ひと口に歯科衛生士といっても、一般歯科や矯正歯科、小児歯科、審美歯科といった診療領域ごとに、または外来や地域包括ケア病棟といった勤務先によって、その仕事内容はさまざま。転職先を考える上で、ほかの診療科などでの歯科衛生士の仕事内容を知りたい人も多いでしょう。この「歯科衛生士の仕事」シリーズでは、そんな人たちのために、診療領域や勤務先ごとでの歯科衛生士の仕事をピックアップして紹介します。
今回取り上げるのは「歯科口腔外科」。診療内容の幅が広い歯科口腔外科がどのような症例を扱っており、歯科衛生士はどのような仕事をするのか、詳しくは知らないという人も多いかもしれません。この記事では歯科口腔外科の概要をはじめ、歯科口腔外科での歯科衛生士の仕事内容、やりがい・魅力、向いているタイプ、職場の探し方などを解説します。
歯科口腔外科に興味や関心があり、専門性の高いスキルや知識を身につけたいと考えている人はもちろん、どんな働き方ができるのか気になった人もぜひチェックしてみてください。
<目次>
1 歯科口腔外科とは~診療内容や扱っている医療機関など~
歯科口腔外科は、口内や口元の症状への外科手術を主とした歯科治療を行う診療科です。口腔、顎、顔面と治療範囲が幅広いことが特徴で、親知らずや埋伏歯の抜歯、顎関節の疾患の治療、口腔粘膜疾患や病的口臭症などの治療、交通事故での外傷(顔面骨や顎骨の骨折など)の治療、噛む機能の回復を目的としたインプラント治療といったさまざまな治療に対応しています。
また、医科や矯正歯科と連携する機会もあります。例えば、口腔がんのように医科(耳鼻咽喉科)と連携して対応する症例、顎変形症や口唇口蓋裂といった先天性疾患のように矯正歯科と連携して対応する症例などです。
●歯科口腔外科を扱っている主な医療機関
歯科口腔外科を扱っている医療機関としては主に次の3つがあります。
①歯科をメインにしていて、歯科口腔外科を併せて標榜している歯科医院
歯科医院の中には、歯科(一般歯科)だけでなく歯科口腔外科も標榜し、歯周病や虫歯といった一般歯科の治療と、親知らずの抜歯やインプラント治療などの口腔外科治療を扱っているところがあります。
一般歯科の治療と並行して口腔外科治療を受けやすいことが、患者のメリットとなっています。
②歯科口腔外科を専門としている歯科医院
口腔外科治療に特化した歯科医院は、難抜歯や大がかりな手術など高度な口腔外科治療に対応しており、専門性の高い治療を必要とする患者が通います。
③歯科口腔外科を標榜している病院
病院での歯科口腔外科は、高度な口腔外科治療に対応しており、院内の医科や矯正歯科などと連携した治療が受けられます。
病院にもよりますが紹介状を必要としているところが多く、ほかの医療機関で対応が難しいと診断された患者が受診することが一般的です。
●歯科口腔外科の患者層
歯科口腔外科を受診する患者の年齢層は、その医療機関が対応できる症例によって違いがあります。例えば、一般歯科と併設している歯科口腔外科の場合は親知らずの抜歯やインプラント治療などが中心となるので、患者は成人が多めです。
一方、歯科口腔外科を専門としている歯科医院や病院の場合、幼年期の治療が推奨される口唇口蓋裂や高齢者に多い口腔がんなど幅広く対応しているため、患者の年齢もさまざまといえます。
●歯科口腔外科の費用
口腔外科治療の費用には、抜歯や先天性疾患の治療など健康保険が適用されるものもありますが、適用外となる治療も少なくありません。また、顎変形症について不正咬合による噛み合わせの異常が発生している場合は保険適用、そうでない場合は保険適用外というように、同じ疾患でも条件によって変わる場合もあります。
2 歯科口腔外科の歯科衛生士の仕事内容
歯科衛生士が歯科口腔外科でどのような業務を行うのか、歯科口腔外科を専門としている歯科医院や病院などでの代表的な仕事内容を詳しく紹介します。併せて、求められるスキルについても解説しますので、一つずつ確認していきましょう。
なお、一般歯科と歯科口腔外科が併設する歯科医院の場合、歯科口腔外科の業務のみの専任となることはほとんどなく、基本的には一般歯科の領域である虫歯や歯周病の治療補助や検診対応なども業務に含まれます。
●主な仕事内容
・手術を含めた、歯科医師の治療の補助
口腔外科手術の際のアシスタントをはじめとする、治療のサポート業務を主に担います。また、処置前の口内清掃、器具の消毒と管理のほか、カルテの記録も多くの場合歯科衛生士が行います。
・写真撮影の担当または補助
口腔外科治療を行うにあたって、歯並びや顔の骨格などを正しく診断・把握する必要があるので、治療前や治療中の口腔内写真やレントゲン、歯科用CTなどの撮影は欠かせません。スムーズに撮影が進むように患者を誘導したり、実際の撮影を担当したりという業務にも携わります。
・口腔ケアに関する保健指導
患者が治療中や治療後に口腔環境を悪化させないため、ブラッシングの仕方や咀嚼の方法など、ケアに関する保健指導を行います。また、患者一人ひとりの症状や治療の経過具合を踏まえて、新たな食事メニューや口腔トレーニングを考案し、指導に取り入れることも。
・口腔外科治療の経過観察に関する資料の作成
口腔外科治療では、歯科医師の指示のもとで治療の経過を常に観察・記録して、現在の治療状況や今後の治療方針を患者に共有します。その際の資料作成も、歯科衛生士が担当することが多いです。
●求められるスキル
歯科口腔外科で働くための必須資格は、基本的には歯科衛生士の国家資格のみです。
