、雇用形態はもちろん、「ブランクOK」「子育てママ在籍中」「退職金あり」などのこだわり条件でも絞り込めるので、自分が重視している条件で求人を探しやすいです。ぜひ活用してみてください。
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ここまで、小児専門歯科医院の歯科衛生士の仕事全般を解説してきました。子どもたちの成長に寄り添い、将来的な歯の健康にも貢献できるということにやりがいを感じた人も多いのではないでしょうか。
この記事をきっかけに、小児歯科の求人もチェックしてみてください。
〈志望動機 例文〉
貴院の「お子さまの人生を第一に考え、心に寄り添う歯科診療」という理念に感銘を受け、応募しました。
幼い頃、歯科医院に苦手意識を抱いていた私にとって、自分と同じように「歯医者さんが苦手」と感じる患者さまの心に寄り添える歯科衛生士になることが目標です。8年間勤めた前職の一般歯科クリニックでもこの目標を胸に、さまざまな年代の患者さまの口腔ケアに従事しました。
歯科全般を経験したことを基盤に、小児歯科診療の専門スキルを磨いていくのが今後の目標です。お子さま本人との対話を重視する診療を行う貴院で、かつての自分と同じような歯科に対する恐怖心をお子さまから払拭し、健康的な口腔環境づくりに貢献できる歯科衛生士をめざしたいと考えております。