口腔外科治療の臨床経験がどれだけ重視されるかは職場によって異なります。歯科口腔外科を専門としている医療機関であっても、働きながら経験を積んで知識・技術を身につけてもらう方針を取っている職場が多く、そのような職場の求人では経験不問で募集をかけていることも。一方、親知らずの抜歯やインプラント治療などに関わった経験が選考や待遇面で重視されるケースもあります。求人情報の応募条件で確認しましょう。
歯科口腔外科の業務では、次の3つのスキルが求められることが多いです。
・患者一人ひとりに対するこまやかなコミュニケーション力
歯科口腔外科を訪れる患者の年齢やその症状は千差万別で、抱えている悩みや背景が異なります。どの患者とも信頼関係を築き、前向きに治療に臨んでもらえるようにするために、患者一人ひとりの心情に寄り添ったコミュニケーションが求められます。
・スピーディーな治療を実現するためのサポート力
外科処置が行われることの多い歯科口腔外科では、手術中の出血への対応など、緊迫した空気の中でスピーディーかつ正確な処置をしなければならない場面もあるでしょう。口腔外科治療をスムーズに進めていくためには、歯科医師の指示に的確に対応するのはもちろんのこと、次に使用する器具や伝えるべき情報を、指示を受ける前から先回りして準備しておくといったサポート力が求められます。
また、患者側の治療に対する不安や悩みを引き出して歯科医師に共有するといった患者と歯科医師との橋渡し役になることも、サポート力を駆使した歯科衛生士としての重要な役回りとなります。
・口腔外科治療への探求力
口腔外科治療は専門性が高く、たとえ同じ疾患でも患者の病態や治療歴などによって適切な対応は異なり、常に新しい知識や技術の習得が必要です。そのため、口腔外科治療に対する学び続ける姿勢、すなわち探求力が求められます。
3 歯科口腔外科の歯科衛生士のやりがい・魅力
次に、歯科口腔外科の歯科衛生士のやりがいや魅力について紹介していきます。
・歯科衛生士としての専門性を高められる
口腔外科治療に特化した環境に身を置くことで治療の場数を踏めるのはもちろん、周囲も専門性の高いスタッフが多いため、日々の業務を通じて口腔外科治療に関する知識やスキルを伸ばすことができます。自身の専門性を磨くことで、将来的なキャリアアップにもつなげやすくなるでしょう。
・治療を通じて患者が喜ぶ姿に間近で関われる
治療領域が広い歯科口腔外科において、事故などでのけがの痛み、先天性の症状への悩み、口腔がん検診の不安などに深く寄り添い、サポートすることが歯科口腔外科の歯科衛生士の仕事。治療が進むにつれて笑顔になっていく患者と間近で関われることがやりがいになっているという声もあります。
・院内外でのチーム体制に関われる
口腔外科治療においては歯科医師や歯科衛生士、歯科助手といった院内でのチーム体制はもちろん、時には院外に及んだチームを組むことも。疾患によっては矯正歯科のクリニックや病院、または耳鼻咽喉科などの医科と連携しながら患者の治療に臨みます。このように院内外問わずチーム医療の一員になることが多いため、チームとしてのやりがいを感じられます。
4 歯科口腔外科の歯科衛生士に向いているタイプ
ここからは、どんなタイプの人が歯科口腔外科の歯科衛生士に向いているのか見ていきましょう。
・歯科口腔外科治療に関して興味・関心が強い人
歯科口腔外科を専門としている医療機関では、当然ながら口腔外科診療が中心となるため、この分野に深い興味・関心がある、本格的に取り組んでみたいと考えている人には適している環境だといえるでしょう。
・専門性の高い知識・技術を習得したい人
手術に立ち会う機会も多く、専門性の高い診療を追求していく歯科口腔外科での仕事。さまざまな疾患の経験を積みたいといったスキルアップを望んでいる人には得るものが多いでしょう。
・気配りやサポートに自信がある人
歯科医師の診療補助に関する業務だけでなく、口腔ケアに関する指導や経過観察の資料作成など歯科衛生士の仕事内容は多岐にわたります。また患者やその家族の心身的サポートも重要な業務です。広い視野を持ち気配り上手で、臨機応変にスピーディーにサポートしたり、対応したりしたい人はやりがいを感じやすいです。
・患者の悩みに寄り添い支えたい人
さまざまな疾患による悩みを持った患者を持つ歯科口腔外科では、時には治療の補助以上に患者の心のケアが求められる場合があります。患者に寄り添った診療を届け、治療後の喜びを共有したいという思いのある人が向いていそうです。
5 歯科口腔外科の歯科衛生士の求人を探すには
歯科口腔外科の歯科衛生士の求人は、求人サイトや転職エージェント、ハローワークなどで扱われているのが一般的です。専門性の高い歯科口腔外科を志望する場合は、求人情報だけでなくホームページで口腔外科治療の実績などをチェックしたり、面接の際に口腔外科治療にどれだけ力を入れているか採用担当者へ質問したりすると良いでしょう。
当サイト「ドクターズ・ファイル ジョブズ」では、歯科口腔外科の歯科衛生士の求人を多数掲載しています。
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ここまで、歯科口腔外科での歯科衛生士の仕事全般を解説してきました。口腔外科治療を通じてさまざまな症例や疾患の経験を積むことができ、歯科口腔外科ならではのやりがいを実感できるでしょう。
この記事をきっかけに、歯科口腔外科の求人もチェックしてみてください。